第四十三話 『平和と過去』
2月26日 22時12分
あの後、気づいたらプリンスホテルの前へと帰ってきていた。どうやら何も考えずにただ歩みを進めていたらしい。
まだチェックアウトをしていないから、今夜一晩くらいは組織も許してくれるだろう。それに一人になりたい。
アメリカから帰ってきてから初めてだから、部屋番号を覚えているか心配だったけど意外なことに覚えていた。
「7……0……4……5……っと」
難なく部屋の前へと辿り着く、中は予想に反して綺麗だった。ホテルの人か、または組織の誰かが掃除してくれていたらしい。
扉を閉めて、すぐに自分の部屋へと向かいベッドに倒れる。目を閉じるが意識ははっきりしている。
この一ヶ月の間、何か得られるものはあっただろうか? 命の尊さは良く考えると前から知っていたし、サバイバルを生き抜く方法はそんなに重要なことじゃないだろう。
一ヶ月間、俺は一体何をしてきたんだろう。
「あー、考えちゃダメだ!」
少し喉が渇いた。自分の部屋から出て冷蔵庫に向かう、冷蔵庫の中は水と酒だった 。俺は水を手にとって窓際の席に座る。
「ん?」
テーブルの上に白い封筒が置かれていた、一体誰が置いていったのか。手にとってみる、「心へ」と書いてある――手紙だ。
俺のことを「心」と呼ぶのはスクルドとウルドだ。でもスクルドは手紙を書くような奴じゃない。
「ウルドか?」
俺宛なら開けても問題ないだろう。封筒を開けて中の便箋を取り出す、小綺麗な文字が並べられている。
この一ヶ月に起こった出来事を思い出しながら読んでいく。何分くらい読んでいたか分からないけど、手紙を最後まで読み終え、その便箋を封筒に戻してごみ箱に投げ入れた。
「さて、寝るか!」
2月27日 8時45分
「う……朝か」
ところで今は何時だろう? 時計を見る。
「8時45分!?」
あと15分しかない! 俺は過去最高速で洗面と歯みがき、そして着替えを終えてホテルを出る。
そこで足が止まる。
「あ、サバイバルもう終わったじゃん。……ははっ」
思わず笑ってしまった、すっかり癖がついてしまっているようだ。
「どうしようかな」
今更ホテルに戻るのは嫌だし、かといってすることもない。
「あそこに行ってみようかな」
沙季さんとカフェ巡りをした時の最後から二番目のお店、沙季さんと同盟を組んだお店。ここから歩いても遠くはない。そう思った時には歩きだしていた。
大通りを歩く、ここらへんは最初に小早川に会ったところだ。
ビルがところどこら壊れたりしている、どうやら昨日の地震の影響らしい。電気屋のテレビではニュースがやっている、B地区とC地区の被害が大きいらしい。それなら学校も休校になってるだろう。
ショッピングモールを横目で見ながら通りすぎる。すると人通りが少なくなる。
目的のカフェが見えてくる。驚いたことに善本と小早川のケンカによって移動した電信柱はそのまま民家に刺さっている。
その景色を見ながらカフェに入る、すると前々回、前回座った席には先客がいた。
「美季さん、こんなところでどうしたんですか?」
「心くん? 何でここに?」
「それはですね……あ、ここ座っても大丈夫ですか?」
「どうぞっ」
俺は美季さんと向かい合うように座って、沙季さんとここに来た時の話をした。
「へぇー、お姉ちゃんが……」
なんだか美季さんは終始驚いたような不思議そうな、そんな表情をしていた。
「美季さんは何でここに?」
「えっとね、話すと長くなるよ?」
「構いません」
美季さんは一回困ったような表情をしてから、話を始めた。
「何かね……妹と姉の差を見せつけられた」
「は?」
どういうことだろう。
「私達、双子じゃん? でもさ私は妹なんだよ、たった何秒の差だけど。そのたった何秒の差だけで守る側と守られる側が決まるのかなー、って感じたのよ。それに今お姉ちゃんが無事かどうか分からないし、助けるにも助けられないじゃない」
昨日、地下で何かあったのは分かった、でも俺が聞いていい話なんだろうか? ダメだ。
すると、美季さんが手を叩いた。
「よし、明日からここ集合ね。お姉ちゃんを待つのを兼ねてお茶しましょう」
「良いですね」
こんな風に平和な毎日が続けば良いな。サバイバルゲームに参加するまで知らなかった平和のありがたみ、これを大事にしなきゃいけない。
ふと窓の外に目をやる。善本と沙季さんと共闘したビルが見える。今は大勢の人で賑わっている。
さぁ、これから始まるんだ。




