4話 狂信者
これまでのあらすじ。
部室に入ると知らない女生徒がいた。以上。
要領を得ないあらすじだ。あまりにも筋が粗すぎる。だが実際そうなのだからそう言う他ないだろう。
「時雨様?どうかされましたか?」
見知らぬ女生徒は顔を覗き込むようにしてこちらを気にかけている。
「え〜っと、ごめん。ここは部外者立ち入り禁止なんだ。」
「無論承知しております。ここはガチオカルト部の部室なのですから部員以外は当然立入禁止でしょう。」
ではなぜ君はここにいるんだい?
入ってはいけないことを分かっていながら侵入したのだとしたら見上げた度胸だ。
それに関しては俺も見習わなければならないだろう。男は度胸って言うしね。
「もしかして、皆木先生から何も伺っておられないのですか?」
皆木先生、フルネームは皆木玄正先生で我等がガチオカルト部の顧問である。
白衣を着た中肉中背の顔色の悪い男性教員で不躾に伸びた髪に無精ひげ。頬も少し痩けており、そのせいで体調不良をよく疑われている人だ。
幽霊よりよほど幽霊っぽい外見をしている。
オカルト好きで言動と行動がたまに常軌を逸することもあるが、一年の頃からお世話になっている良き先生である。
とまぁ皆木先生の紹介はこのくらいでいいだろう。
問題は俺は皆木先生から何も聞かされていないということだ。
ふむ、察するにこの子は新入部員で本来であれば現部長である俺に皆木先生が連絡するはずだったが何らかの理由でそれができなかったのだろう。
まぁ十中八九忘れていただけだろうが……。
顧問がそんな体たらくではこの新入部員は皆木先生に不信感を抱いてしまうはずだ。
それはよくない。
顧問である以上、部員に対してある程度の威厳はあった方が良い。
仕方ない。ここは一つ、皆木先生の名誉のために俺が一肌脱ごうではないか。
「あーいや、聞いてる聞いてる。君新入部員だろ?ようこそガチオカルト部へ、歓迎するよ。」
「───はぁ、安心致しました。皆木先生はお忘れではなかったのですね。もしそうでしたら少しお話をしなければならないところでした。手厚い歓迎をありがとうございます、時雨様。」
なんとか皆木先生のメンツは保てたようだ。
これには俺もにっこり。
お話がどういった内容のものかは気になるところだが、…まあ触れないでおこう。
世の中には別に知らなくていい事なんて山ほどあるのだ。例えば姉が夜寝る時何やら俺に似たぬいぐるみを抱きしめて寝ていることとか(たまに実物も抱く)がそれにあたる。
俺はそれを見た時、「うわっ」と声が漏れたものだ。
改めて目の前の女生徒を見る。
制服のリボンの色は緑。
ということはこの子は一年生だ。
黒っぽい髪は窓から差し込む陽光を反射し、美しい藍色に輝く。中学生と見紛うほどに幼気な容姿とは裏腹に胸部は立派な成長を遂げていた。
「時雨様、そのように情熱な視線を向けられると私照れてしまいます。」
「おっと、ごめん。」
少々見すぎてしまったようだ。
というのもこの少女、どこかで見たことあるような気がするんだよなぁ。どこだろ。
とういうか、あれ?
俺名前教えたっけな?
「調べさせていただきました。」
自覚はなかったが口から漏れていたようだ。
少女はにこやかに教えてくれた。
「あ、そうなんだ。で、君は〜。」
「私としたことが、自己紹介が遅くなり申し訳ございません。高等部一年生の近世野真理と申します。以後お見知りおきを。」
気品を感じる所作で彼女はそう告げた。
気になったのは"近世野"という苗字だ。それには聞き覚えがあった。
日本有数の大企業である"KONOYONOグループ"と同じだ。もしかするともしかするのだろうか?
