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第四十二話 『理由と終戦』

2月26日 20時00分


 先生の姿が見当たらない。アレースさんが飛び退いて減速の壁を複数作る、入れ替えで俺が前に出てその壁に向かって引き金を引く。

 銃弾を全て撃ち込んだ後は銃を捨てて、刀を構える。


「桜庭くん、集中だ」

「はい」


 アレースさんと背中合わせになって辺りを見回す。一瞬先生が現れては消える。

 

「アレースさん、隙を見つけたら一気に加速させて攻撃しましょう」

「わかった、加速のタイミングは個人個人で図ろう」


 了解の意を込めて頷いて、また辺りを見回す。

 先生が俺の視界に入ってきたその時、地面が大きく揺らいだ。


「地震!?」


 バランスを崩して倒れる、震度5強か6ぐらいの地震だ。でも揺れ方が普通の地震と違うな。

 まさか地下の爆発で――沙季さん達は無事なのか!? 


「桜庭くん、今だ!」


 アレースさんの声でハッとする。アレースさんは両手をついて倒れないようにバランスを取っている。

 先生は地震でバランスを崩して膝をついている。確かに狙うなら今しかない。

 アレースさんが加速の壁を作る、俺は重ねるように加速の壁を作る。風の能力で宙に浮いていれば地震の影響も無いだろう。

 先生はふらついて普通に動けないし、止まってることもできない――瞬間移動ができない。


「風っ!」


 俺の体が持ち上がって先生へと飛んでいく、ここで首を切れば勝ち、ここで――


「うあぁぁぁぁぁぁ!!」


 俺は首を狙わなかった、いや狙えなかった。結局俺は両腕、両足を切断した。


「桜庭くん、君はまだ――」

「アレースさん」


 アレースさんの言葉を遮る。言いたいことは分かる。

 その解答としてアレースさんに刀を渡す。


「……これは?」

「俺は今から先生と話をします、もしアレースさんが更正の余地なしと思ったら好きにしてください」

「話の途中でも?」

「はい」


 アレースさんは、それをあっさりと受け入れてくれた。

 そのことに感謝しつつ息を切らしている先生へと近づく。ここで同情する会話をしていてはダメだ、強気でいかないと


「先生、まだ生きるチャンスはありますよ」

「四肢を切断しておいて……良く言えますね」

「組織なら回復方法を知ってそうですから、とりあえず質問に答えてもらいます」

「早く……してください」


 確かに早くしないといけない。組織が回復方法を知っているとは限らない。アレースさんが先生に鎮痛剤を飲ませる。これならある程度話が出来るようになるだろう。

 俺はこの数日間気になっていたことを初めに聞く。


「先生は何でウルドに手を貸すと決めたんですか?」

「才能があるからです」

「は?」

「私には才能がある、この国の誰よりも」

「質問の答えになっていないと思うんですけど……」

「今、世界の国々はロクな才能が無い輩が治めている、日本やアメリカの政治の裏にはこんな組織が居た訳ですが……その組織にさえロクな人間がいなかった。だから私は日本を変えるためにこの国を治めるためにウルドの考えに賛同したのです」

「…………」


 聞いて飽きれる。そんな下らない理由で、そんな自分勝手な理由でたくさんの人を犠牲にしたのか?

 先生は呼吸を整えて、


「私は選ばれた人間です。学生時代テストでは100点以外をとったことがありません。何をするにも3日あれば完璧に出来てしまう。なのに私より遥かにバカな連中が日本どころか世界の各国のトップ。私の方が遥かに素晴らしい国や世界を作れる、私には才能がある。あなたに分かりますか? この気持ちを理解できますか?」

「それは――」


 間違っている、そう言いたかったけど言葉が出てこなかった。間違っている理由が俺には説明出来ない。

 優秀な人間が国を治めれば必ずしも良い国になるとは限らないと思う、でもこれはあくまでも予想だ。

 俺がどうしようと迷ってしまっていると、アレースさんが前に出てきた。


「榊原、別にウルドと手を組まなくてもそれは出来たはず。なのに何故?」


 榊原先生は少し笑って、


「桜庭くん、あなたが嫌いだからです」

「は?」


 アレースさんがきょとんとした顔をする。俺もかなりびっくりしている。


「私は今の日本の――あわよくば世界のトップを引き摺り下ろしたかった。だけど直接は引き摺り下ろせない、だから教師の立場を使っていつか来るであろう才能のある生徒を私好みの人間を育て上げたかった」


 綺麗なことを言っているように聞こえたけど、公私を混合している。


「そしてしばらくして現れたわ、私を超えるか同等の才能を持つ生徒が――その子の名前が桜庭心」


 俺はそんな大層な才能を持ってはいない。先生の買い被り過ぎだ。


「でもあなたは、全く私の思い通りにならなかった。他の生徒は私の思い通りになっていたのに! あなただけ! 一番可能性のあるあなただけが思い通りにならなかった!」


 ――なるわけが無いだろう。

 先生の話を聞けば聞くほどバカらしくなってくる。俺はこの人に何をしようとしていたんだっけ? 教師という人を育てる職業に就いている者がこんな考えで良いのか?

 多分、思いの外熱くなってしまったのか先生は咳払いをしてから話を続ける。


「あなたは才能を特に使うこともせず、のうのうと生きていた。まるで必死になっていた私がバカだと言っているかのように、あなたは生活していた。それが憎かった」


 何でだろう、俺の心には何も響いてこない。才能を世界の為に使おうなんて思わない、だって俺より才能のある人間なんていくらでもいるんだから。


「そんな時、能力が私の身に宿った。その流れでウルドが世界を変えようと誘ってきた。これは世界を変える、そしてあなたの生き方を変えてやるチャンスだと思った」


 珍しく自分がイライラしていることに気がついた。あなたに生き方についてあれこれ言われるのはイヤだ。


「以上が、理由です」

「…………」


 予想より私的な目的だったのに驚いた、その為に何人を犠牲にしたのか。その重みを理解しなければいけない。

 ウルドに言いくるめられていたわけではないから、更生も何もない。

 アレースさんが俺の肩に手を置く、どうやらタイムアップらしい。

 アレースさんは前に出て居合いの構えで先生を見据える、漫画で良く見るアレだ。


「随分と長い間、持論を語ってくれたが……時間切れだ」

「桜庭くんではなく、あなたに殺されるのですか? これは意外ですね、自分の予想と違う死に方をするとは……」


 先生は自虐的な笑いをこぼす。俺は最後まで見届けることにする。金成、善本、そして新田さんの死に対して目を逸らし続けていた。

 だから今度は目を逸らさずに見届ける、これがアメリカで学んだことの一つだ。


「最後に言い残した事は?」

「無いですね」


 アレースさんが消える――


「さよなら、先生」


 長い戦いが幕を閉じた。

 



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