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第7話 "赤の疾風"って、何それ;

 2階へ上がって、広い部屋へ案内された。

 そこは二人並んで座れる机と椅子がずらっと並んでいて、対面には机よりも背の高い台が一つ、その背後の壁には黒い板がある。

 僕らは通った事はないけれど、いわゆる”教室”と言うヤツだろう。


「ようこそ、新人ルーキーさん。

 今回冒険者適性試験を担当します、セリエです。

 お二人とも、字は書ける……んですね? では、こちらの書類に答えを書いてください。

 試験といっても、アンケートのような物ですから、気軽に書いてくださいね?」


 受付嬢と同じ服のセリエさんの言うとおり、内容は殆どアンケートだ。

 例えば、『血を見ても平気ですか?』とか、『武器を使ったことはありますか?』、『自炊が出来ますか?』……って、自炊ってそんなに重要?!

 って、僕達だってレナードが来るまではメチャクチャ苦労してたんだっけ;


 まぁ、そんな感じで、ほぼ全問確認事項だった。

 冒険者になるのに、必要そうな事……或いは、覚悟の確認だ。


 獣やモンスターを殺す覚悟。

 野盗や山賊相手に戦う覚悟。

 そして、冒険の途中で死ぬかも知れないという覚悟。


 そう、冒険者として生きて行くからには、生き死にの責任は自分にある。

 決してロマンや一攫千金なんて夢物語ばかりではない。

 生と死は紙一重であり、決して油断してはいけない。


 ―――ってのは殆ど父さんの受け売りだけど。


「ありがとうございます。

 では次は、裏の訓練場にて実技試験となります。

 こちらも基本事項の確認といった感じですので、緊張なさらずに。

 さあ、どうぞ―――」


 と、そのままセリエさんが案内してくれる。

 一階に下りて、ホールを通る時にボソボソ喋る話し声が聞こえた。


「おい、アイツだろ? 確か、”Sランクに最も近い男”ってのは」

「え、そうなのか? こりゃまた随分若いんだな……最近全然噂聞かねぇから死んだのかと思ってたんだが」

「いや、何でもガキのお守りやってるらしいぞ?

 アイツくらい高ランクなら、幾らでも引きはある筈なのに勿体ねぇこった……」 


 とか何とか。

 その”アイツ”ってのが、レナードの事なんだろうってのはすぐに分かった。

 冴えない感じのオッサン達が、向こうの壁にあるたくさん紙の貼られたボードを眺めてるレナードの方をチラチラ伺いながら話していたから。


 ちくん、と胸が痛くなる。

 レナードは、父さんの今際(いまわ)(きわ)に頼まれて僕達の保護者みたいな事をやってくれてる。

 正直、僕はすぐに見捨てられると思っていたんだ。

 パーティメンバーと言えども、家族だった父さんと違って、赤の他人であるレナードが僕達の面倒を見る義務なんて、これっぽっちもなかったのに……。

 それでもレナードは嫌な顔一つせず、それどころか自分が離れていた所為で父さんを死なせてしまったと僕達二人に謝りさえした。

 そんな事はない。あの時レナードが追いついてくれなかったら、僕達は多分死んでいただろうから。命の恩人と言っても良い。

 でも時々、思うんだ。

 僕達の面倒を見る為に、この2年ほどレナードはろくに依頼クエストも受けていない。

 さっきのオッサン達の言うとおり、本当なら引く手数多(あまた)だろう高ランク冒険者を、束縛する権利が僕達にあるんだろうか、と。


「兄さん、どうしたの?」

「……あ、うん、何でもない」


 ホールから外にある訓練場へと移動する。

 それまで室内に居た僕の目に昼間の太陽の光は少し、眩しかった。




 案内してくれたセリエさんがそのまま、実技も担当するらしい。

 周りで訓練していた何人かの冒険者だろう人達が、何故か動きを止めた。


「セリエさんが実技……? 誰が相手するんだよ?」

「―――俺絶対イヤだぞ?」


「……そこ、聞こえてるわよ?

 今回は新人ルーキーさんの確認事項よ!」


 ややこめかみをヒクつかせながらセリエさんが説明すると、どことなくビク付いていた冒険者達に安堵の色が広がった。


 え、何? この人コワイ人なの?!


 そう思ったのが顔に出ていたのかも知れない。

 セリエさんがため息をつきながら話してくれた。


「―――全く、ごめんなさいね?

 私はこのギルドの受付嬢でも有るけれど、現役の冒険者でもあるのよ」


 シャランと冒険者認識票(タグ)を出して見せてくれた。その刻印は”A”。


「あ、”A”……レナードと一緒だ」


 セリエさんは一瞬表情が消え、次の瞬間には僕の両腕を痛いくらい掴んで真剣な顔で聞いてきた。


「レ、レナードって、もしかして……あの”赤の疾風”レナード・ディーパー?!」

「あ、あかのしっぷう……?! 何それ?

