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ファンタジー

小惑星K-132

作者: 未来

このエピソードを読むにあたり、長い文章に疲れたら途中で居眠りをしたり休息をして構いません。続きが気になったら、また読み進めてください。最後まで読み進めたあとに、あなただけの惑星を思い描いてみてくださったならば、筆者は非常に幸せです。


惑星名K-132


 地球から比較的近い小惑星の中の一番小さな惑星については、20xx年のある日、地球の日本にある熊ヶ岳に天文台を置く天文学者のK氏が観測中、惑星らしき電波をキャッチし、その惑星の発見記録と、惑星名をKー132と名づけました。

 これは世界共通の天文学会に正式に記録され、世界中の学会所属の天文学者たちは情報を共有しました。


 この小惑星K-132について、K氏は発見出来たことにワクワクしながら異星人の交信などを待つことにしてK-132専用の観測機器を設置し、夜中毎日、24時間リアルタイムデータの解析に当たり始めました。K氏は元々、世界有数の彗星発見を積み重ねており、惑星の発見は存在しえる可能性はわかりつつも、彗星の観測と地球の地震予測に実は夢中になっていたので、惑星の発見、さらに観測をするとは夢にも思っていませんでした。


ユーモア星の様子


 小惑星K-132と名づけられた小さな惑星は、本当の名はユーモア星という名でした。ユーモア星の星人は、比較的人類に近い知能を持ちながらも、文化や生活の仕方などは地球とは全く異なりました。


 ユーモア星の一日はこんな感じです。起床は地球では夜六時、ユーモア星全域に通信網で流れる「聴くと笑顔になってしまう音楽」が流れるようになっていました。ユーモア星の星人はこの音楽を聴いて目覚め、それぞれ笑顔で歌い出します。

 音楽が終わると、ユーモア星の星人たちは夜の八時まで、自分たちのお気に入りの夜空観察場で夜空を眺めて星々を見て星座を眺めたり流星を探したりする事をみなが満喫していました。

 この起床時の過ごし方は、地球と比べると昼夜逆転で驚きますが、ユーモア星の星人たちは皆が夜に起きて朝日が上ると眠りにつくようでした。


 ユーモア星という名については、一体誰が何故に名づけられたのでしょうか。実はこの星の星人は独自の概念を持って暮らしていました。それは、「ユーモアこそ幸福の源」という基本概念でした。

 彼らはこの星の大臣が掲げる概念の下、寿命は平均50年間と短い一生を生きており、その暮らしは常にユーモラスな事を口にしては会話を楽しみ、共に笑い合ったり、爆笑大会に参加をしたり、お笑い劇場にでかけたり、大きなショッピングモールに行くのも「お笑いバス」が都市を走り、そのバスでは乗るたびに面白いコントやパフォーマンスが繰り広げられ、バスに乗る時間中、星人たちは笑いたいだけ笑っていました。


 また、彼らの生活を支える必要な品々は、とても大きなショッピングモール一ヶ所だけでした。

 このショッピングモールに通うのに時間がかかる星人たちは、遠距離から何時間もかけて「お笑いバス」に乗り、その時間も笑って過ごすので、何時間かかってもストレスを感じる星人は一人もいませんでした。その乗車時間が長ければ長い程、笑い転げてしまうのですから。


 ユーモアな概念を基本理念として生きるこの星に名を継承しているY大臣は、代々受け継がれた「ユーモア星歴史全記録簿」を保有し、この記録簿には歴代の大臣の名前、着任期間、活動記録、実績、意見箱の内容、星人リストなどが記載されています。

 そしてこの星では、全星人に「ユーモア学習書」が配布されていました。この学習書は地球のような事典や教科書でもなく、膨大なページ数がある分厚い学習書ですが、大人になるまでに必要な全ての教育内容を網羅していました。


 持ち歩く?いえいえ、ユーモア星では学校がないのですから、地球のように教科書を持ち歩く必要はありませんでした。

 代わりに、ユーモア星の星人は地球人よりも独立精神に長けており、地球でいう七歳には成人として働き始めています。七歳までに小さな近隣のコミュニティの中で、「ユーモア学習書」のステップを進め、およそ七年で最後のページまで読めるのでした。


