第34話 ぼた餅orおはぎ?
お久しぶりです;
ザックさんを見送って、僕達はまたテーブルの部屋に戻って椅子に座る。
「う~ん、今回はどれくらい掛かるかなぁ」
レナードが呑気な事を言いながら、またお菓子に手を伸ばしてる。
「それ、好きなの? えっと、何て言ったっけ……」
「ああ、これ? ”おはぎ”でも”ぼた餅”でもどっちでも良いよ?
元々同じ物だし」
「え? じゃあなんで名前が違うの?!」
「ん~、名前の元になってるのが、季節の花、だからかな?
東方の島国には大陸と違って、周期的な気候の変化によって一年の内に春・夏・秋・冬といった季節があってね。
”ぼた餅”は春に咲く牡丹って花、”おはぎ”は秋に咲く萩の花が語源って言われてるんだ。
丁度東方では、その時期にご先祖様を敬う行事があって、”ぼた餅”や”おはぎ”はお供えされるお菓子の定番なんだよ」
「ふぅん……。レナードってさ、そーゆー事無駄に知ってるよね」
「うぐっ、無駄って言わないでくれる? いつかは役に立つかも知れないじゃない;
何か傷つくなぁ……。―――ああ、あんこの甘さに癒されるぅぅ」
「ちょっと意外。レナードは甘いのはあんまり好きじゃないって思ってた」
「確かに、甘すぎるのは苦手だけどね。そうだなぁ、これからスイーツっぽい物も作ってみるかなぁ。甘い物って、疲れてる時にも良いんだよ。
あー、ヤバい。久しぶりにあんこ食べたら、他の物も食べたくなってきた……」
そう言って、いつかみたいにテーブルにべたっと伏せてしまう。
「大福、どら焼き、羊羹、水羊羹、葛餅、最中、ぜんざい、お汁粉、たい焼き、八つ橋、大判焼き、きんつば……」
何だろ? 全部お菓子の名前なのかな……ちょっと呪文みたいに呟いてるけど;
「みたらし、草餅、あんみつ、ういろう、カステラ、柏餅、桜餅、わらび餅、ところてん、すあま、ちまき、練切、栗饅頭、柚餅子、甘納豆、石衣、おこし、あられ、煎餅、卵ボーロ、かりんとう、金平糖、らくがん……」
どんだけあるんだよ?!
「一段落したら、一回東方行こうかな……」
大きなため息と共にそう最後に呟いて、ムクリと起き上がる。
その目が……またここではない、どこか遠くを見ている気がして。
「―――ぼ、僕らを置いて行くの?!」
思わず口を突いて出てしまった言葉に、彼がはっとしたように僕を見つめる。
「行かないよ。もし行くなら、一緒にだ」
柔らかく笑って、僕の頭をポンポンする。
「はは、ダメだな。懐かしくてつい、ホームシックになったみたいだ。ごめんごめん;
でも、東方のお菓子もいっぱい種類があって美味しいんだぞ~♪」
いつもの飄々としたレナードが笑ってみせる。でもどこか寂しそうに見えるのは気のせいだろうか?
そこへパタパタと軽い足音が走って来て、ミルカが顔を出した。
「おまたせ~! 決まったよ、見に来て!」
有無を言わさず、グイグイ腕を引っ張られる。
「じゃ~~~ん!」
そこに居たクリスさんは、見た事ない色だけどもう随分見慣れた服装で。
「……それって神官服?」
全員の視線が『え―――……;』って感じで集中した。
「兄さんには元から期待なんてしてないけど……ドン引き;」
「どうして男の子って、ある程度の年になるまではオシャレに無関心なのかしらねぇ」
「ディート君……;」
「いくら何でも、神官服はないわー;」
何で? 僕が悪いの?! だって、神官服そっくりじゃん!!
「確かにデザインは神官服に寄せてはあるけど、全然違うぞ?
そもそも、神官服にこんなほんのり淡いピンク調の白はない」
「そうね……ルキア教の神官服は”蒼の導師様”にあやかって、青色が基調だものね」
「”あおのどうしさま”? ただの導師様じゃなくて??」
一瞬キョトンとしたニーナさんが、ポンと手を打つ。
「ああ、あなた達、子供向けの絵巻物を見たのでしょう?
