第26話 レナードの苦手な事
「え、倒れたの?! ディート君?!」
ほら、クリスさんが驚くじゃないか……。
「その……わたしが服選ぶのに夢中になっちゃって、お昼ご飯食べ損ねたから;
でもその後ちゃんと、晩ご飯で取り返したから!」
「あの時は自分でもビックリしたんだ。まさか一食抜いただけで倒れるなんて。
旅してた頃は、一食ぐらい食べない事もしょっちゅうだったのにさ……」
―――そもそも本当に原因は空腹だったのかな?
何か他の、変な病気とかじゃなけりゃ良いけど。
「うーん、確かにそうだよな。何か体の調子が悪いとかないか?
何だったら、依頼受ける前に一度医者に行っとくか?
出先で具合が悪くなっても大変だし……」
「え~; あれから特に何もないよー。全然平気だって!」
心配顔のレナードに、慌てて大丈夫だって念押ししておく。だって、あれからは本当になんともないし!
「みんなも、少しでもおかしいなと思ったら、どんな些細な事でも早めに言うんだぞ?
最悪、黙ってるとパーティ全体にまで影響しかねないから。
―――とは言え、女の子は色々あるから……ベテランの女性の仲間が居ると安心なんだけどなぁ」
「ん~、セリエさんみたいな?」
「そうだなぁ。セリエさんなら二人にとって良い先輩になってくれるだろうけど……ギルドの仕事があるから無理も言えないしね; ま、その辺はおいおい考えるか。
おっと、何か話がズレたけど、クリスさんの都合の良い日が分かったら知らせてくれる? オレ達がもし居なかったとしても、ケイトさんに伝言してくれたら良いし」
「はい! 早ければ明日にでも分かると思います。えへへ、楽しみだな~♪」
嬉しそうなクリスさんを微笑ましそうに見ていたレナードが、ふと零す。
「あー、でもギルドから呼び出し掛かるかも知れないな……」
「ギルドから? 何で……って、あの熊の事だよね; 当たり前か」
「特にオレは二頭両方に関わってるから……まだ魔石も持ってるし。
まぁ、事情聞かれるのはオレだけだとは思うけどさ」
どれくらい掛かるのか分からないけど、その間は”待ち”の状態って事だよね。
「じゃあ、待ってる間に武技の”受け流し”覚えたいな……。早く使えるようになりたいし。ギルドに行けば習える?」
「多少講習料が必要だけど、低ランクの武技だから安いし、”受け流し”は重要だから、お金払っても覚える価値があるよ」
と教えてくれたけど、ミルカがちょっと不満そうに言った。
「む~。もう覚えてるんなら、レナが教えてくれれば良いのに~?」
「そ、それはそうなんだけどさ。オレ、自分で言うのもなんだけど、人に物教えるの超下手クソらしくて……;
武技にしたって、メチャクチャ自己流だから『参考にすらならんわッ!』って今までの仲間にもさんざっぱら怒られてたくらいでさ。
だから、ちゃんと先生に教えて貰う方が確かだよ? オレみたいに変な癖が付くといけないし……」
しょんぼりしながら言い訳するレナードに、ミルカが「えっと……何か、ゴメン;」と謝ってる。今まで、レナードが剣を使って戦う所を見た事がないから、その参考にもならないってのが、どの程度なのか良く分からない。
「でも、これからは剣でも戦うんだよね? 今度、武技見せてよ」
「……良いけど、期待はしないでね; オレ未だにそれだけはヘコんでるんだ;」
あまりに情けない表情で話すから、ちょっと可哀想になってくる。さすがにそんなレナードに教えてくれとは言えないし、ギルドで習う事にする。
「講習料ってどれくらい掛かるか分かる?」
「うーん、シュミットガルトのギルドは聞いてないけど、相場としてはD、E、Fの下位の3つくらいはどれも金貨2~3枚って所かな? その上となると爆上がりしちゃうけど」
「そうなの? なんで?」
「んー、多分だけど、MP消費量の問題もあると思うよ? 戦士系は大抵MP低いから、そう何回も連発出来ないし。
後は……そうだなぁ、もっと小さい街のギルドなんかだと、対応出来るランクの講師が居なくて、ギルド所属の高ランク冒険者に依頼として発注したりもするから、かなぁ?
困るのが、イマイチ人気の無い武器種だと、低ランクの武技でも習得してる冒険者がなかなか居ない、なんて事もザラにあるからね~」
「そ、そっか。そもそも覚えてる人が居ないと教えては貰えないよね……」
「まぁ、剣……それも片手剣なら使用者も多いから大丈夫だろうけどね。
―――それはそうと、二人とも……クリスさんもだけど、まだ冒険者認識票は貰ってないよね?」
僕達は3人で顔を見合わせて「あーッ!!」と声を上げた。
「いや、それで良いんだよ; 新人講習受けない人は登録した後その場で貰うんだけど、受講者は終わってから貰う事になってるんだ。オレの聞き方が悪かったな、ゴメン」
心臓に悪い; 何か重大なミスでもしたかと思うじゃないか……。
「そんなイヤそうな目で見るなって; 取り敢えず全員一度はギルドに行かなきゃな」
「そうなるね~。じゃあもう明日行っちゃう? やっぱり早く自分のって欲しいよね?」
ミルカが僕の顔を見て聞いてくる。思わず頷いてしまう。
「そりゃあ、当然……って、みんなそうだろ?! ずっと前からの夢だったんだし!」
「そーだよね~♪ んふふ、楽しみ~!」
「ボクいつ貰いに行こうかなぁ……」
なんて話をしながら和気藹々と夕飯を終えた。
「あ~、美味しかったぁ~!!