 この教育スタイルはそもそも学校がありませんから、コミュニティの中のリーダーがレッスンをして、集まる星人達は自由にレッスンに参加し、そのレッスン内容は、常に「ユーモア学」を学ぶものですから、生徒たちは笑いっぱなしで学習を進めていました。

 笑いながら学びを進めていくと、不思議なことに学習が楽しくて仕方ないという状態が当たり前になりますから、この星の星人たちが独自に追求する「ユーモア学」は笑うということに沢山の解釈や条件や笑わせ方、楽しみ方などが豊富に学習書に書かれていました。


ユーモア星の文化


 星人たちは皆、ユーモアの獲得が上手でした。何せ、一歳や二歳でも地球人とは違い、泣くより笑うことばかりで、赤ちゃん星人は皆、ミルクが欲しいと笑うのです。お母さん星人も、赤ちゃん星人を笑わせるのが大切な役割なので、ユーモア学習書の育児のページにある笑わせ方を見ながら毎日、笑わせては、自分も幸せな気持ちになるのでした。

 ですから、この星には地球のような「育児ストレス」がないのです。働く場も、ストレスが見当たりません。お笑いバスの管理や、ユーモアショッピングモールの職場など、また小さな通信網の運営など、どの仕事の場所でも、彼らはみな、互いに自分のユーモアの提供やお笑いバトルや即席コントを楽しんだりしながら働くので、みんな職場に行く事はワクワクする事なのでした。     


 この星では地球での「働く」という概念はなく、代わりに「他楽」という概念で職場に通っています。それについて学習書では、「はたらくことは、他者を楽にすること」と定義づけられています。つまり、職場で作業する事は、奉仕する事で、誰かを楽にする事だと思っているため、誰かが楽になるためなら全く難しい作業や事務的な作業や、肉体労働も嫌ではありませんでした。だって、はたらけば、それだけ誰かを楽にしてあげて、そして笑い合えるのですから、笑うことが大好きな星人たちは笑えるためには頑張っていられるのです。


 また、それぞれの職場にも、必ずユーモア室があり、ユーモア意見箱がありました。その場所は笑いを生み出すために用意され、そこではたらく星人はみな、好きなだけコントやパフォーマンス、ユニークなダンスや漫談などをしているのです。勿論、ユニーク室にずっといたりはしていません。

 はたらく作業の息抜きにユニーク室を利用して笑いまくるのが日常でしたから、どの職場を見ても笑いが必ずあるのです。

 ユニーク室には室長がいて、大体室長はあらゆるユーモラスな経験を重ねてきたお笑いのプロフェッショナルな星人で、ユニークな場をうまく仕切っていました。


ユーモア星の石版


 この星の地球で言うような大枠の法律のような物は、大臣官邸に大きな石版に奇妙な記号の羅列で、ぎっしりと刻まれています。

 その内容の中の基本理念のようなものは、まず冒頭を日本に翻訳してみると、「ユーモアこそ幸福の源であり礎、あらゆる紛争や悲しみを解決する鍵」のように書かれています。

 長々と刻まれたこの石版は、黒くて分厚く巨大で、読むには何日もかかりそうな記号の羅列ですが、毎日、これを読みにあちこちから星人は訪れていました。一日で全てを読めないので、続きを読みたくて通うのです。

 そして、読めば読むほどに、星人は幸せが続くように感じられ、みんな夢中になって続きを学びに訪れるのです。この奇妙な記号を読む時だけは星人は、コントやパフォーマンスをやめてひたすら読んでノートに記す者、声に出して暗唱する者、必要な箇所だけを手のひらに書く者など、色んなやり方で石版に刻まれた文字から理解を深めて帰るのでした。


 この星の歴史には、地球のような、大きな争いや、紛争はありません。テロやデモも起きていません。彼らは問題が発生するたびに、協力して問題をユニークな事柄にして解決することが上手でした。だって、いつでも笑えるネタばかり探している星人ばかりなのですから。

 小さないざこざも笑い合って解消してしまいますし、大きなトラブルに直面しても笑顔でそのトラブル解決に向けてユニークな会議を開いたり、とにかくみな、楽しみながらトラブルに立ち向かうのです。この生き方にはどうやら、以下のような特色が見られました。


