第35話 物見高い人だらけ。
結局。
その後の晩ご飯は、セリエさんとクリスさんだけではなく、何故かニーナさんとタグメールを見て駆け付けた? ザックさんまで加わって、パーティ結成記念(プラス1)宴会みたいになっちゃった。
話を聞いたアンドレイさんとレイチェルさんも、久しぶりに会った(タグメールでのやり取りはしてたらしいけど)ニーナさんと一緒にお祝いしてくれた。
「フフ、じゃあこの席はワタシからのお祝いにしましょう。
勘定は気にせず、大いに楽しんで頂戴♪」
なんて太っ腹な事をニーナさんが言い出したもんだから、アンドレイさんも張り合うように開発中だという新メニューを大盤振る舞いしてくれた。
心置きなく飲んで食べて、どの料理も美味しくてお腹いっぱい!
セリエさんとザックさんは酔い潰れ、ニーナさんもほどよく酔ってる中でレナード一人がケロリとしてる。
「レナードも結構飲んでた割には酔ってないね?」
「クリスさん送っていかなきゃならないのに、潰れられないでしょーが;
さ、そろそろお開きにしようか。ディートとミルカは風呂行って部屋に戻る事。
クリスさん、神殿まで送るよ」
「はーい! ごちそうさまでした!!」
ぺこりと頭を下げるクリスさんに『いえいえ、アンディのお陰よ♪』と返しながらも、眠そうに欠伸を噛み殺しているニーナさん。
「ねぇ、レナ……セリエさん達はどうするの? 起きそうにないけど」
「うーん、まぁ、このままほっといても大丈夫だろうけど……レイチェルさん、部屋空いてる?」
「そうねぇ……二人用が1部屋だけ空いてるんだけど」
「そうなんだ。―――だったらそこをセリエさんとミルカで使って、ウチの部屋にザックさん放り込むか? ミルカのベッドは使わないからさ、どう?」
「うん、わたしは良いよ? 別にベッドもレナだったら使って良いし」
「ありがと。なら先に運んでしまおうか。レイチェルさん、お願いします」
「ええ。案内するわ―――アンディ、男性のお客さんお願いね」
「おう。任せろ」
言うが早いか、アンドレイさんが軽々とザックさんを担ぎ上げる。
ザックさん、大剣使いだけあって体格も良いし、装備も含めると結構な重さだろうに。
レナードがセリエさんをお姫様抱っこで抱え上げ、一緒に僕らも部屋に戻る。
「ちょっと待っててね。すぐ戻るから」
無事全然起きない二人を部屋へ運び、僕らはお風呂の用意をして下りるとニーナさんとクリスさんが楽しげに話していた。
「楽しそうだね。何話してたの?」
「ニーナさんと、じーちゃんの話をね。ほんっと、昔からじーちゃんはじーちゃんだったんだな~って」
「ジュリアン師匠は若い頃から破天荒でね~。よくもまぁこの街の教会のトップになんてなれたなって、今でも思うもの。でも、人望って面を考えればあの人以上の適任は居ないのかもね……」
「人望なんて、集めようと思って集められる物でもないから。人徳だね。
さ、クリスさん送るよ。ニーナさんも途中まで一緒に行きます?」
「一緒に行きたい所だけれど、今夜はもう少し旧交を温めるとするわ」
ニーナさんがレイチェルさんと目配せしてる。
「そっか。久しぶりに会ったなら積もる話もあるよね。
さ、お前達はさっさと風呂に行く!」
と、言う訳で本当に今夜は解散。……クリスさんを送って帰ってきたレナードと、風呂から戻った僕が一晩中ザックさんの豪快ないびきで眠れなかった、なんて事もあったりしたけど、楽しかったな。
「起きろ~、ディート。眠いだろうけど……もう朝だぞー。」
いつになく覇気のないレナードの声で目が覚めた。
「―――おはよ、う……」
言いながらも、欠伸が……。完全に寝不足だ;
よく見れば、レナードもかなり眠そうな顔をしてて、お互い目を合わせてため息を付いてしまった。
