第5話 冒険者ギルドってどんなとこ?
結局レナードは、転職するかどうかはもう少し考えると言ったので、僕達は神殿を後にした。
「次に行く冒険者ギルドはこの近くなんだ。
でも……そうだなぁ、先に昼飯食わないか? ちょっと時間的に早いけど。
新規登録は、適正試験だなんだで割と時間掛かるからさ」
「そうなんだ……。お腹空きそうだね?」
「じゃあ、この辺で済ませる? どっか良いトコないかな~?」
キョロキョロと探してみるが、初めて来た街なので本当に分からない。
困っていると、思い出したんだけど、とレナードが提案してくる。
「もうちょっと先に行くと屋台通りがあるぞ?
タレ串焼きとか、揚げたイモとか、お前達でも食べられる物も多いけど」
「わぁ~、何それ、美味しそう~! わたしソレ食べた~い!」
うっわ……ミルカのヤツ、絶対レナードに餌付けされてるよ。
「僕もそれでいいよ? 行こう」
***
なかなか凄かった。
南北の、領主の城へ向かう大通りとは平行になっている、準大通りみたいな所に約100m位に渡ってズラーッと屋台が軒を連ねていた。近くまで行くと何とも言えない旨そうな匂いが漂って来て、食欲が大いに刺激された。
通りの真ん中辺りに小ぶりな噴水のある広場があって、買った物をベンチで食べている人が居る。まだ昼時にはちょっと早いせいか、そんな人達もちらほらといった感じだ。
まず、端から端までどの店がどんな物を売っているのかを確認し、それから食べたい物を厳選したミルカは、ホロホロ鳥の串焼き肉に、蜂蜜入りのレモン果実水、丁度焼きたてだったアップルパイを選んだ。
僕は……朝食べ過ぎたのかそこまで空腹じゃないし。
結局、タマゴと野菜のホットサンドと紅茶にした。
レナードは……?
「それ、何だよ……?」
「ん? エールと揚げた肉とかイモとか……。
あ、こんくらいじゃ全然酔わないから大丈夫大丈夫~♪」
なんで一人だけ酒盛り状態なんだよ; 真っ昼間から。ホント、駄目な大人……。
結局、大量にあったレナードの揚げた芋をみんなで摘まみつつ、次に行く冒険者ギルドの話になった。
「ねぇねぇレナ、冒険者ギルドってどんな所なの?」
「どんな所……改めて聞かれると難しいな。
冒険者達が、依頼を受けたり報酬を貰ったり、てのが基本かな?
他にも魔物の素材の買い取り、魔石や魔晶石の売買、他ギルドへの橋渡しに新米冒険者への講習、なんなら冒険者同士のマッチングもやるしね」
冒険者ギルドって結構色んな事をやってるんだな……。
「依頼とか、素材の売買とかは分かるけど……橋渡しって何?」
「ああ、それは盗賊ギルドや、錬金術師ギルドとか他のギルドとの繋ぎが必要な場合に、代わりに連絡してくれるって事だよ。
例えば……低級な水薬なら、多少は冒険者ギルドでも置いてるけど、効果の高い物なんかは錬金術師ギルドでなければ買えないんだ。
まぁ、そんなの使う機会は殆どないけどね。お値段もかなり張るし;」
「じゃあ、冒険者のマッチ……? 何だっけ?」
パクパクとイモを摘まんでいたミルカも質問する。
「マッチングな。依頼によっては、1パーティじゃメンバーが足りない場合があったりするから、別のパーティを引き合わせたりするのさ。
或いは、バランスの悪いパーティに弱点を埋めるような人材を紹介したりね」
ふぅん。僕らはベテラン? 狩人と、駆け出し戦士&治癒師、か。
「へぇ~。例えば僕らのパーティなら、何が足りないの?」
何となく聞いただけだったけど、レナードは眉を顰める。
「前衛も後衛も足りないよ; まだまだお前達はヒヨコの中のヒヨコなんだから。
討伐系の依頼なんて、怖くて行けないっつーの。
せめて前衛二人と攻撃系の魔術師、回復役の神官は居ないとな~」
「そうなのか。 じゃあ、レナードが剣持てば前衛一人でいいのか?」
「そうくるかよ。う~ん……オレもう何年も剣なんて握ってないんだけど;」
確かに知り合った頃からそろそろ5年になるけど、剣持ってるとこなんて見た事ない。
「当分は、新人講習と、後は比較的安全な場所での採取依頼でレベル上げが妥当かなぁ……」
「うぇぇ……つまんなそうだな~。講習とか特に」
「いやいや、しっかり受けとけ。冒険者としての基礎を叩き込んでくれるから。
依頼は、Fランクの間は誰か上級ランクの付き添いがいるから、オレが一緒に行くけどな?
