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第六話 『爆走と殺意』

1月29日 8時32分


 少年は、不意に頭を下げた。

頭を上げ、笑みを浮かべながら口を開いた。


「こんにちは、小早川と言います。」

「……桜庭です。」

「知ってますよ、申し訳ありませんが倒させていただきます。」

「小早川だか何だか知らないが、人をいきなり蹴るとは無礼な奴だな。」

「ちゃんと邪魔だって言いました、おじさん。」

「俺の名前は、おじさんじゃない。」

「別にいいじゃないですか、それとも気にしてるんですか。」


 善本はナイフを小早川に向かって投げた。一瞬で小早川の前に移動して、投げたナイフをキャッチして襲いかかった。

 けれども、小早川も一瞬で消えて善本にナイフを向けた。


「なるほど、お前はそういう能力か。これでは決着がつかないな。」

「もう気づいたんですか。おじさんのクセに。」

「黙れ。」


 消えた出てきた消えた出てきた……。

ハイレベルな戦いが目の前で繰り広げられている。

い、今のうちに逃げよう。

ショッピングモールは走れば5分もかからないから。

きっと逃げ切れる。

とにかく無心に走った、後ろから追ってくる気配は無いが油断は出来ない。2人とも急に現れたり消えたり出来るのだ。


「はぁはぁ……着いた。もう大丈夫だろうか。善本は来ないだろう。」


 それより何故、あいつらは俺を襲ってきたのだろう。

帰ったら、ウルドに聞いてみようか。


「心、お疲れのようだね。」

「っ!? ……ウルドか脅かすなよ。」

「ここまで来れて良かったじゃないか。君を狙ってるのは彼等だけじゃないけどね。」


 気づいたらウルドが後ろに居た。

最近こんなのばっかりだと思う、俺が周りを良く見てないのか?

それとも、周りが影薄いのか?

ともかく、ウルドから来てくれたんだ、ちょうど良い。


「何故、俺が狙われてる。」

「うーん……そのうち知ることになるんだけどな。まあいっか。あのね、参加者を倒すとその人の能力が使えるようになるんだよ。」

「な、なるほど。俺の能力はやり直しが出来るからな……待てよ。善本なら分かるが、何で小早川が俺の能力を知ってるんだ?」

「彼のパートナーがルール無視してついつい言っちゃったんじゃないかな?」

「良いのか?」

「アイツ……カリオペっていうんだけど、うっかり屋さんでね。しょうがないんだよ。もしそうならちゃんと罰を受けてるよ。」


 実は、こいつらけっこう適当な組織なんじゃないか?

普通は、そういうところを徹底するだろ……。

まあ、ウルドが居れば心強い。


「そうか。とりあえず、歩こう。止まっていると逆に変だ。」

「うん、というより僕は帰るけど。」

「か、帰るんだ。そっか。」

「またね、頑張って!」


 ウルドの背中が小さくなっていく。

はぁ……頼りにしてたのに、でもホテル以外では手を出さないんだっけ?

あれ、何を期待してたんだ。


「君、参加者?」

「えっ?」


 不意に、背後から話しかけられた。女性だ、見た感じ年上。

やっぱり不注意だな、後ろをとられ過ぎだ。


「俺ですか?」

「君以外に誰がいるの?……ふーん、君は参加者だね。」


 勘なのか!?

