第22話 対等な”仲間”に……
「盗賊は上位互換の暗殺者のオレが兼務出来るから良いとしても、ウチは新人が多いから、出来ればもう一人二人ベテランの仲間が欲しい所だなぁ」
と、レナードが零していると、バルザックさんが声を掛けてきた。
「よう、兄さん。そのベテランってのは短期間でも構わねぇのか?」
「短期間って……どれくらいです?」
「ウチのメンバーが2人ほど動けなくてな。その間だから、そうだなぁ……2、3ヶ月って所か?
新人達がランクEになるまでは、責任持って付き合うぜ」
「あれ、でもバルザックさん、6人パーティじゃなかった?」
僕が聞くと、頭を掻きつつ返事をくれる。
「他の3人もなぁ……今回の件ですっかりビビっちまったり、元々引き際を考えてたりって感じなんだよ。
特に魔導師の爺様なんか、もう60過ぎだからな;
ギルドからも、そろそろ後進の指導に回らないかって声掛けもされてるらしくて。
取り敢えず、全員揃うまでは冷却期間を置こうってなっちまってな。
まぁ、あんなレア級の化け物を見ちまうと仕方ないんだが……」
すっかり肩を落として気落ちしているバルザックさん。
「俺も13の年から17年近く冒険者稼業で、今更他の仕事を探すにしても、なぁ?
とは言え、2ヶ月以上ボーッとしてるのも体が鈍っちまいそうだし。
だったら、今回の借りを返す為にも兄さん達に付いて行くのも悪くねぇかと思ってよ」
一転、ニカっと明るく笑う。
「借り……なんて有りましたっけ?」
「あの熊野郎を一体引き受けてくれたし、下手すりゃ全滅かって所を助けて貰ったんだ。
これが借りじゃなかったら何だってんだ?」
なんか、良い話っぽく言ってるけど、本当はどうなんだろ?
「―――で、本音は」
「そりゃあ、またあんな旨いメシが喰いた……って、何言わせんだよ;
いや、まぁ、その……ウチのパーティもメシは結構おざなりだったんでな~。
もの凄く坊主達が羨ましいっつーかよォ……」
ついうっかり口走ってしまって、恐縮しつつもぼやいてるw
「―――やっぱり~。ホント、レナのゴハンに釣られる人多いよね~」
「そんなに多いのか?!」
「ウチの父さんとミルカに、クリスさん、アンドレイさん達もそうだし。
さすが料理技能Sだよな~」
「料理S~?! す、スゲぇな、兄さん。メシが旨い訳だぜ……」
納得だと言いたげに頷くバルザックさんだけど、当の本人は飄々としたモノで。
「昔から自炊する事が多かったからね。どうせなら美味しく食べたいじゃない?
料理Sはその積み重ねってだけだよ。
で、さっきの返事だけど、バルザックさんが手を貸してくれるなら大助かりだよ。
因みに職とかの内容、大丈夫な範囲で聞かせてくれます?」
「おう、構わねぇぜ。
俺の職は”大剣使い”、もう少しで職種王ってトコだ。冒険者ランクはA……技能とかも言った方が良いか?」
「”大剣使い”かぁ。
じゃあ武技は『剣を盾に』、『全力攻撃』、『溜め攻撃』とかだっけ。攻撃力高くて良いよね。
素質が『筋力増強』、『踏ん張り』、『耐荷重強化』とかで、技能が……えーっと『踏み込み』と『戦闘視界拡張』とかあったっけ。
やっぱり”狂戦士”に一番近い職だって思うなぁ」
レナードが”大剣使い”の職について、つらつらと特徴を並べていく。いつも思うけど、自分の職でもないのに、よく覚えてるなって思う。
「えらく詳しいな、兄さん?!
