第三十六話 『本気と未来』
2月26日 14時49分
アレースさん達に連れられてビルの瓦礫の中から抜け出した、ウルドも抜け出していたようで、今はビルの瓦礫の上で頭を抱えている。動揺させるくらいで良いと思ってたけどここまで効果が出るとは思わなかったが狙うなら……今しかない。
「みんな! 今しかないです!」
全員がウルドに攻撃を開始した――私は銃を発砲し、私以外が瞬間移動をした。
でも、攻撃は誰一人当てることができなかった。私の銃弾は人差し指と中指で受けとめられ、三人の攻撃は器用に体をひねり避け、全員を投げ飛ばしていた。
「正体がバレた以上、生かしておかないよ。これからの僕は本気だ、必ず君を殺す」
「させないよ!」
プローメテウスさんがトンファーがウルドの脇腹を捉えた――がウルドはピクリとも動かない。
「どけ、雑魚」
その言葉と同時にウルドはトンファーを奪い取り、プローメテウスさんの頭部に向かって振り抜いた。
グチャという嫌な音が聞こえた、思わず目を瞑る。
「ふんっ!!」
アレースさんの声がした。目を開くとウルドと取っ組み合いになっているアレースさんの姿が目に映った。
「アレースさん、貴方と戦っている場合じゃないんだけど。まぁ、見た感じ大人しく退いてくれなさそうですね」
「当たり前だ、弟子の失態は私の失態だろ?」
「弟子……そんな時期もありましたね。でも今回は僕の失態じゃない、あなたの失敗だ」
――助けなきゃ! 頭で分かっても体が着いてこない、プローメテウスさんが倒れている姿が目に入り体が強張る。私はウルドのことが怖い、やっぱり死ぬことが……怖い。
(沙季お姉ちゃん、大丈夫だよ)
「テミスちゃん……」
(私がいるから、お姉ちゃん。一緒に頑張ろ?)
少しだけ、緊張が解けた。私の方が年上なのに情けない。でも、不安な気持ちはまだ消えない。
何故なら、さっきから引っ掛かっていることがある、坂城さんの死だ。坂城さんが亡くなったということは、心くんも亡くなってる可能性が高い。
(沙季お姉ちゃん、今はこっちに集中しないと……榊原もどこかに隠れてるみたいだから気を緩めちゃダメ)
「確かに……榊原がいない」
(アレースお姉ちゃんならまだ大丈夫だよ。私も本気を出すよ、お姉ちゃん達は二人で援護してくれる?)
アレースさんに目をやると、ちょうどウルドに一撃を加えているところだった。
二人とならやれる、みんなを信じよう。
「分かった、援護するわ」
テミスちゃんは、バリアと同じ色の光を使って盾と剣の形を作り始めた。形が出来ると下から光がなくなっていき物質的な盾と剣が現れた。すると、テミスちゃんは同じ方法で剣を作り出し私に渡してきた。
しっかりとした剣だ、そんなに重くなくて振りやすい。
(お姉ちゃん、これが限界だから盾は……私が貰うね)
「え……くれないのね。分かった」
へぇ……能力ってこんな使い方ができるんだ。さて、私も今のうちに未来予知をしておこう。
今のところは……うそっ!? 未来が変わった、榊原が来る!
「テミスちゃん、しゃがんで!」
私はテミスちゃんの後ろに向かって剣を構えた。ちょうどその時、榊原は現れた。
私は剣は榊原の顔を掠めた。
「くっ……先読みされましたか」
「まだ、終わってないわよ!テミスちゃんはアレースさんの方へ行って!」
「分かった! アレースお姉ちゃん、今行くよ!」
テミスちゃんが喋った!私は立て続けに剣を降り下ろしていく、能力を上手く使って先回りをして急所を狙っているけど当たらない。
それなら……
「くらえ!」
相手のリズムを崩そうと、わざと大きなモーションで回転斬りをしてみた。未来が変わらない限りこの作戦は成功する。
「あっ……!」
案の定リズムを崩した榊原は足がもつれて倒れそうになった。
未来通りなら倒れたところを狙えば勝てる。そう思い私は剣を振りかぶった。その時、未来が変わった。
私の剣は、榊原の刀によって遮られた。
「甘いですよ、聖条院さん」
「やるわね、榊原」
私は榊原と距離をとり、態勢を整える。 ――刀を瞬間移動させて瞬時に攻撃を防いできた、ということは榊原は追い詰められていた。
次は絶対に仕留める、次はフェイントも加えながら攻撃しよう。
「はあぁぁぁ!」
右、右、右、と見せかけ左――やっぱり先が読まれてる。恐らく私の能力ね。けど、あの刀は人を切れないから私が死ぬことは無い、だったらわざと攻撃を受けるのもアリね。
「これじゃ決着が着きませんね、未来を読みあっているだけでは……」
そういうと、榊原はナイフを取り出し刀を片手持ちに変えた。
二刀流ってことかしら、甘いわ。
「バカね! 片手じゃ、力負けするわよ!」
私は思いっきり榊原の頭に向かって剣を降り下ろした。
その時、榊原は鼻で笑った。
「私がこの数週間何もしてないと思ったのですか? だとしたら甘いのわ貴方です。」
「くっ……!」
またしても、刀に防がれた。相手は片手なのにびくともしない、榊原はこの刀を使いこなせるようになっている。
がら空きになっている私の胸元に榊原のナイフが迫ってくる。
ここで死ぬわけにはいかない、私は剣を握っている片手を離してナイフに対して掌を向ける。胸を刺されるより、片手を刺されるほうがマシ。
その時、また榊原が笑った気がした――まさか、フェイク?
「捕まえましたよ、私の勝ちです」
「なっ……」
私の手はナイフに貫かれない代わりに、榊原と手を繋ぐことになった。剣の力を抜くと榊原の刀は私の首へと向かってくる――逃げれない。
未来が変わった。もうすぐ私はナイフによって死ぬらしい……死因はナイフ。 私は周りを見渡すが、ナイフが落ちている気配はない。それなら今も動かせる場所で、一発で死ぬほど力をかけられる場所、そんなところは一つ――空中しかない。
案の定、ナイフが降ってきていた。もう距離が無い、どうする!?
テミスちゃん、アレースさん助けて。助けて……心くん。
「気づきましたか、でも遅いです。諦めてください、そういう運命なんですよ」
ごめん、美季。もう一度だけでも会いたかった、ちゃんと見守るから安心しなさい。
「さようなら、聖条院さん」
そのとき、風が吹いた。




