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第25話 無自覚な人たらし?

「レイチェルさーん、ただいま~♪」

「おかえりなさい、ミルカちゃん、ディート君、レナードさんも。

 ―――あら、お友達?」


 一緒に居るクリスさんにレイチェルさんが微笑む。


「し、新人講習で友達になりました。クリスティーナ・ルキアンと言います。

 その縁で二人の”付き添い”に同行させて貰う事になりました。

 よろしくお願いします!」


 やっぱりちょっと緊張気味に話してる。憧れの人だもんね。


「まぁ、ご丁寧にありがとう。ウチもご贔屓にね。

 これから晩ご飯だったら、是非食べていって頂戴。

 レナードさんには負けちゃうかもだけど、ウチの旦那も料理は得意だから」

「うん、みんなでシチュー食べようって言ってたんです」

「黄金イノシシのシチュー、すっごく楽しみです♪」

「嬉しいわ~。お口に合うと良いのだけど。

 ああ、そうだ。レナードさん、ニーナから『また来て頂戴ね♪』って伝言よ」

「あ、はい。了解です。……と言うか、今回かなりお世話になったのでお礼と、出来ればクリスさんの装備の相談も兼ねて近い内に行くつもりです」

「―――え、ボクの装備の相談、ですか?!」


 いきなり装備の話が出て来たからか、流石にクリスさんが驚いてる。


「ああ。マダムさん(仮)は賢者セージだから、神官プリーストの装備にも詳しいだろうと思ってね。挨拶と紹介も兼ねて、都合の良い日にみんなで一緒に行こうと思うんだけど―――どうかな?」


 と、レナードがお伺いを立てる。クリスさんは元から大きな目をぱちくりさせていたけど、みるみる涙ぐんで、泣き出した。


「え、えぇ―――?! ど、どうしたの?! オレ、なんか悪い事言った?!」


 焦りまくるレナードと、うえぇーーんと泣き続けるクリスさんに呆然とする僕とミルカ。

 収拾がつかない有様の所へ、レイチェルさんのため息が。


「あらあら、レナードさんったら若い女の子を泣かせるなんて……。

 その無自覚に人をたらすのはアナタの癖なのかしら?」

「えぇ?! いや、そんな、たらしてるつもりなんて全然ないんですけどっ;」


 だから”無自覚”なんだろ……?

 僕とミルカとレイチェルさんが思わず顔を見合わせて、ため息を付く。


「ちょ……何?! その呆れた感じ?! オレが悪いの?!」

「そういうトコは、天然なんだもんなぁ;」

「……困った事に、女の人だけじゃないもんねー?」

「そうよねぇ、思わず勘違いする人も多そうだから、二人が気を付けてあげてね?」


「ご、ごめ……なさい; あんまり、嬉しくて……」


 漸くクリスさんが目をゴシゴシ擦りながら泣き止んだ。


「そ、そっか……何か変な地雷踏んじゃったかと思ったよ; 焦った~」

「? ”ジライ”って何?」

「うぇ?! あ、あー、そのー、地雷ってのは、地面に置くとか少し埋めて設置する型の罠……みたいな物かな?

