第九話 『敵対と風呂』
1月29日 23時12分
サキさんと夕飯を食べて、また同じように地下鉄に乗ってホテルに帰ってきた。
帰りはサキさんが寝てしまった。
本当に退屈な帰り道だった……サキさんが怒った理由がよく分かった。
「えっと、何階だっけ?」
はぁ……階段で行って1階ずつ回ろう。
恐らく5階より上だ、食堂に向かうときにエレベーター内のランプが5階を通過したのを見た気がする。
それにしても、今日は長い1日だったな。
今日会った善本、小早川、サキさん、あと変な男……サキさんのフルネーム何だろう。
「こんにちは。」
「あ、こんにちは。」
「ホテルに宿泊している方ですか?」
白いシャツに、灰色のスラックス……物凄く綺麗な人だが、ホテルの関係者だろうか?
「はい、泊まってます。」
「部屋番号は?」
「えっと、分からなくなってしまって……今、1部屋ずつ回ってまして。」
「そうですか。ちょっと人質になって貰います。」
「はい?」
え……銃?
何で、ホテル内なのに!
参加者じゃないなら、誰かが雇ったのか!?
「心っ、しゃがめ!」
「え、あっ。」
ウルドだ、助かった……。
あいつは強いからな、よしウルドの回し蹴りだ。
決まった……が、あの人は倒れない。
女性がウルドの蹴りを片腕で受け止めていた、ウルドの回し蹴りを片腕で防御するとか人間業じゃない。
「久しぶりね、ウルドくん。何で君が来たの?」
「それはコッチのセリフだよ。あなた達のような非道な集団に関わってる場合じゃないんだ。」
「ふふ、口だけが達者になったわね。だけど蹴りの方はまだまだね。」
「もう一度聞くが、トップ3に数えられるあなたが何でここに?」
「それはね……そこの彼が誰も傷つけずに4人から逃げ切ったって聞いたからよ。随分とあなたのパートナーは優秀みたいじゃない」
「何故、それを知ってる……!」
「私達も、監視役を出してるってだけよ。敵が怪しい動きをしたら監視するのは当たり前でしょ。」
敵……ウルドが所属している組織と敵対している組織があるのか?
ワケがわからない、もう一度説明してもらおう。
「ここは、一度引こうかしら。」
「そうしてくれるとありがたい。」
ウルドがそう言うと女性は一瞬でいなくなった、善本とかと同じような能力だろうか。
ウルドは、難しい顔をして黙ってる……う、ウルドさん?
ウルドがこんな顔をしているのは初めて見た、でも詳しい説明をして欲しいんだけどな。
表情が怖くて話しかけられない。
「詳しい話をするから部屋に行こう。……心、どうしたの?」
「い、いや何でもない。」
「多分、明日は生きてる人全員集合になるからさ。今日中に心もある程度の知識を身に付けておこうよ。」
「知識って?」
「心も勘づいてるだろ?僕らと敵対している組織があること……それと、今の社会の本当の状況を話さないとね。」
「今の社会……かなり平和じゃないか?裏も何も無さそうだ。」
「心、君は表の人だったってだけだ。このサバイバルに参加してる者で裏を知らなかった人は少ないんだよ。だから君にもちゃんと知ってもらうよ。」
「……そうか。」
裏側なんて想像もつかないな、裏側って普通足を突っ込むものではないからな。
おっと、結局部屋は7階か。
番号は……7045ね、ちゃんと覚えておかなきゃな。
はー、今日は疲れたよ。
「大浴場行く?」
「行く行く、お前は行くのか?」
「んー……二人で大浴場行こうか。そこで詳しい話をしよう。」
社会の裏とかどうとかを大人数のいる風呂場で!?
ウルド、実はバカだな……強くてもバカだな。
あーあ、大浴場の皆さんに危ない人だと思われるよ。
エレベーターの表示を見たところ大浴場は1階と3階にあるらしい。
ウルドの選択は3階だ、理由は気分だそうだ。
気分って言葉好きだから、理由が無くても許すけど。
「心は大浴場に行ったら洋服をカゴに入れる人?それともロッカーに入れる人?」
「そうだな……多分俺は、カゴに入れてるよ。」
「面倒くさいからかな?」
「そうだよ、悪いか?」
「いいや、別に。」
何だよ、この雑談。
誰もそんなこと考えないだろ、それともウルドは考えてるのか!?
