第二十五話 『努力と天才』
2月3日 2時40分
「ふふふ……確かに辛いなー。でも僕が退散しても目的は達成できるから、いいや。」
「どうかな?榊原先生だけで何とかなる相手じゃない。」
「イマイチ掴めないな。君は僕が逃げるのを望んでいた筈だったけど?」
そうだ、コイツは読心の能力を使えるんだった……忘れていた。
なら、何で作戦がバレなかったんだ?
すると、聖条院家から榊原先生が出てきてウルドの横につく。
「ウルド、目標は死んだわ。」
死んだ……新田さんが?
そ、そんな美季さんと沙季さんは、大丈夫なのか!?
「そうかい、それは何よりだ。とりあえず、今回は退こう。」
「分かったわ。」
「待て!!」
俺はウルドの横の榊原先生に向かって小石を投げた。
榊原先生は振り向きもせずに、小石を刀で切った。
「桜庭くん、これ以上邪魔をしないでください。あなたと私は違うのです。」
「違う……そんな訳ないだろ!」
「いつか分かりますよ。それでは……。」
二人は早朝の暗闇に溶け込んでいった、沙季さんの様子を見に行こう!
人の気配がある、多分中庭だ。
中庭に近づくと沙季さんの姿が見えた。
「沙季さん!」
沙季さんはこちらを一度見ると視線を元に戻した。
俺は中庭に向かって走り、沙季さんに近づいた。そこにあったのは予想外の景色だった。
「こ、これって。」
俺の疑問に答えてくれる人はいなかったが、この状況を見れば見るほど状況が飲み込めない。
中庭にいたのは三人だった、沙季さんと美季さんと新田さんだ。
新田さんにはもう意識が無いみたいだから一人に換算していいのか分からないが……何よりも予想外だったのは美季さんが新田さんの胸にナイフを刺して座っていたのだ。
「沙季さん……これって……一体。」
「心くん、後で話すわ。とりあえず、美季を部屋で寝かしてあげましょう。新田くんはとりあえず中庭から動かしましょう。」
新田さんをきれいな場所に運んで、放心状態の美季さんを部屋に連れていったところで沙季さんは状況を説明し始めた。
「まずは――」
2月3日 2時20分
私が撃った弾がウルドの目の前で遅くなり叩き落とされた。
惜しい……あとちょっとだったのに!
「……そうか君が居たのか。君も今のうちに殺さないといけないな。」
あ、マズい……ウルドの表情が変わった。
狙いを私につけてきた、心くんは遊ばれていたってこと?
私と心くんの実力差は少ししかない筈。
心くんは何だか考え事をしている、複雑な表情だ。
「沙季さん!新田さんの方をお願いします!こっちは任せてください。」
へぇ……心くん何か変わった?
どれくらい先の未来から戻ってきたのだろう、1日で変わるような表情じゃなかった。
いつも悲しい表情をしていたんだけどなー、良かった。
じゃあ、ここは心くんに任せて……。
「逃がさないよ。」
「ウルド!お前の相手は俺だろ。」
心くん、ありがとう!!
ウルドは追ってこない、心くんの言葉に反応したみたい。
私は無事に聖条院家に入れた、美季達はどこにいるんだろう?
すると、銃声が中庭から聞こえた、多分美季の銃だ。
私は銃を撃つ準備をしながら中庭に近寄る、話し声が聞こえてきた。
覗きこむようにして確認する……美季と新田さん、それに榊原先生がいる。
隙を見つけて榊原先生を撃とう、幸い距離は遠くない。
「あなたたちに恨みありませんが、殺させていただきます。」
「恨みが無いならいいじゃない!」
「美季……逃げろ。」
「嫌よ!死ぬときは一緒が良い。」
「なら――」
美季の手にナイフを握らせて、自分の胸に刺した。
それを見た榊原先生が動こうとした。止めるならここしかない!
私は走り寄り引き金を三回引いたが、全て弾かれてしまった、あの刀によって。
近寄って新田さんの方を確認するが彼はもう死んでいた。
「翔有?翔有!翔有!!何か言いなさいよ!翔有!?」
「……榊原先生、もう用はありませんよね?」
精一杯睨んでみたが、彼女の表情は変わらない。
私に出来ることはコレが最後だ、彼女が帰らなければ私達は全滅だろう。
「あなたに、先生と呼ばれる筋合いはありませんが……。」
「そうね、先生って呼ばれる資格がないわね。榊原さん……いや榊原。」
「……まあ、良いでしょう。それでは聖条院さん、また。」
撃とうと思えば撃てた、でも撃てなかった、彼女が本当に敵かどうか判断できなかったから。
次は撃てるのかな?……これじゃ心くんに顔向けできないな。
2月3日 3時20分
というわけで私は、心くんに新田くんが死ぬまでの経緯を話した。
美季に聞けばより詳しい話を聞けると思うけど、なるべくそれはして欲しくなかった。
「そんなことが……。沙季さん、ちょっと待ってください。何か分かりそうなんです。」
「うん。」
心くんは何かを考え始めた、何を考えてるのか気になるけど「待って」というセリフからして『何か』が分かったら教えてくれるみたいだし、素直に待とう。
しばらく待っていると心くんは、一度立って座り直して姿勢を正した。
考えがまとまったらしい。
「沙季さん、ウルドの新しい情報です。」
「さっきの小競り合いで分かったの?」
「はい、ちょっと引っ掛かってたことがあって。」
「そう、何かしら?」
「えっと、ウルドは同時に二つの能力を使えません。」
同時に二つの能力が使えない?
私も二つの能力が使えるので試さない手はない。
とりあえず、心くんには悪いけど時間の流れを止めてみた。
そして、またまた心くんには悪いけど心くんの未来を予知してみる――できた。
時間の流れを元に戻す、私に出来てウルドに出来ないことがあった……これは意外。
「心くん、私は二つの能力を同時に使えるよ?」
「え、使えるんですか!?」
「うん、今やってみたよ。」
「うーん……」
心くんはまた考え込んでしまった。でもすぐに答えが分かると思う、なぜなら答えは簡単だから。
私の方がウルドより才能があるからだと私は思う、ウルドが私に言った事だ。
才能は万人が共通して持っているものだけどレベルの差はある、群を抜いている人を秀才や天才と呼んでいる。
けど私は思う――天才は努力ができない。だって努力しなくてもできるから、というのが良い例え。だから天才じゃなくても努力ができる人は輝きがある、価値がある。
天才には憧れる、ただ憧れる。努力ができる人には話したくなり、近くにいたくなり、友達になりたいと思うものだと。
だけどこの状況から分かることは、私はこの分野において天才……つまり努力ができない人みたい。
残念極まりない。