まぁ、なんだ。俺も一応”狂戦士”を目指してるからよ」
「え~、転職条件めっちゃ大変なのに……」
あの条件は実際目指すとなると時間も掛かるし、条件が厳し過ぎる。
「そうなんだけどな……俺は生まれも育ちもシュミットガルトなんだ。
子供心にランクAパーティ”豪雷”の”壊滅のアンドレイ”に憧れてな~。
今じゃすっかり酒場の親父さんって感じに丸くなったが、現役の頃はそりゃあもう、強ぇわ格好良いわって、ガキ共の憧れの的だったんだぜ?」
「へー、あのアンドレイさんが……」
「懐かしい話をしてるわね~」
セリエさんも話しに混ざる。
「確かに”豪雷”の人気は凄かったのよ。実力も人気も兼ね備えてた。シュミットガルトで私達くらいの年代の冒険者は、大抵彼らに憧れて冒険者になった口だもの」
「そうなんだ~。セリエさんも?」
「ええ。私は魔法戦士のレイチェルさんに憧れてね~。
当時、男の子はアンドレイさん、女の子はレイチェルさんって見事に分かれてたのよ」
「そういえば……”豪雷”って何人パーティだったの?」
「4人よ。”狂戦士”アンドレイさん、”魔法戦士”レイチェルさん、”賢者”ヴォルフガングさん、そして”忍者”のコシローさん……。超一流が揃っていたわね」
最後の名前は初めて聞いたな。
「―――亡くなった仲間って”忍者”の人だったんだね」
「ええ。東方の出身って以外は殆ど情報が知られていない人だったけど、忍者ってだけでも実力者で有る事は分かるものね」
なんか、凄い上級職揃いのパーティだったんだなぁ……。強い訳だよね。
「―――あ、忘れる所だったわ;
レナードさん、とっても美味しいランチをありがとうございました!
間違いなく、今までの人生の中で一番美味しかったです!
機会があればまた腕を振るって下さいね」
「またレナのゴハンのファンが増えたね~♪」
ニコニコ笑顔のセリエさんに、ミルカが呑気な事を言ってる。
「まぁ幾らレア食材だからって、マジで肉肉肉だったからバランス悪過ぎなんだけど……。
喜んで貰えたなら解体から料理まで頑張った甲斐もあるよ。
おっと、そろそろ食器洗わないと……」
レナードが食べ終わった食器を持って、今も何人かが作業している炊事場へ向かった。
「さて、そろそろ迎えの馬車が来る頃ね。撤収作業に掛からないと……。
ザック達にも手伝って貰うわよ?」
「へいへい、了解だ。
こちとら軽いとは言え怪我人だってのに、セリエは人使い荒過ぎるだろ;」
なんて嘆くバルザックさんだけど。
「ていうか、仲良いんだね? バルザックさんとセリエさんって」
「まぁ、ガキの頃からの知り合い……腐れ縁に近いかねぇ?」
「もう、普通に幼馴染みって言えば良いでしょ。家がご近所さんだったのよ。
他にも何人か居たけれど、今でも付き合いがあるのはザックだけね」
「お互い冒険者稼業は同じだからなぁ」
昔からの気心の知れた間柄、か。ある意味、僕とミルカみたいなものかなぁ?
ウチは家族だから、幼馴染みじゃないけどさ。
「それって、わたしと兄さんみたいな感じ? ……って、ウチは双子だけど」
「まぁ、何でも言い合えるって意味ならそうなるかもな?
ん? 二人が双子ってんなら、あの兄さんとはどういう関係なんだ?」
他の人が不思議に思うのも当然か。
「レナは、父さんがゴハンの美味しさに感動して、ゴーインに仲間にしちゃったの。
……その父さんは、野盗に襲われてわたし達を守って死んじゃったんだ。
その時ギルドの依頼で離れてたレナは、もの凄く責任感じて、今でも保護者をしてくれてるの。レナが悪い訳じゃないのにね? たまたま運が悪かっただけなのに。」
やや他人事のようにミルカが話す。大分ざっくりしてるけど、間違っちゃいない。
「―――だからこそ、僕達は早く一人前になって借りを返したいんだ。
今の”保護者と子供”じゃなくて、対等な”仲間”になりたいから……」
ミルカと目が合って、お互いに頷く。思っている事は同じだ。
「そう、それがあなた達の目標なのね。応援するわ」
「そりゃあ良い! 目標は高くねぇとな? ……まぁ、随分と高そうな目標だが;」
「そっかぁ……じゃあボクも二人に負けないくらい頑張って強くなるよ!」




