第二章 資料編
※※※※
資料:魔導機械について。
通例の魔術物品、呪物、魔導具と異なり、魔導機械は機械を成立させる機構と魔術の術式をシームレスに接続した人工物を指す。
その魔術の根本には呪術的な儀式や呪物の魔力、効能を応用している。現代魔術の基幹は物理学、哲学、言語学といった科学に根差し、信仰・思い込み・迷信といった人間の思考に宿る術式たちを繋げ、論理的かつ効率的な運用をもくてきとした『現代魔術』の技術体系が成されているが、科学と魔術の境界のない融合である魔導機械の成立はその体系を見れば成立することは不思議なものではない。
例に挙げられる魔導機械として代表的なものは空中自動車であろう。空中自動車は自動車の機能をそのままに空中走行の機能を追加した魔導機械で、多くはエンジン部分とホイール部分に印字による魔術や儀式による魔術が施されている。空中浮遊は古くから魔術師に親しまれる利便性に優れた術式でありながら、その燃費の悪さから現代魔術において多くの改変、複雑化を経ながらも扱う者は限られていた。その背景から、空中自動車の開発は爆発的な受容を生み、現在でも主要魔界企業の多くでの重要製品である。多くの場合車体は世俗の中古車を復元したものが利用される。ガソリンを消費しながら魔術を発動させる特殊なエンジン機構は、日本の魔界企業『篠田重工』が戦時中の研究成果を生かして開発したものであり、その他さまざまな機構においても篠田重工の開発したものが多数利用されている。
※※※※
資料:『隠者の薔薇』組織構成。
秘密結社『隠者の薔薇』は、19世紀の魔術結社『黄金の夜明け団』の上部組織『薔薇十字団』を母体とする。20世紀に入る時期の『事件』により魔界へ参入しなかった薔薇十字団員によって結成された魔術秘密結社である。多くの会員を抱えながら、魔界の介入を回避し秘密裏に行動する。国連秘匿保障委員会に指定された違法団体。世界中に支部を抱え、常に秘匿課と抗争を演じる。
目標『世界のさらなる発展』:魔界の学問、魔術の技術を体系的に教育、世俗への流布することで世界の技術独占を廃止しさらなる加速的な人類の発展を目指す。担当機関は教育部、諜報部。
『世界のさらなる平等な幸福』:呪医医療を世界のあらゆる人へもたらすこと、魔導生物や魔導植物による食糧問題対策、魔導機械によるエネルギー問題対策を目指す。担当機関は研究部、国境なき呪医団、呪物管理局。
『世界の安定』:世界の違法団体と協調しつつ、軍事力による統制を行う。担当機関は法務局、外交部、軍部。
支部は東アジア支部に6局。インド支部5局。西アジア支部8局。ロシア支部4局。ヨーロッパ支部10局。北アフリカ支部に6局。西アフリカ支部3局。東アフリカ支部4局。中央アフリカ支部5局。南アフリカ支部3局。北アメリカ支部6局。南アメリカ支部5局。エルサレムに本部が存在する。
構成員総数は約八万人。
組織
秘密の首領(形式上の指導者)『至高の三無』:『無』『無限』『無限光』
幹部会:『黄金の教示』総勢11名 担当機関・役職
主席『王冠のヨトゥム』
第二席『智慧のヨセフ』 黄金の教示法務官、法務部長 書庫番
第三席『理解のヴィクトリア』 教育務総監 諜報部長
第四席『慈悲のゲドゥラー』 神秘部総監 祭祀長
第五席『峻厳なるサイエイ』 研究部副長 国境なき呪医団団長
第六席『美のミハイル』 呪物管理局長官 研究部長
第七席『勝利のカリオストロ』 ヨーロッパ支部長 外交部長
第八席『栄光のジュン』 東アジア支部長 戦闘員
第九席『基礎のカイ』 元帥
第十席『王国たるローゼンクロイツ(CRC)』 全結界管理
末席『秘匿されたる知識』 諜報部から評議会元老院が選出 監査・処刑官
評議会:下院。隠者の薔薇評議会は黄金の教示の11名と行政副官・行政長、支部長・支部副長を除いたすべての構成員の投票によって選出された代議員200名による民主議会である。黄金の教示の四席・十席以外の罷免権を持ち、末席は議会の承認を代行する。
