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異世界GO ~歩いていたらヒロインが自滅していました~

作者: 七茶
掲載日:2026/05/08




「今日から伝説の〇ケモン出るー!」


勢い良く飛び起きた私はハッと気付いた。

転生していたことに!


何か大きな怪我もトラブルも無い熱も出していない平和な朝だった。


そして睡眠学習ならぬ睡眠中の前世記憶によると

私は日本で平和に社会人をしていた28才 平石 茜だった。

そしてその記憶によると、この世界は高校時代からの親友のはまっていた乙女ゲームの世界である。

さらにそのゲームの記憶によると、私は恐らく悪役令嬢と呼ばれるポジションだ。

親友情報だけでやった事ないから知らんけど。


乙女ゲームにあんまり興味は無かったし飽き性なのでゲームも最後までやり込んだりした記憶も無いし。

オンライン系も気付くとログインしなくなったりしていて唯一続けていたのは歩いて図鑑を埋める例の超有名「ポ〇モンGO」ぐらいだった。


「あぁ…明日からだったのに」


自分がここに居るという事は死んでしまったのだろうけど、どうしてだったのかの記憶は無い。

けれども丁度最後の記憶は明日から伝説が出るという情報を楽しみにしていたところだった事を思い出し、令嬢にあるまじき様子で盛大にため息をついた。


とりあえず夢で見たらしい前世の記憶が薄れる前に、親友の話していたゲームの情報をかき集めると

ヒロインは元平民で伯爵家に引き取られた聖女候補のエリー。

この世界は魔法ではなく「剣聖」だとか「跳躍」だとかのスキルが存在し、そのスキルの中で「治癒」のスキルを持っていて、能力が最も高い者が代々聖女とされていた。

スキルは1人1つのみで火が出せたり水が出せたりというスキルは無いらしい。

ただスキルによっては1つのスキルで多機能なものもある様だ。


今代の聖女がヒロインの学園卒業の年に引退する予定となっており、次の聖女の候補として最有力視されている状態で学園に入学するところからゲームが始まる。

ヒロインは学業だとか慈善活動だとかをミニゲームとしてレベル上げするのと並行して、王太子に始まる宰相子息、騎士団長子息、幼馴染の商人の家の子、隣国の第二王子という面々と絆を深めて最も好感度の高い攻略対象と婚約してENDだ。

メインはやはり王太子で、ハーレムエンドは存在しない。

お約束なお話でその王太子の婚約者が悪役令嬢ポジションで、いじめてくる役どころだ。


お約束のつっこみを入れておこう。

略奪すんなよヒロイン。お前の方が悪役だろ。


ちなみに王太子のスキルは「覇王」とかいうなんとも王族っぽい多機能スキル。宰相子息は「鑑定眼」で物や人の鑑定が出来るスキル。騎士団長子息は「頑強」とかいうとにかく頑丈になれるスキル。商人の子は「計量」いろいろ物の重さとか容積とかが見ただけで判別出来るスキル。隣国第二王子は

各自そのスキルと立場での齟齬だので悩みがあってヒロインが解決する流れがあるはず。


というお話を前提として、みなさまお察し、私が王太子の婚約者フェリシア・ガルフォルツィア侯爵令嬢である。

すでに婚約した後である。


「いやほんとGOぐらいしかまともに記憶にないんだって…」


最初っから諦めモードだったが、丁度今日の午後が全国の10才児を集めてスキル鑑定をする日だったので

なんか良いスキルお願いしますとぼんやり神様にお願いしながら二度寝した。




******




「世界ウォーク?」


「せかいうぉーく?」



スキルが現れるというボードを前に、聖職者であられるおじいちゃんと共に画面をまじまじと眺めて言葉を読み上げる。



いや、どういう事ですか神様!?

思わず脳内で神様に叫びつつも、頭を抱えてその場に蹲らなかった自分を褒めてあげたいところだ。



「初めて見るスキルじゃな」



でしょうね!?