アレは、小さな子供にでも分かり易いように、かなり簡略化してある物だから。
あそこに書かれた”ヒト”は、子供向けには単に”導師様”と教えるから。
初級学校を出て、更にルキア教を深く学ぶ者には”ルキア教正伝創世神話”が教えられるのよ。その中での正式名称は”蒼の導師様”となっているわ」
「ふぅん。でもなんで”蒼”なんだろう?」
「それは……え、何?」
レナードがニーナさんに苦い顔で首を振って、クリスさんを視線で示す。
悲しそうにちょっと涙ぐんでる? う、しまった……;
「あらいけない; ワタシとした事が……。ルキア教の正伝に関しては、知りたいのならまた今度話してあげるわ。
今日は、あくまでクリスちゃんが主役ですからね!」
ちょっと焦った様子のニーナさんが、クリスさんの肩を持って前に押し出す。
……けど、僕にはやっぱり神官服にしか見えないんだけど。
すると、暫くじーっと見つめていたレナードが口を開いた。
「何て言うか、ミルカのカワイイ系とは違ってスッキリキレイめに纏めたんだね。
それに……結構動きやすさを重視してるのかな? 胴体の防具は最低限心臓部分を守るブレストプレートのみ。神官服に似せた貫頭衣タイプの上着に上腕まで覆う手袋と、肘まである金属の手甲。
下はキュロットにニーハイソックス、ちょっと無骨なロングブーツ……って、これもしかして鉄板仕込んでない?!」
「あら~、レナードさんって何でもお見通しねぇ」
やはり感心したようにニーナさんが笑ってる。
「いや、でも確かクリスさん、武僧兵はヤダって言ってなかった? 今の感じだと随分格闘戦闘に振ってる感じだけど」
「う~ん、そうだったんですけど……ニーナさんと話してる内に思ったんです。ボク、割と向いてそうなんですよね~。格闘戦とか、棍とか」
と、後ろ手に持っていた長い棒を出してくる。
「……それ、ただの棍じゃないね。ふむ、三節棍か……また、慣れるまで大変な武器を出して来たなぁ;」
「レナードさん、もしかして三節棍使えるんですか?!」
「……う~、一応使えなくはない、くらいだよ; 以前ちょこっとかじっただけだから」
神殿で能力値を見た時には、あんまりにも素質や技能の数が多くて、ぱっと目に付いた物にしか意識が行かなかったけど。
「片手剣だけじゃなくて棍も使えるんだ……どれだけ使えるのか、実際に見せてよ」
前にも似たような事を言った気がするなぁと思いつつ、再度強請ってみる。
「え~~~; 何処でだよ?」
あんまり乗り気じゃなさそうなレナードは、顔を顰めてるけど……思わぬ方向から援護が来た。
「それなら、ギルド併設の訓練場はどうかしら? クリスさんに他の武器も訓練用の物で良ければ試して貰えるし、明日なら剣技の講師も出勤してる筈よ」
セリエさんが何とも有難い提案をしてくれる。後半は僕が武技を覚えたいって言ってたのを覚えてくれてたんだろう。
「良いんですか?! だったら是非お願いします!!
レナードさんもどうかお願いします!
ボク、どの武器が自分に合ってるのか、まだ全然分からなくて……」
「……下手に選択肢があるのも迷っちゃうから考え物だよね;
セリエさん、杖とか格闘技の講師って居るのかな?」
「居るには居ますけど……片手剣ほどポピュラーではないので、技能レベルは低いです。それこそ所属の冒険者や、引退後の先輩の方が高いくらいではないかと」
「その先輩って、ジュリアン司教ですよね?」
「ええ。って、レナードさん、司教様ともお知り合いなんですね。
―――本当に、人脈がもの凄いですね……」
もはや呆れ気味にセリエさんが零す。
「はは、ジュリアン司教はクリスさん繋がりでね。
じゃあどうしようか? 明日の朝、またギルドに集合、で良いのかな?」
「うん、いいんじゃないかな? ギルドって朝何時からだっけ?」
「朝は9時から開いているけれど……大丈夫? ミルカちゃん、朝は弱いんじゃなかった?」
「う゛……9時、はツライ、かも……せめて講習と同じで10時……とか、ダメ?」
ミルカが上目遣いで周りを見る。
「そうだね~。ボクも朝はやる事があるから、10時くらいの方が嬉しいかな」
クリスさんも繰り下げ希望らしい。
「やる事?」
「うん。院の子達の面倒見なきゃいけないし、教会自体『お祈り』だの、『整理整頓』だのって朝から日課があるんだよね……」
はぁぁ、とため息と共に愚痴が出る。
「教会なんだから、規則があってお堅いって言うのは分かってるんだけど……ねぇ。
ホント、早く冒険者になって出たいって言うのが本音なんだ;」
「そ、そうなんだ……」
「じゃあ、神学校に進んだのは手っ取り早く冒険者の”神官”になる為の手段だったって感じかな?」
「ホントそれ。あの場所や人達は好きなんだけどさ……」
レナードの指摘にクリスさんが苦笑しながら応える。
「明日ワタシもギルドにお邪魔しようかしら……見学に」
この魔法屋『魔女っ子天国』の店主、ニーナさんこと伝説の冒険者パーティ”豪雷”の巨賢王ヴォルフガング・ザヴィニー氏がニコニコ笑顔で言った一言は、僕とミルカ以外には結構な爆弾発言だったみたい?