・資源は皆で笑い合えるように譲り合うもの。

・他者との関わりは互いが笑えるように気を配ること。

・はたらくことは「他楽」であること。

(逆説的には、他者を楽にしなければ己の幸福は成り立たない、とも解釈できます。)

・悲しみは笑いまでの一過程にすぎないこと。

・怒りは早く沈めて笑えるようにつとめること。

・争いは互いが笑えるようにすぐユーモアで解決すること。


 まだまだ沢山の文言が石版には刻まれていますが、どうやらこの石版の文言は、この星の人々皆が守る倫理観や掟のような在り方として存在しており、日本国でいえば日本国憲法に近いかもしれません。

 石板に刻まれた記号は、脈々と追加され、まだ石版にはスペースがあるので続きを彫師が刻みに来ることもあるのでしょう。刻んだ年月日らしき記載を見るとかなり古代、地球で言えばおそらく紀元前10x年あたりから刻まれているようです。石版に記された文字に、次の大臣が続きを記載しているようで、長い時系列が並んでいます。


K氏の日常


 さて、地球では、熊ヶ岳天文台のK氏が小惑星からの信号をひたすら記録し、解析していました。そして長い長い月日が経過してKは独自の解析手法で、ユーモア星の発するあらゆる会話、音楽の一部をだんだん解読できるようになってきました。

 ユニーク星から発せられる音をK氏は一旦、ノイズを除去し、次に波形から特定のパターンがある事を探し出し、そのパターンこそがユーモア星特有の言語であることをK氏は解析し、理解しはじめました。K氏は不思議な記号の解釈を日本語に置き換えていきました。これもまた非常に難解で、徹夜をする夜を重ね、また長い年月が経過しました。


 K氏は、解読を進めるうちに、ユーモア星の石版の文字列を見つけ出しました。そうです、訪れる星人の多くが暗唱をしていたので、その声をアンテナがキャッチし、繰り返し現れる特定の周波数の波形が、「ユーモアこそ幸福の源であり礎、あらゆる紛争や悲しみを解決する鍵」と解析できたのでした。K氏はこの解析結果を読み、この惑星を想像し、それは地球外生命体が存在し、文化的な暮らしをしている有様を描きました。確かにユーモアが紛争や悲しみを解決する鍵にしてしまうと、安心して暮らして行けそうだ、とK氏はしみじみ思いに耽るのでした。

 K氏はこの解析結果をマスコミや雑誌、専門誌、市議や県議に、伝えることにしました。地球は紛争や大きな悲しみが沢山あったので、K氏はこのユーモアの理念が小惑星に存在していることを公開する事で、見習う人が増えるのではないか?その未来には紛争なき社会、悲しみが減る社会があり得るのではないか?と強く願ったのでした。


迷いと葛藤


 K氏は公開するにあたり、とても迷いました。何故なら、大きな地震の前兆予測をし、未然に被災を防いでもらい、少しでも死者を減らそうと願って解析結果を公開するのですが、予測はまだ正確な月日を伝えるデータではなく、およそ何ヶ月以内、およその地域、可能性は80%、という内容で、勿論マグニチュード、想定される地震規模も明記するのですが、雑誌に派手に載る度に予測結果がずれこみ、地震がまだ起きなかった時、あるいは微かな地震で済んだ時は、人々は天文学者を好き勝手に決めつけるのでした。例えば「偽の怪しい詐欺師」とも言うのです。

 熊ヶ岳の公開実験には有料会員も参加しており、人々は天文学者を「およそ適当な事を沢山言えばそのどこかは地震が起きるのだから信用できない。有料の会員費が欲しいだけではないか」と疑うのでした。


 一人が決めつけて噂を流布すると、勝手に噂が一人歩きをして、熊ヶ岳の地震観測は詐欺、という変な形で世間に伝わってしまうのでした。けれども、K氏はそもそも純粋に天文に魅力を感じているだけの人間です。天文台を作ったのも、美しい星々を沢山の人に見てもらいたいと願ったからでした。K氏は自分が他人にどう誤解されようとも、それで悲しくなり体調を崩して寝込んでしまう事があろうとも、屈する事なく自分が後悔しないように、地球の、愛する日本の人々の命が救われるためならば、情報を惜しみなく公開しようと決心したのでした。

