狡猾な裏切り 14
皆様お疲れ様ですかつどんです。
東京で人身事故が起きて電車が止まったってニュースを見て、何で人身事故くらいでニュースになるんだ?って疑問に思います。
神戸線なら日常なのに…
小川「え、はい?」
フルネームで呼ばれて俺は驚いて火神の方を向いた。
すると、
火神「流石に舐めすぎだ」
火神はこちらに向けて拳銃を構えていた。
小川「えっ?」
俺は身体が動かなくなった。
火神「俺の能力を忘れたのか?小川 雄大、いや、こう呼ばれているんだっけな、鏡の仮面」
小川「あ…いや…俺は」
身体が動かない。
火神「身体が完全に硬直しているな、なんだ?ついこの間レースと戦っただろ?仮面十一座の仮面の一つ、鏡の仮面を着けてな」
小川「えーと、その…」
喋るのも難しい。
口の筋肉まで硬直しているようだ。
火神「はぁ…」
だがそこで火神はため息をついて拳銃を下ろした。
それで俺の硬直は少しだけ和らいだ。
少しだけだが。
火神「お前、俺が何故分かったか、分かるか?」
小川「え、いや、それは…」
火神「ちなみに理由は三つあるぞ、一つでも当てはまれば分かるのに、お前はそれを三つもやらかしたんだ」
小川「………」
失敗、か…。
火神「まずは一つ、挙動不審過ぎる、俺でなくても多分素人でも分かったと思うぞ」
小川「あ、はい」
まぁそうだったかな…。流石に分かるか。
火神「次に俺の仮面の能力を前に見せたと思うが、覚えてるか?」
小川「仮面の能力?」
火神「お前が今頭に着けている鏡の仮面は相手を映す仮面だ、それによりお前自身を映すことで仮面を隠しているのだろうが、同じく俺の映の仮面にも能力がある」
火神の仮面、確か堂主館であったこと…あっ!
小川「武器を写す仮面!」
火神「それは反だ」
違った。
まぁ、武器を写した所でどうしようって話か。
だけどそんなこと今の俺の精神状態じゃあ考えることは出来ない。
小川「じゃ、じゃあ触れた物になる仮面」
火神「それは身だな」
小川「5人にな…」
火神「5人になるのは柔だから違うぞ」
先に言われた。
だけどそれ以外何かあったっけ?
火神「もちろん、と言うより仮面を着けている限り発動する能力だ、もちろん今の使っているし、お前の言う堂主館でも使っていた、これが無かったら死んでいただろう」
小川「えぇー…」
なんかあったっけ?他に何か着けていたっけ?
火神「おいおい、他の仮面は今は俺が保管しているだけで俺の仮面はこれ一つだけだぞ」
小川「はぁ…」
やべぇ、全く思い出せない。
火神「まぁ、着けている奴にしか使っているかどうか分からない能力だからな」
小川「そうなのですか?」
火神「だが、それは貴様が見えている物にしか注意してないって事だ、目に映らない物の方がもっと重要だというのに」
小川「あい…」
なんか怒られた。
だが火神の言う事は確かに正しいと思う。
前に小森と戦って聴覚の重要性を理解した所だ。
今度は視覚、その視覚が通用しない所の重要性について言われた。
小川「まぁ、と言うわけで思い出せないです、すいません」
火神「分かった、俺の仮面は写った俺の視界も見る事が出来ると言う能力だ、もちろんお前の目に写った俺の視界もな」
小川「俺の目?」
火神「そう、つまりお前の目の動き、お前がどこを見ているか全て分かる、これがどう言うことか分かるか?」
小川「俺の狙いが分かるって事ですか?」
火神「そう言う事だ、人の感情は目によく出る、だからお前がどこを見ているか分かればお前の考えていることがよく分かる、そして例え隠れていても俺を見ればすぐにそいつの視界を見る事が出来る、つまり俺に位置を知らせる事になると言う訳だ」
小川「はぁ、すごいですね」
しかし何故火神は自分の能力と言う大事な事を俺に教えてくれるのだろう。
今は敵対しているはずなのに。
火神「それが二つ目だ」
小川「あ、はい」
そういや、俺が鏡の仮面って言うより裏切り者と分かった理由を言ってるんだったな。
火神「三つ目はそもそもって事だ」
小川「そもそも?」
火神「ああ、仮面十一座の仮面の中には仮面を管理する仮面ってのがあってだな、もちろん俺が保管している」
保管って言うより自分の仮面の下に着けているだけでしょ。
火神「この仮面は他の仮面がこれまでに見てきた全てを映す事が出来る、つまりだ」
小川「………」
火神「お前が鏡の仮面を持ったその瞬間から俺に情報が来ているって訳だ」
小川「本当にそもそもですね」
つまりあれか?俺がこの部屋に来た時よりもずっと前から知ってたって事か?