侍女に叩き起こされてやってきたスキル鑑定会場で、次々と聖職者に呼ばれて流れ作業の様に鑑定される子供達。

悪役令嬢のスキルは覚えていないが何か役にたったら良いなと思った程度でそのままの流れに身を任せて鑑定して貰ったが、出た結果がこちらである。


『世界ウォーク』


…これは大丈夫なんですか神様。ぱくりでは。ぱく…(大事なことなので2回…いえ何でもありません)



脳内に流れ込んでくるスキル能力は歩いてポイントを貯めたり、妖精をティムしたり、卵を育てたり、敵とバトルしてアイテムと経験値ゲットしたり、仲間に出会うことができる――まるで良く知っているゲームのパクリのようなスキル。


いや、大丈夫かこれ!?と思ってしまったがここは異世界だ。

セーフ…セーフであって欲しい。


「どんな能力なのか分かるかの?」


聞かれてにっこり笑顔を作って答えた。


「歩いたら歩いただけ良い事があるスキルです」


「歩いたら歩いただけ良い事があるスキル」


理解が遅れたのかオウム返しの様に私の言葉を繰り返した聖職者さんは、残念なものを見る目で送り出してくれた。

そりゃ、この世界の貴族令嬢はそうそう歩く事無いもんね。

でも前世の記憶によるとこれは歩くというより、移動すると、が近いので車並みの速度を出すものが船ぐらいしか無いこの世界では大概の移動でポイントがつくし妖精や仲間や戦いをしかける人に出くわしそうだ。

まぁそれは置いておいて、すぐにこの能力の無限の可能性に気付いた。

これなら断罪されてどっかに追放されても歩ければなんとかなるのではなかろうか。


「歩き回るだけで何かが起こるなら、とりあえず試してみよう!」


思い立ったが吉日、私は街を巡り始めた。

まぁそこは侯爵令嬢という立場なので、商人の娘風の変装をしつつ、周囲にはこれまた変装をした護衛の方々が数人付いてという大変ご迷惑をおかけする状態ではあるのだが。



最初はただ歩くだけだった。

ポイントが貯まり、小さな妖精が現れ、それをティムした。

図鑑が埋まってゆくこの楽しさよ!やっぱ好きだわー!としみじみする。

最初びっくりしたのだが、この妖精、周囲の人には基本見えていない。そして普段は特に何もしないでふわふわしている。

スキルで妖精眼だとかを持っている一部の人には見えるし、認知もされているので妖精をティムしたりしていても怪しい人だと思われる事は無いようだ。


しかし、歩くうちに、街の様子を目にし、民の声を耳にするようになった。

市場で野菜が不足している農家の悩み、水路が壊れている街の不便、子供たちが読み書きを学べない貧しい地区の問題――歩きながら、自然にこれらの問題に耳を傾けた。


「今日はハンス居ないの?え?孤児院で風邪が流行中?寄るわ!」


「えー?この橋この前まで通れたのに!雨で?治せる人が居ないの?」


「異世界ウォーク」の能力は、歩くことで新しい人々と出会うことももたらしてくれた。

農家のジョン、水路修理の専門家マリア、教育に熱心な教師レオ――彼らは歩く途中で自然に出会い、仲良くなったが、知り合いの輪が広がれば広がるだけ、誰かがどれかの問題にぴったりの能力を持っていたのだ。

これは、双方を結びつけるしかないというものだ。

さぁ!私の素晴らしき知り合いの自慢を聞くが良い!


「マリア!相談に乗って欲しいのだけど!」


「あら、フェリシアの相談なら何でも乗るよ。この前力持ちを紹介して貰ったしね!」


ただ歩き、話を聞いていたものが、そのうち「どうすれば解決できるか」を一緒に考え始め、解決できる人を紹介する様になっていったのだ。


この行動は、当初は周囲から「王太子の婚約者が街を歩き回るのは不適切」と批判された。

まぁ、不適切なら不適切で、王太子の婚約者から外して貰えればそれでも…という考えも有り、そのまま歩き続けた。

歩くことでポイントが貯まり、そのポイントを使って小さなスキル製の卵を育て、それが成長して街の問題解決に役立つ「生物」となった――例えば、水路を修理する小さな土木妖精、野菜の成長を促進する自然の精霊など。


