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第三十四話 『爆発と自決』

2月26日 13時12分


 俺一人で戦う場合、主な戦術は風の能力しかない。 でも、さっき使ったからある程度対策を考えてきているに違いない。けど相手は片手を失っている――


「少年……聞こえるか?」

「坂城さんっ!」


 俺は坂城さんの声を聞き取るために耳を近づけた。

背後から殺気を感じた。

よく考えると、いや考えなくともジュノが待ってくれる筈がない、この殺気はジュノに違いない。

 ジュノが鉄パイプを振りかぶっている。俺は何とか攻撃を受け止めようとしたが、俺の目の前で攻撃は止まった。

 ヘルメースさんとカストルが鉄パイプを使って防いでくれていた。鉄パイプで戦うのは最近は見ることが少なくなったが不良のケンカみたいだな。


「失礼ね、はぁ……面倒くさいけど助けてあげたんだから感謝しなさい」

「それより、天才少年。天才中年の話を聞いておきな」

「二人とも、ありがとうございます」


 俺はもう一度、坂城さんの声を聞き取るために耳を近づけた。

坂城さんの呼吸が弱くなっているのが分かる、素人の俺が分かるくらい弱っている。


「少年……お前は戦わずに聖条院姉妹のところへ行け」

「でも!」


 血の量が多い、今はかろうじて喋っているようにも見える。

だとしたら、これ以上はいけない。


「桜庭……既に定めた運命の二つ目を……教えてやる」

「もう、喋らないで良いですよ!」

「この工場の全壊と……その塵による粉塵爆発だ」

「全壊? 爆発?」

「粉塵爆発は空気の中に細かい塵を作ることによって……酸素の濃度が……高くなる。……つまり、火の元があれば……酸素に引火して……簡単に大爆発を引き起こせる。火の元はこのライターだ」


 坂城さんは、そう言ってライターを胸から取り出す。血を流しても説明を止めないところは彼らしいな。

 つまり坂城さんは最初から――


「自殺するつもりなんですね?」

「この場合は、事故だがな……俺は命を賭けてジュノを仕留める……だからお前はこの場を去れ」

「そんなことって――」

「少年、あと一つだけ運命を定められる……だから、お前の為に使ってやる」

「俺の為?」

「お前が賭け事をしたら成功する運命だ」

「賭けですか?」

「そうだ……しかし今の俺は弱っている……賭けは一回しか成功と思え」


 なるほど。ウルド達が何をしに来たか分からないからむやみに物事の解決を定められないのか。


「あと……少年。俺に触れるな、最後は俺自身に殺されたい。他のやつに能力を奪われてしまっては、能力がリセットされてお前の為の運命を定めても意味がなくなる。あと……これを持っていけ、ウルド達についての資料だ」


 どこから出したのか、紙を三枚ほど渡してきた。


「早く……工場を離れた方が良い。心配するな……死後の世界を信じている者がいる限り、それは存在する。俺は向こうでも……研究を続けるとしよう」

「じゃあ――また」


 俺は通った道を引き返す、入り口へ向かって走り出した。


「逃がしませんよ、桜庭くん」

「……っ! ジュノ!」


 先回りされた、どう対応すればいいだろう。

こんな時こそ、冷静に物事を見ないといけない。アメリカで学んだことだ。


「天才少年の邪魔すんなよ」


 次の瞬間にはカストルが既にタックルをしていた。

俺はスピードを緩めずに走り続けた、あの二人は工場に残るつもりだろうか?

 しばらくすると一番長い廊下に辿り着くことができた、廊下の先に出口が見える。

 その時、ピシッという音が上から聞こえた。

どうやら天井が崩れようとしているらしい、来た道を振り向くと、既に天井が崩れ始めていた。

 ああ、アクション映画で良く見る奴だ――崩れてくる天井との鬼ごっこ。

 そんな事を考えていると、追い風が吹いてきた。天井が崩れ始めたことによって風の通り道ができたらしい。

 手を前にかざし、突風に吹き飛ばされる自分を想像してみた。


「追い風……俺を出口まで吹き飛ばせ!」


 体が持ち上がる、風のせいで目が開けない。ものすごい速度で移動していることだけが分かる。

 すると急に風が止んで、投げ飛ばされたように体が宙に舞った。

風が止んだので目を開いた、視界に入ったのはコンクリート。


「痛いっ!」


 痛い、痛い、いろんな部位を強打した。

あれ? この感触……工場の外に出れたんだ。

痛みで閉じてしまった目をもう一度開ける。目の前には水溜まりならぬ血溜まりがある――ジュノの血だろう。ということは目的の場所に辿り着いたらしい。

 そういえば工場は!? 振り返って確認する。


「……嘘だろ?」


 さっきまで廃工場だったこの建物は今となって瓦礫の山だった。

廃工場も瓦礫の山も社会的には変わらないだろうけど。

 そうだ、早く離れないと……爆発に巻き込まれる。

まだ追い風なので、上手く風に乗りながら自転車より速いくらいのスピードで移動する。目的地は駅だ、さっさと沙季さんと合流しなきゃいけない。ここにジュノしか来なかったということは向こうにはウルドが行っている筈だ。

 とはいえ、風に乗っている間は暇なので坂城さんから貰った資料に目を通す。

 


「えっと……未来の世界と現在の世界の関連について?」


 うーん、難しそうだな。でも読んだ方が良いだろう。


「未来人が現在に来た場合、未来人が把握していた出来事とは少し違う出来事が起こるため、全てが同じ道を辿るとは限らない。それは未来人が現在の空気に触れた瞬間にタイムパラドックスが発生するからである……なるほど、何とか分かる。タイムパラドックスが発生するのは能力を使えば良く分かる。よし次――」


 次を読もうとしたとき、今まで聞いたことのないレベルの爆発音が町中に響き渡った。

 黒煙が徐々に上昇していく、だんだんと重みを増していくかの様だ。


「坂城さん、カストル、ヘルメースさん……ありがとうございました」


 俺は工場のあった方向に頭を下げた。恐らく全員が亡くなっただろう、ジュノでも流石にあの爆発からは逃げられないだろう。

 三人がいなければ俺は逃げ出せず、ジュノを殺せなかっただろう。

そして、沙季さん達の元に向かえなかっただろう。

 もし、ウルド達が自分達の未来のために現在に来ているなら、三人の死は確定していた運命だったのだろうか? タイムパラドックスとは無縁の存在で変えられないものなのだったのだろうか? 

 ――運命には抗える、俺は坂城さんの考えを信じたい。

 俺は頭を上げて駅に向かってもう一度移動を始めた、今度は車くらいのスピードだそう。



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