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第15話 新人講習、開始……?

「……ーい、朝だぞ、ディート。起きろ~」


 レナードの声がする。

 声? あれは夢だったのかな……。


「おはよ……。レナードさ、夜中、ミルカと喋ってた?」


 突然むくりと起き出して、妙な事を聞く僕にレナードは笑った。


「なんだぁ? まだ寝惚けてるのか、ディート?

 オレが戻った時、二人ともよく寝てたよ。起こしたら悪いから、音立てない様に気をつけてたしな。

 さ、ミルカも起こして身支度して、さっさと酒場に下りろよ。

 オレは先に行ってるから」


 と部屋を出て行く。

 ちぇ。どうせならミルカも起こしてから行けば良いのに;


「ミルカ、起きろー、もう朝だぞ! 朝だってば! 今日は新人講習だぞ!!」

「ん~……あともうちょっとだけ~……」


 前にミルカみたいなのを”寝汚いぎたない”って言うんだってレナードが教えてくれた。


「ホントに寝汚いんだから……。朝飯食べる時間無くなるぞ~?

 レナードもう下で待ってるってのに」

「う~~、眠いけど……ゴハンも食べたい……」


 漸くミルカも、のそのそと起き出してくる。急かし倒して朝の身支度を整え、1階に下りていくとレナードが居ない。

 先に行くって言ってたのに?

 ま、まさか……こんな朝っぱらから女の部屋にでも行ったのか?!

 ついつい良からぬ想像をしてしまったけれど、隣でミルカが鼻をくんくんさせている。


「なんか、とっても美味しそうな匂いがする~……あ、レナ!」


 丁度厨房からレナードが出て来た所だった。


「おお、来たか~。朝飯出来てるぞ。何処座るんだ?」

「もしかして……レナが朝ご飯、作ってくれたの?!」

「まぁ、昨日あんなこと言った手前な……オレも出来る事はしておこうかと思ってさ。

 アンドレイさん達も快く厨房貸してくれたしな?」


 昨日の夕飯と同じテーブルに座ると、なんとも美味しそうな朝食が運ばれてきた。

 まだ香ばしい匂いのする四角くて平たいパン、彩りの良いサラダ、ふわっふわのプレーンオムレツとカリッとしたベーコンソテー、にんじんのグラッセ(って言う名前は後で聞いた)、ヨーグルト。飲み物は僕用にホットミルクと、ミルカのは温めた果実水かな?


 レナードは3人分をテーブルに並べると、自分はブラックコーヒーをケイトさんに入れて貰って席に着いた。そして、手を合わせて、


「いただきます」

「「いただきまーす」」


 もう癖になってるその言葉を唱和してから食べ始める。その様子を見ていたケイトさんが不思議そうに質問してくる。


「それ、なんですか? イタ、ダキ……??」

「ああ、オレの故郷の習慣なんですよ。自分が食べるもの―――食材となった命や、作ってくれた農家さん、取って来てくれたとか携わった人達と、料理を作ってくれた人みんなに感謝する……って感じですかね?

 食べ終わったら、『ごちそうさまでした』って、最初と最後でワンセットなんです」

「へぇ~、良いですね、そう言うの。私も今日からマネしよ~っと♪」


 二人の会話は聞きつつ、食べる手が止まらない。

 何だコレ、いつにも増して美味いんだけど!!

 特にこの、オムレツに掛かってる赤いの? コレなんだ?


「なぁ、レナード。この赤いの何?」

「ああ、トマトベースのソースだよ。

 色々交ぜてあるから、好みもあるだろうけど……美味いだろ?」

「うん、すっごい美味しい~♪」

「気に入ったみたいだな。良かったよ。

 旅の途中だと香辛料とか揃えるのが難しいし、手間も掛かるからなかなか出来ないけど……厨房貸してくれた上に、材料も分けてもらえたお陰だよ。

 二人とも、アンドレイさんに感謝しろよ~?」


 と、話していると当人が厨房から出て来た。


「兄さん、ホントに良いのか?!

 昨日のま……マヨネーズ? もそうだが、今日のこのトマトのソースも俺に教えちまって……。これからどんどん料理に使うぞ?!」

「今日のはケチャップって言うんだ。

 オレの故郷にある物でね。どんどん使ってくれると嬉しいんだけど?」

「―――はは、欲が無いねぇ、兄さん。

 参ったな、困った事に返せる物が何にもねぇな;」

「レイチェルさんからもう充分貰ってるよ。防具屋に武器屋、魔法屋ってね。

 特に魔法屋のマダム(仮)さんにはミルカが随分とお世話になっちゃって……。

 オレの方が返し切れてないよ」

「魔法屋のマダム……? ああ、ヴォルフガングか!」

「「「ヴォルフガング~~~?!!!」」」


 思わず僕達3人の声が揃った。


「そうそう。アイツぁ、本名をヴォルフガング・ザヴィニーと言ってな?