しかも俺がここに来ることも知ってたってことだよな。
じゃあ火神は俺をどうする気だ?
不意討ちが出来ない以上、俺には火神を倒す手段はない、
じゃあどうする気だ?
火神「それよりお前はどうする気だったんだ?」
小川「へっ?」
俺が火神に思ってた事を火神が俺に聞いて来た。
火神「お前今俺を殺すための武器をポケットに持ってるんだろ?」
小川「え、まぁ、はい」
隠しても無駄だろう、俺がやって来た全てを火神は知っているはずである。
俺はポケットにあった拳銃を取り出した。
素人の俺には銃の名前まで知らないし、使い方も簡単な奴を渡された。
火神「弾は一つだけか、俺を殺すためだけに込められた弾かな」
俺が拳銃を取り出した瞬間、火神も拳銃を持っていた。
それは先ほど火神が取り出した拳銃ではなく、俺が持っている拳銃と同じである。
武器を写す仮面で写したのだろう。
火神「だけどこれで俺が殺せると思うか?」
火神はその拳銃の銃口を自分に向けた。
小川「えっ?」
俺は一瞬理解が追いつかなかったが、すぐに分かった。
パァンッと火神は引き金を引いた。
すると、銃口から放たれた弾は火神のこめかみで止まっていた。
火神「分かるよな、触れた物になる仮面、これで弾に触れた部分は弾と同じになり、俺を貫通する事は出来ない、なのにお前はその拳銃で俺を撃とうとした」
小川「うぐ…」
何も言えない…。
そうか、俺にはこの人を殺す事なんて精神的の前に物理的に無理なんだ。
あれ?でも…
小川「俺がこのまま帰っても味方の情報を火神に与え続ける事になりますよね」
火神「今までもそうだったけどな」
ええ…じゃあ俺はどうしたら良いんだろ?
火神「まぁ、待てせっかく来たのだからじっくり話をしようじゃないか」
小川「はぁ」
俺は促されるままにソファに座った。
火神「そうだな、お前は俺がこちらの世界に引き込んでしまったからな、最後くらいは面倒を見ようと思ってな」
小川「最後?」
そう言うと、火神は仮面を取った、しかしその仮面の下はまた別の仮面があった。
火神「これが触れた物を写す仮面、身だ」
さらに火神は仮面を外す。
火神「これは武器を写す仮面、反」
火神はさらにもう一つ仮面仮面を外すと、外した仮面を机の上に並べた。
火神「そしてこれが仮面を記録する仮面、記だ」
だが、火神はまだ一枚だけ仮面を着けていた。
火神「あ、そうそう」
何かを思い出した様に火神は近くにあったバッグから何かを取り出した。
火神「これが五人になれる仮面、柔だ」
と言って覆面を取り出して来た。
小川「これ、覆面ですよね」
火神「仮面だ」
小川「でもこれ着け方も…」
火神「特殊な仮面だ」
それはもう覆面じゃないのか?
