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第28話 歌って踊れる……?

ちょっとお久しぶりです。

 背中を押されて窓口の前へ。


「いらっしゃいませ。こちらは冒険者認識票(タグ)発行窓口でございます。

 此度のご用は新規発行ですか? 再発行ですか?」


 ニコニコとした受付嬢が、マニュアル通りだろう定型文で淀みなく聞いてくる。


「し、新規発行でお願いします」

「かしこまりました。では新規発行時の料金として、銀貨20枚を頂戴致しますがよろしいですか?」


 と、問われて後ろに立ってる財布担当のレナードを振り返る。


「あ、はいはい。えーと、銀貨20枚ね……これでよろしく」


 じゃらじゃらと小袋からトレーへ出して払うと、受付嬢は枚数を確認し微笑む。


「はい、銀貨20枚確かに。

 次にお名前と年齢、(ジョブ)を教えて下さい」

「ディート・シュトレイン、13才、戦士ファイターです」

「……ああ、昨日までの新人講習に参加されていた方ですね~。

 でしたら……えぇと、こちらで間違いないですか?」


 すぐ横にある箱の書類の束から探して出してきたのは、最初に書いた登録用紙。


「あ、はい。僕のです」


 確認して返すと、カウンターに用紙を置き、その上に分厚い板……というか、箱? みたいな物を重ねる。


「―――まず、左手を図に合わせて置いて下さい」


 そのつるりとした箱状の物には、左手の絵が描いてある。ぺたりと手を置くとちょっとひんやりしてる。


「装置が動き出すと少しMPが取られますけど、しばらくの間そのままじっとしていて下さい。手を離してしまいますと、やり直しになってしまいますから。

 ―――では、始めますね~」


 受付嬢が何か操作をしたのだろう、ブゥンと音がし始めて、板がほんのり温かくなってくる。そして指先の方にほんのりとした光が浮かび上がって、線状に手首までゆっくりと移動。光は消えたけど箱からはまだ温もりを感じる。


「まだもう少し、動かないで下さいね~」

「は、はいっ!」


 何かジジジと音がしてる。それが止まったら”チン”と鳴った。


「もう手を離して大丈夫ですよ。後少しだけお待ちくださいね~」


 見ていると、受付嬢がガチャっと音を立てて箱を開けた。中に入っていたのは冒険者認識票(タグ)。それにチェーンを通してトレーに乗せて『はい、どうぞ!』と出してくれた。


「……これが僕の、冒険者認識票(タグ)ッ!」


 手に取ってみて、何故か実際の重さ以上に重たく感じる気がした。


「刻印間違いなどはございませんか? 間違い、及び内容変更はいつでも、何処の冒険者ギルドでも出来ますのでお申し付けください」


 言われて確認するけど、ちゃんと合ってる。名前と、ランクの”F”。


「おめでとう、ディート。冒険者としての第一歩だな」


 頭をポンポンとされて見上げると、レナードが微笑んでる。

 なんだか不覚にも泣きそうになる。いやいや、まだこれからだろ!!


「レナード、掛けてくれる?」


 一瞬意外そうな顔をしてから、照れたような表情で僕から冒険者認識票(タグ)を受け取る。


「―――なんか、おっちゃんに申し訳ないな;

 本来なら、この役目はおっちゃんの筈だったのに」


 シャランと音を立てて、ペンダントを掛けてくれる。


「次はわたしね!」


 なんだか妙にやる気満々なミルカに代わる。いや、まぁ、やる気出した所で、頑張るのはあの箱型の装置なんだけどさ。……なんて到底本人には言えない事を考えながら、繰り返される発行作業を眺めていた。


「では、こちらをどうぞ。……刻印間違い、及び内容変更は、何処の冒険者ギルドでも出来ますのでお気軽にお申し付けくださいね」


 と、ミルカの冒険者認識票(タグ)が渡される。


「わぁ~、ピッカピカだね~♪ ねぇ、レナ、わたしにもレナが掛けて!」

「ん、分かった。―――感慨深いね。出会ってから、もう5年になるんだな」


 またシャランと鳴らしながら、ミルカの首に掛けてやってる。

 次の人が並んだので、邪魔にならない場所まで移動してクリスさんと僕達3人で、新しい冒険者認識票(タグ)を見せ合っていた。


「えへへ、ようやくスタートラインって感じ?」

「うん、ここからだよな」

「しっかり頑張らなくちゃね!」


 レナードとじーちゃんは意気込む僕達を、保護者目線で微笑ましそうに見てる。


「大きくなったなぁ……二人とも、あんなに小さかったのに……」

「―――あれ? レナ、もしかして……泣いてる???」

「バーロー、悪いかよ? この5年、あっという間だったなぁって思ってさ」


 ボロボロ涙を流すって感じじゃなく、精々目尻に光る物が見えるくらいだけど、レナードの涙なんて初めて見た。普段から飄々としてるし、父さんが死んだ時だって悲しいって言うよりも、静かに怒ってたし。


「何を年寄りみたいな事言ってるんだよ?