何故か3人が固まってる。
「現役の冒険者でなくても構わないかしら?」
「ぜ、全然ッ!! 構わないです!! むしろ是非おいで下さい!!」
「オレ、見学される程じゃないんですけど……」
「ニ、ニーナさんも来てくれるの?!」
「もう随分長い事ギルドには顔を出していないから、どうなっているのかちょっぴり興味もあるし、クリスちゃんの武器の事もあるから見てみたいって感じなのよ。
なんならモルブのとっつぁんも呼びつけちゃおうかしら?」
なんて言いながら楽しそうにニーナさんが笑ってる。
「え、モルブ……さんって、”豪雷”の武器を作っていた名工の?!
あの方も、”豪雷”の解散と同時に引退を宣言されていましたよね……?」
「ええ、まぁ……そうなんだけどね。とっつぁん程の腕をあのまま埋もれさせるのもどうなのかって、常々思っていたのよ。
だって本人は至って元気に鎚を振るってるんだし」
「あー……それであんな感じだったんだ;」
あの、開店休業中というか、閑古鳥が鳴いてる感じっていうか。
「確かに、隠居するにはまだまだ早いよね。
見たトコ人間ならまだ40代前半って感じだったし」
レナードがポツリと言った。全員の視線が集中した。
「……ん?! 何? どーしたの?」
「ああ、いえ、ね? ドワーフの年齢ってワタシ達には結構分かりにくいんだけれど……。
昔聞いた年から換算すると、そうね、丁度それくらいになるかしら?」
「ドワーフって僕らより長生きなの?」
「そうね。彼らの種族は人間の3倍くらいの寿命らしいわ。
エルフだと平気で1000年くらい生きるらしいけれど……。
とは言え冒険者なんてやってると、『寿命で死ぬ』方が少ないでしょうけど」
ニーナさんのどこか遣る瀬ない言葉に、レナードが頷く。
「そうだねぇ。ちゃんと引退出来て、その後もギルドに頼らず各自で生計を立ててる”豪雷”の人達は結構なレアケースなんだよ」
「ふぅん……?」
そんな事を言われても、まだ冒険の第一歩すら踏み出してない僕には良く分からない。
「下手すると、病んじゃう人すら居るからね……。
まだお前達には分からないだろうけど、魅入られないようにしないと」
「意味分かんないよ;」
「ま、今はね。その内分かるよ。
えーと、じゃあ明日の朝10時で決まりで良いね?
ザックさんには……オレから知らせようか? それともセリエさん?」
「私からだとスルーしそうだから、レナードさんお願い出来ます?」
「了解です。―――あ、そうだ。ニーナさん、また手頃な巻物があったら売って欲しいんですけど。この間の大熊のせいで手持ちがスッカラカンになっちゃって;」
「あらあら……何か良い物あったかしら。ちょっと付いてきて下さる?」
「ああ、はい。じゃあ、もうちょっと待ってて。
そうだ、セリエさんもまだ時間あるなら、ちょっと早いけどアンドレイさんトコで晩飯一緒にどう?
クリスさんはその後で神殿まで送るからさ」
「時間あります!! 行きます!!」
「え、ボクも良いの?! やった!! 美味しいゴハン!!」
超絶乗り気の二人に微笑みながら、レナードはニーナさんに付いて奥へと消えた。