考え事ばかりしていて、人生楽しいんだろうか?
そんなこんなで、大浴場に到着。
もちろん洋服はカゴに入れて、タオルを持って入浴。
大浴場での入浴なんて久しぶりだ、銭湯もあまり行かないから誰かと一緒に風呂に入るのが久しぶりだ。
「あー、良い湯だ。」
「心、意外とおっさん臭いんだね。」
「は?まだ10代なんだけど。」
「知ってるよ、でも……ねぇ?」
あー、ウザいウザい。
何となく、こうなる気がしてたんだけどな、こいつと風呂入るんじゃなかった。
「早く本題に入ってくれ。」
「本題?……あー、そうだったそうだった。今の日本はね、2つの組織が裏で操ってるんだよ。」
「どうせ、お前のとことさっきの女の人のとこだろう。」
「まあ、そうなんだ。主にこの地域……ちょっと前は関東と呼んでいたが、今ではA~Zまでの地区に分けられている。分けた理由は、管理がしやすいから何だけど……」
「ちょ、ちょっと待て。Zまで?俺はWまでしか知らない。地図で言うとどこら辺の地域だ?」
「簡単だよ、X、Y、Z地区は地下にあるんだよ。」
「地下!?このホテルの下とか?」
「うん、そうだよ。でも行っちゃダメだよ、下には奴らがいるんだよ。」
「奴ら、あの女の人達か……強いのか?」
「あの人は特に強いね、上の方の人だからね。例えるなら社長みたいな感じ。」
「だから、お前でも勝てないのか。」
「か、勝てないとは言ってないよ。まあ、楽には勝てないのは事実だよ。」
あーあ、今の社会の話なんかどうでも良くなってきた。
ウルド達の事をもっと知りたいな、面白そうじゃないか。
ウルドみたいなのが沢山いるのか?
組織の名前は何だろう?
ウルドの愉快な仲間達がすごく気になる、落ち着いて風呂に入れない。
「あのさ、お前の仲間ってどんな奴らなんだ?」
「え、どうしてそんなことを?」
「い、いや。だって明日全員集合になりそうなんだろ?だったら性格把握しといた方がいいだろ。」
「なるほどね、でもどうせ明日会うんだから構わないじゃないか。」
「うっ……、あらかじめ知っておけば対応もしやすいじゃないか。」
「黙ってればいいよ。」
「……。」
負けた。俺って実は口喧嘩とか弱いんじゃないのか。
サキさんが強いわけじゃない気がしてきた。
「大丈夫、口が達者じゃなくてもサバイバルに負けないよ。」
「俺の心を勝手に読むな!」
また、能力か!
全く……タチの悪い能力だな、仲間同士だったら無言で会話できそうじゃん。
作戦会議が無言だったらなかなか面白いな。
「いやいや、能力じゃないよ。」
「だから、勝手に読むな!能力じゃなかったら何なんだよ!」
「心、顔に出やすいんだよ。僕じゃなくても勘が良い人なら簡単に気づくよ。」
「そんなに!?」
「不機嫌な時は阿修羅みたいになってる。」
阿修羅……彫刻じゃないか。
阿修羅って遠くから見ても怒ってるって分かるよ。
今日から頑張って無表情になろう。
「心、そんな下らない目標はどうでもいいから早く上がろう。このままだとのぼせちゃうよ。」
「くだらな……ちょっと待って!」
「早く早く。」
ウルドと風呂に入るのは意外と悪いものじゃなかった。
これなら入浴の時間は毎日楽しそうだ、心読まれるのは嫌だけど。
と、服を着ながら考えてるとウルドが近づいてくる。
「さっき行ってるね。」
「ああ、分かった。」
部屋番号は7015だっけ、今度は忘れないからな。
「心、君の記憶力はお粗末なものだね。7、0、4、5だよ。」
「っ!お前、絶対それ能力だろ!」
何事も無かったかのように脱衣場からウルドは去る。
周囲から嫌な視線を受けている、俺だけが残った。
脱衣場の皆さま本当にすみませんでした……。




