第21話 レア食材で贅沢ランチ?
トレーにお椀みたいなのとスプーン、お皿とフォーク、コップが載っているのを持って列に並ぶ。
一番はミルカ、その次がクリスさん。奇しくも食い意地張ったコンビがワンツーだ。
今回の功労者? でもあるし、あれだけ楽しみにしてたんだから……とみんなが推した。で、次が僕。後は講習生、後ろにギルド職員と冒険者の大人達といった順番だ。
まずセリエさんの所で具だくさんのスープみたいなのを装ってもらう。何だろう、初めて見るなぁ……この茶色いの。匂いも初めてかも。
次に隣のバルザックさんの前へ。ちょっと厚めの薄切り肉を3切れ、何故かお皿の端っこに置いてくれる。
「横にソースがあるから、自分で掛けてくれだってよ」
とボウルにいっぱい艶のある濃い焦げ茶のソースが入ってる。置いてあるちょっと大きめのスプーンで掬ってみると、ちょっととろみが付いてるみたい。それも掛けて、最後にレナードの前へ行く。
お皿の空いている所へドンと置かれたのは……煮込んだ肉の塊?
匂いが、なんだか覚えがある―――?!
「もしかして、これシチューなんじゃないの?」
思わず言葉に否定的なニュアンスが混ざる。だって、アンドレイさんの得意料理じゃないか。美味しいし好きだから、宿に居る時はほぼ毎食食べてるってば;
「……元々シチューってのは煮込み料理全般を指す言葉なんだぞ?
デミグラスソースは簡単バージョンだけど、肉が違うからまた違った感じになってると思うよ。まぁ、騙されたと思って食べてみなって」
また調子の良い事言ってるし。まぁ、レナードの作った物だから美味しいのは分かってるけどさぁ。
最後にパンを2つ取って、ミルカ達の所へ戻る。テーブルなんて無いから、それなりの長さの丸太を半分埋めた感じのベンチ? に並んで座る。
「なんだ、待ってたのか? せっかく温かいのに冷めちゃうぞ?」
「大丈夫だよ~。一緒に食べよっ、兄さんも!」
「はいはい。じゃあ、いただきます」
「いただきま~す」
「いただきます!」
もう何度も一緒に食事をしてるだけあって、クリスさんも慣れた物だ。
「ねぇ、どれから食べる?!」
「じゃあ、入れて貰った順番とか、どうかな?」
「うん、そうしよう! じゃあ、これからだよね……ん~、初めての味かも?
でも美味しい~!!」
「ホントだ……不思議な味だけど、美味しい♪ 次はこのお肉だね」
ちょっと厚めの薄切り肉。
「!!! ―――んんん~~~、サイコーッ!!」
え?! クリスさん、涙流してるよ……; そんなに?!
「お肉薄いのにジューシーだし、柔らか~い! すっごく”お肉”な味する~」
二人はたっぷり余韻を楽しんでから、最後のシチュー? に移る。
「うわ、フォークで切れる!」
「ゴクリ。た、食べるよ?」
「うん、食べよう!」
………………。
一口食べて、二人は顔を見合わせて、黙々と食べ続ける。適度にパンや汁物も挟んで食べつつ、あっという間に完食した。
「し、幸せ~~~!!! ホントに美味しかったー、レナードさんのゴハン!!」
「でしょ~?! やっぱりレナのゴハンが一番美味しい!!」
確かにどれも美味しい。食材も美味しかったんだろうけど、やっぱりその食材を料理する人間の腕も重要なんだなって改めて思う。
「あれ、もう食べちゃったのか? 早いな~」
食事を配り終わったレナードが自分のトレーを持って歩いてきた。
「レナ! 今日のご飯も全部美味しかったよ! ありがとう~」
「ぼ、ボクも!! どれもとっても美味しかったです! ありがとうございます!!」
「ブラッドデスベアの肉なんてレア食材、滅多に食べられないからね~。
熊肉も結構イケるでしょ? 折角のレア物だから、もうちょっと設備の整った所で作りたかったけど……いただきまーす」
そうか、そうだよな。こんなキャンプみたいな場所ででも、あれだけ美味しい料理を作るって凄いよな。……朝ご飯とは雲泥の差だったんだし。
ああ、料理技能Sってやっぱり凄いや。
「それで? 講習はどうだった?」
レナードが食べながら僕に聞いてくる。
「うーん、そうだなぁ……確かに知ってる事も多かったけど、再確認出来た感じかな?
実技は剣の持ち方から、結構しっかり教えて貰った。剣の”武技”も教えて貰ったし」
”武技”っていうのは、武器種……例えば剣(片手剣・両手剣・刺突剣に分かれる)とか、斧(片手斧・両手斧に分かれる)とかの種類ごとに使える技の事。
武器の技能の習熟レベルに応じて覚えられる物で、自然と覚える場合もあるにはあるけど、やっぱりきちんと教えて貰った方が分かり易いし効果も高い。
”武技”を使う際には一定のMPを消費するから、ある意味戦士系の使える魔法みたいな物なのかな。
とは言っても、覚えられるのは使ってる武器種の物だけだし、戦士系のMPって一部の職を除いてかなり少ないから……使い所を誤るとすぐ打ち止めになるんだって講師の人がぼやいてたっけ。
「ふぅん。片手剣のFの武技って”隼斬り”だっけ。
Eの”受け流し”は習った?」
「ううん。まだEまで上がってる人が他に居なくて……」
「そうなんだ。まぁ、新人講習だしね。
因みに、どの武器でも大体ランクEは”受け流し”なんだよ。
……流石に弓は違うけどw」
レナードが笑いながら話すと、ミルカが質問する。
「じゃあ、杖にも”武技”ってあるの?」
「あるよ? 棒状武器っていって、棍……堅くて長い棒の武器とかと同じカテゴリーになるんだ。普通の杖だと、”武技”を覚えても強度的に厳しい事もあるんだけど……。
ミルカの杖ならそうそう壊れないだろうから、いざって時は役に立つかも知れないな。
―――そう言えば、クリスさんはどんな武器持つの?」
まだ『美味しいゴハン』の余韻に浸っていたクリスさんに話が振られる。
「あ、えっと、ルミア教は刃物が禁止なので……メイスとかモーニングスターとか?
後は、杖とかもアリなのかなって思ってるんですけど、まだ決めかねてるんですよね~」
とクリスさんがてへへ、と笑う。
「神官って編成によっては前衛に廻る事もあるから悩むよね」
「え、前衛って戦士とかと一緒に?」
「そうだよ。魔術師や盗賊は斬った張ったに向かないから。
その2つに比べれば、神官の方が多少は装備制限も緩いんだよ。
因みに基本的なパーティ編成は、戦士系2~3人、回復役1人、攻撃魔法1人、盗賊1人って形が多いかな?」
「へぇ~……じゃあ僕達だとどうなるの?」
「うーん、あくまで今の時点での話だけど。
前衛にディートとオレ、神官、後衛にミルカ、かな」
レナードは一人一人指差して、神官の所ではクリスさんを指差し、ニッと笑う。
「えっ?! ボクも入れてくれるんですか?!」
「折角仲良くなったんだし? とは言え、クリスさんの都合が付けばの話だけどね~」
「そんなの、絶ッッッ対に都合付けますってば!!
実は、ボクからもお願いしてたんです!
Fランクの間だけでも良いから、一緒に連れて行って貰えないかなって」
クリスさんの目がキラキラしてるよ……。
嬉しいんだろうな。その理由がゴハンなのか冒険なのか……はたまたその両方なのかは分からないけど。
昼メシで1話w