 僕達が追いつくまでは、現役で居て貰わなきゃ困るんだからな?!」

「えぇ―――ッ?! それってオレ、幾つまで冒険者やらされんの?!」

「ん~、普通ランクAになるのって、何年くらいかかるんだろ?」


 ミルカの疑問に答えたのはじーちゃんだった。


「そうじゃのー。早くても10年以上……遅けりゃ永遠になれんかものぅ?」

「え、そんなに掛かるの?! じゃあレナ、物すっごく早くない?!」

「オレの場合、メンバー運が良かったのと、タイミングが合ったから……としか言えないかなぁ? ―――色んな事もあったし」


 ふと遠い目をしたレナードの腕を、思わず掴んでいた。


「ん? どうかしたか、ディート?」

「な、何でもない……」


 もう、いつもの飄々としたレナードだ。

 でも、さっきは何故かレナードが、僕達の前から消えてしまいそうだったから―――なんて笑われるだけだよな;

 どうしてそんな事思ったんだろう? ……何か、ちょっと恥ずかしいな;


 そんな時、セリエさんの声が掛かった。


「おはようございます、皆さん。冒険者認識票(タグ)を取りに来たのね。

 張り切ってるわね~。早く初依頼(クエスト)に行きたくてウズウズしてるんじゃない?

 それなのに申し訳ないんだけれど―――レナードさん、お話よろしいですか?」


 後半はちょっぴり恐縮そうにお伺いを立てる。


「やっぱりそうなるよね……; えっと、オレだけで良いの?」

「他にもザック達のパーティと、彼らと一緒に居たパーティも、になるかしら。

 ただ、レナードさんはお一人で構いませんよ」

「じゃあ、もうさっさと済ませてしまおうか……。

 お前達はどうする? ディートは講習受けたいんだっけ」

「あら、そうなの? あ……ごめんなさい; そう言えば今日、剣技の講師はお休みだったんじゃないかしら。いつも講習開けは休みを取ってた筈だから……」


 おっと、想定外; でも考えてみればそうだよね。


「―――そうなんだ。ずっと仕事してたんだから、そりゃ休みたいよね。仕方ないか」


 気落ちする僕に、じーちゃんが提案をしてくれる。


「では、二人が良ければレナードさんが居ない間、神殿へ来てみんかな?

 教導館の方なら時間も潰せるじゃろうて」

「きょうどうかん?」

「神殿が運営しておる孤児院の事じゃ。クリスもそこで暮らしておるのじゃよ。

 是非、部屋に招いてさしあげなさい」


 と、クリスさんに言うじーちゃんだけど、当の本人はブンブン首を振る。


「む、無理無理無理ッ!! 掃除してないよ!!」

「常日頃、整理整頓せよと言うておるのに……まぁ仕方有るまい。

 まだ珍しい本とか、子供向けじゃが創世神話の絵巻物なんてのもあるから、一度は見ておいても良いと思うが、どうじゃな?」

「へぇ、そんなのがあるんだ……見てみたいかも!」


 ミルカが興味を示してる。僕も見た事無いから、興味はある。


「神話かぁ。小さい頃に父さんが話して聞かせてくれた事があるけど……詳しくは知らないや。良い機会だから僕も見たいな」

「では、決まりじゃな。……年若い者には大不評じゃが、昼食くらいはご馳走させて貰うぞ」


 その言葉に、クリスさんはげんなり、ミルカは興味津々という正反対の反応をするから面白い。てか、野菜ばっかりって話だったけど……ミルカの奴、我慢出来るのかな?


「……じゃあ、事情聴取が終わったら神殿に迎えに行くよ。

 それから時間があったら、みんなでニーナさんの店に行こうか」

「「はーい!」」

「うん、分かった」


 聞いていたじーちゃんが、妙に驚いた顔をして尋ねてくる。


「なんと、レナードさん……ニーナの奴とお知り合いかな?」

「え、ええ。どうして―――ああ、そうか。司祭ハイプリーストになるには一年間の神殿勤めが必要だから、ご存知なんですね。

 実は今回、例の大熊を倒せたのも殆どニーナさんのお陰みたいな物ですし、お礼も兼ねて挨拶に。それに、クリスさんの装備の相談も出来れば良いかなと思いまして」


 ふむふむと聞いていたじーちゃんは、後半の内容に不服そうに鼻を鳴らした。


「なんじゃ、クリス。以前ワシが前衛の神官プリーストになれるようにと、しっかり教えたではないか!」

「えー……アレってじーちゃんみたいな武僧兵モンクになれって事でしょ~。

 ヤだよ、ボク。どうせならニーナさんみたいに賢者セージになりたいのに……」

「何でじゃ?! 『敵には鉄拳、味方には回復』と、ある意味”歌って踊れる”ポジションだと言うのに……!!」

「何だよそれ~; どっかの大道芸人じゃないんだからさー。

 そもそも、じーちゃんみたいな”暑苦しいの”になりたくないんだってば!」


 段々ヒートアップしていく口喧嘩にレナードが仲裁に入る。


「はいはい、こんな所で喧嘩しない; 時間が勿体ないでしょ?

 じゃあオレ、話に行ってくるから、ウチの子達をお願いしますね、ジュリアン司教」

「う、うむ。任せて貰おう。……では、行こうか」

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