第十六話 『失踪と不信』
1月31日 21時32分
「……遅い。」
あれから、沙季さんをホテルの近くまで送って自分のホテルに戻って来たのだが……ウルドが帰ってこない。
あの榊原先生が行方不明なんだ。
俺の学校の先生だから余計に落ち着いていられない。
何かの事件に巻き込まれているなら早く助けたい。
「ゴメン、心。ちょっと遅くなっちゃった。」
急にウルドが現れた。
今のは、瞬間……移動……なのか?
「お前、瞬間移動も出来たのか!?」
「……?あぁ、サバイバルに参加者が使っている能力は全部使えるよ。他にも能力は色々ある。」
「お前達……主催者側の奴らは全員そうなのか?」
「そうだよ。とは言っても、個人差はあるけどね。」
「ふーん。……で状況は?」
「分かっているのは、榊原香が行方不明になっているってことだけだよ。」
「……本当にそれだけか?」
いや、それだけの筈が無い。
行方不明になっているだけでは、サバイバル参加者の争いに主催者側が干渉する筈が無い。
「ウルド、正直に話せ。それだけじゃないという確信はある。」
「……わかった。でも言えない事もあるからね、そこは理解してくれるかな?」
「ああ、出来る限りの事を教えてくれ。」
「榊原香のパートナー……ヴェルダンディーが何者かに殺害されていたんだ。その時には既に榊原香はホテルからいなくなっていた。そこで俺達は、彼女をヴェルダンディー殺害の犯人だと疑っている、ということだよ。」
「それだけか?」
「うん、心に話せる事はこれだけだよ。」
「つまり、俺達の争いを止めたのはそれを伝えるためだけか?」
「そうだよ。」
おかしい、その為だけな筈が無い……。
伝えるだけなら、争いが終わった後でも良かった。
ウルドはまだ何かを隠しているみたいだが、聞いただけど教えてくれないだろう。
自分で情報を集めるしかないか。
1月31日 21時35分
心くんが、近くまで送ってくれた後、ホテルの部屋でシャワーを浴びてワイン飲みながらパートナーの帰りを待っていると。
「ふぅ……あ、沙季がホテルにいるなんて珍しいね。どうかした?」
「ねぇスクルド、私に何か話すことない?」
「話すこと……何の事?」
「とぼけないでよ、榊原香が行方不明なんでしょ?」
「え、そうなの?何も聞いてないんだけど。」
「そうなの!?」
スクルドが知らない……身長は低く、話し方も幼いけど、あの組織の一員だ。
情報を聞き逃しはしない筈。
「うん、知らないよ。一応調べてみるけど……誰からの情報?」
「誰からだったかな……?忘れちゃった。」
ここは穏便にしておこう。
ちょっと、嫌な感じだ……ウルドさんだっけ?
彼が嘘をついていても、嘘をついていなくてもは何か企んでるのは明らかだ。
「そっか、まぁ気を付けてね。あーあ、僕ももうちょっと読心の能力の才能があれば、沙季から情報取れたのに。」
少しだけ、心くんに探りをいれてみるか……。
とりあえず今日は寝よう。
「あ、もう寝るの?おやすみっ、沙季!」
「ん、おやすみっ!」
1月31日 21時56分
「ふぅー。」
俺は今、お湯を浴びている……そう風呂だ。
今日の出来事を無かった事にしてくれるようだ。
まだ手には引き金の感覚がへばりついてる。
「心、もっと楽しそうにしようよ。風呂の時間なんだからさ。ほら、僕を見習って!」
ウルドは、いつも通りヘラヘラしている。
ウルドだったら、今の状況も楽しめるのだろうか。
そう、人を殺めてしまった状況を。
「お前は常に口元が笑ってるだろ。ちょっとは悩みとか緊張感を持てよ。」
「悩みとか緊張感ねー、まだ持ったこと無いんだよね。あれってどんな感情なの?」
「笑ってられないよ。頭の中が真っ白になったり、ぐるぐると回る感じだ。」
「ふーん、何だか持ちなくないイメージだね。」
「みんな持ちたくないし……でも、持ってしまうのが普通だ。」
「普通……ね。一体何が普通何だろうね。」
今は悩みとか緊張感の話をしてるんだけどな。
普通の話をしたい訳じゃない、けど……。
「普通が何かなんて、誰も分からないだろ。」
「珍しく言い切るね。」
「まぁ、普通が何かについては一家言あってね……。」
おっと、俺が語ってる場合じゃないな……ささっと風呂に入って沙季さんに連絡をとって寝るんだった。
あれ、何で話が逸れたんだろう。
「僕が話を逸らしたかったからだよ。」
「だから、心を読むな。」
「いいじゃん、減るもんじゃないんだよ?」
「俺が嫌なんだよ。先に部屋行ってるぞ。」
「はいはい。」
さてさて、明日からは2月だ。
2月といえば逃げる2月、3月といえば去る3月だったかな?
誰が考えたんだろう、去ると3の共通点って1文字だけだし。
もう少し考えれば良い案が浮かんだ筈だ。
「あ。沙季さんのメールアドレスも電話番号も知らないな……。」
俺も沙季さんと別れる前に少し考えていれば、メールアドレスの交換ぐらい思い出せたかも知れないな。
「はぁ……もっかい過去に戻ろうかな。」
他にやり残したことは、無いかな?
あ……ウルドが来る前に榊原先生に電話してみたら良いんだ。
そしたら、行方不明になったりしないんじゃないか?
「よし、行ってくるか!」




