第31話 悪目立ち;
呆れたように言ってから、レナードは続ける。
「とは言え、能力値見るには、魔晶石が大きい方が見やすいから、悪い事ばかりでもないっちゃあない、かもね?
まぁ、金持ちには精々金を使って貰って、経済を回して貰わないとね。
『金は天下の回り物』って言うし、ため込まれてると色々よくないからさ」
じーちゃんも同調する。
「うむ。物は考えようじゃな。例えばウチにどこかの貴族が、より大きな魔晶石を寄進したとすれば、今在る魔晶石は近隣の神殿へと譲渡される事になる。
そうなれば、運搬やその際の護衛などにも費用は発生し、多少とはいえ経済を回す事にも繋がるのじゃよ」
「でも、そうそう大きくてキズも曇りもない魔晶石って、なかなか見つからないからねぇ」
「……そんな大きなの、例え見つけたとしても、持って帰るの大変じゃないか;」
『職選択の間』で見た巨大な魔晶石を思い返す。
「でも、レナなら大丈夫なんじゃない?」
「ミルカッ!!」
他人が居る前で言うなんて、ミルカの奴ッ!!
「―――え、あ……っ」
気が付いたらしいミルカが、思わず口を押さえて身をすくめ、レナードを見る。
「ああ、大丈夫だよ。ジュリアン司教には昨日の内に話してあるから。
クリスさんを預かるんだから、こちらの情報はなるべく明かしておかないとね。
心配させるのもなんだしさ」
笑って話すレナードに、止めていたらしい息をフゥーっと吐いてミルカが脱力する。
「よ、良かった~; うっかりバラしちゃった……;」
「ジュリアン司教やイザベラさんみたいなルキア教の人なら、そう警戒する事もないだろうけど、他の人の前ではちゃんと内緒にしといてくれよ?
これから暫くはシュミットガルトを拠点に行動するから、知り合う人間も増えていく筈だし」
「う、うん。ゴメンね; 気をつける!」
「確かにレナードさんなら大丈夫かも知れんのぅ。魔晶石に限らずとも、もし何か良いブツが有れば頼むぞ?」
「言い方! ブツって何だよ~w アヤシい物みたいじゃないか~」
混ぜっ返すクリスさんに、みんなが笑う。
いつもこんな感じなのかな? なんか良いな、こーゆーの。
和やかな昼食を終え、じーちゃんとイザベラさんに見送られて神殿を後にする。クリスさんを連れて、いざ、ニーナさんの店へ!
……行こうとしたら、冒険者ギルドの前でバルザックさんとばったり逢った。
「バルザックさんだ!」
「―――ん? おお、新人達に兄さんも一緒か。
お揃いでどっか行くのか? ま、まさか俺を置いて依頼じゃないよな?!」
妙に情けない顔でそんな事を言う。なんだか、ちょっと元気ない?
「違うよ~。ニーナさんのお店にお礼と、相談に……そうだ! バルザックさんも一緒に行こう? パーティ組んでくれるんだもん、ニーナさんに紹介しなきゃ!」
「??? ニーナさん? って誰なんだ?」
話の見えないバルザックさんはキョトンとしてる。
「魔法屋のニーナさん……しかしてその正体は、”豪雷”の巨賢王ヴォルフガングさん!」
またしても何故かドヤ顔でクリスさんがポーズを決めてるw
「―――なッ……『巨賢王の魔法屋』、マジだったのか。
って、俺も付いていって良いのか?」
「もう用事が済んでるなら、来てくれると嬉しいかな? ミルカの希望だしね。
長くなったら途中で帰っても良いからさ」
「??? お、おう……?」
そんなこんなで、バルザックさんも一緒に……。
「あら、ザックまだ……レ、レナードさん?! みんなも、どうしたの?」
同じくギルドから出て来たセリエさんにも、ばったり。
「これからみんなでニーナさんのお店に行くの♪
挨拶とお礼と、クリスさんの装備の相談に、バルザックさんの紹介も!」
相変わらずミルカはお喋りなんだから……;
ホント、何でもかんでも洗いざらい話してしまうのは悪い癖だよな。
「ニーナさん……確か、”豪雷”のヴォルフガングさんよね?
でも、どうしてザックも一緒なの?」
「いやな、ウチがメンバー欠けてる間は活動休止になっちまってよ。
そんな所へ兄さんが”付き添い”にベテラン募集中だってんで、恩返しとメシに釣られて一時的にパーティ組む事になったんだよ」
とバルザックさんがざっくり説明すると、セリエさんの表情が歪む。
「―――う……」
「う?」
「羨ましいぃぃぃ~~~ッ!!!
