第29話 創世神話
レナードとセリエさんに見送られ、神殿へ向かう。と言ってもすぐ近所だから、あっという間に着いた。
職選択の日にも来た、白亜の神殿の正面玄関から入って、今度は入ってすぐ左へ曲がる。神官さん達がじーちゃんを見ると慌てて道を空け、頭を下げる。
じーちゃん、ホントにこの神殿で一番偉い人なんだ……と、ちょっと失礼な事を考えつつ付いていく。神殿からはすぐに出て、その先の建物に入ると神官さんとたくさんの子供達が居た。
「みんな、ただいま~! 見てみて! コレがボクの冒険者認識票だよ!!」
入るやいなや、クリスさんが部屋に居た子供達に報告する。
「良いな~! 見せて見せてー!」
「うわあぁ、じーちゃんのと違ってピカピカだね!」
「ねぇねぇ、いつ冒険に行くの?!」
わらわらと小さな子達が集まって、クリスさんの冒険者認識票を目を輝かせて見つめている。神官服の年嵩の女性が声を掛けてくる。
「おかえりなさい、クリス。ジュリアン様もお疲れ様です。そちらの方達は?」
「新人講習で友達になった、ミルカちゃんと、ディート君。二人の付き添いにボクも一緒させて貰うんだ♪」
「あらまぁ、そうでしたか。クリスがお世話になります。しっかりしているようで、ちょっと抜けた所のある子ですが、どうぞ宜しくお願いします」
と、僕達に頭を下げる女性にクリスさんは恥ずかしそうにしている。
「もー、じーちゃんもイライザさんも、ボクを何だと思ってるのさ~。酷いなぁ;
でもさ、同年代の中じゃ、ボクってまぁまぁ優秀な方じゃない?」
「そうやって、すぐ調子に乗る所もダメなんですよ?」
「え~……ホントなのにー;
あ、そうだ。ボク、”豪雷”のアンドレイさんとレイチェルさんに会ったんだよ!
早かったら今日ヴォルフガングさんにも会えるし!」
周りの子供達にドヤ顔で自慢する様子は、いかにも『すぐ調子に乗る』というのが良く分かる感じ。周りの子達は『良いな~!』とか『どうだった?!』とか目をキラキラさせて聞いている。
「アンドレイさんは、すっごく体が大っきくて、腕とかもすんごく太くて、やっぱり狂戦士なんだーって思ったし、レイチェルさんは逆にスラッとしててさ! お話通りにとっても美人だった!! 後ね、娘さんにも会ったんだ~。ケイトさんって名前でね……」
なんか、話が尽きそうにない。じーちゃんが呆れたようにイライザさん? に声を掛ける。
「昔から憧れておった人達に会ったのだから、仕方ないとは言え……。
イライザ、お二人を遊戯室に案内してさしあげなさい。創世神話の巻物を見て貰うとしよう」
「承知いたしました。ささ、お二人とも、こちらへどうぞ。
あの様子では、暫く話し終わりませんから……」
僕達はイライザさんに連れられて、別の部屋へ移動する。広い部屋にはオモチャ……積み木やぬいぐるみが置いてあったり、本や巻物が入っている棚があったり、何に使うのか良く分からない物があったり、そうかと思えばテーブルと椅子があったり……。
さっきじーちゃんは『ゆーぎしつ』って言ってたけど……?
「ここは子供達が自由時間に好きな事をして過ごす部屋なんですよ」
「……誰も居ないね?」
「そうですね、今はまだ午前の勉強の時間ですから。初級学校の方で授業を受けています。お昼休みにみな、一度ご飯を食べに戻ってきます」
「じゃあ、ご飯の後が自由時間?」
「いいえ、午後からも授業があって、終わった後になります。夕方くらいでしょうか?
