第6話 いざ、冒険者になろう! ……なれるんだよね?
さいじょーきゅーしょく、とは何ぞや? な話かも。
「折角だし、やっぱりレナードも転職すれば?」
「ん~~~、一部の下級職以外は色々制限とか条件があって難しいんだよ。
悩み所だよなぁ……また下級職Lv.1から始めるのも、ねぇ」
「そうだ! レナも魔術師になって一緒に魔法習おうよ!」
良い事思いついた! 的にミルカが言い出したけど……レナードが思いっきり嫌そうな顔をする。新米達に混ざって魔法のお勉強だなんて、ランクAにやらせんなよって話だ。
「やだよ……オレ、魔法系の素質何にも無いんだぞ?
ミルカに置いて行かれたら、ショックすぎるじゃないか;」
「む~。そうなったらわたしが教えてあげるのに~」
速攻で断られてミルカがむくれる。いやいやいや;
「レナードなら戦士系だろ、どう考えたって?
剣術:Bもあるんだったら、剣士とかはどーなのさ?」
「おっちゃんの職か……。それはディートに任せるよ。
そうだなぁ、どうせなら狂戦士とか、忍者でも目指すかな」
って、それ、どっちも戦士系最上級職って呼ばれてるヤツじゃないか!
「めっちゃ条件キツい職トップ2だろ、それ……無理だろ~;」
「いや、まぁ、いつかはね~。
狂戦士は装備制限の全解除と、常時発動技能が魅力的だし、忍者は装備制限は多少残るけど職による固有技能が有能だし」
そうそう。それが戦士系の最上級職って呼ばれる理由だったりする。
その代わり条件はクソ厳しい。3種類以上の戦士系職の職種王取得とか、筋力・耐久力・敏捷性・器用さ、及び幸運の高い数値、様々な技能がB以上……とかが要求される。
忍者は職関連が戦士系2種類以上と、盗賊の上級職である暗殺者での職種王取得に条件が変わる。
一つの職でも、職種王になるのは大変なのに……。
「へぇ~、その二つって凄いんだね。あ、魔法系だと一番難しいのって何?」
「そりゃやっぱり、賢者だろうな。精霊魔法以外の全呪文が習得可能だからね。
その代わり、これもかなり条件厳しいけど……」
「どんな条件なの?」
「えーと……どうでしたっけ?」
レナードが神官さんに話を振った。さすがに魔法系の転職条件までは覚えてないんだろうな。
「賢者の転職条件ですか?
そうですねぇ、魔術師の上位職である魔導師、神官の上位職の司祭をマスターする事。
また知力、信仰心、幸運の数値が各40以上、それぞれの技能がB以上といった所でしょうか?」
「鬼だなー……;」
「それだけなるのが難しいんだよ。そんなにポコポコなられても困るくらい強力な職なんだからさ?
それに、神官になる時は神殿での奉仕活動と教義の講習で済むけど、司祭になる時は最低でも1年間は神殿へ帰属しなきゃならないんだ。
その時の素行が悪すぎると、”破門”って言って追放処分食らったりするし……。
ある意味では、狂戦士や忍者より条件厳しいよ」
「やっぱ鬼だわ……;」
神殿での生活を考えるに、僕には絶対出来ないなー、と思わざるを得ない。
「神官さんの前で言うなよな~。オレ達みたいな脳筋には無理ってだけだよ。
さぁ、今度こそ冒険者ギルド行くぞ?」
レナードが追い立てるように背中を押してくる。
「はーい!」
「って、押すなってば;」
「じゃあ、神官さん、お世話になりました~」
「こちらこそ。分からない事などあれば、いつでも気軽においでください」
「はーい! また来まーす♪」
神殿を出て、少し大通りを戻った場所にある他より明らかに大きな建物……そこが冒険者ギルド・シュミットガルト支部だった。
「うわー、デカ~い……!」
「ホントだ、大っきいね~」
「ほら、そんなとこに突っ立ってると他の人の邪魔になるぞ?」
もう中に入っているレナードから注意される。確かに出入り口で棒立ちしてたら邪魔だよな。それに、何かいかにもお上りさんっぽいかも……気をつけないと。
