第32話 聞いて驚け
「あら、いけない。感傷的になってる場合じゃないわね。
ところで……レナードさん、転職なさったのね?」
「ええ、そうなんです。ディートに侍が無理なら忍者を目指せと言われまして……。丁度、盗賊がLv.30に近かったし、上げきって暗殺者に」
「そう、忍者を目指すのね……。なるのが大変な職なだけに、その分強いから、頑張ってね。ホント、忍者の強さはコシローちゃんで重々思い知ったもの。
まぁ、でもレナードさんなら案外あっさりなっちゃうのかしら?」
なんて、ニーナさんがモルブさんみたいな事を言い出す。
「なれませんからッ!! でも、モルブさんから刀を貰えるまで、足掻いて見せますよ」
「まぁ、モルブのとっつぁんが刀を……? って、あの刀を、ねぇ。
そう……レナードさん、随分とっつぁんに気に入られたじゃない?」
「うーん。実際はどうなのか分かりませんけど。
って、いつまでも喋ってちゃダメだな; 今日はクリスさんをお願いしますね」
とレナードが話を切り上げる。
「ええ、任せて頂戴♪
……そうだ、セリエさんも意見を聞かせてくれない?
もし良かったら、一緒に来て話を聞かせて欲しいのだけど……お時間はあるかしら?」
「え、あ、はいッ!! 今日はもう仕事は終わっていますので、私で宜しければ、是非!!」
周りをうっとりしたような目で眺めていたセリエさんが、我に返って返事する。
「殿方達はそこで待っていて頂戴ね。
ああ、でも長くなりそうだから、他に用事があるなら帰って貰っても構わないけれど」
「了解です~」
「宜しくね。じゃ、早速始めましょ!」
そう言うやいなや、女子? 4人は服を見ながらキャッキャと盛り上がっている。
「……そんなに長くかかんのか?」
「そうだね~。前回のミルカの時はディートが腹減らしすぎて倒れたし。
バルザックさんは適当な所で帰って良いと思うよ。
最低限の事だけ決めれば、後は”タグメール”で何とかなるだろうし?」
「それもそうだな。じゃあサクッとナンバー交換済ませちまうか」
二人は各々冒険者認識票を出すと、並べるように差し出す。すぐにピロン♪ と音がして、二人とも冒険者認識票を戻した。
「ん、これで良し、と」
「今、何したの?」
「ああ、”タグメール”のナンバー交換したんだよ。
って、お前達も冒険者認識票持つようになったんだから、ちゃんと教えておかないといけないな。
冒険者認識票には、表には見えないけど、内部情報として登録時の内容が記録されてるのは知ってるだろ?」
「うん……ギルドじゃないと中身は見られないって聞いた」
「そうそう。それから、登録情報以外にも、初めて登録したギルドの場所と番号が振られてる。
その番号を、今みたいに冒険者認識票同士を近づけてお互いに交換しておくと、”タグメール”っていう機能が使えるようになるんだ。
200文字までの文章を送る事が出来るのと、位置情報を送ったりも出来たりする」
「え、それってすっごい便利じゃない?!」
僕が素直に思った事を言うと、しかしバルザックさんは渋い顔をする。
「まぁ、便利は便利なんだがなぁ……。焦ってたりするとスラスラ文章が書けねぇっつーか、緊急時にはどうにも使えねぇっつーか、なぁ?」
「慣れも有るんだろうけどね~。位置情報も結構近くまで行かないと、かなり曖昧だったりするし……。確かに緊急時にはイマイチアテに出来ないかな?
しかも、地味に”タグメール”送る宛先ごとにMP1ずつ取られるしさ」
そうそう上手くは使えないって事か;
「ふぅん……そもそも文章を書くって、どうやって書くの?」
「じゃあ、そうだな。オレとナンバー交換して、実際に書いてみると良い。
さ、ディートも冒険者認識票出して」
レナードがさっさと自分の冒険者認識票を再度出してくる。
「う、うん」
僕も引っ張り出して、さっき見た様に差し出すと、ピロン♪ と音がした。
「交換出来たね。じゃあ、ディート、『タグメール』って言ってみて?」
「『タグメール』?」
すると、『能力値』を見る時みたいに、目の前に画面が現れた。
四角い画面には、上から”to”、”title”、”Body”と別れている。それから、画面の右下には何故か弓と矢の絵の描かれた丸がある。
「”to”は宛先の事だよ。普通に『to』とか『宛先』って言うか、指でその辺を触るようにしても、宛先一覧が見られるから、宛先も言葉で選ぶか、触るようにしても良い」
言われた通り、指でその辺りを触るようにすると、画面が変わる。ぽつんとレナードの名前だけが浮かんで見える。それを触ると元の画面に戻ったけど、”to”の場所にレナードの名前が入ってる。
「次に”title”だけど……入れなくても送れるから、入れない人の方が大多数かな?