元老院:上院。評議会代議員によって選出された10名による会議。黄金の教示末席の任命権、各行政長官任命・罷免権を持つ。
下部機関:
法務部:智慧のヨセフを首領に置き、各機関、各支局、各幹部、議会の法規管理を行う。議会には法務部の監査審問権と罷免権がある。
教育部:理解のヴィクトリアによる機関。世俗者などに魔術教育を施す。
諜報部:理解のヴィクトリアによる機関。諜報員により諜報活動と外交活動を行う。
神秘部:慈悲のゲドゥラーによる機関。預言・予言、占術、禁術の研究、儀式の研究を担当。
研究部:峻厳なるサイエイによる機関。魔導科学・呪医医学の研究を担当。
呪物管理局:美のミハイルによる機関。隠者の薔薇が保有する呪物を管理・保管・運用する。
外交部:勝利のカリオストロによる機関。他団体との外交、調整を行う外交官の所属する機関。各支局間の調停も行う。
軍部:基礎のカイによる機関。魔術戦闘に長けた術師を訓練・育成し、『来るべき最終戦争』に備えているほか、自衛能力を維持している。
国境なき呪医団:峻厳なるサイエイによる機関。全世界の呪医医療を必要とするあらゆる人へ平等に医療を提供することを目的とした組織。
魔術支援機構:議会により運営される組織。迫害などにより難民となった者の内魔界へと迷い込んだ者を支援する。
秘匿されたる知識:元老院直属の諜報員一名。黄金の教示の末席。他諜報員・幹部・構成員全てに秘匿され、元老院のみが正体を知る。不測の事態や裏切りに対して『殺害権限』を有するが、活動は非常に少ない。
※※※※
資料:ベアトリーチェ・カントルのおがみ衆概要のメモ書き
『おがみ衆』1945年頃に成立した新興宗教組織であり、1956年に『黒山羊の子供たち』という30年以上前の宗教団体がかつて活動していた土地を買い取り本山とした。成立から30年目の1975年に全盛期をむかえ信者数は全国に9千人以上、政治家、芸能人、知識人、文化人などの著名人が加入していたこともあり規模としては中堅程度ながら資金力は非常に強大であった。魔界府は56年から彼らを認可。1999年緩やかな停滞を見せていたおがみ衆は教祖通称『鄙熊様(本名安生リチャード)』の死亡により一気に信者数を減らしていった。現在は教祖の孫が運営を引き継ぎ、立て直しを行っているようで本山には依然として数十人の信者が活動している。2022年に入り付近の山岳で失踪事件が発生。神祇寮の調査に対して関与を否定しているが事件被害者は複数の証言から『おがみ場』へ向かったことは明らかであった。にもかかわらず神祇寮は捜査を一時保留にしていた。だが、3月1日に神祇寮は『おがみ衆』へ強制捜査の方針を決定。『有穂歩』『宇美部来希』そして我々秘匿課から監査役として『鳥羽或人』を派遣することを要請。捜査に至る。
現在の信者は約1500名、総本山に日常的に出入りする人間は約60人。
※※※※
資料:『国境なき呪医団』2月活動報告書
『国境なき呪医団』活動報告書 責任者:富岳埼栄
ウクライナ地域の魔界・戦災被害者への緊急支援:呪医団所属5名の呪医を緊急派遣。今後の情勢に合わせ10名規模の追加支援部隊を派遣予定。―――
―――中東地域の継続的支援について:西アジア・テヘラン支局、西アジア・バグダッド支局、エルサレム本部、北アフリカ・カイロ支局共同。100名規模の大支援機構による人道・難民・紛争被害者支援により今月約163人の団員加盟がなされた。先月比で50人増加している。また、処置後の死亡者は15名と先月比10名の減少が見られ、前年度6月から緩やかに改善傾向がみられている。イラン、イラク、イスラエル、シリア、トルコの情勢は依然として不安定であるが、今後も我々の活動により救済される人員を拡大していくことを目指していく。―――
―――日本支部において辺境魔界や少数部落における独立呪医の勧誘・取り締まり調査に関して、黄金の教示幹部会での承認を予定―――
※※※※