第二十三話 『電話と混乱』
2月3日 5時4分
「くん…桜庭くん!」
「ん……ああ、はいはい!?」
とても静かな朝だったが、アレースによって壊された。
まだ外は暗い、何だってこの時間に起こされたのだ。
「今日、会議があるとさっき報告があった。」
「会議?ああ、組織の。」
「違う違う、聖条院ちゃんから連絡があったよ。」
聖条院ちゃんってどっちの聖条院ちゃんだ?
多分、沙季さんだと思うけど……こんな時間にどうしたのだろう?
「切羽詰まってる風だったから早く伝えた方が良いな、と思って起こしたんだが……まだ良かったか?」
「いや助かりました。じゃあ、沙季さんの所に行ってきますね。」
「ああ、ウルドには気をつけて。」
「……はい。」
何となくエレベーターを使うに気にならなかったので、階段を下る。
「気をつけても、どうにかなる奴じゃないけど。あれ、今って何時だっけ?」
ケータイで現在時間を確認する。
えっと……不在着信58件!?
着信履歴を確認すると、聖条院沙季という表示が並んでいる。
ケータイの画面をスクロールしていくと、急に表示が変わった。
知らない番号だ、誰だ?
最初の5件ほどが沙季さんで50件ほどが知らない番号だ。
一番最初に俺にかけてきた番号だけは50件の着信と違う番号だった。
「あ、この番号だけ留守電が入ってる。」
留守電を聞こうとケータイのキーを押すと、機械音の後に人の声が聞こえた。
「あ、桜庭くんかい?新田だよ。君には迷惑もなんもかけてないけど……うわ、ごめんなさいごめんなさい!美季にも電話をしておいたから美季から話を聞いておいてね。……ちょっと、止めて止めて!」
そこで留守電が切れた、新田さんが誰かに脅されていたのか?
この電話番号が新田さんなら、もう1つは美季さんだろう。
一体何が……。
その時、誰かが俺の肩を叩いた。
「少年、久しぶりだな。」
「……!坂城さん。」
肩を叩いたのは坂城さんだった。
日本が、世界が注目している学者だが、近くで見るとあまりオーラが出てない。
どこにでもいる普通のおじさんだ。
「ほう、余裕な表情だ。百戦錬磨ということか、それとも油断しているだけか。少年、お前はどっちだ。」
「どっちでもないですよ、あなたから殺気を感じないだけで。」
「これは……驚いた。少年、お前は殺気を感じとることができるのか。」
「何となくです。最近、命の危険が多かったからでしょうか。」
「なるほど、それはあり得る。少年、お前の言っている通りだ。俺はお前を殺しに来たのではない、お前から運命についての研究に役立つアドバイスを貰った礼をしにきたのだ。」
2月3日 6時01分
心くんが、来ない。
朝早く連絡したが、心くんではなくアレースという女性だった。
彼女が金成の元パートナーで、心くんのパートナーということかな。
とにかく事態は予想より深刻と分かったから、心くんが来ないのは心配だ。
すると隣の部屋でガラスの割れる音がする。
さっきから、ずっとあんな調子。
廊下に出て隣の部屋を見に行く、鍵が掛かっているのか扉が開かない。
「美季!物に当たらないで!」
「うるさいっ!お姉ちゃんは黙ってて!」
「子どもじゃないんだからさ……はぁ。」
「うるさいっ!それより、桜庭くんはまだなの!?」
「まだだよ。それに来ていたらアンタ、彼に飛びかかるでしょ?」
「……。」
この沈黙は図星……かな?
やっぱり、脅してでも過去に戻ってもらうつもりだったんだ。
けど、そうでもしないと過去に戻らないだろう。
金成の件以降の彼の行動から分かることは無意識に武器や能力を使うことを避けているということ。
武器や能力を使えば勝てる場面でも命の危険を感じなければ能力はもちろん、武器も使わない。
彼が能力をフルに使えば敵なしの筈だ。
「どうしても、戻りたいの……!」
「分かったから、部屋のドアを開けて一回出てきなさい。」
「いやだ。」
「……そう。じゃあ心くんが来たらまた呼ぶわね。」
美季の部屋を離れて自分の部屋に行くと、またガラスの割れる音がした。
今度は文句を言う気はない、彼女の心境を思うと文句を言ってはいけない気がしたから。
こうなるのは当たり前なのかな、自分が歪むほどの愛情を注いできた新田くんが死んでしまったのだから。
「沙季さん!」
「心くん!?」
部屋の扉が急に開いた、そこには心くんが立っていた。
ん?表情が……明るくなってる?
いや、とても微妙な変化だから分からない。
「沙季さん、何があったんですか!?」
「あ、今話すからとりあえず座って。」
「はい!」
何で、若干興奮気味なんだろう。
ここに来るまでに何があったの?
すごい気になる、普通に武器の手入れとかしてるし。
「あ、あのー心くん。」
「はい!」
「美季の話を聞いてあげて。」
「それだけですか?」
「うん。」
心くんは、すぐに美季の部屋に走っていった。
このテンションの心くんは初めて見る……。
私も心くんの後をついていくと、彼は美季の部屋の扉をノックしている。
心くんの未来をちょっと予知してみた、彼は美季に吹き飛ばされるらしい。
「美季さん!桜庭です!」
その瞬間、扉がおもいっきり開いた。
心くんは吹き飛ばされ、美季が心くんの胸ぐらを掴んだ。
「桜庭くん、過去に戻って!」
「痛っ……いいですけど、どうしたんですか?」
「翔有が、翔有が……。」
「新田さんが?」
美季の手が心くんから離れて、美季は床に座り込んだ。
「翔有が……死んじゃったの。」
「……本当ですか?新田さんの身に何が起こったんですか?」
「心くん、ここからは私が話すわ。もっかい部屋に来て。」
美季は、ぐったりして扉にもたれかかってる。
やっぱり精神的に辛いのもあるけど、ずっと暴れてたから疲れたのかな?
心くんの後に続いて部屋に入る。
「新田さんに一体何が起こってるんですか?」
「今日の早朝2時くらいにアイツらが来たのよ。」
心くんの表情が固まったのが分かった、アイツらが誰か分かってしまったのだろうか。
「ウルド……ですか。」
「そう、今回は隣に榊原さんを連れていたわ。直接の面識は無くても名前を呼ばれていたから分かったわ。彼らは新田くんを殺しに来たわ、変な刀を持って。」
「沙季さん、ウルドは殺す理由が無いですよ?ウルドは読心の能力が使えます、新田さんが何かウルドの秘密を知ってしまったって事はない気がします。何で……。」
「いや、話は終わってないわ。新田くんを殺したのは、榊原さんよ。」




