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人面犬

作者: 雉白書屋

 必要な物を買ったあと、ショッピングモール内をぶらぶら歩いていた俺は通りがかったペットショップ、そのショーケースの前で思わず足を止めた。いや、足を止めたなんて生ぬるい物ではない、度肝を抜かれた。

 そのショーケースの中にいたのは、犬は犬でも人面犬だったのだ。それも――


「どうですかぁ? よかったらお出ししますので触ってあげてください」


 と、声をかけてきた若い女店員はそのままその犬の説明に入った。

 新しい犬種らしい。何と何を掛け合わせて産まれたか説明されても全く頭に入ってこなかったのは舌を噛みそうなカタカナの羅列のせいもあったが、その人面犬の顔というのが初恋のあの子に似ていて、俺はその事ばかり気になっていたのだ。

 ただあの頃と違い少し、いや、年相応に老けているようだった。


「ですね……正直、売れ残っちゃってて。あはは」


『老けている』と、その俺の心の声はどうやら漏れていたようで女店員は苦笑しつつそう言った。

 だが、その言い方が「まあ私はアルバイトなので店の売り上げとかは、それほど関係ない」というのに加え、自分の若さを引き合いに出し、その犬のことを馬鹿にしているように俺は感じた。

 売れ残りなどとは彼女に対してあまりにも失礼じゃないか。

 そう憤った俺は勢いそのままに彼女を買い、家に連れて帰った。


 ……しかし、どうしたものか。彼女をリビングのカーペットの上に座らせてはいるが、俺はペットなどは金魚くらいしか飼ったことがなく、それも面倒に感じた時に池に捨てた。

 とりあえずとペットフードなど一緒に買わされた品々を広げ彼女に与えてみると、彼女は当たり前ではあるが手を、否、前足を使わず、そのまま口で犬食いを始めた。

 ぐちゃぐちゃと音を鳴らし、時折顔を上げてはこちらを見てにっこりと笑い、床に食べこぼす。

 

 その姿を見た俺は……つい欲情してしまった。

 これをどうにかできないものかと自分のズボンの膨らみを眺めていると妙案。冷蔵庫に向かい、カップアイスを取り出した。

 ペットフードを食べ続ける彼女を見つめギューッとアイスを握る。そして、体温で十分柔らかくなったところで蓋を開け指で掬い取り自分のモノに塗りたくった。


 彼女の傍へ行くと彼女はすでに容器の中のペットフードを食べ終えたようで、口をもちゃもちゃと動かしていた。

 俺はお腹がいっぱいになってしまったのではと不安に思ったが、その心配は無用だった。俺のモノから床に垂れたバニラアイスを彼女はペロッと舐め取り、次いで落ちていくのを舌で迎え、ついにはモノをペロペロピチャピチャと訪れた快感は現在を置き去りに過去、彼女との思い出、抑圧されたあの時、あの時代へと俺をタイムスリップさせた。

 そして俺は忘れずにアイスを補充、自分のモノに塗りたくり、そのまま手で擦りもした。

 ふと零れた涙はあの日の想いを成就させた喜びか、それともあの時うまくやれなかった悔恨か。

 俺を見つめる彼女。そして道徳観、羞恥心を傍らに俺は快楽に耽った。

 

 そして、果てた俺が天井を見上げていると、ふとこんな思いが頭に浮かんだ。


 これは、彼女は人面犬などではなく、本当はただの犬なのではないか。

 俺がそう見えているだけ。俺の脳の問題。抑圧された思いが幻覚を。

 そして、もしかしたら稀にニュースなどで話題になる、ヤギと結婚した男や、動物と性交した男の話。もしかしたら、彼らもその瞳にそれがヤギなど動物としてではなく、人、愛しく思っていた女が映っていたのではないだろ――


 ――ガブッ!

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