第36話 ―――バルザック・ブラント、推して参る!
お久しぶりです; 朝晩は涼しくなってきましたね。
「あれ? 言ってなかったっけ……この街では3年に1回、腕自慢が集まって観客も入れて大々的に大会をやるんだ。大会に出る為だけに、違う街や、よその国からも腕に自信のある人達がいっぱい集まるんだよ。
予選の間はまだ静かだけど、本戦が始まったら街中に屋台が出たりしてお祭りみたいで楽しいんだ~♪」
クリスさんの事だから、きっと目当ては食べ物の屋台なんだろうな~って思う……。
「じいちゃん、前回も格闘部門でぶっちぎりで優勝してるから、心配はしてないけどさ。
レナードさんって、なんか何でもそつなくこなしちゃいそうって言うか……」
「―――同感ですね。何とも底の知れない御仁とお見受けします」
「! レ、レナは悪い人じゃないもん!!」
思わずといった感じでミルカが声を上げる。
「ああ、失礼; 誤解をさせてしまった様ですね。
私も彼が悪人だとは、これっぽっちも思っていませんよ。
むしろ、人間的には大変好ましいとさえ感じています。
若くしてランクAになる実力、ブラッドデスベアのような強力なモンスターと対峙出来る胆力、多種多様な武器種を操る器用さ……そして何より、今際の際に頼まれたといえども血の繋がりのない子供達を育てる責任感―――。
本当に、頭が下がる思いですよ」
GMのフォルグ氏がミルカの頭を撫でながら微笑んでいる。
「しかし、惜しいですな。
彼が魔法職に就いていれば、かなりの所まで上り詰めたでしょうに」
「―――え、どうしてですか?」
「彼の能力値を見た訳ではありませんから、確証はないのですが……魔法適性が高そうだと思いましてね?」
「神殿で見た時は気が付かなかったな……だって、素質も技能もたぁくさん書かれてて。字もすっごい小さかったしさ」
精々目に付いたのは、それぞれ上からほんの2つか3つくらいだ。気にも止めなかった項目なんて、すっかり忘れてしまっている。
「確かに……でも何か、レナが魔法まで使えたら完璧すぎてちょっとイヤかも;」
「そうかなぁ? レイチェルさんみたいな魔法戦士とか、メッチャ格好良いと思うけどな~♪」
豪雷大好きなクリスさんが、レイチェルさんを引き合いに出す。
「むむむ、そう言われるとそう、かも?」
確かに、若くてイケメンで、武器も色々使えて、その上魔法まで……なんて事になったらいつぞや聞いたやっかみがまた長くなっちゃう。
って、あれ? 前にレナードが言ってたな……。
『やだよ……オレ、魔法系の素質何にも無いんだぞ?
ミルカに置いて行かれたら、ショックすぎるじゃないか;』
「でも、レナードが自分で言ってたよ? 『魔法系の素質は何にも無い』って。
だから、魔法はそんなに得意じゃ無いと思うけど……」
僕の言葉にフォルグさんは目を丸くした。
「おや、そうでしたか……。では私の勘違いと言う事でしょう。
いやはや、私ももう年ですかな? 失礼致しました。
それにしても、アレほど生き生きしたジュリアンを見るのは随分と久し振りですよ。
気分的には現役の頃と遜色ないでしょうな」
フォルグさんの視線の先には、なかなかの攻防を繰り広げるレナードとジュリアン司教の二人がいる。
「レナ、頑張れー!!」
「じいちゃんも頑張れ~!」
黄色い歓声に応えるように、ジュリアン司教が素早いパンチを繰り出す。
その拳を的確に往なしたり、躱したりでまだ一発も貰っていないレナード。
