第1話 落ちてきた男
ファンタジー初めてみました……。ご笑覧頂けましたら幸いです。
それは峠道を歩いている時だった。
殆ど雲もない、快晴と呼んでもいい位の天気の良さだったのに、山頂辺りに突然大きな雷が落ちたんだ。
何事かと山頂を眺めていた僕らの前に、その山頂の方から何かが転がり落ちてきた。
「な、何アレ?! こっち来るよ?」
妹のミルカは怖がって父さんの背中に隠れている。
その父さんは僕やミルカを庇うようにしていたけれど、その落ちてきたモノの正体が分かって剣の柄から手を離した。
「―――どうやら人間みたいだぞ?
おい、アンタ……生きてるか?」
そう言われて良く見れば、雷に打たれたのかプスプスと煙を上げ、どこか焦げ臭い若い男が伸びている。
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◆意識の無い見知らぬ男を助けますか?
→ 助ける
助けない
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流石に意識の無い人間を放っていく訳にもいかず、近くで野営出来る場所を見つけてその男を運んだ。
暫くして目を覚ましたその男は、恐縮しながら礼を言い、名を名乗った。
「いや、その、すいません……助けて頂いてありがとうございました。
オレはレナード・ディーパーと言います。
一応、”職”は『狩人』と『盗賊』なんだけど;」
”職”っていうのは、文字通りの職業で、1つ、多くて2つ選ぶ事が出来るモノなんだ。
”職”専用の”技能”なんかもあって、極めると職種王って言われて、名人とか、匠とかそんな感じになる。
大体、親の職業を受け継ぐように”素質”を持って生まれてくる事が多いから、例えば木こりの家には斧技能に適正がある子供が多く生まれる。
とは言え、必ずしも家業を継げる者ばかりじゃない。次男三男ともなると、自分で食い扶持を稼がなければいけない事が殆どだ。他の商家で働いたり、農場で雇われたりという道もあるけれど、腕に自信のある者は一攫千金を狙って冒険者になったりもする。
多分、この目の前のレナードという男も、きっとそう言う内の一人なのだろう。
「あんな大きな雷に打たれたにしちゃ、怪我もなさそうだが……?
ああ、俺はエスター・シュトレイン、『剣士』だ。
こっちがディートにミルカ。『戦士』見習いに、『治癒師』見習いだ」
父さんが僕と妹も紹介する。
「へぇ~、凄いね? 『治癒師』ってあんまり居ないのに。
つーか、『剣士』も『戦士』の上級職じゃん。もしかして、剣聖だったりとか?」
確かにミルカの”職”『治癒師』はなかなかレアだ。
通常、治癒魔法は神を信仰し、神聖力を持つ神職でなければ使えない。けれど、『治癒師』は信仰が無くても人を回復させる事が出来る。なんでも、神聖力ではなく、魔導師と同じく魔素を力の源にしてる、とかなんとか……。
僕は魔法はちょっと苦手だから、イマイチ良く分かんないんだけど。
それから、『剣士』の中でも職種王級になると剣聖って呼ばれるんだ。
なので、僕の目標は父さんなんだ。僕はまだ『戦士』にもなれてないけど、いつか父さんみたいな強い『剣士』になりたいんだよね。
「ははは、そこまでの腕じゃないけどな。
……にしても、『狩人』か。兄さん”技能”はどんなもんなんだ?」
「え? 『能力値』……。
えーと、弓がA、短刀A+、鞭B-、登攀B+、剥ぎ取りB、料理Aって感じ?」
『能力値』と言うと、自分のレベル、”職”、”素質”、”技能”その他諸々が見られるようになってる。自分にしか見えないから、嘘つかれても分かんないけどね。
って、あんまり自分の”技能”は明かしたがらない人も多いのに……。
それに、若いのに結構”技能”高い方だな。あくまで本当ならだけど。
「料理A?! ―――なぁ、兄さん。次の町まででも良いから一緒に行かないか?」
「と、父さん?! いきなり何言ってるんだよ?!」
「そ、そうよ……突然そんな事言っても、レナードさんが困るじゃない」
父さんがそんな事言い出した理由は分かる。
僕達の中には一人も料理技能持ちが居ないからだ。
だから、こんな風に野宿でもしようモノなら良くて保存食、幸いにも獲物が捕れてもただ焼いただけ……なんて事がザラだったりする。
流石にそんな食事ばかりで、僕だって嫌気が差してたけど……。
こんな素性もロクに分からないようなヤツを、仲間に入れるなんて。
「まぁ、何かアテがある旅でもないしね。オレは構わないけど?」
そう言って人懐っこそうに笑った顔は、煤で汚れては居るけれど結構なイケメンだ。
改めて見てみると、赤い髪を後ろだけ伸ばして三つ編みにしている。
野外活動の多そうな『狩人』にしちゃあ色白で、目は引き込まれそうな蒼。
父さんよりもちょっと背が高くて、まぁまぁ筋肉も付いてる。そこそこ鍛えてるみたい?