「新規登録の窓口はこっちだよ。―――すいません、新人の登録をしたいんだけど」
と話しかけた窓口には制服っぽい物を着た女性が座っている。
「はい、ようこそ! 冒険者ギルド・シュミットガルト支部へ。
新人さんの新規登録ですね。こちらで承ります。
まず、こちらの書類に必要事項を書いてください。
もし文字が書けないのでしたら、代筆致しますが……?」
まだまだ珍しい白い紙と、羽ペン、インクが差し出される。
「大丈夫、字は書けるから。えっと……?」
横でミルカも同じように書類とペンを渡されている。
書類に目を落とすと、名前、種族、性別、年齢、職を書く項目と、主な素質、主な技能という広い空欄がある。
「素質と素質は出来れば正直に書いて欲しい所ですが……どうしても明かしたくない物は書かなくても構いません。特にペナルティなどはありませんのでお気になさらず」
「レナ、どう書いたら良いかな?」
「そうだなぁ……」
ミルカに聞かれて、レナードは少し考えてからごにょごにょと耳打ちした。
うんうんと聞いていたミルカは「分かった」と返事してサラサラと書き込んでいく。
「僕は?」
「ディートは、書ける物を書いて良いと思うぞ?」
僕はその言葉を、読めなかった物は書かないで良いと受け取った。
ま、確かに書けないし? 仕方ないよね。
「この後、適性試験……簡単な筆記問題と基本事項の確認があります。
その適性試験で一定以上の点数を取ると、晴れて冒険者として登録となります。
その際、冒険者認識票本体に、ご本人の情報の刻印が必要です。
登録と、認識票の認証・刻印の代金として、お一人様銀貨20枚を戴いております。
以降の登録項目変更やタグの刻印変更には料金は不要ですので、ご安心ください。
また、登録内容に変更があった場合は、なるべくこまめにギルドで書き換えして戴く事をおすすめします。
お二人とも、新人講習はお受けになりますか?」
全く淀みなく一気に説明を終えた受付嬢に書き終えた書類を渡しながら、思わず拍手をしそうになった……。
「適性試験はここでこの後やるんだよね?」
「はい。この後すぐ、2階で筆記試験を。
その後、裏の訓練場で実技の基本事項の確認となります」
「新人講習って実技は今も、壁の外の訓練場に泊まり込みでやってるの?」
「ええ、よくご存知ですね? 座学はここの2階ですけどね」
「二人とも、しっかり鍛えて貰えよ? 新人講習は冒険者としての基本を理解する為の期間だから」
レナードが念を押す。もう何回目だよ……。
「……分かってるって」
「うん、頑張るね~」
「ではお二人とも受講、と言う事で……。
そうですねぇ……直近の新人講習は明後日の朝10時から。
座学が7日間、実技が移動含め7日間という日程になります。
受講者数は今のところ、お二人を含め16名ですね」
受付嬢が手元の書類を見ながら教えてくれる。
「さすがに街が大きいと新人も多いねぇ。
講習は明後日から、か。
じゃあ明日は武器屋と防具屋……後は魔法屋回ってみるか?
この街なら結構良い物が揃ってるだろうし」
「え、良いの?! 僕そろそろ新しい剣が欲しくてさ!」
「ミルカ用に魔法の巻物とか、杖もいるだろうし」
「すくろーる?」
「魔術師は、魔法の呪文を巻物で覚えていくんだよ。
それから、杖は魔法を使う時の補助具になるんだ。無いよりはあった方が絶対良い。
精度が一段階くらい上がるからな」
「へぇ~、そんなに変わるんだ! 大事なんだね、杖って」
「明日の予定は決まりだな。
じゃあ、まずは二人とも筆記試験受けておいで。
まぁ、コレで落ちる事は殆どないから、気楽にな?」
「係の者が案内しますので、付いていってくださいね」
レナードと受付嬢に見送られ、僕らは係員と二階へ上がっていった。