3話 愉快な仲間たち
「よお時雨、ギリギリだな。」
「ほんとは余裕あったはずなんだけどなぁ。」
教室に入ってすぐ俺を出迎えてくれたのは御守鳳陽。入学式の日に迷子になっていた俺を助けてくれた優男である。
金色の短髪を逆立て、頬には主張の強い傷跡が残る長身の男だ。
その他を寄せ付けない風貌から周りからは少し距離を置かれてしまっているが話してみると案外いい奴である。
六人兄弟の長男なので面倒見も良かったりする。
俺の学園生活において欠かせない存在筆頭だ。
「聞いたぜ?姉貴と風紀委員長がドンパチ始めそうになったんだってな?」
「らしいよ、迷惑だしやめてほしいよね。」
「他人事みたいに言いやがって、どうせ原因はおまえなんだろ?」
「お前は心を読めるのか?」
紅王蓮華は瞬間移動が使えてこいつは読心術とは、皆厄介な技術を身に着けていっているようだ。
「はっ、心なんざ読まなくてもお前のことなら大体察しがつくんだよ。」
「む、私だって時雨のことなら分かる……!」
そんなことで張り合わなくてもいいんだよ虎雪。
どいつもこいつも俺の心を読もうとするのはやめてほしい。
心の中くらいはプライベートでいたいのに。
それすらも許されないのだろうか。
「おーっす、皆お揃いで。」
しくしくと嘆いていると後ろから声がかけられた。
振り向くとそこには一人の女生徒がいた。
茶髪の髪をポニーテールでまとめており、切れ長な目と小さな瞳孔。
はらりと垂れた前髪をかき上げる仕草は洗練された魅力を引き立てていた。
「奈緒ちゃん、おはよ。」
「おはよー虎雪ー。今日も可愛いね〜。」
奈緒は気さくに挨拶を返すと虎雪のもちもちほっぺともこもこケモミミをむにむにと撫でくりまわす。
「むが〜、やめてよ〜。」
「ふはは、よいではないかー。」
虎雪にも良い友達が出来たようで何よりだ。
「お前も遅かったな、桜姫……っぶね。」
言い終わる前に奈緒の手刀が鳳陽の首を刈り取ろうと迫ったが寸前で鳳陽はこれを避けた。
暗殺者のような無駄のない動きだった。並みの相手であれば先の一撃で沈んでいたことだろう。
これは避けた鳳陽を褒めるべきだ。
「名前であたしを呼ぶなつってんだろ!」
彼女の名は奈緒桜姫。
奈緒が性、桜姫が名だ。
クールな見た目に似つかわしくないとても可愛らしい名前だ。実際本人もそれを気にしているようで名前で呼ばれることに強い抵抗があるらしい。
しかしそれを聞いた鳳陽はより一層彼女を名前で呼ぶようになった。
怖い物知らずとはコイツのことを言うんだろう。
勿論、奈緒がそれを許すはずもなく、二人のじゃれ合いはもはや日常茶飯事でクラスメイト達も今となっては特に反応を示さなくなった。
多分このじゃれ合いがなかったら鳳陽はともかく奈緒にはもっと友達が出来ていたことだろう。
「哀れな……。」
「あーん?誰が哀れだってぇ?私の名前がそんなに哀れかぁ?」
うわ、絡まれてしまった。
うっかり口から本音が漏れてしまったようだ。
鳳陽とのじゃれ合いの手を止め、学校随一の目つきの悪さを誇る奈緒の視線が俺を捉える。
小さい頃の俺だったら失禁は免れなかっただろう。
恐ろしや。
「こっちだって好きでこの名前をつけて貰ったわけじゃないっつの。」
子供がどのように成長するかを見越して名前をつけるなんてことはできない。
成長にあった名前をつけるのではなく、名前のように成長して欲しいと願ってつけるものだ。
子供が自分の名前を気に入ってくれるかも考えなければいけないのだから命名というのはとても責任が伴う行いなのだと思う。
俺は責任という言葉が大嫌いなのでできれば無縁でいたい。
「嫌なら改名すりゃいいじゃねーか。」
「ママとパパがつけてくれた名前なんだから変えるわけないでしょ。」
なんて良い子……!
