第13話 魔法を覚えよう!
マダム(仮)が巻いてある筒状の羊皮紙の束をテーブルに置く。
結んであるリボンの端に呪文名が書いてあるらしく、その中から1本出してきた。
「これが今話していた”照明”の呪文の巻物よ」
蝶々結びを解いて、はらりと広げる。そこには何かの図と、何だか良く分からない物が描かれている。
「―――全然読めないや;」
僕の呟きに、マダム(仮)が指差して説明する。
「この、図の様な物が”魔法陣”、そしてこちらが古代王国時代の”魔術文字”よ。
ミルカちゃんにはもう読めるでしょ?」
「そ、そうなの?!」
「―――う、うん……読むのは読める。習ってないのになんで???」
「それは魔術師の素質、”魔術文字(読解)”ね。
これはLv.1から習得する物だから、習わずとも知識が頭の中に入るのよ」
「ふぅん、ある意味便利だけど……何か怖いな;」
知らない内に習ってもない知識があるなんて、怖くない?
「まぁ、でもこれが分からないと魔法が使えないから割り切って貰うしかないわねぇ」
マダム(仮)が苦笑しつつ、説明を続ける。
「魔法の呪文は、習熟によって消費MPが減少したり、効果範囲が広がったりといった効果があったりするのよ。
”照明”の呪文で言うなら初期状態Lv.1での消費MPは4。効果範囲は術者を中心に半径約5mと言ったところね。効果時間は1時間、以降は半分のMP2を費やす事でもう1時間継続する事も出来る。勿論、任意で消す事も可能よ。
二段階目Lv.2では発動時の消費MPが2に減り、第三段階Lv.3では効果範囲が半径10mにまで広がるの。
こんな感じだけれど、”照明”を覚える?」
マダム(仮)に聞かれて、珍しくミルカは考え込んでる。
「ねぇ、レナ……地下迷宮ってすぐ行けるの?」
「う~ん、流石にすぐって訳にはいかないかな……。
外よりも強めの魔物が出たりするし、少しレベル上げてからになるかな?
でも、なんで?」
「う、んとね……あんまりいっぺんに魔法覚えても、そんなに使いこなせるのかちょっと自信ないかなって;」
てへへ、と頭をかくミルカだけど……。
「ああ、なるほど……そう言う事ね。
でも、その点に関しては心配しなくて良いと思うわ。
貴女達はまだ、技能や魔法の習得に慣れていないから感覚が分からないのだと思うけれど……。
事、魔法に関しては一度に幾つも覚えたとしても、それぞれ使う事は可能よ。
何て言うのかしら、ど忘れしていた物事をすっかり思い出したって感覚で覚えるものだから。
―――それよりも初心者が気をつけるべきは、MP管理の方かしら?」
「MP管理?」
「そう。まだレベルの低い魔術師が調子に乗って魔法を連発すれば、あっという間にMPが枯渇してしまうのよ。MPの回復はお高いエーテル水薬か、時間経過……それも睡眠を伴わないとなかなか進まないから。
上級になると『魔力譲渡』の呪文なんかもあるのだけど……その頃には十分なMPを持っているでしょうから、分け与える方に回る事が多いわね」
「そう言えば、MPがゼロになるとどうなるの?」
HPがゼロになると戦闘不能、運が悪けりゃ即死亡する。
じゃあ、MPは?
「良い質問ね、ボク。
―――MPがゼロになると、大抵の人間が気絶するわ。
上級の術者なら、1だけ残して後はHPで代わりにするって荒技もあるけれど……それは本当に最悪の場合の手段であって、そうしなければ全滅する! ってくらい追い詰められた時にしか使わない最後の手段よ。
しかもその場合、恐ろしい速さでHPが減っていくのよッ!!