 K氏は元々は彗星観測をしていたことは書きましたが、なぜ地震前兆の予測実験を始めたのか、それはK氏の有料会員向け冊子の一頁目に経緯が記されていました。そうです、K氏は彗星観測中、地震前兆であろう電磁波波形を捉えたのです。その波形は明らかに大規模な地震の波形であり、これを該当エリアの自治体、消防署、議員、雑誌、各マスコミなどに知らせる事で被災者を減らせるのではないか、と考えたのはK氏にとって自然な事でした。


 けれども、前兆予測を公開し、もし該当日前後に大規模地震が起きなかった場合、人々は自分を罵り、詐欺師や怪しい人扱いするのではないか、と非常に臆病な気持ちになってしまい、結局その大規模地震を予測しながらも公開できずに、本当に大規模地震は発生し、被災者が多数、死者多数となりました。このとき、K氏は自分をとても恥ずかしく思いました。


 自分が、少し勇気を出して情報を公開していれば、こんなに沢山の人が被災しないで済んだのではないか?と自分を責めたのです。そして、この前兆予測が的中した時を機に、ただの天文台ではなく、大規模地震前兆観測研究室を立ち上げたのでした。これはかなり大掛かりな作業が必要で、日本全域をカバーしようとすると、観測機器をそのエリアの要所を探して正確にモニタリング出来るように機器を調整して設置する、それをひたすら日本中、車に機器を詰んで走り回るのです。そんな時は徹夜で車の運転をしてもK氏は平気で頑張れるのでした。


 これらの作業をほぼ一人で全国走り回り、機器の調達、機器のメンテナンス、モニタリングテストを繰り返して回り研究室に帰って仮眠、という流れK氏の日常になり、K氏は二度と公開を躊躇わずに人々を救おうという志だけで奮闘できるのでした。代わりに、K氏が今迄やって来た彗星観測や天文台長として人々に星の説明をしたりする事に時間を割く事は出来なくなり、K氏は天文台を一時閉鎖する事になりました。


 大好きな星々を人々に見せたいという願いは少し棚上げする事にし、K氏は少し孤独感を感じましたが、それでも次に地震の前兆を観測したら次こそ救える命があるならば、と思う事で孤独に身を置きながらも頑張ることが出来たのでした。


 K氏の解析


 ある日、ほぼ解析した文言の「ユーモアこそ幸福の源であり礎、あらゆる紛争や悲しみを解決する鍵」 の文章について、K氏はまず、過去に記事を掲載していた事のある月刊誌編集部に送る事にして解析に至った経緯、解析内容(つまり小惑星には文明をもつ生命体が存在すること)とその考察を文章にして、まとめました。勿論、観測した波形データも、ここに追加しました。

 そして原稿を作り終えると、パソコンをスリープモードにし、ゆっくりと珈琲を淹れ、ポケットから取り出した煙草をくゆらせ、想像するのでした。一体、どんな生命体が言語を持ち、文化を作り、ユーモアを尊重して暮らしているのだろう?その惑星は、本当に平和な星なのだろうか?その惑星は地球のように青く美しいのだろうか?(これについては、実際にK氏は小惑星を観測しており、地球よりやや、青緑のような薄い色をしている、と語っていますから、地球に似たような雰囲気を想像してしまうのも、わかります)そして、その星の生命体の存在がわかった以上、小惑星に地球の人類が間違っても勝手に探査機を向かわせたり、探査機で勝手に資源を採取したりしないでおくべきだ、ともK氏はしみじみ思うのでした。


K氏の想像


 想像してみてください、地球にどこかの惑星から無人探査機が下りて来て貴重な資源を持ち去ってしまったら?それは大変な騒ぎになるでしょう。まだ、銀河共通の法律もないのですから、資源を奪われた人は盗まれたと訴えたくても、どこに訴えたら良いのでしょう?警察?無人探査機が空から来て持ち去って行きました?信じてくれそうにないですし、仮に真面目な警察官が対応したならば、鑑識を呼び、被害者の訴えを記録するでしょう。

 しかし、捜査範囲内が宇宙となると、どんな優秀な捜査官でも宇宙まで捜査に出向く事は現実的には不可能なのです。最新式のパトカーを100台用意しても、宇宙に飛べませんし、捜査官が宇宙服を着て空まで飛ぶことも勿論出来ません。 