火神「あと、もう一つだけ仮面を持っていたが、流石にお前には渡せない、既に仮面十一座のリーダーである鬼の元に送らせてもらった」
小川「もう一つの仮面?」
ってかあんたがリーダーじゃなかったのか。
火神「仮面を作る仮面だ、もちろん作る仮面は全て仮面十一座の仮面だが、作る相手が壊されていないと作った仮面は機能しない、あんな風にな」
と言って火神は壁を指差した。
気付かなかったが、壁には今火神が着けている仮面と同じ仮面があった。
映った自分の視界を見る仮面、つまりそれは、
火神「機能していなくても、映の仮面であることには変わりない、だからその仮面を設置する事で俺の視界が増えるって訳さ」
もし、今来たのが俺でなく、他の敵が来たなら火神はどれだけ戦えたのだろうか。
ってか防犯すげえな。
火神「以上の六点が俺の持っていた仮面だ、一つはここにないから今は五点だけだが」
柔、反、身、記、そして火神の着けている映、それが彼の持つ仮面。
さらに俺の着けている鏡を合わせたら六つの仮面がここにある。
火神「残りの仮面は仮面十一座の座員が着けている、リーダーの鬼、半、現、そして最強の仮面鎧」
小川「最強の仮面…」
仮面にも最強とかあるのかよ。
火神「ここにある仮面でお前が使えるのは俺の映の仮面以外の四つ、鏡の仮面を合わせて五つだ」
小川「はぁ…ってえっ?」
使える仮面?何でそれを俺に教えるんだ?
火神「鏡の仮面を着けているって事は対応世界についても聞いたんだろ?」
小川「え、まぁ…」
確かに阿部さんから聞いている。
全ての世界にはそれぞれ対応する世界があるって。
それで第三世界の対応世界が第十一世界だ。
だがら第十一世界の能力であるはずの仮面の能力を第三世界の俺が使えるらしい。
火神「だがそれでも俺の映の仮面は第三世界の人間じゃあ使いこなせない、慣れれば使えるか分からないが、それでも慣れる前に精神が崩壊するかもしれない」
小川「精神が?」
あんたはそんな物騒な物を着けているのか、いや、火神は第十一世界の人間だから大丈夫なのか。
火神「いきなり大量の視界が出来るからな、脳に来る情報量が多過ぎるのだろう、あくまで推測だが」
だが何でそれを俺に教えるんだ?何で敵である俺に教えるんだ?まるで全てを俺に託すかの様に。
火神「それよりだ小川 雄大、その着け方は誰に教えてもらった?」
小川「えっ?」
着け方?ああ、俺が今鏡の仮面を着けている場所か。
俺は今仮面を顔ではなく、後頭部に斜めに着けている。
小川「これは顔を洗おうとしてたまたまこの位置にずらして鏡を見たら仮面が消えたから丁度いいやって思ったんですよ」
火神「それはその仮面でお前自身を写しているからだ、確かにそれならば見た目は仮面を着けている様には見えない」
小川「いや、本当にたまたまなんですよ」
火神「それなら他の仮面を重ねて着けても同じだろう」
小川「そうなんですか?」
って他の仮面?
