ストグラ 安城とゆきんこ 彼女の存在
今日は北の湖でボートレースならぬ、水上戦闘が開催された。
参加したのはこれが最初だが、実際は二回目らしい。今回は抗争とかではないが、どんな状況でも撃ちか勝つ訓練と称してBOSSたちが暇で始まった話だ。
いつもは大型で足場がしっかりした所での戦闘が多い。
だから、違った場面での戦闘に少しの期待と興奮で普段ならワクワクしたことだろう。
きっちゃん、白井、行くのだ
時間が差し迫っているにも関わらず、戦う姿勢を見せた彼女の姿はない。
いたなら、きっと
水上戦?楽しそうなのだ!
そう言って、顔を輝かせてワクワクとした様子が目にみえる。
想像した所で少し和んでしまう。
アンナル、どうかした?
緊張でもしてるの?
声をかけてきたのはAKAさんだ。
彼女は俺より先輩で、2期生。明るくてとてもポジティブな人だ。
BOSS曰くバカとのことだ。まぁ、実際バカ先輩で気付かなかったのは、かなり鈍感だと言わざるを得ない。
いや、なんでもないです
俺より、AKAさんはどうなんですか?
私!私は楽しみだよ~
いつも、みんなに任せっぱなしは嫌だもん!
今日は頑張って活躍するぞぉ~
彼女はそう言って、拳を振り上げて元気良く宣言する。
その声に周りの仲間は反応して、頑張りましょう!とか、絶対に勝ちましょう!という声が聞こえてくる。
今日は他にもべにさんやミミさんもいて、楽しそうにALLINメンバーと話している。
そういえば、ゆきんこはAKAさんやべにさんたちと絡んだ所を見たことがない。都合が合わなかった事は仕方なかったとはいえ、ほんの少しの寂しさを覚えた。
そんな俺の肩をポンと叩いた人がいた。
白井さんだ
どうした?少し浮かない顔をしている気がするけど
いや、なんとなく
・・・
やっぱり、なんでもない
俺は言うのを止めた。
言った所で、変わることのない事実を再度確認するようで、少し怖かった。
ゆきんこがいたら、きっと喜ぶだろうな
今のAKAさんみたいにはしゃいで、BOSSのために頑張るのだ~って言ってさ
白井さんはそう楽しそうに言って、俺をみる。
安城、今はゆきんこはいないけど、俺たちのここにいるじゃないか
そう言って、白井さんがくれたロケットを指さす。
ゆきんこは帰ってくるし、あいつはAKAさんやべにさん、ミミさんともあまり関わってないだろ?
帰ってきた時にちゃんと紹介しないとな!
朗らかに笑う犬顔の白井さんを見て少し肩の力が抜けた。
そうだな
俺はそう言って、ペンダントを開いて写真をそっと眺めた。
楽しそうに笑うゆきんこ
俺がくよくよしても、仕方ないもんな
帰ってきたら楽しかったことをあいつにも味わって欲しい
だから、今は全力で目の前のことを頑張んないとな!
俺がそう言うと、白井さんは笑って
そうだな!帰ってからも暇なんて与えないくらいつれ回そう!
そう言って、白井さんは再び肩を叩いて去っていった。
へぇ、それ白井さんが渡したっていうペンダント?
肩口からひょっこりと顔を覗かせているのは、無馬さんだった。
その声に驚いて、もう少しで声をあげそうになる。この人は気配が無さすぎる。
そんなにビックリしなくてもw
にしても良い写真だね
今にも雪ちゃんの笑う声が聞こえてきそうだね~
そう無馬さんに言われて、俺もゆきんこの笑い声が聞こえた気がした。
無馬さんはフッと笑って、
帰ってきたら、またデートでも行っておいでよ
その時は報告もよろしくね♪
手をヒラヒラさせながら、無馬さんはBOSSたちがいる人の輪の中へと消えていった。
俺は顔に出やすいのだろうか?
そっと、ロケットに蓋をして懐にもどした。
それからしばらくして、準備も整いレースが開始された。
最初は好調でこちらが有利のまま前半は終了する。
俺はCPUの巧みな操縦捌きでタイミングを合わせて銃を撃ち、一人二人と船から落とすことに成功していた。
やったな!
同じチームにはなれなかった白井さんが俺の肩を叩いて、自分のことのように喜んでくれた。
いや、CPUのおかげだよ。指示に従って撃ったら、落とせた。CPU、ありがとう!