「やるのぅ、レナード……さすがは現役冒険者ッ」
「そのままお返ししますよ。引退してるなんて、到底思えないですから」
息も乱さずやり合う様はトップクラスの実力故か。
「今日のこの場は、大会じゃないし、公式記録にも残らないんですよね?」
「? ええ、まぁ、そうなりますな」
フォルグGMの言質を取った。
「―――だったら、絶対負かす」
ジュリアン司教の右ストレートを最低限の動きで躱し、掴むと体を反転させ相手の力を利用して背負うように投げる。そのまま足でジュリアン司教の体を押さえつけ、取っていた腕を逆関節に曲げる……といった一連の動きがとてもスムーズで。
「い、痛たたたたたッ!! 降参、降参じゃ!!」
ジュリアン司教の本気で痛そうな声で、勝敗が決した。
シン、と静まりかえっていたその場が、響めきで埋め尽くされる。
「す、凄いですね……まさか勝ってしまうとは思いませんでした……」
フォルグGMが思わず、といった感じでポツリと言った。
「うそ……じーちゃん、殆ど永世チャンピオンみたいになってたのに。
すっごい!! すっごいよ、レナードさん!!!」
「私も、ジュリアン司教が負けた所なんて、初めて見ました……」
「てか、あの技どーなってんだ?! あの怪物司教が負けるだなんて」
クリスさん、セリエさん、ザックさんが驚いてる。
「まぁ、師匠が降参するなんて。面白い物を見せて貰ったわ~」
「あの司教、無手でも強かったんじゃろう?」
ニーナさんとモルグさんも意外そうだ。
既に技を解いて立ち上がっている二人が戻ってくる。
「やれやれ、勝てなんだか……ちとショックじゃなぁ;」
「何言ってるんですか。
立ち技だけで、しかも蹴りも使って来ないでオレの事試してたでしょ?
そこまで手加減された上で負けたら、ある意味現役冒険者の名折れでしょうが;
大体、関節技なんて競技会とか試合形式じゃないと、おちおち使えないし」
珍しく不満そうにぐちぐち言っているレナードが、防具を外していく。
「―――じゃあ、次は片手剣の受け流し見せてよ!」
「それじゃあ誰か相手してくれる人、居るかなぁ?
打ち込んでくれる人が居ないと受け流し出来ないし……」
とレナードが周りを見渡すと、それまでわいわいと賑やかだったギャラリーがしんと静まりかえる。
黙り込んで俯く者、あからさまに目線をそらす者、恐ろしいモンスターでも見るように身をすくめる者……。
「仕方ないわね。じゃあ、私でも構わないかしら、レナードさん?」
「セリエさん? 助かるよ~。受け流しってこんなのだよって見せるだけなのに;
なんか随分警戒されちゃったみたいだ」
「ホント、情けないわよね……。
―――ところで、二刀でも大丈夫かしら?」
笑顔で二本の訓練用剣を持っている彼女に、レナードは苦笑気味に了承する。
「セリエさん、二刀流なんだ……。
うーん、頑張るよ; お手柔らかにお願いします……」
そしてまた、GMのかけ声で始まったのは……およそ訓練とは思えない程の激しい物だった。
確かに、『好きに打ち込んできてね』と最初にレナードは言ったけれど。
セリエさんのヒットアンドアウェイの軽快なステップと共に繰り出される2本の剣は、正直、猛攻と言っても差し支えないと思われる程で。
けれど、その猛攻をこれまた的確に一つ残らず受け流ししていくレナードも結構凄いんじゃない?
そもそも、何で2本の剣での攻撃を、片手剣1本で捌けるんだろう?
