第八話 『調査と質問』
1月29日 15時36分
サキさんが心配だけど、まずは善本と小早川のケンカの跡を見に行こう。
何か、あいつらの能力について分かるかも知れないし。
「うわ……すげぇ!」
ついつい声が出てしまったが、出てしまうほど凄まじい物だった。
テレビの中でしかこんなの見たこと無いよ。
電柱の刺さり方が異常だ、電柱が真上から降ってきたかのように、建物の天井を貫いている。
……何でだろう、電柱を除けばこの景色は、ただの事故現場に見えるはずなのに、事故現場らしくない。
「静かだ。こんなに静かな道路は少ないよな……あ、そうか!」
ここは、道路だが人通りも車の通りも少ない。せいぜいコンビニの客しか通らない、その客も今は俺だけだ。
だが、事故現場に人が居ない時は無い。何故なら事故を起こした人達がいるからだ。
「車、車!」
何かに気づいた自分が嬉しくて、テンションが高くなる。
車には誰もいない、鍵は差しっぱなしだ。乗り物を使う小早川。
小早川が使った物には人間が乗ってない。
この車どこから来たんだ?
そんな疑問と共に人の気配。
小早川だったら、サキさんから逃げる前に戻ろう。
「桜庭さん、意外ですね。なかなか見つからないんでどこか遠くに行ったと思ってましたよ。」
「残念だけど、話は終わりだ。」
「逃がしませ……」
1月29日 15時27分
サキさんが目の前にいる、もちろん財布を探してる。
とりあえず、サキさんに報告したほうが良いのだろうか?
でも、彼女の能力を知らないからな。
今から彼女の能力について考えなければいけないな。
「今回は私が払うよ。」
「あ、はい、分かりました。」
「早く、心くん。」
「ところでサキさん、かなり急いでますね。」
「まあねー、次は遠くに行くからね。」
「地下鉄使います?」
「どうしようかな。」
そこで、会話が途切れて会計。
リサさんは、財布からぴったりの金を出して早足で店から出る。
後を追いながら考える……サキさんの能力は、先生みたいだ。
俺を見ないで足を引っ掛けられたし、善本や小早川がここに向かっているのが分かっている。
「心くん、定期券持ってる?」
「……持ってないですけど、必要なんですか?」
「一応聞いただけ、じゃあ切符買いましょう。」
「結局地下鉄なんですね。」
「中華料理食べに行くわよ。」
「どこまで行くんですか!?」
「そんなのH地区に決まってるでしょ。」
H地区……一瞬考えてしまったが、最近この都市はA地区からW地区に分けられた。
いまだに、何とか地区という表現に慣れていない。
ここ、A地区から3時間ぐらい地下鉄に乗るのか……H地区は料理が盛んだから美味しいのだろう。
「ほらー速くして!」
「速いです……サキさん待ってください。」
あー、階段を走ったのは久しぶりだ、しんどいな。
駆け込み乗車だったが、嬉しい事に席が空いていた。
座って電車に揺られていると、意識が遠退いていく……。
1月29日 18時08分
ここは、どこだ?
目の前の手すり、座席、窓と景色……電車だ。
どこだろう、外の景色ということは、山付近のG地区か、どこかの地区の1番街だろう。
「あ、起きた?」
「サキさん、おはようございます。」
「今は夕方よ。それにしても、いつも仏頂面の君の寝顔があんなに素直だとは……。」
「恥ずかしいんで、止めてください。」
「良いじゃないの、せっかく旅行みたいなんだから。」
「いや、旅行ではない気が……そうですね。ところでサキさん、今はどこを走ってるんですか?」
「もうすぐ、H地区の1番街よ。」
「やった、ナイスタイミングですね。」
「私はつまらなかったわ、今日の夕飯は奢りね。」
「ゆ、夕飯って今お店に向かってますよね。」
「そうよ、H地区の料理は高いわよ。」
鬼だ、この人は鬼だ。
H地区の料理は高校生にとっては金銭的に辛い、大人にとっても辛いお店が有るくらいだ。
電車を降りて改札を出る、駅前の広場に出た。
「お店は決めてるんですか?」
「……あれ?まあいいか。心くん、どこに入る?」
「俺が決めて良いんですか、じゃああそこのファーストフード店に入りたいな……。」
「ああ、あのフランス料理店ね!」
「中華料理で御願いします。」
駄目だ、完全に俺の負けだ。
サキさん、綺麗な人だけど腹黒い……口喧嘩で負けた事ないだろう。
「ふむ、君たちが参加者か。」
白いスーツの男から話しかけられた、何故か一人で頷いている。
その男は、広場の中心の噴水の前で立っていた……というより、まるで待ち構えていたようだった。
「どうやら運命は、偶然ではなく必然なのか。よく覚えておこう。」
独り言まで言い出した、サキさんは男が話しかけて来た瞬間黙りこくってそっぽを向いている……どうしようか。
とりあえず、話しかけよう。
「あの……俺達に何か用でしょうか?」
「少年よ、ずいぶんと遠くまで来てしまった。俺は道が分からない。A地区にはどうやって帰るのだ?」
「あ、それは地下鉄に乗って3時間くらいで着きます。」
「なるほど、助かった。道を教えてくれた礼だ。これをやろう。」
この人、話している間ずっと無表情だ……かなり怖い。
だが、男が俺に渡してきたものが予想を裏切って恐怖なんか消えてしまった。
それは、1万円札だった。
「あ、ありがとうございます。本当に良いんですか!?」
「ふむ、そうだな。あと1つ質問に答えてくれ。」
「はい、何ですか?」
「私は運命は必然だと思った。少年よ、お前はどう思う。」
この人が何を言いたいのか、よく分からないな。
とりあえず、俺の意見か……。
運命は、必然でも偶然でも無いと俺は思う。
「運命が、必然なのか偶然なのかどちらでも無いのか分かりませんが。運命に抗うことは出来るかも知れませんね。」
「ふむ、そうか。質問の解答から少しズレているが……分かった。」
そういうと、男は駅に向かって歩き出した、一度も料金表や路線図を見ずに、改札に向かっていた。
どうやら、1つ目の質問は嘘だったようだ。