火神「それより小川 雄大、俺は身の仮面を外したぞ」
小川「へっ?」
火神「聞こえなかったのか?身の仮面を外したのだ、つまりお前の持つ拳銃で俺を殺せるってことだ」
小川「っ!」
確かにそうだ、身の仮面、それだけじゃない、反の仮面も外している。
つまり火神の武器は映の仮面と机の上の拳銃しかない。
火神「いいから構えろ、引き金を引かない限り弾は発射されん」
小川「えっ、あっうん」
俺は促されるままに拳銃を構えた。
もちろん銃口は火神に向いている。
火神「まぁ構えながら聞け、直前だと色々と話したくなるのだ」
小川「…聞くよ、全部」
そこから火神が話したことは彼の歴史ではなく、今のこの世界の現状だった。
レースのこと、酒々井十六忍武のこと、塚一同盟のこと、特にレースが何なのかについて多く話し合った。
火神「お前はレースを殲滅しようとしているが、それはレースが殺人グループだからか?そう思っているなら違う、レースがいるからこそ救われる命だって多くある、それを知って殲滅しようとしているのか?お前は本当にレースを理解しているのか?まぁ、レースでない者がレースを理解しようだなんて難解だがな」
その後は今の情勢についても聞いた。
火神「第二世界では古田がほぼ全てを手中にしている、だが、高山はまだ滅びた訳ではない、この第三世界ではむしろ高山の酒々井十六忍武の方が優勢だ、今やっている戦いでどうなるか分からんがな」
さらにこれからの事…。
火神「お前は今高山側についているが、これから始まるのは掃討戦だろう、もしかしたら別の世界から侵攻があるかもしれん、そうなった時、お前はどこに属する?お前が何のために戦っているのか、それを忘れた時点でお前は戦う意味を無くす」
そして…
火神「俺の願いは仮面十一座の復活だ、仮面を着けた十一人の集団を再び作るのが夢だった、だがそんな夢は今ここで絶たれた、とは思わん、別に俺がその十一人に入らなくても仮面十一座は復活する、だから俺が今持っている仮面を全てお前に託す、そしてお前も仮面十一座の一人、鏡の仮面として認めよう、これで仮面十一座は一人減ったが、一人増えた、俺は夢に遠ざかり、そして近づくことになる、だからだ…」
火神は手を机について頭を下げた。
火神「だから仮面十一座復活の夢を、俺の夢を引き継いで欲しい」
俺は勢いに負けて頷いた。
だが頷いた時に覚悟が出来た。
俺はこの人の夢を叶えたい。
出来るだけやってみよう。
そんな覚悟を決めた俺の顔を見たのか、火神はホッとした様に椅子に座り直した。
火神「ふっ、これで安心して殺される事が出来る」
小川「あっ」
俺は涙を流していたのだろうか、視界が少し滲んだ。
だが火神を撃つのに影響は無いようだ。
火神「そう言えばお前は既に戦闘を経験してるが、誰かを殺したことはないのだったな」
小川「はい」
火神「そうか、じゃあこれが初めてと言う訳か」
小川「はい」
火神「誰かを殺すのに慣れることは無いだろう、だがどれだけ相手を楽に殺すか、そのコツは掴んでくるはずだ、先ずは俺で確かめろ」
小川「…はい」
火神「それと、そうだな俺を殺した後、すぐに仮面を全て持ってここを出ろ、死んだ事を確認するのはいいが決して振り返るな」
小川「…はい」
そして火神は一度沈黙した。
小川「火神さん」
火神「ん?」
小川「ありがとうございます」
火神「ふっ、これでこそ死ぬ意味があるな、そうだ最期の言葉を言って見るか」
小川「最期まで聞きます」
そして火神は自分の仮面、映の仮面を外して机に置いた。
俺は初めて火神の素顔を見た。
そして、
火神「あっそうそう、須奈に会ったら伝えてくれ、お前の全てを無意味と見る考え、嫌いじゃなかったと」
小川「えっあ、はい」
やべぇ、今少しだけさっさと言えって思ってしまった。
火神「全く、何をしても恵まれない、何もない世界だったぜ…」
それが最期の言葉なのだろう。
火神「だが楽しかった」
火神はそう言い残して、俺は引き金を引いた。
小川「本当にありがとうございます」
火神に言われた通り、俺は火神の死を確認した後、火神に託された仮面を持ってすぐに事務所を出た。
小川「本当に、本当にありがとうございます…」
アパートを出た後も俺は感謝の言葉を述べていた。
だが、俺は忘れていた。
新井「何で…ですか…?」
アパートを出てすぐだった。
新井「何で殺したのですか?」
俺はかつて護ると決めた人と対峙する事となった。
百合漫画読みたい。




