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第16話 僕らの保護者は超絶心配性?

 その後は普通に自己紹介をして、座学の講習になった。

 座学と言っても初日だけあって、”冒険者”になるという意味と、彼らの仕事……依頼クエストの斡旋や管理を行うギルドの役割についての話を聞いて午前の講習が終わった。

 ―――で、昼食……なんだけど。

 ゴハン、ギルドが出してくれたんだけどさ。


 レナードが来る前の、僕達のゴハンとそっくりだったんだ。

 調味料も無く、ただ干し肉を焼いた……というか、炙っただけ。そう、良~く噛めば肉の味がするけど、美味しくもなんともない、ただ、空腹を満たすだけの食事。

 いかに料理する事が大事なのかを分かって貰う為に、段々調理された食事になっていくらしい。そして、後半の実技が街の外の訓練場で行われる事、その際の食事は全員で協力して作る事も知らされた。

 僕らはレナードが話してくれたから、何となくは知ってたけど……。


「こ、こんな物が食べられるかッ!! 僕を誰だと思っている?!

 僕はシュミットガルトで一番の大商会の息子だぞ?!」


 と、怒り出す人も居て。


「―――では、お伺いします。

 冒険に行くのにあなたは非戦闘員のお抱えシェフでも連れて行くのでしょうか?

 それとも、山の様に豪華な食材を抱えて、地下迷宮ダンジョンに挑むのかしら?

 食べられないとおっしゃるのでしたら、講習は諦めて帰って下さっても結構ですよ。

 この講習は、冒険者に一攫千金やロマンばかりを求めて、現実を見ようともしない甘い考えの方をふるい落とす為の場でもありますので。

 下手に冒険者になられてすぐに死亡されても、こちらとしては責任を持てませんから」


 セリエさんは淡々と説明する。

 怒鳴った人は、ぐっと言葉に詰まってヘナヘナと椅子に座った。


「冒険者となり、遺跡や地下迷宮ダンジョンに挑むというのは、単にお宝を探すと言うだけではありません。

 魔獣やモンスターとの戦い、意地の悪いトラップとの戦い、空腹や睡魔との戦い、或いは、襲ってくる野盗との……人間との戦いの場にもなり得るのです。

 そうなったら逃げる、というのは通用しません。大抵の場合、言葉が通じなかったり、相手の方があなた方より強者であったり、場慣れしているのですから」


 そうだ。人間でも、言葉が通じない事があるってのは身にしみている。

 父さんは、人間に殺されたからだ。

 恐らく冒険者崩れの盗賊団―――魔獣を使役していたから、魔物使い(テイマー)も居たんだろうと今なら分かる。


「兄さん? 顔、怖いよ?! どうしたの?!」

「え、あ、何でもないよ。……にしても、コレ、懐かしいけどやっぱり美味しくないな;」

「だって、レナのゴハンが美味しすぎるんだもん。料理技能S、恐るべし」


 なんて話をしていると、後ろから声が掛かった。


「料理技能S?! 凄いね! もしかして料理人さん?」


 話しかけてきたのは同じ講習仲間の人だ。さっきの自己紹介で聞いた名前は……何だったっけ?


「あ、ゴメン; ボクはクリスティーナ・ルキアン……クリスって呼んでね。

 その料理技能Sの人ってお母さんだったりする? 良いなぁ、毎日のゴハンが美味しいって羨ましい~!」

「良いでしょ~♪ お母さんじゃないけど、わたし達の保護者みたいな人なんだ。

 でも街に居るとなかなか作ってくれなくて。今朝は特別に朝ご飯作ってくれたけど……」


 全く、ミルカはすぐにペラペラ何でも喋っちゃうんだから。

 見た所、クリスさんは僕達よりもうちょっと年上っぽいかな? レナードよりも明るい、というか桃色っぽい髪色の女の子だ。確かジョブは、神官プリーストだった様な?


「そうなんだ~。……因みにその朝ご飯、美味しかった?」


 期待に満ち満ちたその表情は、どこか宿屋の親父さんや息子さんを彷彿とさせる。


「うん! オムレツはバターと玉子とミルクが絶妙でふわっふわだったし、トマトのソースがすっごく合ってて、付け合わせもね、カリカリのベーコンと、甘く煮たにんじんでね……」


 あー、クリスさん、よだれ、よだれ出てるよ……。

 いい加減僕も食べたくなってきて、ミルカを肘で突っつく。


「止めろって; 食べたくなる……今食べてるのが余計マズく感じるじゃないか」

「う……ゴメン; え、クリス、さん??」


 見れば、ミルカの手をクリスさんが両手で握ってる。


「ボ、ボクもその、ふわっふわのオムレツ食べてみたい……!!!

 お願い! 一度で良いからゴハン食べさせてもらえないかな???」

「え? えっと、レナに聞いてみる、けど……に、兄さん?!」


 ミルカが助けてくれと言わんばかりに僕を見る。


「頼むのは良いけど……僕達が講習受けてる間は暇だから、単独ソロで受けられる依頼クエストでも受けようかって言ってたから、いつになるかは分からないよ?

 それに、街に居る間くらいはおさんどんしたくないって、レナードいつもぼやいてるし」

「―――レナード? あれ? 女の人じゃないんだ?