もう暫くやり合って、セリエさんが剣を下ろした。
「―――はぁ~。初見の相手に完全に読まれるなんて……;
お手上げだわ、全然勝てる気がしない!」
悔しいというより、サバサバしたセリエさんの声にレナードはジト目で返す。
「お手柔らかにって言ったのに……超本気じゃないですか;
うう、MPごっそり持ってかれた」
しゃがみ込んで頭を押さえているレナードに駆け寄る。
「凄かったね、レナード……どうしたの?」
「オレの場合、急激にMPを大量消費すると酷い頭痛になるんだよ;
すぐに収まるからまだ良いけど、コレばっかりは体質だろうから仕方ないね」
ヨロヨロと立ち上がって、振り払うように頭を二、三度左右に振った。
「で、ディート。受け流しってどんな感じか分かった?」
「え……あ、あぁ、う、うん……感じ、くらいは……」
実は二人の攻防が凄すぎて、ただただ圧倒されてたんだよね……。
「まぁ、軽戦士の戦い方って独特だからね~。
しかもセリエさんくらいになると、上手い事嫌なとこ突いてくるからしんどいよ;
まぁ、その分読みやすいってのもあったんだけど」
「え、どういう事?!」
「ああ~、やっぱり”狙い過ぎ”ちゃったのね……。
それでも完璧に受け流しされるとは思わなかったわ」
ため息を付きつつ、セリエさんが零す。
「要するに、嫌な所を突き過ぎだから、嫌な所メインで対処すれば済むって事さ。
的確過ぎるのも善し悪しだよねって話」
とレナードが解説してくれるけど、後ろに人の気配が……。
「スゲぇな、兄さん! その、なんだ……俺も良いか?」
苦笑しつつ頭を掻きながらも、ちゃっかり訓練用の両手剣を手にザックさんが声を掛けてくる。
「ほう、今度はバルザック君ですか……。セリエ君とは真逆のタイプですね。
受け流しを見せるには良い相手かも知れません。
レナードさん、続けられますか?」
GMがレナードに連戦可能か確認を取る。
「……流石にセリエさんよりは手数減るよね?
だったらまぁ、大丈夫かな。でも、ガチで来るのは勘弁してね;」
「よっしゃ! ―――バルザック・ブラント、推して参る!」
両手剣と片手剣という大きさが全然違う武器の戦いは、先程の片手剣同士の物とは打って変わって重量感が随分と増した。
もしも真面に受けてしまえば、折れてしまいかねない片手剣で、綺麗に一つ一つ受け流ししていく。10回以上も繰り返しただろうか? レナードが剣を下げた。
「ヤバい、頭痛くなってきた; そろそろ許してくんない?」
額を押さえつつ言うレナードに、ザックさんは見るからにガッカリしたように返す。
「まだセリエの半分もやり合ってねぇのに……。
仕方ない。じゃあ、後一回で終わりにするか」
と、ブーブー言いながらもザックさんの構えが変わった。
「行くぜ!!」
大上段から振り下ろされる大剣。
しかし、次の瞬間には剣先が訓練場の地面を大きく抉っていた。
「あっぶねー……;
最後の最後に『全力攻撃』とか、殺す気か?!」
レナードが不機嫌そうに文句を付けているが、ザックさんはしれっと言い放つ。
「いやぁ、兄さん、受け流し失敗しねぇだろうしさ~。
俺もちょっとは出来るんだぞってトコを見せときたいなぁって」
「何言ってんだか……。
ランクAの”大剣使い”の実力をわざわざ疑わないよ;
―――痛たた; もう良いだろ? オレちょっと休憩するよ」
額を押さえながら僕らの方へ戻ってくる。
「寝不足な上に何か色々やらされて、今日は踏んだり蹴ったりだなぁ……」
「お疲れ様、レナ! すっごいね!!」
「レナードさん格好良かったです!!」
「おにーちゃん、かっけー!!」
「じーちゃんより強い人初めて見たー!!」
シュミットガルトの実力者達と対等以上に渡り合った―――いや、ある意味その上を行って見せたレナードに、ミルカやクリスさん始め、教導館の子供達も口々に称賛してる。
「うわー、ゴメン、何か頭がグワングワンするんだよ~;
ちょっと休ませて;」
「―――セリエ君、医務室なら仮眠も出来るでしょう。ご案内して差し上げなさい」
「はい。―――レナードさん、こちらへどうぞ」
「すいません。じゃあちょっとお言葉に甘えて、寝てこようかな。
ディートは受け流し習っとけよ?
ミルカは……どうする? 杖の武技でも教わっとくか?」
と問われて、ミルカは『うーん』と少し考えたけれどレナードの腕にしがみついた。
「いい! レナと一緒に行く!」
「仮眠取るだけなのに……」
その様子を羨ましそう……いや、微笑ましそうに見つめていたセリエさんが先導してギルド内へ入っていった。