 転じて、人のヤバい琴線に触れちゃった場合の例えで使われるんだよ」

「?? ”キンセン”って何?」

「あー、えっと……琴線ってのは、とある事柄に触れて色々思い起こす心の動きを琴の糸に例えた言葉、かな」

「へぇ~、そんな言い方するんだね」


 そんな事もありながら、酒場の方へ戻ってテーブルに着く。


「はぁ……なんか変に疲れた;」

「ケイトさ~ん! 注文お願いしま~す♪」

「はーい! 何になさいますか?」


「えっと……シチューはみんな食べるよね? 他は……まず飲み物?」

「僕はホットミルク」

「ボクは果実水でお願いします」

「じゃ~、わたしも同じので!」

「取り敢えず、エール―――後は……新人講習終わったお祝いだから、好きに頼んで良いぞ~」

「やった! じゃあじゃあ、レナのサンドウィッチとー、サラダと、お芋の揚げたの?」


 この間食べてから、ミルカは揚げた芋がお気に入りみたいだ。

 また『太ったー(泣)』って言っても知らないからな……。


「最初はそんなもんで良いんじゃないか? 足りなかったらまた注文すれば良いし」

「はい、かしこまりました~。お待ちくださいね!」


 料理と飲み物が運ばれてくる。


「あれ? 頼んでないのがある……ケイトさん、コレ何?」

「ああ、コレですか? また父さんがレナードさんに話を聞いて作ってみた料理なんですよ。

 是非味見して頂けませんか? お代は頂きませんので♪」


 最後はコソッと小声で話して、ウインクしてみせる。


「わ~い! 何か役得だね♪ どうやって食べたら良いの?」

「そのままナイフで切って下さい、って言ってました」

「ああ、ロールキャベツ……ケチャップ掛けても甘めで美味しいと思うよ?」

「! 持ってきますねッ!」


 ケイトさんが慌てて厨房へ駆け込む。少しして、小さなボウルにケチャップが入ったのを持ってきてくれる。やはりというか、もう当然のようにアンドレイさんもやってくる。


「―――大丈夫? そろそろ混んできたのに;」

息子マイロが居るから大丈夫! なるほどなぁ、甘めが好きな人にはケチャップか」

「ホントにお料理大好きなんだね~、アンドレイさんって」

「いや~、作った料理を喰って『美味い』と言って貰うのが何より嬉しくてなぁ~」


 ガッハッハと豪快に笑ってる。


「あ、そうだ。少しだけど、お裾分け。良かったら食べてみて?」


 レナードが出してきたのは大小3つの蓋付きの器。開けると昼ご飯の残りが2人分くらいずつ入ってる。


「余ってたの?! 言ってくれたらおかわりしたのに……」


 あの人数だったからまさか残ってるなんて思いもしなかった。ミルカが恨めしそうに言うけど、レナードは苦笑。


「折角のレア食材だから、アンドレイさんにも食べてみて貰いたくてさ」

「―――レア食材?」

「うん、ブラッドデスベアの肉なんだ」

「ふぅん、ブラ……って、ブラッドデスベアだってッ?!! あのS級の?!!」


 思わず叫んだアンドレイさんに、店中の客の視線が集中した。


「もうッ声が大きいわよ、父さん!!」

「す、スマンスマン; いや、でも思わず大声出すぐらいビックリしたんだよ……。

 ブラッドデスベアなんて、そうそう出会でくわさないってのに。

 しかも、しっかり倒して解体して料理まで! そんな貴重な物を本当に貰っちまって良いのかい? 兄さん」

「勿論。料理のプロに食べて貰って、感想聞いてみたくてさ。

 それに―――おっと、この先はちょっと耳貸して?」


 そこから先は、アンドレイさんにごにょごにょと耳打ちする。

 聞いていた親父さんは驚愕の表情を浮かべた後に、力強く親指を立てたポーズを取ると、ニマァっと笑う。


「よし、今夜店が引けた後に頼むぜ、兄さん!」

「了解~。」


 アンドレイさんはレナードの返事を確認して、ウキウキと3つの入れ物を手に厨房へと戻っていった。見間違いでなければ、足下はスキップしてたような……?


「レナード、アンドレイさんに一体何て言ったの?」


 僕が聞くと、少し声のトーンを落として教えてくれた。


「もし使ってみたいと思うなら、下処理済みの肉がまだ異空庫ストレージに有るから譲るよってね」

「あー、肉があるのと異空庫ストレージ、両方って事か。どんなに時間が経っても腐らないって便利だよね、ホント」


 僕の声も自然と小さくなったけど、同じテーブルのクリスさんには聞こえたらしく、やっぱり驚愕の表情を浮かべている。


「れ、レナードさんって、まさかの異空庫ストレージ持ちなんですか?!

 ボクなんかにそんな大事な事、教えちゃって良いんですか?!」


 流石にひそひそ声で顔を寄せて話すクリスさんに、レナードが頷く。


「どうせパーティ組むならその内バレるでしょ? だったら先に教えておこうかなってね。

 でも、他の人には内緒にしてね; 面倒くさい事になるのイヤだからさ」


 と口の前でしーっとでも言うように人差し指を立てる。クリスさんも人差し指を立てつつ、うんうんと何回も首を縦に振る。

 異空庫ストレージ持ちの希少性や利便性は世の中の隅々まで知れ渡っている。そして不運な人はどれ程不遇な人生を()()()()()()()()のか、も。

 ふと朝に聞いた『イケメンで身長も高くて、強い上に料理まで出来るって、天は二物どころか何物与えてんだよ? 一つくらい寄越せコンチクショー!!』って愚痴を思い出した。

 ……実は更に異空庫ストレージまで持ってるなんて聞いたら、もっと愚痴が長くなるんだろうなぁと、僕は料理を食べながらぼんやり考えていた。


 それから、クリスさんはずっと美味しい美味しいと連呼しながら食べていた。そこまで普段の食事が不満なのだろうか……。僕もルキア教のゴハンを食べ続けたら、同じ様に思うのかな?


「そりゃそうと、マダムさ……いや、ニーナさんのお店、いつ行こうか?

 やっぱりクリスさんの都合次第かな?」

「そうなんですか?」

「まぁ、わたし達はもう用事も特にないもんね?」


 ミルカの言う通り、講習さえ終わってしまえば僕達は晴れて? 自由の身だ。


「強いて言うなら……ディート、鎧と剣の使い心地はどうだい?」

「うん、どっちも別に変な所は無いよ。不思議なくらい馴染んでる感じ。

 さすがはレイチェルさんのオススメの店だけはあるよね」


 動くと擦れて痛いとかあるかなとか思ってたけど、全然無い。


「ミルカは?」

「わたしも全然……って、杖は()()()しか使ってないし。

 あ、でも服はみんながカワイイって言ってくれたよ!」


 そりゃあ、他のみんなが地味な冒険者仕様なのに、一人だけお出掛け着っぽいのが混じってるんだもんな。正直違和感バリバリだったけど、汚れは付かないわ、防御力は(布の服にしては)意外と高そうだわで、逆に感心されてたっけ。


「うん、ボクもすっごくカワイイと思う! 羨ましいもの、ホントに!」

「でもこういうカワイイ服、クリスさんも絶対似合うと思うんだけどな~」

「出来ればまた何時間も服選ぶのは勘弁してくれよ?

 ―――でないと、またディートが腹減らし過ぎて倒れるぞw」


 あー、もうまた僕を引き合いに出す; ムカつくから思いっきり足を踏んでやる。


「痛ぁッ! だから、蹴るのも踏むのも止めろっつーの!」

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