なかなかに多機能過ぎるチートスキルというやつなんじゃな~い?などと日々を楽しんでいる間に、民衆の間での評判は徐々に変わったらしい。

「王太子妃が直接街を巡り、私たちの声を聞いている」「彼女は歩きながら、実際に問題を解決している」――そんな噂が広まっているそうだ。

いや、待ってポイント集めだし。

解決してるのはみんなだし。

過大評価過ぎると思いながらもスキル内の図鑑コンプを目指してつい歩き続けてしまう。

なんという私への中毒性の高いスキル…神様、あなたはツボを心得ている。



******



一方、この世界のヒロインだったはずの聖女候補、エリーは神殿の部屋でいら立っていた。


「どういう事よ!」


当初は治癒のスキルと慈愛の心で注目を集めていた。

しかし、フェリシアが街を歩き、民と直接関わる姿が宮廷や民衆の間で話題となる中、エリーは焦りを感じ始めた。


「私がヒロインなのに…悪役令嬢の方が評価されてるなんて!」


エリーもまた転生者であり、このゲームをやり込んで良く知っていた少女だった。


「世界ウォークって、悪役令嬢絶対転生者じゃん!ストーリー改悪なんて最低。絶対に破滅させてやるんだから」


決意と共に、攻略対象の悩みにも寄りそおうと彼らに近付くも、彼らはフェリシアの能力と問題の縁結びを遠くから眺めて、自分の能力も使い方次第だと、自分で乗り越えてしまっていた。


「私の為の世界をどこまでかき混ぜれば気が済むのよ!」


文句を言いたくても、悪役令嬢は学園でも外でも誰かしらと一緒に居て1人になる様子も無い。

呼び出そうと手紙を出しても来もしなかった。

そこでエリーは自分の名声を上げようと、より派手な治癒を使い、より多くの公的な慈善活動を行おうとしたが、それが時に誤った方向へ進むことになった。

見た目が派手なだけで大雑把な治癒により骨が曲がって繋がってしまった事があったり、下調べ不足で孤児院の為に彼女エリーが集めた寄付金が院長の私腹を肥やしただけだった事が判明してしまう。

そうしてどんどん焦りだけが募っていった。



そんなある日、エリーは貧しい地区に食料を配布する大規模なイベントを計画した。


「はぁいみなさん!聖女候補エリーの炊き出しでーす!たっくさんありますから並んでくださいねー!」


出だしは好調だった。

多くの人が並び、配られた食料でお腹を満たした。

しかし、しばらくして準備不足と彼女のスキルの過剰使用により、配布が混乱し、一部の食料がスキルの副作用で腐敗する事故が起こった。民衆は失望し、エリーは自らの過ちを認めず、「治癒すれば良いんでしょう」とさらにスキルで問題を覆い隠そうとした。


その結果、スキルの暴走が起こり、彼女自身が軽傷を負う事件となってしまった。


「エリー様!」


「エリー様なんとかしてください!」


「エリー様どういう事ですか!」


詰め寄る民衆にエリーはただ蹲って動けなくなっていた。




******




私はその日も歩いていた。

エリーの事件が起こった地区に偶然通りかかり、混乱を見てしまったのだ。


あれ?ヒロインイベント失敗してる?と思いつつ周囲を見回すと、異臭立ち籠める周囲からうめき声と共に人々の声が聞こえてくる。


「腹が!腹が痛い!」


腹?と見回すと、多くの人がお腹を押さえて蹲っている様子と、言われればこの悪臭は食べ物が腐敗した様な臭いだ。

これは、食中毒というやつかしら?でも私には医学の知識など全く無いと早々に判断し、丁度一緒に歩いていた相手を見る。

さっき歩いている間に会った平民のジャックだ。

ジャックのスキルは「俊足」とにかく足が速い。


「ジャック、ちょっと大急ぎで薬屋のサリーのところへ行ってお金はフェリシアが払うからと伝えてありったけの腐った物を食べた時に飲む薬を用意して貰って!荷物持ちは後から追いかけるから!お願い!」


「わかった!」


答えるや否やジャックはあっという間に見えなくなった。

この世界では貴族にはお抱え医師が居るものの街医者という者は普及していない。基本薬屋さんが薬師として症状を見て薬を処方しているのだ。

ジャックお願いねと念じつつ、知り合いを探して視線を巡らせるとまだ食べて居なかったのかおろおろしているだけのダンを見付けた。


「ダン!ジャックが薬屋のサリーのところへ行ったから追いかけて!追いかける途中で知合いに会ったら声をかけて人を集めて!薬をありったけ持って来て欲しいから出来るだけ多いとありがたいわ。お願い!」


