第二十九話 『帰国と変化』
2月25日 22時37分
俺は、いま日本に帰ってきた。坂城さんを連れて帰ってきた。彼の名前だけで大体の物がタダだったり、優遇されたりする。
そのお陰で秘密兵器――今はギターケースに入れてカモフラージュしている、がバレずに済んだ。
坂城冬という名前のパワーは世界でもトップクラスらしい。
「帰って来ましたね、坂城さん。」
「そうだな、俺は帰って来たくなかったが……少年、お前は一体何日間俺を探していたんだ?」
「ざっと三週間です。その間に向こうのサバイバルゲームに巻き込まれて大変でしたよ。」
「その話は知ってる。大変だったな、だが少年。そのお陰で戦闘用の能力が手に入ったのだろう。」
「そうなんですけどね。」
うーん、調子狂うな……実はまだまだ話し足りない、後で沙季さんに会ったら話そう。
それにしても三週間経ってもここは何も変わらず平和だな。
「お前は悪い方向に物事を考え過ぎだ、良いエピソードの裏に悪いエピソードがあるように悪いエピソードの裏に良いエピソードがあるんじゃないのか、少年?」
「そうですね。あと少年少年って言ってますけど……俺の名前覚えてます?」
「覚えているぞ、桜庭心。」
うん、そうですか。だったら名前で呼んでくださいよ。地球上に少年が何人いると思ってるんですか?
こんなこと聞いたら、正確な数字が返って来そうだからやめておこう。
「……とりあえず、聖条院宅に向かいましょう。」
「そうだな。」
俺たちは空港から駅に向かった。距離は近かったので楽だったが、電車で座れなかった。ここ――P地区からA地区までは5時間ほどかかる。
時間の関係で、どうやらこの電車はH地区までしか行かないらしい。
H地区でホテルを見つけなきゃいけない、A地区に着くのは明日の昼以降だろう。
「ホテルどうします?」
「少年、ホテルの予約なら任せてくれ。俺の名前があれば一発だろう、ホテルとしても○○が泊まったホテルとして宣伝すれば、売り上げにも繋がるだろう。いいか、少年。世の中は互いの利益によって出来ている、よく覚えておきなさい。」
「……はい。」
最後がよく分からないな、一体何が言いたいんだか。
うーん、眠いなH地区まで1時間くらいあるし……寝るか。
「坂城さん、俺は寝ますね。」
「立ったまま寝れるのか?」
「アメリカで身につけました。」
「ほう……お手並み拝見だな。着いたら起こしてやる心配するな。」
そんな坂城さんの言葉を聞き流しながら、俺は夢の中に入っていった。
2月25日 22時30分
この時期の夜は寒い、毎日見張りを交代でやっているけど夜だけは辛い。
心くんがアメリカに行ってから三週間が経った、日本は変わった。
日本の警察は機能しなくなり、軍隊も全滅、だけど国民の負傷者はゼロ、ポルックスさんは亡くなりスクルドは意識が戻らない……信じられないのは、こんな所業を三人でやってのけたことだ。
「お姉ちゃん、そろそろ寝ようよ。プロメーテウスさんとアレースさんが変わってくれるってさ。」
一緒に見張りをしていた美季が眠そうな目で訴えてくる。
私もそろそろ眠くなってきたから、ちょうどいい。
「うん、寝よっか。」
美季と二人で下に降りようとしていると、ちょうどアレースさん達がエレベーターで上がってくるところだった。
三週間前から住んでいる家だが住みやすいだけでなく機能性が抜群、一体どうやって建てたのだろう? どう考えても一晩で建つ家じゃない。
「お疲れ様、大丈夫か?」
アレースさんが声をかけてくれたけど、彼女の方が大丈夫なのかどうか心配だ。
何回死にかけたか分からない。
「はい、大丈夫です。」
「一般人にも気を配らなきゃいけないからダルいよねー。」
プロメーテウスさんも話題に乗ってきた、その怠さは体調の悪さだと思いますよ?
この人は5日くらい寝てないはず、体調が良いはずが無い。
「大丈夫って言いたいが……大丈夫じゃないな。二人も早く寝た方が良い。特に美季、お前は3日くらい寝てないだろ。」
読心の能力のことを忘れていた、これではダメだ。ウルド達を殺せない。
いきなり話をふられた美季はビックリしている、どうやら図星らしい。
「いや……ありがとうございます、お言葉に甘えさせてもらいますね」
「おやすみ」
美季は多分、プロメーテウスさんの方が寝てないと言いたかったんだと思う、我慢してくれて良かった。 私達、組織の一員に成り立てと組織に長年所属していた人では体の作りが違うみたい。
ということで見張りは二人に任せてエレベーターで下に降りて、各自ベッドに潜り込んだ。
目を瞑って考える――心くんはいつ帰ってくるのか、坂城さんは見つかったのかな? 見つかったなら早く帰ってきて欲しい、もう時間がない。
2月25日 23時40分
どうやら、心と坂城が帰ってきたのをジュノが見かけたらしい。
今はH地区のホテルにいるらしい、そうと分かれば準備をしなければいけない。
この前の軍隊撲滅作戦では組織の奴らに苦戦させられたからなぁ。
やっぱりテミスは手強い、アイツは一番最初に殺そうと思ったんだけど失敗したな。
とりあえず、二人が帰ってきたことはまだ知らないだろう。
「ウルド、何でニヤケてるの?」
「あと、2日くらいだから楽しみなんだよ。明日も心達を殺しに行くしね。ジュノ、君は読心の能力を使えないんだったね。」
「そうよ。あの時に先を越されちゃってるから。」
新田翔有――意外と鋭い奴だったみたいだ。でも、死んだ。
今度は坂城冬が、死ぬ番だ――場合によっては心もだな。