とは言え、お前達が講習受けてる間はヒマだよな~。
何かソロでも行ける依頼でも受けようかな?」
「そんなにヒマなの? 講習って、どれくらい掛かるの?」
「ん~、最初の適性試験に受かると、座学と実技が有るんだけど……。
全部で大体2週間くらいだったかな?」
「「に、2週間~?!」」
思わすミルカとハモってた。
思ってた以上に長いな……。そんなにする事あんのかよ?
「うん。更に言うと、この街のギルドの実技は近くの草原にある訓練場での泊まり込みだった筈だ。
そうそう、実技には簡単な自炊も含まれるからな?」
なんて言って、レナードが僕を見てニヤリと笑う。
「自炊ぃ?! ……ミルカに任せるよぅ」
料理はずっとレナードに任せっきりだったんだよなぁ;
ミルカは少しは手伝ってたみたいだけど。
「ふっふ~ん♪ 任せなさ~い!」
イモをまた一本口に放り込みつつ、ドヤるミルカ。
でも、さっきの『能力値』って―――。
「いや、ミルカ……お前の料理、まだFだったよな?」
「ひっどーい! そりゃあレナには絶対敵わないけど、兄さんみたいに全然ないよりずぅっとマシだもん!!」
そりゃそうだ。さっき見たレナードの料理技能、Sだったじゃん;
勝てる訳ないって。
「……とは言え、問題は魔法系でも珍しい『治癒師』の先生出来るヤツがギルドに居るかどうかなんだよな」
「先生?」
「流石に独学で覚えるのは、なかなかしんどいと思うんだよな~。
”素質”も向いてるから、早い内に第2職で他の魔法職取っとくのも手だろうけど」
「レア職なのも、良い事ばっかじゃないんだな;」
「レア職だけじゃなくて、レアな”素質”とかでもそうなんだよ……」
ああ、レナードは異空庫持ちだもんな。確かにアレもレア過ぎる。
「うーん、じゃあもう一つの魔法職って何が良いのかな?
さっき言ってた”精霊魔法使い”?」
「それはまだ発現前の”素質”依存の職だから、すぐは無理だな。
普通に”魔術師”になるんじゃないか?」
”魔術師”なら、その辺にゴロゴロ居る。ごくごくありふれた”職”だ。
「”魔術師”かぁ~。それって今のわたしでもなれるの?」
「下級職だからな。特に制限はないぞ?」
というレナードの言葉を聞いて、ミルカはグッと両手を胸の前で握り締める。
「よし! レナ、お願い! 冒険者ギルドの前に、”魔術師”になる!」
「―――へ?! ええええッ?! 本気?!」
「本気も本気。―――でないと……ううん。で、どこに行けば良いの?」
「……えっと、さっきの水晶玉の部屋、だけど……」
「じゃあ、早く戻ろう! おイモ食べちゃうね? さ、早く!」
残り少ないイモをぽいぽいと口に放り込み、果実水で流し込む。
いきなりやる気に満ちたミルカの行動力に、僕とレナードは流されるまま神殿へととって返した。
「おや、どうされました? やはり転職されますか?」
神殿に戻ると、さっきの神官さんが居て、にこやかに話しかけてきた。
「ああ、いや、ミルカが第2職を取りたいと言い出しまして……。
一部の下級職なら制限はなかったですよね?」
「そうなのですね。
ええ、はい、下級職の内―――戦士、拳士、狩人、盗賊、神官、魔術師の6種類でしたらすぐになれますよ」
ホントに基本のキ、みたいな職ばっかりだ。
あれ? 下級職ってもっとなかったっけ?
「下級職ってそれだけだっけ?」
「いいえ、あとまだ薬師と召喚士、魔物使い、錬金術師が下級職ですが、こちらの4つは特殊な”素質”や”技能”が前提となっていますから、制限無しとはいきません。
―――どうされますか、お嬢さん?」
「え……っと、魔術師になりたいんです!
その、治癒師だと、ギルドに先生が居ないかも知れないって聞いて……」
「確かに……かなり珍しい”職”ですものね。
魔術師でしたら、冒険者ギルドにも講師がたくさん居ますから、その点では安心ですね。
では、”職”選択されますか?」
「はい、お願いします!」
ミルカが深く頷くと、神官さんがやり方を教えてくれる。
「承りました。
手を水晶玉へ―――そして、『第2職に魔術師を選択します』と宣言してください」
「……第2職に魔術師を選択します!」
バチバチッという音と眩い光はさっきと同じ、そして魔晶石に『能力値』が出るのも同じ。ただ一つ違うのは、さっきは空欄だった第2職の項目に
『第2職:魔術師 Lv.1』
と追加された事。
意外に簡単だな~って思ったのはナイショだ。
まぁ、下級職だからってのもあるんだろうけど。