「お!おう任せとけ!」


ダンは前にマリアにも紹介した力持ちだ。ダンだけで足りるかもしれないけれど、人手は多い方が嬉しい。

ダンが走り出すのを見届けて、再度周囲を見回す。とりあえずこの体に良く無さそうな根源と匂いをなんとかしたい…

こういう時こそと「世界ウォーク」で育てた卵から小さな水の妖精を呼び出した。妖精は腐敗した食料を水で洗い流してくれた。

とりあえず下水に流し込んだが、後でお掃除系スキルの知り合いを呼んで来よう。


「あ!セシリー!お願いこっちに来て手伝ってくれる?これ以上悪い物をみんなが口に入れない様にしたいの。あ!ソフィアもお願い!重症な人が誰か分かる範囲で見て欲しいの!重い人はソフィアの「洗浄」で洗ってあげる事になるかもしれないわ」


「はい!がんばります」


「えぇ!?私人間の洗浄なんてしたことないわ!」


快く駆けて来てくれる2人、ソフィアの言葉にそうよねーと思いつつ、彼女の手を取る。


「人間を直接洗浄して貰うわけじゃなくて、私の妖精に胃に入った腐ったものを水で覆って出して貰うわ。その水を「洗浄」して欲しい。お願い」


「…それなら」


そうしている間にダンや数人の人と共に胃薬を持って来たサリーによって胃薬が配って回られる。

薬は治癒スキルの様に劇的には回復しない。

けれど、治癒スキルが暴走してしまったらしい現状から考えると、この症状に治癒スキルを使う事はエリーには精神的に無理だろうし、痛がっている人たちも怖いと思うのではないかと思う。

その頃にはフェリシアの繋がりで知り合った多くの人が協力して、状態の悪い人は妖精と「洗浄」のスキルによる胃洗浄が行われる等助け合いが広がっていった。

私は妖精に腐敗物を流すのをお願いしたものの特に特別なスキルは使わなかった――ただ歩いて知り合ったみんなが助けてくれた。

人に恵まれたなぁと思う。


とりあえず事態がひと段落したところで、みんなが一度休めるところ、重症な人は泊まれるような所へ運んであげたいところだけど、さすがにそれは教会ぐらいしかない。

エリーはそろそろ復活してくれないかしらと、先程居たあたりを見れば、そこには誰も居なかった。

驚きに思わず二度見しそうになるのを我慢している所へ、馬車が近付いて来る音が聞こえてギギギとでも音がしそうな我ながらぎこちない動きでそちらに視線を向けた。

今度は何だ。

そう、口に出なかった事を褒めて欲しい。


向けた視線の先には、見るからに高級そうな馬車…

もしかしてもしかしなくても、ちょっと王家の紋章らしきものも視界に入ってしまっているのではなかろうか。


「歩いてただけなのに!」


今度は声に出さずにはいられなかった。

その馬車から降りて来たのが、王太子殿下だったからである。

この距離で気付かないフリは…出来ないかと溜息を堪えて殿下を出迎える。


「王太子殿下におかれましては、御機嫌麗しく…」


「挨拶はいい。これは、どういう状況だ」


聞かれた問いに脳内でピーン!とわざとらしく音をたてる。


「散歩しておりましたら、集団食中毒に出くわしまして、民に殿下のお慈悲をいただけませんでしょうか?体調不良の者を教会に受け入れていただく為に教会に先触れと、運ぶ為の人員をお願いしたく…」