 仕方がないので、対応した警察官はパトロール強化に努めることとを被害者に告げ、定期的巡回コースに追加するとします。そして巡回に当たる警察官は日によって違います。ですから、一ヶ所だけ追加された場所の目的が「宇宙から探査機が到着して資源を奪わないか確認」になっている事には、誰もが驚き、それは被害者の妄想か幻覚ではないのか?とも疑念を言う警察官もいるでしょう。被害者は、漠然と恐怖や不安な思いを抱きながら暮らすことでしょう。


 K氏はこのような事柄を想像すると、とにかくK-132小惑星に地球が探査機を向かわせないと良いのだが、と少し危惧を覚えたりもするのでした。僕が見つけた小惑星なので探査機を向かわせないで下さい?そう訴えても、他生命体が文化を獲得して存在している惑星があると知ったならば、地球の人類はこんなふうに考えるかもしれません。


 これは良い機会だから友好条約を締結しに行き、地球に足りない資源を貰えないか?生命体の遺伝子解析をさせてくれないか?惑星に余った土地があれば借りられないか?ロケット発射台や宇宙ステーション中継基地に利用させてくれないか?など、どれも小惑星K-132、ユーモア星にとっては、迷惑そうな内容ばかりです。


 ユーモア星の星人達は、皆がその星以上のありかを利用しようとは考えていませんでした。生命体が現れた歴史は非常に古いですが、寿命50年をユーモア星で笑いながら暮らしていくことに誰もが満足していたのです。ユーモア星人も、地球人と同じように宇宙の星を観察しています。

 そうです、夜に起床して一番先にまず夜空の鑑賞をして楽しむのです。しかし、それ以上宇宙船を打ち上げようとか、月に探知機を向けよう、とは考える事も、実行する事もありませんでした。


 星人達は与えられたその星に生き、一生を終える事に満足していましたし、もしかしたら解析をまだしていない巨大な石版の記号の羅列の中に、何か定められた守りごとが記されているのかもしれません。


 石版に刻まれた文章について、私達が読むには、あまりに膨大な長い長い記号の羅列で、全てを解読する事は容易な事ではないとも思います。もしかしたら解読するためには、何世代もかけて継承されるのかもしれません。


 K氏は夜にしろ、朝にしろ、珈琲を飲む休息の一時にはそんな風に色々と考えてしまうのでした。

そして、雑誌の編集部になかなか原稿を入稿出来ずにいました。ですから、地球の人々が銀河系に文明社会を持つ生命体が近い惑星に存在することを知らずににいても、それは当たり前です。


K氏との約束


 私はK氏から断片的に聞いたあらゆる情報を秘密にしてほしいと確約を交わしていました。うっかり外部に情報が漏れたなら、社会は大パニックになる事は容易に想像できました。

 私はK氏が解析を少しずつ進めていく様子を、電話で、ファクシミリで、共有していました。そして私はユーモア星について大体よく分かってはいましたが、K氏の解析を楽しみにしていました。ユーモア星の巨大な石版の内容の全把握までは私も到底出来ませんでしたから。


 K氏が解析結果とともに、ユーモア星を想像してはワクワクしている事に私は非常に嬉しく思い、K氏の想像するユーモア星の雰囲気や町の様子などに耳を傾けながら、私はユーモア星についてK氏に詳しく伝えることはしませんでした。K氏なりの惑星への好奇心があり、K氏は地球と同じくらいに小惑星K-132を守りたいと思っていることは、よく理解できたので、私が詳しく全て話してしまうと、しらけてしまうと思ったのです。


 実のところ私はK氏より少し前からユーモア星に気づき、様子を把握しに行っていたのです。しかし、私は天文学者ではないので、観測をしたりもしませんし、見つけた惑星や星に名前をつける事もありません。


私からの説明


 私がどうしてユーモア星について知っているのか、不思議に感じると思います。ですが、うまく説明も出来そうにありませんし、説明しても信じてくれそうにありません。

 しかし、可能な限り分かりやすく説明するとしたら、私はちょっと人類の中でも多くの人とは違う能力を備えていることを説明しなければなりません。例えば私は観測機器を使わなくても睡眠中に夜空の星へとアクセスが出来ました。