生きた心地がしないってああいう事を言うのね、ホント」
「……経験談だったんだ;」
「ウフフ。まぁ、後にも先にも、その1度切りだけど。
ああ、話がズレちゃったわね。どうする? ミルカちゃん」
「じゃあ、これ、覚えます。
後はやっぱり攻撃系も欲しいかな……護られてるだけじゃダメだから」
「だったらコレね、『魔力の矢』よ。
文字通り、魔力の矢でダメージを与える呪文ね。Lv.1は消費MP3、Lv.2は6、Lv.3は12といった感じで倍々になって、最大Lv.5は48。こちらは与えるダメージが増えていくの。
本来対象は1つだけれど、これも魔術師固有の素質、『拡散・収束』を覚えれば範囲内で視認出来る対象なら拡散出来る様になるわ。まぁ、その分与えるダメージは対象を増やせば増やす程、小さくなってしまうけれどね」
ふんふんと聞いていたけれど、最大レベルの消費MPを聞いてぎょっとした顔をする。
「48!……わたしのMPの半分以上だ;」
「? あら、ミルカちゃん、今MP幾つなの?」
「さっき神殿で見て貰った時、87だったよ」
「87?! えっと、13歳なのよね?! 凄いわ、普通それくらいの年の子は、どれだけ高くても50が精々なのに!」
「え、そう……なの?!」
マダム(仮)の驚き様に、逆に驚いたミルカはレナードを振り返る。
「まぁ、この人なら大丈夫だろうから、良いよ」
「うん。あ、あのね……」
キョトンとした顔で二人の話を聞いていたマダム(仮)は、ミルカの生来の職は治癒師で有る事、そしてまだ発現前ではあるけれど、精霊眼・精霊語という素質もあるのだという話を聞いて……興奮? していた。
「治癒師と魔術師、それに精霊魔法使いの素質……。
ある意味極めたら賢者に匹敵するじゃない!!」
「えー、無理だよ~; まだ精霊魔法使いになるにはどうしたら良いか分かんないんだし、治癒師だって……」
「フフ、焦る事はないわ。まだまだこれから先、時間はあるのですもの。
きっと方法が見つかるわよ♪」
「でも、冒険者はいつ死んじゃうかも分からないよ?」
不安そうなミルカに、マダム(仮)はにっこり笑う。
「大丈夫よ~。きっと後ろのお兄さんが貴女達の事は必ず護るでしょうから。
そうでしょ? ”赤の疾風”レナード・ディーパーさん」
「うげ……知ってたんですか? でもオレ、一度たりとも自分で”赤の疾風”なんて名乗った覚えないですからね;」
と、セリエさんの時にも言っていた弁明? をまた口にするレナードだけど、マダム(仮)は気にもしていない。
「この街は冒険者が集まるでしょ? だから、名の通った冒険者の噂はよく聞こえてくるのよ。
『あの”赤の疾風”が子供連れで旅をしている』ってね。
その上、レイチェルの宿に赤毛で子供連れのお客が来たって言うじゃない?
是非とも会ってみたいと思っていたら、貴方達の方から来てくれるなんてラッキーだったわ~」
「……ていうか、二つ名を付けられる程の冒険者でもないんですけど。
まぁでも、さっきの問いに対しては勿論イエスです。
―――必ず護る、誰も死なせない。今度こそ」
決意を口にする真剣な表情のレナードに、ああ、僕達だけじゃ無くて彼にとっても父さんの死は、とても重かったんだなと思う。
「……レナ、大丈夫、わたしだって頑張って強くなるから。
だから一人で抱え込まないで?」
なんだかミルカまでシリアスモードだ。何て似合わない……というか、ちょっとムカついた。
「そこは”わたし”じゃ無くて、”わたし達”だろッ。
僕だって居るんだからな!」
「あ、そうだった……兄さんも入れてあげないと。かわいそうだよね~、うん」
「ウフフ、ホントに仲が良いのね~。そう言えば、明日から新人講習だったかしら?」
「あ、うん! 明日の朝10時に冒険者ギルドなの」
「ちゃんと起きろよ、ミルカ? 寝坊したら置いていくからな」
「起きるってばー。あ、レナが朝ご飯作ってくれたら頑張って起きる!」
「―――え~; 何処で作るんだよ?」
「宿屋のおじさんにお願いするとか?」
「前も言ったと思うけど、街に居る間くらいおさんどんやりたくない……」
「むー、しょうがないか」
「それより、呪文はもう良いのか? 『照明』と『魔力の矢』だけで」
「あ、ちょ、ちょっと待って……っ!!」
結局、それからまだたっぷり1時間掛かった。
魔術師の初級呪文をいくつか選び、LV.1で覚えられる物はこの場で覚えて帰る事にした。
何でも、呪文の巻物と言う物は呪文の取得の他にも、その呪文を使いたい時にその巻物を広げて魔力を込めれば、誰でも使える? らしい。
ただ、魔術師が使う魔法よりもMPが倍は消費されるっていうし、巻物はそこそこ高額なので、そう言う使い方は殆どしないのだとか。
しかも、一回使うと呪文の効果は消えてしまい、タダの羊皮紙になるとか、勿体なくって使えないよな~。
※ミルカの習得呪文※
魔術師系呪文
『照明』
『魔力の矢』
『眠りの雲』
『解錠』