第三話 『開始と相棒』
1月28日 19時15分
目の前が暗くなった。
いや、暗い場所に移ったと言うべきか。
あたりに工具が散乱し、何に使うのか大きな機械が半分だけカバーに覆われている。
これは、工場か?
だが、場所が全く分からない。
「今度は何だ。それより俺は今いったいどこにいるんだ。」
奥から物音がした。
遠くに明かり漏れているのが見える。
「とりあえず、ここから抜け出そう。」
気絶して起きたらいつの間にか、ここに居た。
先生を探さなきゃいけない。
あと、あの生徒……許さねぇぞ。
そんな事を考えながら、やっと光の出所に辿り着いたが、繋がっているのは外ではなかった。
そこはガレージのような場所で、何も置いてないので異様に広い。
椅子が、点々と数個置いてある。
「桜庭くん、君が一番遅かったな。連れの教師はもう帰ったよ。」
どこからか声が聞こえた。
広い空間で反響してどこから聞こえているのか分からない。
「こっちだよ。」
今度は分かった、右だ。
右には、黒いジーパンに黒いシャツの男が立っていた。
靴も黒い、まさに黒ずくめだ。
「こんにちは。」
「……。」
「そんなに警戒しないでよ。」
「本当は、こんばんは、何だろ?」
「驚いた。まさか気づくとは。」
実際は勘だ。
だが、よく考えると工場だからと行って昼間に日が一切入ってこないのはあり得ない。
明かりが日の光だと思っていた自分が恥ずかしい。
「でも、実は君以外にも気づいていた者もいたんだ。時を遡る者としては出来て当たり前かな。」
「お前は誰だ?」
「そうだな……ウルドと呼んでくれ。」
本当の名前は流石に言わないか……。しょうがない、ここに長居する訳にもいかないからな。
「何故、俺をここに連れてきた?」
「君だけじゃないよ、何人かここに来てた。理由は、説明をするためさ、君の能力とこれから何が始まるのか。」
「俺の能力……か。」
「そう、君の時を遡ってやり直す能力。最初に言っておくが、その能力は僕の能力の一部だ。僕も君と一緒で過去に行ける。」
「一部?」
「まぁコピーみたいな物だよ。こちらにも事情があってね……詳しくは話せないが。」
「これから何をするつもりだ。」
「簡単に言って、能力者同士のサバイバルかな。」
能力者同士のサバイバル……話が突飛過ぎて良く分からない。
「サバイバルって、俺の能力に殺傷性は無いと思うが。」
「そうだね。基本は、銃やナイフで戦う。君の能力は補助に過ぎない、使い方次第で役に立つ。」
「強制参加か?」
「いや、違う。断っても良いが……その時は。」
ウルドは俺に銃を向けてきた。
今日は、二回目の銃だ。
俺には、能力がある。
早めに対処すれば何とかなる。
「この場で、死んでもらう。」
「なるほど。」
やっぱりそうか……さて、過去に戻るか。
そうだな、目覚めた直後くらいに。
……あれ?
「言っておくけど、今は君の能力は使えない。僕を含めてこちら側は、不可能そうな事でも大抵の事はできる。君が想像していることより遥かに多い事を。今は君の能力を封じているだけだが。」
「……。」
「参加するね?」
銃口は真っ直ぐに眉間を向いている。このまま、死ぬ選択肢もあるが、そういう訳にもいかない。やるしかないな。
「分かった、参加しよう。」
「よし、決まりだ。ルールを説明する。まず初めに君の携帯電話の連絡先は全て削除させて貰った。」
勝手に俺の携帯に何してるんだ、この人は……。
「アドレスも変えさせて貰った。」
「勝手に何してんだよっ!!」
「まあまあ、落ち着いて。みんな同じ事をされてるよ。」
「……分かったよ。」
「こちら側がもう良いと判断するまでサバイバルは続く、その間は指定したホテルで寝泊まりしてもらう。参加者の関係者には、こちらから話をつけておく。あと俺とはこれからペアとなり、寝泊まりは君と同室だ。ルール違反をした者が君に危害を加えそうな場合は僕が対処する。」
「ルール違反と言うと?」
「うーん、そうだね……続きはホテルで話そう。」
そう言って、地図を渡してきた。
……この街の最高級のホテルじゃないか!?
誰もが聞いたことのある名前。
一生に一度は泊まってみたかった。
寝泊まりは、随分と充実しそうだな、うん。
「さぁ、行こっか。」
「う、うん。」
ガレージから出ると、ヘリコプターが待っていた。