第30話 掴みはOK……?
しょっちゅうメシ喰ってるような気が……。
「そうなんだ? でもまだ悪い奴らは残ってるんだから、意外と神様も……えっと、導師様? も大したことないって事?」
思わず言ってしまってから、その神様の神官さんに言う事じゃないって思った。
表情にその『しまった……』ってのが出てたんだろう。
「兄さん、やっぱりデリカシーなさ過ぎ……」
ミルカのご尤もな一言が突き刺さる。けれど、イライザさんは……。
「いえ、そう思われるのも仕方ありません。
私達はルキア様と共に成長し、善く在る事に日々務めていますが、それ以上に悪しきものも多く広く存在しています。
ルキア様も、導師様も手助けはして下さいますが、この世界に息づき、生きているのは私達自身ですから……。
正してよりよい方向に向かうのは、私達自身の手で成さねばならない事です」
「そうか、何でもかんでも神様や導師様を当てにしてちゃ、自分自身が前に進めないもんな。困った事は全部神頼みで解決、なんて……与えられてばかりじゃ、成長なんか出来ないよね」
「う~ん、でもコレを読んで、どうしてクリスさんが冒険者を目指したのかが、良く分かんない;」
ミルカは別の方向で疑問らしい。まぁ、確かにコレでなんで冒険者? って感じ。
「ああ、それはですね……」
「ちょっと待った―――ッ!! それはボクが自分で言うよ!!」
子供達相手の自慢話を終えたのか、クリスさんが慌てて部屋に入ってくるなり大声でイライザさんを制する。
「ボクが冒険者を目指したのはね、暗黒竜を倒したいって思ったからさ!」
冗談とかではないらしいのは、そのドヤ顔とキメポーズ? からも分かる。
「え―――……っと、本気、みたいだよね?」
「そもそも、暗黒竜って人間が倒せる……のかな?」
何というか、ちょっと……ドン引き; 神話に出てくるような存在を、倒そうなんてフツー思わないよな、幾ら子供でも。
「大志を抱くのは良い事ですが……ルキア様の封印はどうするつもりなのです?」
「う゛……た、倒せるくらい強くなったら、ルキア様が何とかしてくれると思うし……。
それに、導師様だって来てくれるかも知れないし?
あー、もー、ソレはソレだよ! 志したきっかけがコレだったってだけ!
今のボクの目標は、いつか本当に強くなってじーちゃんや”豪雷”を超えたいんだ!」
「あー、まぁ、それなら納得かなぁ……」
うーん、クリスさん的には”暗黒竜”は話のネタとか掴みって感じなのかな。
それにしたって、ある意味豪快っていうか、それとも身の程知らずっていうか。
でも……純粋なんだなって思う。
逆に自分は……どうだろう? ずっと旅の日々の中で、獣やモンスターは怖い物、恐ろしい物として教えられ、実際幼い子供だった僕にとっては太刀打ち出来ない存在だった。
けれど成長して、今漸く冒険者としての第一歩を踏み出す事になった。
これから、強くなっていつかは互角に、そしてそれ以上に渡り合えるようになりたいとは思うけど……あの大熊みたいなのと戦いたいとかは思わない。ましてや、神話の中の悪い竜となんて―――。
ズキッ。
な、なんだ? 頭が……―――。頭が、痛……い……。
「あー、居た居た~。お待たせー♪ やっと話終わったよ~」
飄々とした声が聞こえた。部屋の入り口にレナードが立っている。
まだちょっと見慣れない黒色の服で。
「あ、レナお帰り~、ってわたしが言うのって変か; でも、割と早かったね?」
「そうかぁ? まぁ、オレ自身の実力で倒した訳じゃないしねぇ?
一通りの流れを話して、例の板は調べて貰う為に預けてきたし。
―――どうした、ディート? 黙りこくって?」
レナードがスタスタと寄ってきて、頭をポンポンする。
「また何か知らない内に怒らせたかな? 機嫌直せよ;」
「え、いや、何にもないよ?! ちょっと……あれ?」
いつの間にか、頭の痛みが消えてる。
「『あれ?』」
「ちょ、ちょっと、考え事してただけだから!」
「ふぅん? って、懐かしいな~。これ創世神話だろ?