もし、違ったらどうするつもりだよ。

武器は持ってない、集中力だけ保っておかないと。

とりあえず、しらばっくれよう。


「参加者ってイベントから何かですか?」

「なるほど、やっぱり君が参加者か……。あれ?ヤバッ!名前知らないけどまた会えると良いね。じゃあねー!」

「は、はあ……。」


 見知らぬ女性、多分参加者の背中が小さくなっていく。

何だったんだ?急に何か思い出したかのように去ってったけど。

とぼとぼと一人でショッピングモールを歩く16歳。寂しいな。

どうせなら、本屋に行こう。ここから少し歩いた所の階段を昇って、また歩いた所にあるのか。


「桜庭さん。」

「善本は、どうした。まさか、もう倒した訳じゃないだろ?」

「まぁ、逃げられちゃいましてね。目的は桜庭さんですので。」


 今度は、話しかけられる前に気がついた。

ちょっと注意力が上がったか、いや偶然後ろを向いただけだったな。


「今度は、逃がしませんよ。」

「ヤバッ!」


 桜庭心、16歳はショッピングモールにて全力疾走してます。

そんな不審者が向かっている方向、つまり俺の逃げている方からクラクションが鳴った。

ショッピングモールでクラクション?


「わああ!」

「バスだー!」

「逃げろ!」


 悲鳴が聞こえてくる。

バス……、あの、走るバスか?

そんな訳無いよな。

俺の視界が捉えた物は、まだ中に人がいる走るバスだった。

こっちにくる、轢かれる。

とりあえず過去に!


1月29日 9時23分


「じゃあねー!」

「えっ、あ、はい、さよなら。」


 ここまで戻ったか。

まだ、完璧に狙った時間に戻れるわけではないらしい。

とりあえず、階段に少しでも近づいてバスから逃げるために今からダッシュ!

アイツは、人混みに居ても追いかけてくるみたいだし。


「桜庭さん。」

「善本はどうしたんだ。逃げられたのか?」

「勘が良いですね。今度は逃がしませんよ。」


 はい、ダッシュ!

今日は走ってばっかりだ、いや逃げてばっかりか。どっちでも良いが。

おっ、クラクションが鳴った!

よし、階段に着いた。上に昇ればもう安全だよな……。


「まさか、あれから逃げるとは思ってなかったよ。」

「お前の能力、 一体何なんだ。」

「勘が良くても分かりませんか。」

「善本とは違うのは分かっている。」


 実は全く分かってないのだが。

カマをかけるってやつだ、それにこいつは俺が勘の良い奴だと思っている。


「流石ですね、でも意味が無い。さぁ!第2ラウンドですよ。」


 目の前から、小早川が消えた。

と、思ったら恐怖に包まれているショッピングモールがうるさくなる。

どうやら、うるさい原因は外からだ。かなりの轟音だ、外を見るとこっちに向かってきている……飛行機が。

大きさからして飛行機というより自家用ジェット。

ショッピングモールに向かって少し角度をつけて一直線に向かってきている。

 小早川、あいつなに考えてるんだよ。乗り物武器にするとか。

ショッピングモールに突進して爆発されたら大変だ、その前にショッピングモールから出よう。

今度は階段を降りて入り口に向かってダッシュ!

ジェット機の位置確認……近っ!

逃げている人々と反対方向に走っているから、なかなか進めない!

ジェット機がガラス張りの入り口を割る。

こ、こうなったらスライディングしてジェットをよ、避けよう……。

3……2……1、ゴー!


「うわぁぁぁぁぁぁぁ!」


 ほとんど地面に張り付く形のスライディング、つまりヘッドスライディングをする。

ウイングの下を通過した、耳がどうにかなりそうだ。

次の瞬間、爆音と爆風が俺を襲ってきた。

入り口の残骸の中で、ショッピングモールを確認した。

俺が使った階段が無い、店の商品が黒い、人々が苦しんでいる。

さっきまでのショッピングモールとは思えないほどに、随分と様変わりしていた。


「桜庭さん、これからも逃げるとは尊敬の眼差しで見なければいけませんね。」

「お前は、何人殺した。」

「はい?」

「お前は、サバイバルに関係ない人々を何人殺したかって聞いてるんだよ!!」

「知りませんよ。能力も使えない奴らの事なんて。」

「ふざけんな!」


 俺は、ベルトに付けていた銃を抜いて、小早川に向けた。

小早川は動じない、ずっと薄気味悪い笑みを浮かべたまま。

外からパトカー、いや救急車かも知れないがサイレンが聞こえた。

聞こえた瞬間には、小早川はもういなかった。






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