公明正大に振る舞っておられる王太子殿下は、慈悲をと言われればそうそう断れないだろうと踏んで後を押し付ける気満々のお願いをする。


「散歩していたら…だと?分かった。まずは、手配しよう。詳しくは後で聞く」


そういうと、さっさと動いてくださった。

よしよし、今のうちにみんなにお礼を言って薬代を手配して家に帰ろう。

詳しくは、炊き出しの人員に聞いて貰えれば分かるだろう。

今日の散歩は終了です。



******



王太子ルシアンは当初、婚約者であるフェリシアが「街を歩き回る」行為を理解できなかった。

聖女候補のエリーが人々を癒し、名声をあげ、王太子の婚約者にも彼女をという声すら上がりだしているのに、我が婚約者はただ散歩しているだけなのかと。

エリーの天真爛漫な笑顔も人を癒すし、忙しい自分に寄り添ってくれる彼女の優しさと愛らしさはフェリシアに足りないものだと。

しかし、彼も街を巡る中で、民衆がフェリシアを称える声を聞き、彼女が実際に小さな問題を解決している現場を目撃した。

ルシアンは、フェリシアの「歩く」行為が、単なる運動ではなく、民と直接関わり、問題を発見し、解決する為の口実だったのかと、考えを改める様になった。


そんな中起きた聖女候補エリーのスキル暴走事件。

後で詳しく聞くと言ったのにフェリシアはいつの間にか居なくなっていたが、その場所でエリーが炊き出しをするという情報は得ていたので、教会の人間に確認を取ったところ、大まかな事情は分かった。

事件後、ルシアンはエリーとフェリシアのアプローチの違いを明確に感じた。

エリーはスキルと聖女という名声で問題を解決しようとしたが、フェリシアは歩き、聞き、そして自然な方法で問題に寄り添った。


「俺は、今まで治癒という分かりやすく万人受けするスキルや甘い言葉に目が眩んでいたのだな」


ルシアンは政務の合間に時折フェリシアの傍らに歩き始めた。

二人は街を一緒に巡り、民の声を聞き、解決の為に人を結びつけたり、時折「世界ウォーク」の能力で小さな妖精を呼び出したりして、問題を解決する。


歩くうちに、ルシアンはフェリシアの本当の姿を見た――街へ出れば平民にも貴族にも分け隔てない自由な心、そして歩くことで世界と関わる誠実な態度。

彼はある日フェリシアを愛し始めている自分に気付いて狼狽した。



それは乙女ゲームの脚本のような突然の運命や情熱的な真実の恋ではなく、歩き、共に時間を過ごし、理解を深める中で自然に育まれた感情だった。



エリーは事件後、スキルのコントロール訓練を口実に学園から遠ざかり、聖女候補の地位を失った。


「どうしてよ!私はヒロインなのに!あいつに!フェリシアに陥れられたのよ!」と主張していたそうだが、教会も事件の調査の結果全責任はエリーにあり、彼女の性格に問題があると判断した結果だった。


フェリシアは悪役令嬢という役どころから離れ、歩く王太子の婚約者として新しい評判を得た。

彼女は依然として「世界ウォーク」で歩いていた。

護衛の皆様には申し訳ない気持ちを抱きつつも、いつまでも歩き続けていきたいと願っていた。



******



ある春の日、フェリシアとルシアンは街の公園を歩いていた。

フェリシアがまた小さな妖精をティムし、ルシアンが微笑んでそれを見守っている。

くすぐったい様な、幸せな様な時間。


「君は歩くだけで、この国を豊かにしている」ルシアンは言った。


「私はただ…歩いているだけです」フェリシアは困った様な表情でそう答えるしかない。


「歩いてたら、沢山の素晴らしい人に出会えたので、私の素晴らしい知り合いを困っている人に自慢してるんですよ!自己満足です」


伝えると、ルシアンがフェリシアの手を握った。


「そうして、歩いて出会った人や聞いた話を君が蔑ろにせず大切にして、積み上げて来たから皆が助けてくれるし、君が居てくれるから出会うはずの無かった者たちが手を取り合って助け合えるんだ。そんな君を誇りに思うし、そんな素晴らしいことをしていても歩いているだけ、自慢してるんだなんて言ってしまうところは他の人間には見せたく無いぐらい可愛いと思っている。これから色々な事があるとは思うが、ずっと一緒に歩んで行って欲しい。」


フェリシアはその言葉に泣きそうになりながらも嬉しさを伝えたくて微笑んだ。


「はい」


この世界に悪役令嬢として転生したが、歩くことで自分の道を見つける事が出来た。

乙女ゲームの経験は無いし、この世界の事も大雑把にしか分からなかったが、世界ウォークのスキルで、歩きながら愛と信頼を手に入れた――それは乙女ゲームのヒロインが魔法で一発解決するような話ではなく、一歩一歩が積み重なる、恋と成長の物語だったのだと思う。


そして、まだ歩き続ける。

次の街へ、次の問題へ、次の出会いへ――歩くことで、この異世界をよりよく理解し、ルシアンと共に王国を導く道を、一歩一歩、踏み固めていく。

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