単にせっかちなのか、面倒臭いだけなのかも知れないけど。
で、”Body”って言うのが本文、知らせたい内容を書く場所だけど、それも口で言うなり、指で触るなりして、選んでから本文を書く事になる」
僕は頷きながら指で触ると、今度は何にもない画面が現れる。
「これ、どうやって文章書くの?」
「頭で思い浮かべるだけ。……なんだけど、慣れるまでは意外とややこしいんだよね~」
苦笑するレナードに僕は『なんだ、それだけなんだ。全然簡単じゃないか……』って思って、画面に目線を戻すと―――
『なんだそれだけなんだぜんぜんかんたんじゃないか』
えええ―――ッ?! 何だよこれ?! 違う違う、違うって!!!
『なんだそれだけなんだぜんぜんかんたんじゃないかえええなんだよこれちがうちがうちがうって』
ちょ……どうしたら良いんだよ~?! これ書き直せないの?!
『なんだそれだけなんだぜんぜんかんたんじゃないかえええなんだよこれちがうちがうちがうってちょどうしたらいいんだよこれかきなおせないの』
「あ~、パニクってるパニクってる……;」
「”初心者あるある”だな~。初々しいというか何というか」
大人二人が生温かい目でアワアワしてる僕を眺めてる。
「ちょっと!! どうしたら良いの、教えてよ!!」
その間にも画面の中の文章はどんどん長くなっていく。
「まずは落ち着け、ディート。それから、多分意味不明になってるだろう文章は、『全削除』って言ったら全部消えるから。
書きたい言葉だけ思い浮かべて、画面に出たのを確認して、それで良かったら右下の弓矢のマークを指で触るなり、『送信』って言えば良いよ。じゃあ、頑張って」
何とか言葉を書いて弓矢のマークを触る。すぐにレナードの方からピロン♪ と聞こえる。
「届いたのを見る時も『タグメール』って言えば、届いてる一覧が表示されるから、見たいのを言うなり、触るなりして選べば中身を見られるからね」
とレナードが僕からの『タグメール』を確認すると、フッと笑って『送信』と呟いた。
ピロン♪ と僕の冒険者認識票から音がする。
「『タグメール』?」
開いた画面には、レナードからの返事が届いている。触って中身をみると、『どういたしまして』とだけ書かれていた。
顔を上げるとニコニコして僕を見てるレナードと目が合った。何故か顔が一気に熱くなって恥ずかしくなってきた。
「ま、『タグメール』は単純に数こなして慣れるのが一番だから、練習するなら付き合うよ。
あとでミルカやみんなとも交換しないとな。
後は……パーティとして登録すると、一斉に同じ文章を送れるから、集合場所なんかを知らせる時には便利だよね。その分MP取られるけどさ;」
「そうなんだよ……だから、俺は一回魔術師に送って、全員に回して貰ってる。只でさえ戦士系はMP低いのに、俺がパーティメール発信すると5も取られちまうんだからよ;」
ぼやいてるバルザックさんに、漸く顔の火照りが収まってきたんで聞いてみる。
「バルザックさん、MP低い低いって言うけど、どれくらいなのさ?」
憮然とした表情でくれた返事は
「聞いて驚け、たったの62だ;
いくら戦士系だからつっても、せめてもーちょい欲しかったぜ……」
「え……62ってホントに?! ぼ、僕もそれくらいにしかならないのかな……」
「まぁ、俺は元々からして少なかったからなぁ。
冒険者になった時でも10しか無かったんだから。坊主はいまMP幾ら有るんだ?」
な、なんか……気まずいな……;
「―――えっと、25……」
バルザックさんが寂しそうに笑いながら言ってくれる。
「だったら、将来的に俺より少ないなんて事はねぇと思うぞ……俺は今Lv.41だけどよ」
―――え?
