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第三十五話 『心理と真理』

2月26日 13時30分


 テミスちゃんがここを離れてから20分近く経ったと思う。

 確かにここは安全だけど、外の様子が全く分からない。地響きが伝わってくるから、戦いは続いているみたいだけど……心配してしまう。

 もしかしたら、心くんや美季が戦いに参加しているかもしれない。それに、美季のことだ、別行動で何かしているかもしれない。

そんな事を考えていると、この密閉空間に着信音が響き渡った。

携帯電話がポケットに入っていたらしい、私はそれを取り出す。液晶に映っているのは――美季という文字だった。


「もしもし、美季?」

「あ、お姉ちゃん! 大丈夫なの!?」

「うん、私は大丈夫。美季は大丈夫なの?」

「うん、大丈夫。それより話したいことがあるんだけど……お姉ちゃん今何してるの? てっきり戦ってるものと思ってた、留守電のメッセージ考えたのにな……」


 まぁ、そうだと思った。戦いが始まっているのは知っているに違いない。私が起きた時にはまだ寝てたんだから。


「テミスちゃんが来たから安全なだけよ。その安全もいつまで続くか分からないしね。」

「そっか、じゃあ重要な所だけ伝えるね。私は今から小早川を探しに行こうと思ってるの」

「小早川を!?」

「そう、さっき坂城さんから電話があったの。いや、正確には坂城さんが録音したメッセージが届いたんだけど。それで坂城さんが死んでるみたいなの」 


 どうして、いきなり坂城さんが死んだことになったんだろう? 分からない、美季は頭の整理がまだ出来ていないみたい。


「美季、落ち着いて話しなさい」

「うん、分かった……あのね、坂城さんが1月4日に録音したメッセージが届いたの。そのメッセージは坂城さんが死んだ時に私に送られることになってたらしいの、つまり坂城さんはもう死んでる。えっと……内容はけっこう覚えてる。大きく分けて三つ、簡潔に伝えるね。一つ目は坂城さんはアメリカでウルド達に抵抗するための武器を作っている。でもその武器は時間稼ぎに使うということ。何で時間稼ぎかというと、ここで二つ目ね。ウルドの正体は小早川楓の未来の姿でジュノの正体は榊原香の未来の姿であるということ。ここまで大丈夫?」

「ちょっと待って……」


 ウルドが小早川、ジュノが榊原。この先、小早川はウルドとなり、榊原はジュノになる。となると美季の計画が読めてくる。


「美季、あんたは小早川を殺すことによってウルドがここに来る未来を消そうとしてるのね」

「そう、よく分かったね。さすがお姉ちゃん」

「何年一緒に居たと思ってるのよ。でも、それは不可能に近いわよ。何故なら――」


 いや、美季なら出来る。サバイバルゲームが始まる前にウルドと一緒に居た美季なら。


「大丈夫だよ、お姉ちゃん。ちゃんとアテはあるからさ、それに桜庭くんを殺そうとした罰も受けなくちゃいけない。ここは私にお似合いだよ」

「……絶対に帰ってきなさいよ」


 何も言葉は返ってこなかった、けど最後の言葉から美季は地下にいると分かった。

 ――死なせないからね、美季。



「何してるんだい?」

「うっ!」


 ――バレた。

ウルドの声がしたと思ったら私の体は宙に浮いていた。

すぐに見えない壁に当たった、鈍い音がした。


「やけに、テミスがビルの残骸を庇うから逃げたふりして中を見に来てみたら……生きてたんだね」


 ウルドが嫌な笑みを浮かべている……むかつくなぁ。


「ははっ、むかつくって言われても困るな。だったら僕の計画を邪魔しないでくれ、そうすれば誰も死なないから。良い提案だと思うけど、どうだい?」

「お断りするわ」

「そうかい、残念だよ。それにしてもこの魔法……テミスの仕業か」


 ウルドは見えない壁に触れて何かを確かめている。良く見るとウルドの体のあちこちに傷がある。


「あまり長話はできなさそうだね、テミスにすぐ気づかれそうだ。はぁ……なめていたよ、子どものテミスなら余裕だと思ってたんだけどなぁ」


 そんな事を言いながら、ウルドは地面に座りだした――敵意を感じない。


「まぁ、そんなピリピリしないでよ。僕の正体も少しは分かってるんでしょ? ちょっと話をしようよ」

「…………」

「単刀直入に聞くけど、僕と手を組む気はないかい?」

「は?」


 今、何て言った? 手を組む?

あれだけ人を殺めたり家を壊したりした人と、手を組むわけ――


「わかった、わかった。アプローチを変えよう。君は運命を信じるかい?」


 運命……ね、ウルドが口にすると悪い言葉に聞こえる。どちらにしてもこんな密閉空間でウルド二人きりなのは用心しなくちゃいけない。


「信じるわよ、だから何?」

「僕は二回サバイバルゲームを経験している、一回目は参加者側と二回目は今――主催者側だよ。一回目と二回目には違う点がある。一回目のサバイバルゲームの時には君は参加してなかった。いや、君だけではなく君の妹と坂城冬も参加していなかった」

「一回目……」

「どうしたんだい、そんな驚いた顔して。僕の正体は分かってたんでしょ?」


 こうもあっさりと自分が未来人だと認めると思ってなかった。

ダメだ……落ち着かないと、心を常に読まれているのを忘れちゃいけない。


「ふふ……まぁいいや。つまり僕は君達姉妹と坂城冬は行動が読めない。つまり不安要素なんだよ。それに加えて今は亡き善本のおじさんも僕の不安要素だった」


 不安要素ならすぐに命を狙って計画を進めやすくする筈……だけど、そうしないってことは他の手を使ったけど失敗したってこと。

 それなら――


「サバイバルゲーム開始前、美季に心くんを襲うのを手伝わせたのはそれが理由ね! 手伝わせることによって仲間意識でも芽生えさせようとしたのかしら? 」

「……! いつかはバレると分かってたけどな。このタイミングでバレちゃったか」


 よし、ウルドにペースを乱されちゃいけない、逆に私がペースを乱してやらないと。


「その様子からして図星ね。不安要素である二人を手中に収めようとしたけど、失敗した。それで残りの一人を手に入れようとしてきたわけね、合点がいったわ」

「……くそっ」


 ウルドの表情が悔しそうだ。良い感じ、このまま追い詰めてやるわよ! テミスちゃんが来てしまえばこんな追い詰めは出来ないから素早くやらないといけない。


「その手には乗らないわよ、小早川楓くん」

「なっ……!」


 ウルドの顔が一気に青ざめた瞬間、急にビルの瓦礫の一部粉砕して外が見えるようになった。そしてほとんど同時に瓦礫が降って来はじめた――見えないバリアが消えたみたいだ。


「「沙季っ!」」

(また待たせちゃったね、沙季お姉ちゃん)


 アレースさん達が来てくれた、人間は焦れば焦る程、隙が生じる。だからウルドを倒しやすくなった――つまりナイスタイミングだ。


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