interlude 再会と再会の狭間で
少し前。
改を連れてリリウム極東支部に帰還したベス、舞姫、シィの三名は、案内役の職員に改を引き渡した後、機子と銀子の待つ司令室へと出頭していた。
「まずはシィ。初合身おめでとう」
開口一番、銀子にそう労われたシィは、「いやー」と照れくさそうに頭を掻く。この時、機子と舞姫が複雑な表情を浮かべていたことに彼女は気付いていない。
「――で、敵は確かに〝陽動〟と口にしたのじゃな?」
「うん……じゃなくて、はい。いつものヤツがいねえ、ってチンピラゴーレムさんが喜んでました」
「チンピラゴーレム?」
「あ、えっと、その、さっき鉢合わせた指揮官タイプのベイグラントのことを、カイがそう呼んでたっていうか、なんていうか……」
フィータスとの思考共有を上手く説明できず、しどろもどろになるシィだったが、他の面子は彼女より事情に通じていたため、それ以上そのことに言及する者はいなかった。
「フン……私たちを欺いてまんまと出し抜くなんて、やってくれるじゃない」
不愉快そうに鼻を鳴らしたベスに、二歳ぐらいの幼子を抱きかかえた機子が問う。
「そちらの状況は?」
「偵察班からの報告通り、根室・知床より先――千島列島からペトロパブロフスク・カムチャツキーにかけて、多数のベイグラントを確認・交戦しました。特にペトロパブロフスク・カムチャツキーには、かなりの数の機獣・機兵が集結しており、殲滅には大分手を焼いたのですが……まさかそれ自体が囮だったなんて」
「よく噛まないね、ベス」
「そこ、茶々入れない」
報告の場に珍しくシィがいることで、仕事モードが途切れがちなベス。
そんな相方に嘆息しつつ、舞姫は報告を引き継ぐ。
「……ひとまず、千島列島上の敵の掃討は完了。ペトロパブロフスク・カムチャツキーの方には警戒のため他のメンバーを残し、報告にはわたしたちだけ帰還しました」
(って言えば聞こえはいいけど、ほんとのところは任務続きですぐに戻るのを嫌がった先輩連中に、私らだけ単身パシらされただけなのよね)
相方の隣で顔色一つ変えることなく、ベスは胸中でぼやく。
三年前、着任から間もなく極東のエースへと急成長した舞姫は、うだつが上がらない他の先達フィータスたちから何かと疎まれる傾向にあった。
いじめなどのように表立って嫌がらせを受けるほどではないが、今回みたいなちょっとした若手いびりは日常茶飯事で、はっきり言って、傍から見ていて気分のいいものではない。
当の舞姫本人が、心折れることなく、そうした悪意を甘んじて受け入れるものだから、そのいけ好かない態度がかえって先輩連中の気分を害しているというのも、なんとも皮肉な話だった。
(みんな、マキの善意に甘え過ぎなのよ。その気持ちの在り方が、自分たちの実力にそのまま表れてるっていうのに)
そうした裏事情を知ってか知らずか、機子は二人の判断を評価する。
「英断ね。戻ってきたのがもし別の子だったら、今頃その指揮官タイプを撃退できていたかどうか――」
「……ふぇ」
機子が深刻そうに顔を歪めたからだろうか、彼女が抱きかかえていた幼子が急にぐずり出し、にわかに場が騒然となる。
「これキコ。またそうやってすぐシルヴィを泣かす」
「……そもそもの話、司令室に子供を連れ込んでいることの方がおかしいと思うのだけれど」
仏頂面で抗議する機子の手から泣き喚く幼子を取り上げると、銀子は多種多様な変顔を披露しつつ、その子をあやし始める。
「おー、よしよし。……はぁ〜♡ ほんにシルヴィはめんこいの~」
(((親バカだ)))
その光景を傍から眺めていたシィたち三人娘は、心の中で異口同音の感想を抱く。
シルヴィと呼ばれたその銀髪ピッグテールの幼子は、昨年銀子から分化して生まれた第二世代のユリンだった。
シィたち第一世代が海から成体の状態で誕生するのに対し、第二世代は親である第一世代から幼体の状態で生まれる。その成長速度は人間と比して速く、この一年で人間換算二歳相当にまで育っていた。
また、第二世代は第一世代が合身したフィータスの形質を受け継ぐことから、実質フィータスとの間に出来た子供のような存在として捉えられている。
銀子は自分から分化したその娘に、かつての自分の名〝シルヴィア〟を与えてひどく溺愛していた。
そういった意味では機子もシルヴィアの親に当たるわけだが、とある理由から彼女はその幼子のことを持て余していたりする。
「……銀子、そろそろ」
「おっとそうじゃった。あんたの息子を待たせとるんじゃった」
思い出したようにそう言うと、銀子は舞姫の前までとことこと歩いて行き、泣き止んだばかりのシルヴィアを彼女にそっと差し出す。
「悪いが、うちらがあんたの愛しのダーリンと会うてる間、この子のお守りを頼む」
「それは構わないですけど……って言うか、改は別にそんなんじゃ……!」
頬を紅潮させ、ムキになって否定する舞姫を「愛いの愛いのー」と笑ってからかうと、銀子は機子を伴い、改の待つ応接室へと足を向けた。