ルキア神殿来ると、絶対に一度は見せられるんだよなw」
床に広げてある巻物に目をやって、レナードが笑う。
「でも、暗黒竜って、人間のせいで悪くなっちゃったんだね。
……ちょっと可哀想だなって思っちゃった」
「―――優しすぎたんだよ。それに、人間が好き過ぎたんだろうな、きっと。
でも、その後が悪い。クソ迷惑な狂信者とか、瘴気とか……」
苦虫を噛み潰したような顔ってのは、今のレナードの表情みたいなのを言うんだろう。
いかにも苦々しげに、吐き捨てるように切って捨てる。
そりゃそうか。レナードは教団の虐殺現場に行き会わせてるから、余計そうなのかも。
「みなさん、昼食の用意が出来ましたぞ。学校の子らが帰ってくる前に、先に済ませてしまおう」
じーちゃんが知らせに来てくれた。
「別に一緒でも良いのに。二度手間にならない?」
「多分、食堂の席が足りないし、ある意味みんながいると、戦争みたいだからね~。
それにレナードさんが居るから、絶対騒ぎになるだろうし……先に食べちゃう方が良いよ?」
クリスさんが食堂への道すがら、話してくれた。
教導館の子供達は、じーちゃんの語る武勇伝や”豪雷”の冒険話なんかの影響もあってか、名の通った冒険者に強い憧れがあるらしい。
そんな子供達の前へ、”赤の疾風”であるレナードが現れたら、しっちゃかめっちゃかになる、との事だった。そう言えば、ギルドで聞いた時も、『ランクSに最も近い』とか、セリエさんがファンだって言ってたりとか……。
「……レナードって結構な有名人だったりする?」
「めっちゃ有名人だよ!! 二つ名なんて、そうそう簡単に付かないんだからね?!
しかも、すっごい若い内にランクAになってるし! 大陸の中じゃ知れ渡ってるんじゃないかな?!」
「―――えッ?! そ、そんなに?!」
「クリスさん、買い被りすぎだよ; オレの事なんて知らない人の方が大多数だよ。
街で生活してる人達は、冒険者なんて興味ない人が圧倒的に多いんだし。
まぁ、シュミットガルトは歴史的に、冒険者との親和性が他よりずっと高いから、ちょっと例外に近いけどね」
そんな話をしてる間に食堂へ。6人掛けのテーブルが5つあって、30人は座れるようになってる。もう一つある壁際のテーブルには食器とかカトラリーとか、そう言った物が整然と置かれている。
「ささ、どうぞどうぞ」
と、じーちゃんが率先してトレーを取って、順番に食器やカトラリー、コップを乗せて、厨房の方へ進んでいく。
「え、じーちゃんもここで食べるの?」
「いかんかの?」
「べ、べつに、悪くないけど……」
なんてクリスさんとのやり取りを挟みつつ、順番にご飯を装って貰う。なんだか、訓練場でのご飯を思い出すなぁ。
みんなで同じテーブルに着いて、いただきますってやって食べ出そうとすると、じーちゃんとイザベラさんがお祈り? をしてる。
「ルキア教の、食前のお祈りなんだけど……長いんだよね;
折角の温かいご飯が冷めちゃうんだ。だからボク、みんなの”いただきます”の方が好きだな♪」
「まぁ、冒険者稼業だと悠長にお祈りしてられない事も多いからね。
オレ達はルキア教の敬虔な信者って訳でもないから、いつも通りで良いと思うよ」
「そっか、そうだね。じゃあ”いただきま~す”!」
早速ミルカが食べ始める。
「ん! 美味しい!! クリスさん、美味しいよ?!」
「うん。まぁ、初めて食べるなら、確かに美味しいと思うよ……。でも、毎日これだとね~」
「はは、若い子には物足りないよな~、色々と」
確かに、薄味だし、量も……少ないな。絶対お腹いっぱいにはならなさそう;
腹八分目、いや、五分目くらいかな?
「身も蓋もない話をすると、お金がないのじゃよ。なんだかんだ、教会の運営にもお金が掛かるからのう。貴族の方々や教導館出身の子らが、寄付したりもしてくれておるが……なかなか余裕がないのも事実じゃからな」
「地方の方へ行くと、自供自足で畑仕事しながら神官やってる所も多いからね」
「―――そうなんだ。建物とか凄いから、結構儲かってるのかと……」
「まぁ、この神殿は古代遺跡をそのまま使わせて貰っておるからのう。よく勘違いされてしまうのじゃが; 坊主丸儲けなどと揶揄されるが……とんでもないわい」
憤然とした表情でじーちゃんがぼやくのを、レナードも肯定する。
「職選択とか、転職とかも、全部無料だもんね。
あれで少しでも手数料取れたなら楽にもなるだろうけど、不公平を嫌うルキア教の教えでは無理だろうし。かといって、治癒術は正当な対価とはいえ、高額だから嫌厭されるし、なかなか難しいね」
「あれ、でも職選択の時に使われる大きな魔晶石は、高額で取引されるって聞いたけど?」
「ああ、あれはルキア教が買ってる訳じゃないんだ。主に貴族が寄進するのに、大きくて見栄えの良い方が、聞こえも良いからそうなっちゃうだけなんだよ。
要するに、王侯貴族達の見栄の張り合いって事さ」