それから、晩ご飯の後も寝るまでは自由時間になります。交代でお風呂に入ったり、自習をしたり……就寝は年代によって変わりますが、クリスの年なら10時ですね」
結構勉強してるんだな……。僕達は物心ついた頃には、もう旅をしてたから、勉強らしい勉強なんてした事がないし。
「お勉強って、どんな事を習うの?」
「それこそ生きていく為に必要な、基本的な事ですよ。読み書きや数の数え方、お金の使い方など、それが出来たら簡単な計算や、世の中の守るべきルール、といった感じで徐々に難しい内容に進んでいきます。
初級学校は社会に出て困らない為の知識を学ぶ場所ですから。
クリスのように、ルキア教に興味を持ってくれた子は、神官になる為の勉強に進むんですよ」
「ふぅん、それで神官になったんだ」
「とは言え、クリスの場合はジュリアン様の武勇伝や、”豪雷”に強い憧れがある様子でしたから、”目的”ではなく”手段”だったのかも知れませんがね」
イライザさんはクスクスと上品に笑う。
「ああ、でも……そうですね。クリスが冒険者に興味を惹かれだしたのは、こちらの」
本や巻物の棚に案内される。
「創世神話の絵巻物を読んでから、だったように思います」
太い巻物が何本か収められた箱を取り出す。その中から『Ⅰ』と書かれた一本を、まだ僕達以外に誰も居ない部屋の床に広げる。それは何枚もの羊皮紙を繋げて長い一枚にしてあって、簡単な絵と文章で物語が綴られていた。
『 むかしむかし せかいには なにもありませんでした
かみさまのタマゴが ふたつだけ
そこに”ヒト”がおとずれました
それがきっかけになって
タマゴから かみさまがうまれました
うまれたばかりのかみさまに
その”ヒト”は いろんなことをおしえました
あかるい と くらい
りく と うみ と そら
くさき と どうぶつ
せかいに いろんなものが ふえていきました 』
「次はこれですね」
『Ⅱ』の巻物を広げる。
『 たくさんのものがふえると かみさまは こまってしまいました
するとその”ヒト”は ことば をおしえました
その ことば で いろんなものに なまえ をつけました
それでも いっぺんにふえたものがあふれて
かみさまはてんてこまいでした
みかねたその”ヒト”は かみさまのたすけになるよう
かしこい ともだち をくれました
ひとりに いっぴき
”はじまりのりゅう”です
かみさまとりゅうは すぐに なかよくなりました 』
「そして最後がこれですね」
『Ⅲ』を広げる。
『 すこし とき がすぎたころ
かみさまとりゅうが じょうずにできるようになったから
その”ヒト”は あんしんして たびだっていきました
かみさまとりゅうは すこしさびしかったけれど
またその”ヒト”がきたとき ほめてもらえるように
いっしょうけんめい がんばりました
それからずいぶんときがたって
”にんげん” があらわれました
かしこく きようで つよい いきものでした
でも わるいもの も もっていました
かたほうのりゅうが そのわるいもの に
そまってしまったのです
しんゆうのかみさまは なげき かなしみました
もうひとりのかみさまは しかたなく
じぶんのりゅうと ちからをあわせて
わるくなってしまったりゅうを とじこめました 』
「……なんか最後のだけ、随分具体的じゃない?」
「そうですね……。それもそうかも知れません。
今現在でも、関わりのあるものが居ますから」
「関わりのあるもの?」
「ええ。『わるくなってしまったりゅう』というのは、暗黒竜。
そして閉じ込めた方の神様が、ルキア様とされていますから」
あんこくりゅう……、ってレナードが話してたやつか!
「そっか、暗黒竜……とその教団って事だよね」
ミルカも思い出したみたいだ。
「でも、このお話が本当なら、悪くなった竜って可哀想じゃない?
だって人間のせいなんだよね?」
「ええ。人間のせいで暗黒竜へと墜ち、更にまた人間の教団によって利用される……。
なんと罪深い事でしょうか……」
「嘆き悲しんだ神様は、今どうしてるんだろう?
それに、その”ヒト”っていうのは、まだ来てないのかな?
神様と竜が大変な事になってるのにさ……」
なんか釈然としない。そりゃ、この世界を創るのを手伝ってもらっただけでも凄い事なんだけど、自分があげた竜がその世界に悪い影響を与えてるのに……。
ちょっと無責任すぎない?
「導師様……その”ヒト”の事を私達ルキア教では、神を導いた方として『導師様』とお呼びしているのですが……幾度かはこちらへ来られているのではないかと、言われています。非公式ですが記録が残っていますから」




