第一話 『挑戦と実験』
1月28日 13時26分
俺は、教室に居た。
「ゲーム理論の話をしていたのですが、聞いてましたか?」
「ぇ……ぁ……。」
何が起こったか分からない俺は、質問に応えられず、パニックになっていた。
普段、俺は何事にも動じない。
周りからは冷めてると言われるが……。
やはり俺の態度が珍しいのか、しばらく俺は、クラスメートの好奇な視線を浴びせられていた。
「す、すいません聞いてませんでした。」
「桜庭くん……あなたはいつもボッーとしていますが、寝てないのですか?」
「だ、大丈夫です。」
「そうですか。はいっ、じゃあ授業続けますよ。」
とりあえず、頭を整理しよう。
俺は現代社会の授業を抜けて保健室に向かった、変な男が現れて、保健室で男に刺されて、現代社会の授業に戻った。戻るのか?いや、今確かに戻っている。
可能性としては、さっきまでの出来事は夢……または、タイムスリップ。
そんなバカな、タイムスリップではないな。
多分、夢だな。
そんなことを考えている間にチャイムが鳴った。
「えー、教員の方々にお知らせです。不審な人物が校内で目撃されました、至急生徒の安全を確保してください、性別は男、金髪で耳にピアス、刃物のような物を手に持っているようです。繰り返します………」
夢じゃないのか!?
となるとタイムスリップしかない。
何故俺は、狙われたんだ?名前も把握されていたようだし……。
どうやら、本人に聞くしかなさそうだ。
クラスの奴らが大騒ぎしている間に抜け出そう。
「桜庭くん、どこに行くのですか?座ってなさい。」
「……はい。」
先生の存在を忘れていた。
そのせいで先生は、ドアの前に移動している。
後ろのドアから抜け出せそうだ。
しゃがんで上手くいけば……。
「あ、あれ?」
ドアには鍵がかかっていた。
後ろに先生が立っているのは分かってる。でも後ろを向きたくない。
「桜庭くん…?」
「何でもありません、ごめんなさい。」
た、試しに一度タイムトラベルしてみるか。そしたら楽に教室から出れるだろう。
現代社会の授業に戻ろうと思ったその瞬間。
俺は、また現代社会の授業を受けていた。
1月28日 13時25分
本当に戻れた。
まずは、同じ状況に戻っているかを確かめよう。
最初は名前を呼ばれるはずだ、その後はゲーム理論……だったかな。
「……くん……桜庭くん……桜庭くんっ!!」
よしビンゴ!!
さて、反応を前回と変えてみるか。
「先生どうしました?話なら聞いてましたよ。」
「本当ですか?ボーッとしてたように見えましたが。」
「ゲーム理論の話ですよね?」
「そうです。ちゃんと聞いていたようですね、では授業を続けます。」
よし、いいぞ。ちゃんと同じ状況に戻ってる。これは利用できる。
テストなんか余裕じゃないか。
いや、テストじゃない……宝くじで儲けられる。
さっそく買いにいかなきゃ!!
……その前に、俺を狙う理由を聞きに行くか。
「先生、ちょっとトイレ行ってきても良いですか?」
「はい、どうぞ。」
「ありがとうございます。」
さて、あの男は保健室に来るはずだ。
待ち伏せするなら、そこしかないな。
取り押さえて、狙われる理由を聞く。
両手に刃物を持ってたからな、こっちもカッターを……
「廊下でしゃがんで、何してるの?桜庭くん♪」
背後で声がした。
やけに、楽しそうで人を小馬鹿にした口調。
まさか!?
「な、何で!」
「何でって……君を探してたんだよ。」
冷静になれ、俺。
落ち着いて対応すれば、そう簡単に刺されるはずがない。
「善本……今度は刺されない。」
「俺の名前を……もしかして、何か使えるようになったの?」
「ああ、お前のような奴にはやられない。」
「……調子に乗るなよガキ。」
善本の雰囲気が変わった。
完全にオーラが違うじゃないか。
善本は、胸元から黒光りしたものを取り出し俺に向けてきた。
「逃げてみろよ、桜庭。」
あ、あれは銃じゃないか。
反則だ頭を狙われたら過去に戻れない!!
に、逃げなきゃ……あれ、足がすくんで!!
「う、うわぁぁぁぁ!」
「待ってください。」
逃げようとしていると、善本の背後に榊原先生が立っていた。
「何者だ!?」
「彼のクラスの現代社会担当です。彼から離れて銃をしまってください。」
榊原先生の目に怯えの色が無い。
何故だ、撃たれないと分かっているのか?
「今すぐ消えるんだ。さもないと引き金を弾く。」
「私はあなたの秘密が分かってます、1日が長くて大変でしょうね。」
1日が長い?
時間は人によって長さが変わったりするものなのか?
先生は真顔のままだし、善本は青ざめてるし意味が分からない。
「先生何を言ってるんですか?」
「お、お前まさか!?」
「とにかく、銃をしまって。」
「くそっ!!」
音がしなかった。
まるで、何も無かったかのように。
善本は、目の前から一瞬で姿を消していた。