「完全に盲点だったなぁ……この有様じゃ日帰りの依頼だけにしないと辛いかなぁ;」
ボソボソと言いながら未だに高いびきのザックさんを起こしに掛かる。
「ザックさーん、朝だよ! 起きろー!」
―――無反応。変わらずガーガーといびきかいて普段はレナードが寝てるベッドで大の字になったままだ。さすがに装備類は外してあるけど。
既にもう何度も起こそうとしてたのか、レナードの表情がイラッとしたモノに変わる。
「いい加減とっとと起きろッ!! オッサンッ!!」
耳元で怒鳴るとようやく目が覚めたのかガバッと起き上がった。
事情が飲み込めないんだろう、キョロキョロと周りを見回してる。
「え、ここは……よ、よう、兄さん、坊主も……???」
「やっと目が覚めたか; ここは飛龍の翼亭のオレ達の部屋だよ。セリエさん共々潰れちゃったから、もう一部屋借りて男女で別れたんだ。
勝手に運んだ自業自得なのかも知れないけど、お陰でオレ達は超絶寝不足だ。―――理解した?」
レナードの不機嫌そうな説明台詞に、ザックさんも自覚があるんだろう。ベッドを飛び降りて土下座した。うわー、こんな平身低頭な土下座は初めて見たな。しかも今のってジャンピング土下座?!
「済まねぇ!! ど、どうも俺は大酒飲んで寝るとデカイいびきをかくらしくて……;
仕事中は酒は一滴も飲まねぇ!! 本当だ!! 信じてくれ!!」
……なんて結末になった。
因みにミルカとセリエさんの方は何の問題もなく朝を迎えたらしい。朝食で顔を合わせた僕達を見て驚いていたくらいだった。
*** ***
そして、所変わって冒険者ギルド。セリエさんは先に出勤したので、僕達は約束の10時少し前に着いたんだけど、もうクリスさん達が待っていた。
”達”って言うのは……その、今日の見学者? がやたらと増えていたんだ。
神殿からはクリスさんとジュリアン司教、それに教導館の小さい子達が12~3人も居るだろうか。
それからニーナさんとモルブさんに、その弟子という若い? ドワーフの男の人。
更に、ギルド職員さんや講師の面々が多数に、物見高い冒険者達まで。
「―――ヒマか、お前ら;」
寝不足だからか、レナードの機嫌と言葉がやたらとキツ目だ。
「ご、ごめんなさい、レナードさん; 何だか話が大きくなってしまって……」
セリエさんが恐縮そうに謝っている。その隣に、見慣れないおじさんが居る。
「だからってギルドマスターまで出てくるような事ですか。さすがはジュリアン司教のお仲間だけありますね、ファルグさん」
レナードが”ギルドマスター”と呼んだのは、何となく貴族の家の執事みたいな雰囲気の壮年の男性。と言うのも片眼鏡をかけ、ビシッとスーツ? を着こなし、背筋もシャンとしているから。
「何を仰いますか。こんな楽しそ……いえ、ギルドの為になりそうなイベントはしっかり観覧させて頂きますよ? 私の事は気にせず、ささ、どうぞ始めて下さい♪」
「……本音隠れてませんよ; ジュリアン司教も、なんで子供達まで一緒なんですか?」
ギルドマスター……ああもう、面倒くさい! GMの隣に陣取っている教導館ご一行様。
「いや~、クリスがお主に武器の選び方? を教わると聞いてのぅ。
最初は儂だけ来るつもりだったんじゃが、是非とも二つ名持ちの冒険者を見たいと子供らにせがまれてしもぅてな」
こちらもまぁまぁ恐縮してる。とは言え、GMと顔を見合わせ笑っている辺り、絶対共謀してるよね。
「今から帰れってのも、まぁ無理か。仕方ない。始めるか。
―――クリスさん、どうする?」
いきなり話を振られたクリスさんは、昨日と同じ服……服か? 鎧? もうどっちでも良いか。見たトコ服だから、服で。
「やっぱり、最初はコレでお願いします!」
と昨日の棒……じゃなくて、三節棍? を差し出す。
「ん~、良いけど、ホントにオレそんなに上手くないよ?」