 って、レナード……レナード? どっかで聞いた事ある様な?」


 うーん、とクリスさんが考え込む。そこへ笑顔のセリエさんがやってくる。


「そうね。新人ルーキーさんでも聞いた事はあるかも知れないわね。

 ディート君とミルカちゃんの保護者はレナード・ディーパー、”赤の疾風”その人よ」


 と、セリエさんが明かすと、部屋に居た人達がざわめいた。

 それまで遠巻きにしていた人達も寄ってきて、声を掛けられる。


「Sランクに一番近いって噂の人だろ?! 凄いな!」

「料理技能Sってマジ?! 強い上に料理上手いって何そのチート?!」

「ねぇねぇ、”赤の疾風”って超イケメンって本当?!」


 な、何?! レナードってこんなにも有名人だったのか?!

 新人講習に来る様な冒険者の卵でも、殆どが知ってるなんて?!


「はいはい、席に戻って! あと15分で午後の講習を始めます!

 まだ食べ終わってない人は早く食べて、トイレも行きたい人は済ませて下さいね!」


 セリエさんの声掛けで人の輪も解けたけど、どうもそれまでとは違う視線が投げかけられてるのを感じる。なんだか落ち着かない。

 午後の講習は下級職のジョブの特徴や取得出来る素質アビリティ技能スキルの説明だった。

 素質アビリティには、生まれ持った物と、ジョブによって取得出来る物がある事。

 技能スキルのようなレベルは無いけれど、物によっては同じ素質アビリティを取得すると”+2”といった表示になって累積していく事。極一部の物はランクアップする事もあるらしい。

 次に技能スキルについて。

 ジョブによって様々な物があるけれど、どれも取得してすぐはFランクから始まる事。ランクを上げるには地道な反復練習が一番で、修練をサボるとゆっくりと下がっていく事。

 でも、下がると言ってもFまでで、忘れてしまうなんて事態にはならない事……。


 まぁ、この辺はもう知ってる事だった。

 『初めの方は知ってる事ばっかりだろうけど』って、レナードが言ってた通りだったな。


 夕方、講習初日を終えて帰ろうとするとクリスさんが話しかけてきた。


「あ、あのさ、君たちに着いていったら”赤の疾風”さんに逢えるかな?!」

「うーん、どうだろ? ホントに単独ソロ依頼クエスト受けて出掛けてるかも知れないし……」

「じゃあ、セリエさんに聞いてみる?」


 3人で1階に下りて、丁度セリエさんが居たので声を掛ける。


「あら、お疲れ様、みんな。講習初日はどうだった?」

「今日は知ってる事も多かったかな? でも再確認出来たよ」

「うん、わたしも! あ、それでね、セリエさん。レナが依頼クエスト受けてるかどうかって教えてもらえるのかな?」

「そうねぇ、貴方達二人は家族同然だものね。構わないわ。―――ちょっと待ってね」


 と書類を調べてくれる。


「ああ、討伐系と採取系2種、3件の依頼クエストに出てるみたいね。

 これはいつでもある常設依頼(クエスト)だから、何回かは街に戻るのかも知れないけど……。

 ふふ、貴方達の保護者さんは随分心配性なのかしら? 依頼クエスト地は訓練場のすぐ側の森だわ」

「え、レナードのヤツ……恥ずかしいなぁ;」

「良いじゃない! 訓練場にレナ呼んできてゴハン作って貰おうよ!」

「り、料理技能Sのゴハンッ(じゅるり)!!」


 ―――クリスさん、よだれ; 普段どんな食生活なんだよ?


「もう、ダメよ? それじゃあ実技講習にならないじゃない。

 まぁ、最終日の出発前の昼食、一回くらいなら大目に見ても良いけれど……」

「え、ホント?! ダメ元だったのに! じゃあ絶対レナ見つけてお願いしよっと!」

「その時はボクも一緒にお願いするから!! あ、でも訓練場がダメでも、せめて一回だけでも食べたいなぁ~(じゅるり)」


 何なんだろう、この二人の食事に対する強烈な執着心? は。

 まぁ、そりゃ日々食べる物が美味しいに超した事はないけどさ。


 その後、クリスさんとギルドの前で別れて、宿屋へ帰るとケイトさんがレナードからの伝言を教えてくれた。

依頼クエストを受けたから、なかなか街に戻れないかも知れない。

 その間の事はアンドレイさん達に頼んであるから、心配しない様に。

 オレが居ないからって、寝坊しないでちゃんと講習に通うんだぞ』


 ―――ホントに心配性なんだから;

 って、どんだけ信用無いんだよ、僕達。


「お二人とも、お夕飯どうされます?」

「どうしようか、兄さん?」

「まだちょっと時間的には早いのか……先に風呂済ますか?」

「それもそうだね~。じゃあ、先にお風呂にします。晩ご飯はその後にするね」

「はい、じゃあまた後で。お待ちしてますね」


 僕達二人は先に風呂に入ってから、晩ご飯を食べていつもの様に眠った。

 朝もいつもの時間に目が覚めたら、コンコンとノックの音が……。

 誰だろうと思いつつドアを開けると、何故かフライパンと棒(すりこぎ?)を持ったマイロさんが立っていた。


「あ、おはようございます! ディート君、起きてましたか」

「う、うん……もしかして、起こしてくれってレナードに頼まれてた?」

「ええ、一応声だけ掛けてくれないかって。でも、心配無用でしたね」


 と、マイロさんはフライパンと棒を後ろ手に隠す。

 もしかして起きてなかったらフライパン叩こうとしてた? いやいや、他のお客さんに迷惑過ぎるだろ?! 危うく恨まれる所だった。

 ―――にしても、何処まで心配性なんだよ、レナード;

ちょっと遅々として進まなすぎかも……;

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