第二十八話 『懸念と期待』
2月4日 7時12分
「あーあ、朝かー」
今日の目覚めもいつもと同じ。昨日と違うのは隣で美季が泣いてなかったことかな。
昨日は散々な日だった、人が亡くなった日なのにそんな軽い言い方も変だと思うけど、色んな事があり過ぎた。
部屋から出ると美季が歩いていた、私より早く起きているのは珍しい。
「おはよー、お姉ちゃん」
「おはよう」
昨日、私の横で衝撃の告白をしてきた。心くんを襲うのを手伝ったとか何とか……もう終わった話だから良いけど、心くんに伝えておこう。
(おはよう、沙季お姉ちゃんと美季お姉ちゃん。)
「……ん?」
頭の中で声が響き渡る、辺りをキョロキョロ見渡すと廊下の角からテミスちゃんが出てきた。
「おっはよー、朝からどうしたの?」
美季が楽しげに質問する、この子はいつも楽しそうで羨ましい。
「今のってテミスちゃんが?」
(そうだよ、こんな感じ。さすが沙季お姉ちゃんだ、心お兄ちゃんとは違うね。心お兄ちゃんは最初は全然分かってなかったし。)
「まぁ、あの子は変なところで鈍いから。」
(うん、そうみたいだね。そうだ、世間話をしてる場合じゃないんだよ、沙季お姉ちゃん。)
「どうしたの?」
(あのね、心お兄ちゃんはアメリカに行ったよ。)
アメリカ!? 一体何をしにいったの?英語なんか喋れないじゃない。
あー、大丈夫かな!? 心配だよ……。
「私、先に行ってるね。」
「うん、分かった。」
(そんなに心配することはないよ。ちゃんと頼りになりそうな人の連絡先を教えておいたから。)
「そっか、良かった。あれ? テミスちゃんの能力って何?」
いま心を読まれた。私の意識に直接話しかけてきてたから、違う能力かと思っていたけど……読心の能力のなのかな?
(うん、読心の能力だよ。)
「ということは新田くんもそんな風に私の意識に話しかけてこれたの?」
(うーん、多分無理じゃないかな。私の能力はこれ以上は成長しないから。)
「え……」
私が声を出した時にはテニスちゃんは、目の前から姿を消していた。
さっきの話……彼女はあの年で一つの能力を完璧にしている、一体彼女は組織の中でどれくらい強いんだろうか。
「お姉ちゃーん、朝ごはん出来たー!」
「すぐに行くから!」
どうやら、朝食は美季が作ってくれていたらしい。ただ待ってるだけじゃなかったのが意外。
……テニスちゃんの能力は彼女の努力の賜物なんだろうか? それとも彼女も『天才』なんだろうか?
もしかしたら組織に入る人間って全員天才なのかもしれない。
なんだか、自分を誉めているみたいで嫌だなー。
さて、美季が待ってる。
2月4日 12時00分
眠りから覚めると見慣れないホテルの一室だった。
そうだ、今は組織から抜けて本格的に作戦を始めているんだった……。
もう、体は治った。僕はこれから、あの男――坂城冬を殺しに行かなければならない。だけどアイツはもうアメリカにいるらしい。海を越えられてしまっては手が出せない、無論アイツら――組織が連れ戻すために動くだろうから僕がアメリカに出向く必要もない。
何はともあれ、榊原先生に僕をZ地区に監禁してくれるように頼んだから、計画の準備はほぼ整った。
榊原先生じゃなくて他に呼び方を考えよう。下の名前にしようかな、えっと確か――
「この調子だと、25日には作戦を決行できそうね。十数年地道に活動した甲斐があったわ。」
僕の思考が人の声によって遮られた。昔から聞いている声だ。
ちょうどいい、確認したいことがあった。
「ジュノおかえり。一応聞いておくけどさ、本人にはバレてないよね?」
「ええ、バレてないわ。バレたら声とか口調を変えた意味が無いじゃない。」
それはもっともだ。バレるのは分かっているけどタイミングが重要だ。
「君はシワを消したりもしてたね。まぁ、僕はシワが目立つ歳じゃないしね。」
「ふん、良いじゃない別に。それより私の事が彼にバレてないか心配なの。」
彼――ジュノが彼という時は心のことだ。
彼女は一度だけ心と接触しているから気にしているらしい。
「それは大丈夫だよ、心は変なとこで鈍いからね。バレるとしたら……坂城冬か聖条院姉妹かな。」
「そう、良かったわ。じゃあ私は稽古場に戻るわね。」
「いってらっしゃい。」
ジュノがしている稽古は稽古にしては乱暴で非科学的過ぎる気がするな。
さて、これで不安要素が無くなった……いや、あと一人。
テミス――この時代だとまだ幼いけど用心しておいた方が良いな。
「さて、様子を見に行こうかな。」
頭で移動したい場所を思い浮かべて、目を瞑る……すぐに目を開ける。
すると、目の前には都会のビル景色が広がっていた。
「そうだな、まずは……」
あと三週間ほどで未来が変わる。