目の前のCPUにお礼の言葉をかけた。
安城、前より上手くなってる
またまた~
でも、お世辞でも嬉しいよ。ありがとう
違う、安城は情報を聞いて最適を選べる冷静さが出てきたと、思う
CPUが誉めてくれて本当に嬉しくて俺は少し泣きそうになった。
CPUは続けていった。
雪が帰ってきた時、雪を守るのは安城だから、僕が鍛える、のだ
拙くゆきんこの語尾を使って、CPUは自分の胸を叩く仕草をした。
だって、そうでしょ?アナ雪なんだから
当然と言わんばかりのキッパリとした物言いに思わずおかしくなる。
そうだな。
強くならなきゃな!
そうその意気だよ
CPUは満足げに頷いて、さっきの戦闘に関しての反省点と改善点の講義をうけることとなった。
後半一部のメンバーチェンジで俺はCPUとは離れて、ヘルアン、AKAさんのいるチームへと移動した。
今回は操縦がヘルアンで、AKAさんと俺が相手を撃つ役割だ。
アンナル、後半からよろしくね!
はい、AKAさんに負けないように元気一杯に頑張ります!
安城、声でかすぎ
俺はあえて茶化すように大きな声で返事をする。先ほどの戦闘でAKAさんは早々に倒れてしまって少ししょげていたこともあった。
ヘルは少し煩そうに耳を塞いでいた。
私、今度こそ倒してみせるからね!
ヘルに向かって力強く意気込んだ。ヘルも少し困ったような顔をしながら、ウンウンと頷いていた。
この時、ヘルが困った顔をしていた理由を少しして知ることとなる。
スタートして少しした頃、それは起こった。
ボートが走行中に背後から撃たれ、弾は後部側面を掠めた。
え、後ろに付かれてるよ!ヘルアン!
そう言って、AKAさんは銃を構えようとする。ヘルは回避行動として、撃たれた方向と逆方向へと舵をきる。
AKAさん、今は危ないから座っててください
俺はそう言って、AKAさんを制してどう行動するか考えていた。少しの間、防戦一方のまま銃で撃たれて、時折弾が船をかすめる。
その間、AKAさんはどんどん落ち着きなくなって、声は大きくなっていく
ねぇ、撃たれてるよ!撃ちかえさなくていいの?
AKAさん、援軍が来るのでしばらくは耐えるしかなさそうです
きゃ!危ないよ!今からでも撃ちかえそうよ
今はこちらが不利になるだけです
AKAさんが焦る度にヘルアンが落ち着かせるように的確な返答を返す。
AKAさん、もうちょっとだけ我慢しましょう?
俺がそう言って、腰を浮かしかけたAKAさんを押し留めた時、俺の肩に痛みが走った。
AKAさんはそれを見てタガが外れたかのように、スッと立って相手の船へと向けた。
その時、ドンと大きな波へと船がぶつかった。
AKAさんはふらついて今にも落ちそうになるのが見えた。ヘルアンも異変に気付いて走行スピードを弱めたため、相手は隙を逃さず銃弾を撃ち込んできた。
俺の体にいくつかの弾が当たることを感じていたが、AKAさんは大きなキズも見られなかった。しかし、このままでは落ちてしまう。
咄嗟に体を掴んで振り子の原理で船へと押し返した。
その勢いのためか、ペンダントが懐から躍り出たのをスローモーションで見えた。そのペンダントは不幸かAKAさんが持っていた銃の一部に引っ掛かりチェーンが切れた。
ゆっくりとチェーンを滑り落ちるペンダントトップのロケット
咄嗟に手を伸ばすが、撃たれた腕が上手く動かなくて届かないまま水の中へと落ちて行く
ドボン
落ちた水の中は明るく、目的のペンダントトップはすぐに見つけた。しかし、いうことを効かない体では思うように掴めない。
捕まえた思ったら、するりと指の隙間からすり抜ける。
何度も何度も
まるで嫌がっているようだ。
ゆきんこは言っていた事を思い出す。
僕に縛られないで
泣きそうな声で
たまにカクテルを飲んで思い出してくれればいいから
いいわけ
ないだろう!
痛みでいうことを効かない体を
例え、腕が千切れたとしても失いたくない!
俺は無理やり腕を伸ばしてペンダントトップ掴んだ感触を感じて意識はそこまでだった。