"KONOYONOグループ"は様々な業界に進出し、どの分野でもおおよそ成功と呼べるだけの売上を上げているのだが世間からのイメージが最も強いのはやはり魔導具に関してだろう。
俺達は基本的に誰でも魔力を内に秘めているがそれを魔法として世に現出させられるかは才能によるところが大きい。
いくら内包する魔力が膨大であろうと魔法の才を持たないのであれば、それを魔法という現象にして世に現す事が出来ないのだ。
ちなみに多大な才能を秘めているとその魔力の性質だか特徴だかが外見に現れたりもする。姉や虎雪などがそれにあたる。
しかし才なき者にも救いはある。それが魔導具だ。その仕組みは魔力を動力として、あらかじめ魔法陣が刻まれた触媒を経由して現象に変換するというものだった。
燃費は魔法に比べるとかなり悪いがそれも度重なる改良と技術革新によって軽減されつつある。
この魔道具の登場によって時代は大きく進歩した、というのは歴史の授業で誰もが習うところだ。俺も知っている。
ふと彼女の腕時計が目に入る。
一見平凡な作りに見える腕時計。が、俺の目はごまかせない。
間違いなく一級品の魔道具だ。
日頃、姉のショッピングに引きずり回されているせいでそこら辺の目利きはきくのだ。
これはもしかするやつだ!
相手が金持ちと分かれば俺の行動は単純だ。
ごまをする。
これ以外にない。(ここまで僅か〇.二秒。)
「へぇ、真理ちゃんか。素敵な名前だね。可愛い君にピッタリだ。」
わざとらしい程にキザったらしい笑みを浮かべ、歯が浮くどころか飛び立つようなセリフを吐く。
「まぁ、時雨様ったらお戯れを。」
少し頬を赤らめ、照れたようにはにかむ金持ち。
「いやほんとだって、真理ちゃんみたいな美少女は他に見たことないよ。」
「……ふ、ふふ、本当にお上手、ですこと…。」
金持ちは緩んだ口元を手で覆い、顔を隠すように俯く。それを見てここが押しどころだと睨んだ俺は更に言葉を紡いだ。
「今まで君のような子猫ちゃんを知らずにのうのうと学園生活を送っていただなんて、俺はなんて勿体ないことをしていたんだ!本当に、今日君と出会えてよかった!」
決まった!昔暴君無理やり覚えさせられ、言わされてた言葉の数々がまさかこんな形で役立つとは。
反応はどうかと金持ちの様子を伺うと、金持ちは俯いたままプルプルと震えていた。
しまった、やりに行き過ぎてかえって怒らせたかと内心焦っていると、
「は、あ、へへへ、し、時雨様が……私のことを、か、かかか、可愛いと、美少女と、子猫ちゃんと…………!!!」
……おっと?
何やら不穏な空気を感じ取る。子猫ちゃんはそんな反芻するほど嬉しいようなワードではないと思うが。
「こ、これはもう、"合意"ということでよろしいですよね……?ええ、きっとそうです……!!」
これはまずい、かな?
「時雨様!!」
うわびっくりした。
金持ちは急に身を乗り出し、鼻と鼻の先まで急接近してきた。
「………何かな?」
「やはり貴方は私の心を救い、幸福を与えてくださる唯一神だったのですね!」
「多分違うんじゃないかなー?」
「違いません!時雨様は私の言うことを否定したりなんかしません。」
うん、、これまずいやつだ。
だが時すでにお寿司。もとい遅し。
「貴方はあの時から私の神なのです!これは至極当然の理であり、この世の真理です!」
淀んで濁った目はもはや俺を映していないように見える。
なぜか分からんがこの子の中の俺はとんでもなく神格化されているようだ。さっきまでとの豹変ぶりが怖い。
「さぁ時雨様、貴方様の寵愛を、慈悲を、どうかこの私にお恵みください。」
暴走は止まることなく、機敏な動きで俺に覆いかぶさりプチプチと制服のボタンを外していく近世野真理。
色のある艷っぽい表情の口端からは涎が…………、涎が垂れちゃってるよ。
およそお嬢様の振る舞いではない。
今もなお、その端正な顔が俺の顔にゆっくりと近づいてきている。
そして互いの唇が交わりかけたその時だった。
ガッシャアン!!と轟音を立て、部室の扉が吹き飛ばされる。
破壊された扉の先にいたのは不本意ながら見知った人物だった。
「こんな所で何をしている時雨、反省室はここではないが?」
紅王蓮華。
由緒ある國大和学園の風紀委員長を務める才女であった。
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