お陰でここまで運ぶ時大変だったんだ; 重いし、長いしで。
武器は背中にショートボウと矢筒、短刀は鞘ごと両太ももにベルトで固定してあって、鞭は腰に束ねてある。他の荷物は肩掛けのナップザックに入ってるんだろう。
身なりは、まぁ『狩人』と言われればそうだよね、としか言い様がない。
……もう一つの”職”も『盗賊』だからか、鎧もガチャガチャ音のしない軽装革鎧だしね。
装備の事を言うなら、父さんは板金鎧に長剣、僕が子供用の革鎧と小剣。でも、子供の内は仕方ないよね。大人になったら僕だって、父さんみたいな板金鎧身に着けたいけど。
ミルカは彼と同じ感じで子供用の軽装革鎧……『治癒師』は金属鎧が着られないんだ。防具はローブしか着られない魔導師連中よりは防御力が期待出来るけど、ねぇ? ほぼどんぐりの背比べでしかないって思う。
危ない時は、僕が護らなきゃって思ってるけどさ。
色々考えると、遠距離攻撃出来る人が居なかったんだから、料理の件以外にも役に立つんじゃないか? って思えてきた。
「まぁ、僕は良いけど? ゴハンがちょっとはマシになるんならさ?」
「た、確かに……。でも良いの? わたし達の分までゴハン作って貰うの大変じゃない?」
ミルカの心配は、どうやら必要ないみたいだった。
「ん、大丈夫だよ。獲物捕って捌くのも、実は一人分も四人分もそう変わらないし」
「え~……嘘だぁ……」
自分がやる時の事を思い返して、思わず言ってしまった。
「そうかなぁ? 例えばイノシシ一頭捕まえたとして、捌くのは丸々一頭捌かなきゃいけないし、その時食べない分の肉は保存が利くように干し肉とかに加工しなきゃならない。
もしいらないからってそのまま死体を放っておいたら、血の臭いで別の肉食の獣やモンスターを呼び寄せてしまいかねない。そうなると自分や、もしかすると他の人の身が危なくなっちゃうからね。
そもそも命を奪うって事は、無駄なく利用しなくちゃいけないと思うんだ。
肉は美味しく食べて、毛皮や牙は街で買い取って貰う……って、あれ?
何の話だったっけ?」
長々と説明していて、どうも話の軸がそれてしまったらしい?
いや、こっちが聞きたいんだけど? と僕はジト目になる。
「えっと、ゴハン……の前のハナシ?」
ミルカが律儀にも答えてやってる……けど、そんな話だっけ?
「いやいや、大事な事だぞ。自然の恵みを無駄にしちゃいけないって話だからな。
だから、あんまり好き嫌い言うなって話だぞ?」
「でも、焼いただけの肉や魚はもうイヤかも……」
「わたしも……」
「え……肉とか魚、焼くだけだったの? せめて塩とか胡椒振ったりとかは?」
話を聞いていて愕然とした顔をするレナード。
ふるふるふる。
三人揃って首を振るのを見て、ガックリと項垂れる。
「そうかー; そんな状態だったのか……。
よし、オレに任せてよ。もうちょっと人間らしい食事を振る舞うからさ!」
そう言って、早速彼は獲物を捕ってくるからと、水くみと焚き火用の枝を頼んで森の中へと入っていった。
「この山、獲物なんて居るのかな? 動物とか見たっけ?」
「俺達には見えなくても、狩人の目で見たら見つかるのかも知れないぞ?
何にせよ、腹を満たす為だけだった食事が、俄然楽しみになるな~」
父さんはやたら上機嫌だ。我が親ながら、呑気というか、お人好しというか。
「……どうせ逃げられるだけだと思うけどな。
チャラそうなヤツだったし」
「全く、ディートは年の割に冷めてるな; 俺は楽しみだぞ?
さ、水くみは父さんがやるから、二人で小枝探してこい。
あんまり遠くへ行くなよ?」
「「ハーイ!」」
一抱えくらい集めただろうか? もう充分だろうと、張ってあるテントの方へ戻ろうとした時、そばの茂みがガサガサと揺れた。
「え、な、何? 何か居るの?」
ミルカを後ろに庇うように、前に立って小剣を構える。
心臓がドクドクいってるのが分かる。
果たして、出て来たのは―――。