 それかどうかは知らないけど、髪は赤いよ?」

「きゃああッ!! まさか、ホントにホンモノ?!

 ファンなのよ、私ッ!! この街に来てるの?!」

「う、うん。ギルドも一緒に来たし、今もホールに居ると思うけど……」


 バッとホールへの扉を振り返り、しかしグググ、と拳を握り締める。


「とと、いけない……私とした事が。仕事中仕事中ッ!」

「えっと、レナさっきホールに居たし、呼んで来る?」


 ミルカが提案してみるが、セリエさんはふるふると首を振った。


「ありがとう、大丈夫よ。今は仕事中ですもの。

 それに、この街に居るなら必ず逢えるでしょうしね?」


 少し残念そうに微笑んで、気分を切り替える為にだろう、パンッと両手を打ち鳴らした。


「さぁ、実技の確認事項を説明するわね?

 まずは、武器の持ち方―――剣でも弓でも何でも良いのだけれど。

 魔法使いの人は……」


 僕が剣を抜いて構える横で、ミルカがモジモジしている。


「あ、あの、明日、杖を買いに行こうって言ってて……まだ無いんです;」

「そうなのね。だったらこの項目は保留、って所かしら。

 明後日からの新人講習で使い方を覚えると良いわ」


 その後は、冒険や旅をするのに基本的な事……テントの張り方、火の起こし方、ロープの結び方とかいった事が出来るかどうかの確認をしていった。


「そうね、最後に料理……というか、自炊は出来るかしら?」

「はいはい! 最近レナを手伝ってるからお料理Fになったんです!」

「―――僕は、全然……」


 正反対の反応をする僕らを見て、セリエさんが微笑む。


「レナードさんってお料理得意なの? 羨ましいわね~、手料理が食べられるなんて。

 いつか私も食べてみたいわね……」


 と、ため息を付いたけれど。


「―――いつでも作るよ? なんなら、今度皆で依頼クエストでも行ってみる?」


 見ればレナードがこちらへ歩いてくる。


「あ、あああ、あなたがあの有名な”赤の疾風”レナードさん?!」


 セリエさんが真っ赤な顔でガッチガチに固まりながら確認する。


「うーん、オレは確かにレナード・ディーパーだけど……。

 自分で”赤のなんたら”とか名乗った事はないしなぁ。別人かもよ?」


 と、半分茶化した感じでレナードは断言しない。


「二人とも、もう実技終わったのか?」

「どうなんだろ? 料理が出来るかどうかって話をしてたんだけど」

「そしたら、セリエさんが羨ましいって。そこにレナが来たの」

「そうか。新人講習終わったら、この辺の簡単な採取依頼(クエスト)から慣らそうかと思ってたけど、誰か実力者が一緒に行ってくれるなら、討伐系の依頼クエストでも受けられるかもな?」

「え、ホント?!」

「―――ま、仕事が休みの日じゃないと無理だろうけどさ。

 えっと、失礼。お名前を伺っても?」


 手を差し出して、レナードが”必殺女たらしスマイル”を放つ。こう言うとレナードは『そんなんじゃないよ~』と嫌がるけど、コレで女の人は大抵顔真っ赤にして、凄く嬉しそうにするんだから、()()()()()()()()()なのは違わないと思う。


「コホンッ! こ、ここの冒険者ギルドで受付業務を担当している、セリエ・バーランドよ。

 ランクAで軽剣士フェンサーをやってるわ。宜しくね」


 何とか落ち着きを取り戻したらしいセリエさんが、自己紹介してレナードと握手する。

 あ、因みに軽戦士フェンサー剣士ソードマンと同じ、戦士ファイターの上級職の一つだ。


「ただ者じゃないとは思ったけど、ランクAなんだ。

 もし良かったら、ホントに今度一緒に行かない? 休みに合わせるよ」

「ええ、是非に! と言う事は、しばらくはシュミットガルト(この街)に滞在するのかしら?」

「そのつもりだよ。ウチの子の新人講習もあるし、この辺りには探索ポイントも色々あるから丁度良い。レベル上げも兼ねて、な?」


 と、最後は僕らに確認するように話しかける。


「へへッ、どんと来いってんだ!」

「わたしだって負けないもん!」


「はは、その意気や良し、だ。あ、セリエさん、まだ実技途中なら―――ッ!」


 その時、訓練中らしき激しく打ち合う二人が突っ込んできた。

 咄嗟に反応したのはランクAの二人、やや早かったのはレナードだった。


 背中を向けている男を横へ突き飛ばし、大上段から剣を振り下ろそうとしている男の腹に肘をめり込ませる。


「ウチの子が怪我でもしたら、どうしてくれるんだ?

 ちゃんと周りに気をつけろ!」


 渋い顔で突っ込んできた二人に文句を言うけれど……。


「レナ……多分聞こえてないよ?」

「―――え?」

「二人とも伸びてる」


 僕とセリエさんが二人を確認したら、どっちも失神している。


「ありゃ……ちょっと強くやり過ぎたかな;」

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