と言いつつ、艶やかな真紅の棒を受け取ると、クルクルと器用に回してみせる。
そして棒状から三節棍へと変化させると、ヒュンヒュンと風切り音を立てながら更に回す。ある程度動きを試した所でジャラリと鳴らして止まった。
ギャラリーからは『おお~!』と声が上がって自然と拍手が起こった。
子供達も口々に『スゲェ!』とか『かっけー!』とか言ってるし。
「充分凄いじゃん! 何処が下手なんだよ?!」
「実戦にはほど遠いよ; やっぱりオレは普通に棍の方が楽かなぁ。
幸い今は上手く出来たから良かったけど、下手こいて自分に当てちゃうと、それはもう悶絶もんだし;」
と、またいそいそと棒状に戻す。
「あ、そうだ。セリエさん! 今、棍の講師の人って居る?」
「はい! って、あれ? ちょ、ちょっと待って下さいね;」
慌てて人垣に消えたセリエさんが、講師の人だろう男性を引き摺ってくる。
「勘弁してくれよ、セリエ……俺、講師っていってもレベル低いんだってば;」
「何言ってるのよ! 折角の機会なんだから、勿体ないでしょ?!」
「ううう……そりゃそうだけどさ; 俺、技能レベル、Dだぜ?
マイナーだからそんなに受けたがる奴も居ないし……」
うじうじした事を言っている講師に、GMが声を掛ける。
「もしかしたら、今日から増えるかも知れませんよ?」
と、教導館の子供達がキラキラした目でレナードを見つめているのを見遣る。
「流石に三節棍は無理でも、棍なら子供でも覚えられますからね。
護身術程度ならギルドで教室を開くのも良いかも知れません」
キラーン! という音を付けたくなる様な表情でGMが悪そうな顔してる……。
「出来たら簡単な手合わせも見せておきたいんですけど……相手お願い出来ます?」
講師は渋々訓練用の棍を二人分用意して、対峙する。
「お、お手柔らかにお願いします……」
「オレの方こそ。少しかじっただけなので、宜しくお願いします」
GMが開始の声を掛ける。なかなか良い感じだなーと思って見ていたら、ジュリアン司教が痺れを切らせた様に声を上げる。
「レナード殿! そろそろ本気で行きなされ!」
視線を外してポリポリと頬を掻いた後―――。
「んじゃまぁ、そーゆー事で。」
カンッ!!
あっという間に講師の棍を飛ばしてしまった。そして棍の先を尻餅を着いた講師の鼻先に突き付けている。
「ま、参りました……ッ!」
またもやギャラリーから歓声と拍手が起こる。
講師に手を貸し、立ち上がらせると『ありがとうございました』と頭を下げて訓練用の棍を返す。
「クリスさん、棍はこんな感じだけど……どうだった?」
「やっぱり三節棍は難しそうですね。まだ棍の方なら何とかなりそうですけど。
―――じゃあ次は、体術? 格闘術、かな? お願いします!」
「え、オレ体術は別に得意じゃな……うわぁッ!!」
レナードが会話の途中で首根っこを後ろに引っ張られる。
そこにはやたらニコニコ笑顔のジュリアン司教が、防具一式? を手に立っている。
「さぁ、始めようか!」
もう自分はちゃっかり防具を装着済みだったりするじーちゃんは、やる気満々でファイティングポーズを取った。
「―――えぇー……;」
なんでこんな事に、と言いたげな表情のレナードが、やる気なさそうに防具を着け始めるのを、ジュリアン司教は満面の笑顔で待っている。
「だ、大丈夫なの? 司教さん……」
「大丈夫だと思うよ? じーちゃん鍛錬はずっと続けてるしね。
前の競技会でも、格闘部門ダントツで優勝してたし」
「キョーギカイ??」
「うん。3年に一回、ギルド主催で腕自慢の為の大会があるんだ。
各部門に分かれてて、見物人も結構集まるんだよね~」
「―――何それ?! 初めて聞いたんだけど?!」
なんかまた変な方向に進みそうだなぁ;