 その行き先が近いのがユーモア星だったので、眠るたびにユーモア星に行き、様子を眺めていたのです。ユーモア星に行く時には私は姿を透明にしますから、誰も私の存在に気づきはしませんでした。また、K氏と同じように私も小さなユーモア星という惑星を社会に伝えてしまうより、秘密にしていたかったのです。


 今、こうして手記を綴ったのはなぜなのか不思議に思うかもしれません。その理由としては、地球の人類があまりにも早い勢いで、火星や月へアクセスしようとテクノロジーを進化させているからに他なりません。

 もし、小惑星K-132に探査機が行ってしまったら?ユーモア星に住む、わずか50年の寿命しか持たない星人を実験台にしてしまったら?もし、ミサイル発射台として利用したいと交渉し始めたら?そのミサイルが戦争に使われると知ったら?何より平和を愛し、争いや悲しみがない事を大切に暮らしているユーモア星の星人達はとても傷つくに違いありません。


 つまり私は、あらゆる星がそれぞれのありようで存在していることを理解した上で、それ以上にその星を自分達が利用しようとしたり、勝手に踏み込んで実験を始めたりする事は、あらゆる星の自然な在り方を変えてしまう事にもなり、それは例えば美しい自然の惑星を、ゴミだらけの星にまで変えてしまう事もありうると思ったのです。


 実際、地球から飛ばした人工衛星は宇宙ゴミとなり、無数に漂い、回収はしていません。銀河を眺めてみると、地球はとても多くゴミを撒き散らかし、他の惑星などに探査機を着陸させ、宇宙の資源を探したりと地球上だけで暮らす事だけで満足していないようなのです。私は確かに地球に暮らしていましたが、私そのものはあらゆる星に暮らす自由を持っています。

 それが何故かはまた長い長い歴史の話になるので説明しませんが、地球に住みながら他の星々も地球と同じように大切に思っていることは確かです。


最後に


 この告白も、そろそろ終わりに近づいて来ました。K氏の詳しい情報については、私は書きません。なぜなら好奇心でいたずら電話をかけたりする人があまりに多いからです。K氏がちょっとでも実験情報を雑誌やテレビに出す度に、このような解析作業の妨害にあい、実験自体が出来なくなったり、ストレスで体調を崩して寝込んでいたことを私はよく知っています。ですからあくまでもこの手記の全ては架空だと思って読み流してほしいのです。

 そして、ユーモア星について私が知る限りを書いたこと、K氏のユーモア星を見守る姿勢、全て伝えきれた気がしますが、数々の疑問や不思議に思う事柄があれば、私の説明不足なのだとは思います。

 しかし、この手記により、私が伝えたい何かを少しだけ分かってくれる人が地球に一人でも増えたなら、筆者としてこんな幸せな事はありません。この告白の、書ききれていないユーモア星のあらゆる暮らしや文化や星人たちの日常については、読者の方が好きなように自由に想像して、ユーモア星を愛すべき星にして下さい。


追記

 K氏が雑誌に原稿を公開するのかについて、現時点ではまだ公開はしていません。

今後については私はわかりませんが、きっと公開はしないような気がしていますが、これも私の主観的な予想に過ぎません。

願うとしたならば、原稿をずっとK氏が資料箱にしまいこみ、解析を継続する事を、私は望んでいます。

 私が最後に書き伝える事柄があるとしたならば、先程書いたように、ユーモア星の石版に刻まれた幾つかの言葉だけです。


・資源は皆で笑い合えるように譲り合うもの。

・他者との関わりは互いが笑えるように気を配ること。

・はたらくことは「他楽」であること。

(逆説的には、他者を楽にしなければ己の幸福は成り立たない、とも解釈できます。)

・悲しみは笑いまでの一過程にすぎないこと。

・怒りは早く沈めて笑えるようにつとめること。

・争いは互いが笑えるようにすぐユーモアで解決すること。


最後までお読みいただき、ありがとうございました。エピソード中に散りばめた小さなキーワードを読み解く事で、少し美しい宇宙のありかたに思いを馳せてくださったら嬉しく思います。さらにあなただけのK-132、ユーモア星に夢の中で遊びに行くことを想像してくださるならば、筆者は大変光栄に思います。


2025.9.17

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