全子供は今すぐ奈緒を見習ってほしい。
「は〜いみなさ〜ん。席についてね〜。」
奈緒に感銘を受けているとゆるふわ先生が教室に入ってきた。
そしてホームルームが始まり、今日もまた学園生活が始まったことを実感する。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
いやはや今日も勉強が捗った。次の教材(新刊)が待ち遠しい。
時は放課後。
俺は今部室へと向かっていた。
え?紅王蓮華の呼び出しはどうしたのかって?
知ったことかよ。
あれはあの人が一方的に告げたのであって俺は了承した覚えはない。姉も右に同じだ。
ちなみに鳳陽は兄弟を迎えに行くからと先に帰り、虎雪も奈緒と出かけるとかで今は俺一人だ。
今日は待ちに待った部活動の日である。
そう、あの部活動だ。
青春ぽい響きがとてもいい。
中学では帰宅部に所属し、全国を狙えるほどに強かったのだが残念ながらその実力を披露する機会はついぞ訪れなかった。
そのため帰宅部は中学までで引退し、高校生になったら別の部活に入ると決めていたのだ。
そして見つけた。理想の部活を。
その名もガチオカルト部。
この名を聞いたものはまずこう思うだろう。
何だその怪しげな部活は?と。
俺も最初はそうだった。
当時一年生だった俺は全ての部活を見て回ることを決めていたので、ガチオカルト部という意味がわからない部活もとりあえずは見学だけするつもりだった。
とある日の放課後、部室前まで赴きドアを開けた。
そして俺は新世界を見た。
まず出迎えてくれたのは宙吊りにされて奇声を上げる男ととそれを取り囲むようにして踊り狂っているどこぞの民族衣装を着た3人の男だった。
俺はそっとドアを閉めた。
見てはいけないものを見たのではないかと少し怖くなった。だが今のは何かの間違いだったのではともう一度ドアを開けてみた。
すると宙吊りにされていた男と先程まで踊り狂っていた男たちが謎の儀式を中断し、ドアのすぐ前まで来ていてこちらを凝視していた。
さすがに悲鳴をあげた。
まあその後なんやかんやあって俺はガチオカルト部に入部した。迷いはなかった。
國大和学園に通うのは家柄と才能に恵まれた良いとこの坊ちゃんやお嬢様が多い。そのことに庶民の俺は少々居心地の悪さを感じていた。
そこに唐突に現れたガチオカルト部。
俺はこの堅っ苦しい学園にもこんな変なやつらがいるのかと衝撃を受け、入部を決意したのだ。
姉と虎雪の猛反対を押し切って。
入部してからは色んな事に取り組んだ。
UFOを呼び寄せる儀式の実践。
悪魔を召喚する魔法陣のデザイン。
リア充を爆破する魔法の構築。
来世ガチャの構想。
挙げればきりがない。
そうして一年が過ぎ去り、三年生だった先輩は去年で卒業して部員は俺一人になった。
オカルト好きで意気投合した四人が勢いで立ち上げた部活だったらしく、部員募集とかもせず楽しくやっていたらしい。
その結果二年生以下で入部したのは俺一人だ。
鳳陽は兄弟の世話があるため部活NGで虎雪と奈緒には普通に嫌と断られた。
奈緒はまだしも虎雪が俺の誘いを断るのはこれが初めてだったのではないだろうか。
それほどまでに嫌がるもんかね。
先輩達が卒業してからの部活は空虚なもので、あの喧騒が恋しいと感じてしまう。
しかし俺は先輩達の悲願を達成するためにもリア充を爆破する魔法の構築だけは絶対にやり遂げなければならない。
俺は今日も一人、孤独な戦いに挑むのだ。
決意をより強固なものとし、部室のドアを開いた。
「あぁ、時雨様。お待ちしておりました。本日もお元気そうです何よりです。では早速、二人きりの部活動に励むといたしましょうか。」
ええ…誰かいるんだけど…………。




