第二十話 『静止と才能』
2月1日 15時10分
「沙季さん!沙季さん!…………通じないか。」
ショッピングモールの4階を急いで走る。
店の中に一般人が戻ってきて自由に買い物をしている。
美季さんが能力を解いたのだろうか?
連絡通路を渡ってビルに入ると、うって変わって人の気配がしない。
「善本!善本!」
アイツはこの階に居た筈だ。
しばらくすると、視界の隅に人の手が見えた。
走って近寄る……何となくだが、アレは善本の手だと思った。
「善本!だいじょ……うぶ……。」
俺の勘は当たったが、そこには俺が探していた善本はいなかった。
そこには、頭を撃ち抜かれた善本がいた。
「おい……マジかよ……。」
善本について特になんの感情も無かったが、知り合いが死ぬのは衝撃事実だ。
風が俺の髪を揺らした……風?
風の吹いてきた方向を見ると、壊れた窓ガラスと遠くにビルがあった。
「まさか……沙季……さんなの……か?」
頭の中がごちゃごちゃになり、目の前が真っ暗になった。
2月1日 15時02分
「へぇ。なかなかやるね、聖条院さん。」
心臓が止まるかと思った。
私の視界に入るものは、灰色のコンクリート、青い空、黒い服のウルド……そして何より眉間の前にある鉛色の銃弾。
ついつい、力が抜けて尻餅をついてしまった。
「はぁ……ギリギリ……セーフ。」
「君のもう1つの作戦はコレか。意表を突いた良い作戦だね。」
私の作戦……それは、新田くんの能力が手に入る前にウルドが現れたら善本を撃って時間を止めて逃げる。
結果としては逃げただけだが、善本の能力を手に入れている分は得をしている。
次にサバイバルを勝ち抜くにしろ、ウルドと対面するにしろ生存率は上がる。
でも、この作戦は失敗だ。
生存率うんぬんじゃない……私がこの場から逃げられなければ意味がない。
何で……何で……。
「何で、動けるの……?」
「そう、君のミスはそこにあるんだよ。」
「……あなたの目的は何なの?」
「世界を牛耳ること……って事にしておいて。」
「くっ……。」
逃げなきゃ……逃げなきゃ死ぬ。
ウルドは本気で私の頭を狙ってきてた。
扉はウルドの真後ろにある、この屋上から出る方法は2つ。
1つ目は、ウルドの後ろの扉をから出る方法。
2つ目は、いますぐここから飛び降りる方法。
どっちにしようかな。
「物騒な事を考えるね。どうだい、ここで賭けをしないかい?」
「賭け?」
「そう、ただのゲームだけどね。」
「内容次第ね。」
「未来の読み合いだよ。」
未来の読み合い!?
ウルドも未来予知が出来るの!?
だったら勝負がつかないじゃない。
「違うよ、能力にはちゃんとレベルのようなものがあるんだよ、いわゆる馴れみたいなものだね。それによって能力の強さとか精度とかが変わるんだよ。才能っていうのもあるけどね。」
「なるほどね、つまり馴れや才能があったほうがより先の未来が見えるのね。」
「そう、引き分けなら同じ未来が見えるから。」
この賭け、私に勝ち目はあるの?
この人は何年間、能力と過ごしてきたんだろう?
「勝ち目はあるよ。僕も時間を止めることが出来るが、それについては同じ実力みたいだ。」
「数年間使ってきた奴と、手に入れてから30分くらいの奴が同じ実力?」
「そう、僕も疑ったがどうやら同じ実力みたいだ。まぁ、昔からこの能力は苦手だし嫌いなんだけどね。」
だったら、未来予知の能力も同じくらいの実力である可能性がある。
普通に戦っても負けるだけ。
それなら……。
「分かったわ。どんなゲームをするの?」
「よし、単純さ。」
そういってウルドは、コインを指で弾いた。
コインは高く高く飛んでいきウルドの足に踏まれた。
「表は天使、裏は悪魔が掘ってある。」
「……。」
コインに未来も何もない、だから私はコインの未来ではなく私の未来を予知してみる。
だけど、考えればすぐに分かる。
このゲームは私が絶対に勝つ、才能以前の問題だ。
ウルドはコインの裏表をもう変えることができないから、未来を予知したら私の勝ち。
未来は……コインは表だと示している。
「表。」
「表でいいのかい?」
「うん、いいわ。」
ウルドがゆっくりと足をどける。
そこにいたのは……天使だった。
「あーあ、負けたなー。なるほど、君には才能があるみたいだ。君は最初から勝敗が決まってるみたいなこと考えてたね。それは間違いだ。」
「……なんで?」
「僕はコインをトスする前に、未来を予知しておいた。僕の予知した未来は君が裏を選んで当たる未来だ。だから僕はコインを表で踏んだ。」
「コインの表裏を選べるって…視力いくつよ。」
「いくつだろうね、まぁ負けたからにはここから去ろう。これはあげるよ。」
ウルドはもう一度コインを踏み、一瞬で姿を消した。
コインもそこから一瞬で姿を消していた……くれるんじゃ無かったの?
「さて、心くんはどこだろう?……と、その前に時間戻さなきゃ。」
時間を戻すと、車の音やら何やらが聞こえ始めた。
心くんは、どうしただろう?
「心くん、心くん?」
……返事がない。
彼の未来を予知してみよう……4階の廊下……どうやら気を失ってる。
多分、善本のところだろう。
私は時間を止めてまた走り出そうかと思ったけど、時間が止まらない。
時間を止めるにはインターバルが必要みたいだ。
「……歩いて行こ。」
階段を降りきり、ビルの前まで行ってみると、ビルの下はヤジウマが集まっててそろそろ警察やら消防車が来そう。
壊れてるビルに入らしてくれるはずがない。
ヤジウマを掻き分けてビルに入り、壊れかけの階段を上って心くんのところに向かう。
ビルの中には人の気配がしない、美季の計らいかな?
すると、遠くに見慣れた男の子が倒れている。
「心くん!」
死んだ善本の横で倒れていた。
彼がこうなったのは確実に私のせいだろう。
善本にも申し訳ないことをした。
外を見ると警察が来ている、そろそろ行かないと。
「さようなら、善本さん。」
「聖条院さん、ここは俺がやっときますんで……早く逃げてください。」
誰だか分からないけど男の人、恐らくは組織の人が急に現れた。
「あの……あなたは?」
「俺は、この人……善本のパートナーです。」
「パートナー……よろしく頼むわね。」
「はい、また会いましょう。」
パートナーなら安心ね。
私は善本を彼に任せて、心くんを背負って歩き出す。