私だって、レナードさんやみんなと依頼行きたいのに~~~ッ!!!」
普段のしっかりした”大人の女性”なセリエさんからは、想像も出来ない言動が出て来た。
「私だって、一緒に依頼行こうって約束してたのに、なんでザックが先にパーティ組んでるのよッ?! ズルいじゃない!!」
道行く人や、ギルドの人達がチラチラとこの騒ぎを窺ってるのが分かる。何て言うか、そう、悪目立ちって奴だ;
「じゃあセリエさんも”付き添い”に付き合ってくれる?
休みの日とかに、軽い依頼なら行けそうだよね?」
そんな状況の中でも、レナードがいつも通り飄々とセリエさんを誘う。
……ブレないなぁ、ホント。
「え、良いんですか?! だったらギルドマスター脅してでも、纏まった休みをもぎ取って来ちゃいますよ?」
冗談めかして言ってるけど……あの目はマジだ。
「ちょ、怖いよ、セリエさん;
じゃあ、取り敢えず……セリエさんも、この後お暇なら一緒にニーナさんのお店に行かない? バルザックさんと一緒に紹介しようと思うから」
「―――行きますッ!!! 是非とも!!!」
*** ***
「まぁ、いらっしゃ~い! 待ってたわよ~♪」
クリスさんとセリエさんとバルザックさんの目が点になってる。
うん、まぁ、僕も気持ちは分かるよ?
ニーナさんは相変わらずマダム服だし、お店の中もやっぱり”カワイイ”の洪水だし。
「こんにちは~、ニーナさん♪」
「こんにちは」
「は、初めましてッ!! クリスティーナ・ルキアンです!
新人講習で二人と友達になって、”付き添い”にも一緒させて貰う事になりました!」
やっぱりガチガチな感じでクリスさんが自己紹介してる。
「まぁ~、宜しくね、可愛らしいお嬢さん。魔法屋『魔女っ子天国』の店主、ニーナよ。
―――ジュリアン司教はお元気?
あの人の事だから、まだまだピンシャンしているでしょうけど」
「じーちゃん? めっちゃ元気です! 未だに冒険者の現役で行けそうなくらい」
「ウフフ、相変わらずねぇ~、師匠は……。
で、こちらのお二人は助っ人さん? 軽戦士と大剣使いなんて、また随分腕利きなのを見つけてきたわねぇ」
「まぁ、”付き添い”の間の一時的ではありますが……二人ともランクAだから、オレとしては百人力ですね。男性がバルザックさん、女性がセリエさんです」
と紹介されて、二人が漸く我に返る。
「初めまして、セリエ・バーランドです。お会い出来て光栄です!」
「ど、どうも……バルザック・ブラントです」
「”魔法屋のニーナさん”こと、ヴォルフガング・ザヴィニーよ。
それにしても、残念だわ……お二人とも、バリバリの前衛戦士職なのね;」
心底残念そうにニーナさんが零す。
「ニーナさん、魔術師じゃなくても、装備のオススメってあるかなぁ……?」
ミルカが聞くと、それまでとは一転、爛々と目を輝かせたニーナさんが微笑む。
「それは、もしかして、神官の装備って事かしらッ?!」
「うん、クリスさんの! ニーナさんは賢者だから、神官の装備も分かるだろうってレナが言ってたから」
「勿論よ~! このニーナさんにお任せあれ!
さぁさぁ、クリスちゃん? 気合い入れて選びましょう♪」
と、クリスさんを連れて行きそうだったから、慌てて引き留める。
「ちょ、ちょっと待って!! まだ、お礼言えてない;」
「あら、お礼? ワタシ何かしたかしら?」
心当たりもないらしく小首を傾げるニーナさんに、レナードが事情を説明する。
「実は、ここに居る全員を含む30人程が、ニーナさんのお陰で命拾いしたんです。
新人講習の訓練場近くの森に、ブラッドデスベアが出没して、襲われました。
そいつを倒せたのは、ミルカの杖と、この間何気なしに買ったオリジナル呪文の巻物のお陰ですから。
本当に、ありがとうございました」
レナードが深々と頭を下げる。セリエさんやバルザックさんも下げているから、僕も慌てて倣う。
「そうだったの……それにしても、まさかあの森でS級が出るだなんて。
って、やはり裏がありそうね? まぁでも、あの杖と巻物が役に立ったのなら嬉しいわ。……漸く日の目を見る事になったのだから」
最後は何だかちょっと、ニーナさんが遠い目をしていた。
ここまで来てもまだ冒険出てないって、タイトル詐欺もいいとこだなぁ……