 元はどこかの国のお貴族様なんだが、子供の頃から類い希なる魔導の才があるのが分かってたらしくてな。

 まぁ、三男坊だったこともあって、小さな頃にアカデミーへ引き取られたそうだ。

 そこで見事才能を開花させて、史上最年少で魔導師アークメイジ職種王ジョブマスターになると、今度は賢者セージを目指して神官プリーストへ転職したって変わり種なんだ。

 本人はゴツい名前はイヤだとかで、”ニーナ”と呼んでくれって言い張ってるがな。

 何でも、優しくて大好きだった婆ちゃんの名前らしいが」

「マダム(仮)さんって賢者セージだったんだ……」

「マダ……ニーナさんにレア物の杖を貰ったんです。……これ」


 とミルカが杖を見せると、アンドレイさんは目を細めた。


「―――懐かしいねぇ~。にしても、こんな条件付きの杖を持てる子が居たとはなぁ。

 大事にしてやってくれると、アイツも……俺達も嬉しいよ。

 何せ本気で全滅しそうになって、命からがら持って帰ったはいいが、装備制限が厳し過ぎてあのヴォルフガングのヤツでも無理だったんだから。

 アイツがあんな店をやってるのも、その杖を持てる人物を見つける為って理由も一応あったんだぜ?

 嬢ちゃんが受け取ってくれた事で、アイツの肩の荷も少しは下りただろうさ」


 『だから気にするな』と言ってアンドレイさんは厨房に戻っていった。

 ミルカの杖ってレナードの言う通りすごいモンだったんだな~と思いながら、ミルクに手を伸ばす。そのミルクも、なんだかいつものミルクじゃなかった。


「ミルク美味しい……何入れたの?」

「ショウガ……ジンジャーとシナモンパウダーと蜂蜜だよ。

 たまには味変するのも良いかと思って。多分ディートの好きな味だろうし」

「―――これからずっとこれでいい」

「……; シナモンパウダー多めに買っとくか」


 特製の朝食をペロリと平らげ、神殿に行くというレナードと一緒に宿を出た。

 冒険者ギルドの前で彼と別れ、中に入るとホールにセリエさんが待っていた。


「おはようございます、ディート君、ミルカちゃん!

 まだ何人か来ていませんから、先に2階の……この間の部屋へ行って下さい。

 好きな所に座って構いませんから」

「「はい!」」


 上に上がって中に入ると、広い教室にポツポツと座っている人達が居た。

 同年代らしき人も居れば、僕達よりも少し年上っぽい人も居る。

 僕達も空いてる席に二人で並んで座る。

 後からまた数人増えて、時間になったらセリエさんが入ってきた。


「新人講習の出席確認を行います。……名前を呼ばれたら、手を挙げて返事をして下さいね」


 一人一人、名前が呼ばれていく。僕達も呼ばれて返事をしていたんだけど……一人だけ、返事が無かった。


「では15名の参加と言う事で、今月の新人講習を始めます。

 今日は初日ですので、この2週間共に学ぶ皆さんの自己紹介をお願いします。

 そうですね……まずは今回の新人講習を担当するギルド職員から。

 私はセリエ・バーランド、このギルドの受付でもあり、現役の冒険者でもあります。

 あなた方が晴れて冒険者となったら、一緒に依頼クエストに行くかも知れないわね。

 どうぞよろし……」


 セリエさんの挨拶が終わる前に、バタバタと人の走る音が近付いてきて、その勢いのままガラッと引き戸を開けた。

 ゼーゼーと肩で息をして全力疾走で駆け込んできたのは、見た目二十歳前後の茶色の髪の男の人だった。


「わ、悪ぃ……ちっと、遅れた。ヘクター・ダンスタン、だけど……」


 と名乗って部屋へ入ろうとするのだが……。


「―――ダンスタンさん、お帰り下さい。

 あなたはこの部屋へは入れません」


 セリエさんの固い声で制される。


「―――え、ど、どうして?! まだほんの5分も経ってないじゃねぇか?!」

「どなたにも、今回の新人講習へ参加される方にはお伝えしている筈ですね?

 今日の朝10時に冒険者ギルドへおいで下さいと―――。

 その最低限の約束も守れない方は、最低限の資質にも疑義が生じます。

 冒険者ギルトが幾ら荒くれ者の集まりといえど、最低限の規則は存在します。

 ギルドの契約もまた、規則です。

 ですので、今月の新人講習にあなたの席はありません。

 新人講習を受けるのであれば、来月までお待ちください。

 ―――立ち去らないのであれば、警備の者を呼びますが、どうされますか?」


 淡々と説明するセリエさんに、ヘクターと名乗った男は更に言い募る。


「何でだよ?! もう2週間も待ってたんだぞ!! 来月ってもう一ヶ月も待てって言うのかよ?! ふざけんなッ!!」


 喚き散らしながら、ヘクターがナイフを抜いた。

 突き付けて脅そうとでも思ったんだろうが、相手はセリエさん―――ランクAの現役冒険者だ。新人講習を受けに来る様な新米が、到底太刀打ち出来る筈が無い……と思っていたら、案の定だ。

 手を強かに打たれてナイフを落とされると、逆に手首を捕まれた挙げ句、後ろ手に捻り上げられる。あっという間に俯せに倒され、見事に制圧された。

 この間、物の数秒の出来事だった。


「い、いででででッ……わ、分かった……分かったよ!!!」

「警備さん! 連れて行って頂戴!」


 慌てて駆けつけてくる警備員に男を引き渡し、引き戸を閉めた。


「……人として、最低限の規則は守って貰わないと、ああなります。

 冒険者ギルドといえど、そこは普通の人達と同じです。

 逆に常に武器を携帯しているからこそ、守って貰わなくてはなりません。

 ウチは冒険者のギルドであって、決して野盗やならず者のギルドではないのですから」


 ―――レナード、起こしてくれて本当にありがとう;

 下手すりゃ僕達も一ヶ月待ちコースだったよ……。

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