今日は美味しい物い―――っぱい食べられてホントに幸せ~♪」
クリスさんがへにゃ~とした笑顔でテーブルにパタッと突っ伏す。
「わたしも~! 起きたら夢でしたー、とかじゃありませんように……」
ミルカもマネして突っ伏す。……邪魔だってばw
「起きたら夢って、そんな夢見たのか?」
「そうじゃないけど、なんか幸せすぎて、全部夢なんじゃないかって怖くなっちゃった。
……ホントは熊に襲われて食べられちゃったとか、父さんと一緒に死んじゃってたとか、逆に起きたらみんな居なくて一人ぼっちとか……変な事考えちゃったの」
「心配性だなぁ、ミルカは; てか、こんなハッキリした夢なんてある訳ないだろ?」
いつもは呆れるくらい楽天的な癖に、急に深刻な事を言い出すんだから。
「―――ホントに、レナが居てくれて良かった……。」
まだテーブルに腕を投げ出したまま、顔だけレナードに向けて笑う。
「まぁ、これでも保護者だからね。でも街に居る間は料理しないよ?」
「むぅ……レナのケチ! うーん、じゃあ早く冒険に行こうよ~」
「ミルカお前、どんだけレナードの作るゴハンが好きなんだよ;
ゴハン喰いたいが為に冒険行くって、普通逆だろ……」
「いいの! わたしにとってはどっちも大事なんだも~ん」
一連の様子を見ていたクリスさんがしみじみ一言。
「仲良いんだね、3人とも。ホントの家族みたいだよね」
「そうでしょ? レナだーい好き~♪」
「……間違って酒でも飲んだんじゃないよな? 物言いがまるっきり酔っ払いだぞ;
ああ、ほら、そろそろ一番混んでくる時間帯だから、お前達は風呂入って部屋に帰れよ?」
「レナードはどうするの?」
「もう暗いからクリスさんを送って行くよ。その後は、店が終わるまで飲んでるかな?
その後に濃ゆーい料理談義が待ってるから」
「また徹夜になるかも?」
「いくら何でもそこまでじゃないでしょ……。明日も朝から営業あるんだし。
―――ケイトさん、ごちそうさま。幾らになるかな?」
「はーい! ごめんなさい、ちょっと待って下さいね~」
「ゆっくりで良いよ」
流石にお客が増えてきて、ケイトさんも忙しそうにしている。代わりに厨房からまたもやアンドレイさんが登場してくる。
「おう、悪いな。俺が勘定しよう。っと、みんな、新メニューはどうだった?」
「「美味しかったー!!」」
ミルカとクリスさんが声を合わせる。僕も頷いて「すごく美味しかった!」と伝える。
「俺もケチャップ掛けて食べてみたが、美味かった。ファミリー層にも受けそうだ。
なんつーか、兄さんには足向けて眠れねぇな……」
「いやいや、そんなにありがたがる程じゃないって; オレの故郷の……”家庭の味”みたいなもんだから。久し振りに食べられて懐かしかったよ。ありがとう」
お祝いディナーはこれで解散。会計を済ませたレナードが、クリスさんと一緒に店を出るのを見送って、僕達は一度部屋へ帰ってから風呂へ。この宿の風呂は男女別で別れていて、前でミルカと別れる。いつもミルカの方が長風呂だから、僕は先に部屋に戻って道具の手入れをしたり、腕立て腹筋とかしてると妹も戻ってくる。
で、『もう、兄さんったら折角お風呂入った後に運動してる!』っていつも怒られる。
「まーたお風呂の後にトレーニングしてる~。汗かくのに」
「しょうがないじゃないか; 鍛錬する時間無かったんだし」
「今日はいいやとか、面倒くさいって思わないの?」
「もう日課になってるから、やらないとなんか気持ち悪いんだよな」
「ふぅん。そーゆーもんなんだ。マネ出来ないな~。戦士系じゃなくて良かったかも」
「そりゃミルカみたいに、それだけ食っちゃ寝してたら太っちゃうもんな」
率直な意見だったのに、ミルカはほっぺたを膨らませて剥れる。
「ホンッと兄さんってデリカシーなさ過ぎ! もういい、寝る。お休み!」
背中を向けてベッドに入ってしまった。僕何か悪い事言ったっけ?
本当の事しか言ってないのに……。