「おう、どうした? えらく驚いた顔して……?」
「バルザックさん、Lv.41って……高い方?」
「ん~、他はどうか知らねぇが、シュミットガルトじゃまぁまぁ高い方、かねぇ。
それがどうかしたか?」
「え、いや、その……」
思わずレナードを見る。
「あー……。うん。察した。
兄さんは二つ名持ちで、ランクSも近いって噂もされる程だからな。
まだランクAに上がって二年も経ってない俺とじゃあ、比べるまでもねぇやな」
「一応断っておくけど……別に、楽して今がある訳じゃないからね? 死にかけた事だって両手で足りないくらい経験してるし。
正直、色々運が良かっただけだよ、オレは」
何というか、二人とも普通に大人だなって思った。
「そういや、神官さんもレナードは若いのに『能力値』高いって言ってたっけ。
だから苦労したんじゃないかって……」
「星の数程の『能力値』を見てきた神官に、そこまで言わせるとはなぁ。
兄さん、因みにLv.は幾つなんだ?」
レナードは一瞬躊躇して、でもボソッと零す。
「―――55、です。」
バルザックさん、驚愕ッ!!
「じゃ、じゃあ、HPとMPはッ?!」
聞かれてレナードは自分の能力値を確認してから答える。
「HPは746、MPが393、です」
バルザックさん、またもや驚愕ッ!!
「す、スゲェ……魔法系の職でなくても、MPそこまで行くんだなッ?!」
やっぱり、気になるのはそっちなんだ。
「ねぇ、バルザックさん。レナードってHPも多いの?」
「んん? お、おう、HPな? んー、前衛職じゃないにしちゃ、わりかし多めって感じか。
とは言え俺もまだ漸く700に乗ったくらいだからなぁ。
うーん、せめて前衛職の意地でHPだけでも抜きてぇなぁ……;」
「前衛職はHPとか筋力、耐久力の伸び率が凄いからね。その内あっさり抜かれちゃうと思うよ? 暗殺者って敏捷と器用さが上がりやすい職だから」
「ああ、そうか。兄さん、暗殺者に転職したって言ってたな。
んで、忍者を目指すって。なんつーか、お互い難儀な職を目指しちまったなぁ?」
「ホントにね……; 目の前のニンジンがなかったら、絶対挫折しそう……」
レナードが項垂れる。
「ニンジン……? ああ、何かさっき言ってたな? 『モルブさんの刀』とかなんとか。
そんなスゲェ得物なのか?」
「―――装備制限抜きにしても、今はまだ扱える気がしないくらいには。
今度、武器工房のモルブさんも紹介するよ。バルザックさんにも贔屓の店はあると思うけど、”豪雷”馴染みの職人さんだから一度は行ってみる価値あると思うよ」
「へぇ~、そりゃあ楽しみだな~♪ 今の坊主の武器もそこのなのか?」
「うん、小剣とナイフ……これだよ」
出して見せると、バルザックさんが一声唸って、黙り込んだ。柄を握ってみたり、目を眇めて刃を見たり、じっくりと検分する。
「―――確かに良い得物だ。その分良い値段しそうだが;
兄さんもそこの武器屋の得物持ってるのか? ……って、兄さんメイン武器は? 丸腰なのか?」
見た所、以前同様両太ももに装着された大型ナイフ以外に、武器らしい装備は見当たらない。
「あ……いや、持ってるよ。片手剣と石弩なんだけど、丁度良いか。
パーティ組むんだし、バルザックさんにも話しておくか」
そう言って前に出した手に、突然鞘に入った剣が出現する。
「って、おい……ま、まさか、異空庫、か?!」
バルザックさん、三度の驚愕ッ!!
「うへぇ、生まれて初めて見たぜ……。実在したんだな、”異空庫持ち”。
今の今までホラ吹きの与太話だと思ってたのによ。
いや~、驚いた。今日だけで色々驚かされたが、一番の大ネタじゃねーか;」
ぺたりと額に当てた手を、そのまま口まで滑らせて顎を掴む。
「まあ、兄さん程強けりゃ大抵の相手なんぞ返り討ちに出来るだろうが……。
―――いやいや、口外する気はこれっぽっちもねぇって!!
とは言え、漸く腑に落ちたぜ。鍋とか包丁とか、その他諸々」
メールなのかLINEなのか、はたまた矢文なのかw




