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キッシング・ユリン  作者: 女又心
scene 2 リリウム

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2-1 もう一つの再会

 長らくフィータスが見つからなかったというシィ。


 そんな彼女と期せずして合身(キッシング)を果たした改は、一度は門前払いされたリリウム極東支部に、今度は向こうから招き入れられる運びとなった。


(何だか虫のいい話だよな)


 (はな)からまともに取り合ってくれてさえいれば、もっとスムーズに事が運んだことだろうに。


(それとも、そうできない理由が何かあるのか……?)


 振り返ってみると、思い当たる(ふし)がないこともない。


 例えば、初めてシィに出会った時の事。



 ――し、シィ……?――

 ――あんた、平気なの……?――

 ――あはは、特に無問題。やっぱりあたし、どこか変な落ちこぼれなのかな……?――



(あの守衛二人は、俺と接触したシィの身をいやに案じていた。シィも、そのことで自分をどこか卑下してるようだったし……)


 それに、例のチンピラゴーレムと遭遇した際にシィが口にした次の一言。



 ――男の人のフィータスなんて、これまで一度も聞いたことないし……――



(となると俺は、前代未聞、史上初の男性フィータスってことになる)


 加えて、さっきのベスとシィのやりとりだ。



 ――……あんたのフィータスって、まさか、この、人間の男だっていうの……?――

 ――うん。あたしもびっくりー――

 ――あ、あんたね……これはびっくりなんかで済む問題じゃ……――



(そう。ここでもまた、〝男〟ってことが話題の焦点になっている。守衛の人も、リリウムは男子禁制だと言っていたし……)


 これらの情報から判断するに、人間の男性はユリンにとって、何らかのタブーのような存在なのかもしれない。


 そして、手の平を返すように改がこんな物々しい応接室に通されたのも、単に彼がシィと合身(キッシング)したことだけが理由じゃないように思えた。


(こちとらマキ姉との念願の再会を今すぐにでも喜びたいっていうのに……)


 結局彼女とは、ろくに話も出来ないまま再度別れることになった。彼女たちは彼女たちで、出先からの帰還後すぐにシィの元に駆け付けたため、色々と報告すべきことが残っているらしい。


 初戦を終えたばかりのシィもそれは同様で、彼女は部外者である改の代わりに今回の件をまとめ、上に報告しなければならないとのことだった。


(――ま、今はまず我が身、かな。鬼が出るか(じゃ)が出るか、はてさてどうなることやらってところだけど……)


 かくして、部屋に通されてから、どれくらいの時間が経っただろうか。


 北海道大雪山に至るまでの長旅の疲れに加え、生まれて初めて経験した実戦の緊張もあり、上質なソファの上で知らず改が船を漕いでいると、



 コンコン。



 不意に扉がノックされ、程なく二人の女性が室内に姿を現した。


 一人は、要職にあると思しき年齢不詳の女性。いかにもキャリアウーマンといった感じのクールビューティで、かっちりしたチャコールグレーのスーツとショートの黒髪がよく似合っている。女性にしては長身で、百七十五ある改と同じくらい()()があるように思えた。


(……?)


 何だろう。


 彼女とは、おそらく初対面だと思うのだが、どことなく漂う既視感のようなものに、改は違和感を覚える。


 そして、もう一人は、これまた風変わりなファッションをした女の子だった。


(チャイナドレス、ベリーダンス衣装ときて、今度は着物かい……)


 桃色の和服を着たその少女は、小柄な体格に銀髪ツインテというヘアスタイルも相まって、さながら妖精といった表現がぴったりの風貌をしていた。


 一目で想像は付いていたが、彼女も独特な碧眼を有していることから、ユリンであることは最早疑いようもない。


 そして、ユリンとフィータスがセット運用を前提としている以上、隣の女性が彼女のフィータスだと考えて、まず間違いないように思えた。


 なお、余談だが――二人共、胸がとても大きい。


(そう言えば、シィやベスもかなりでかかったよな……。マキ姉なんか、しばらく会わない内にほんと見違えたし……)


 合身(キッシング)にはバストアップ効果でもあるのだろうか?


(仮にもしそうだとしたら、男の俺は一体どうなってしまうんだ? 胸だけ大きくなるのか? それともまさか、女体化なんかしちゃったりして……)


 そんな馬鹿げたことを改が考えている合間に、二人の女性は彼の対面へと移動していた。


 改が慌てて立ち上がろうとすると、スーツの女性はそれをやんわりと手で制し、そして、次のように切り出した。


「――久しぶりね、改。かれこれ、十年ぶりになるのかしら?」


「はい?」


 目の前の女性が何を言っているのか分からず、素っ頓狂な声が改の口から漏れる。


 寝耳に水といった反応を返す彼に、女性は含み笑いを浮かべると、どこか寂しげな声音で、次のように続けた。


「……覚えてないのも無理ないか。あなたの養育は、柿崎さん()に任せきりだったものね」


 そう言って、彼女はキリっと表情を引き締める。


「リリウム極東支部長官、天方院機子(きこ)。それが、十年ぶりに再会した、あなたの実の母の肩書きよ」

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