第12話 じゃじゃーーーーん!! どう?!(ドヤァ)
「オレ今の職、狩人と盗賊なんだけど、両方の色が混ざってるとか?」
「狩人は赤茶っぽい色だし、盗賊はグレーっぽいから青っぽくはならないと思うのだけど……ああ、でもまだワタシも会った事の無い職も多いから?
ちゃんと分からないだけかも知れないけれど。
……それよりあのお嬢さん、ミルカちゃんと言うのね? カワイイお名前~♪
ぴったりなコスチュームを探さなくちゃね!」
マダム? はウフフと笑って服を見ているミルカの方に行ってしまった。
二人はキャッキャと声を上げながらこっちの服はあーだとか、あっちの服がこーだとか楽しそうに話している。
「……ふぅぅぅぅ。何か、疲れた;」
隣から、心底疲労困憊な感じの声が聞こえた。
横を見上げると、げっそりした表情のレナードが……。
「帰ったら部屋で寝よ……」
「―――そうだね。そうしなよ」
朝だってもの凄い隈出来てたんだもんな。絶対寝不足だろうし。
ミルカはかなりの時間を掛けて店内全てをくまなく見て回り、マダム(仮)ともしっかり話し合った結果、やっとこさ一通りの装備? が決まったらしい。
さっきいそいそと試着室へ入っていった。
あんまりにも時間が掛かったもんだから、レナードなんて3時間過ぎた辺りから椅子借りて居眠っちゃってて、揺さぶって起こす。
「レナード、ようやく終わったらしいよ? 起きろって」
「―――ふわぁ……ゴメン。どれくらい寝てた?」
欠伸を噛み殺しながら伸びをして、聞いてくる。
「んー、1時間弱くらい? そろそろ夕方だよ」
「昼飯食べそびれちゃったか……よっぽど夢中だったんだな、ミルカ」
「うん、ホントに楽しそうにしてたよ。……久しぶりに見た、あんな顔」
「そっか。それだけでもここへ来て良かったよ」
ふわりと優しく笑ったレナードの顔が、いつかの父さんの表情と重なる。
ああ、なんだかんだ言ってやっぱりレナードは僕達の保護者なんだなぁと思う。
「―――ありがとな、レナード」
僕としては、素直な気持ちで言ったつもりだったんだけど。
言われたレナードは怪訝そうな顔をしてこう返してきた。
「き、急に何だよ? 気持ち悪いぞ;
ディートがどう思おうと、おっちゃんとの約束は守るさ。
オレそこまで人でなしじゃないんだからな?」
……これは、僕の普段からの言動が悪いんだろうか。そんなに扱い悪かったっけ?
これでもちゃんと感謝してるんだけどな。
そうこうしている内に、『じゃーーーーん!!』と自分で言いながらミルカが試着室から出て来た。
「―――ど、どうかな? 似合ってるかな?」
恥ずかしそうにクルンと回ってみせる。
その防具……いや服か。
少し青みの掛かった白のワンピース? に同色のポンチョ? のひもの先には丸い玉が付いてて、……あーもー、何なんだよ?!
「似合ってるかどうかは分かんないけど、そんなピラピラした格好で旅とか戦ったりとか出来るのかよ?!」
言ってしまってから、ミルカが泣き出す一歩手前みたいな表情をしてるのに気がついた。
「う……; (しまった……)」
『あーあ。もう、仕方ないなぁ』と言いたげな顔のレナードが僕の頭を小さくはたく。
選手交代だ。
「かなりカワイらしく纏めたな~。
そのケープ、ネコ耳フードだし、ポンポンも付いて……あれ、もしかして被ると認識阻害が掛かる? 魔法効果の付いた服なんだ、凄いな?
でも、ちょっと……いくらボリュームあるパニエ着てるからってワンピースの丈短すぎない?
白のニーハイもかわいいけど、戦闘もこなさなきゃならない訳で……街の中ならそれでいいけど、外に行く時はドロワーズがいいかな?
靴も街はそのワンストラップで構わないから、外用に飛んだり跳ねたりしても脱げなさそうな、しっかりした造りのブーツも見繕ってくれないかな?」
「お兄さん、随分詳しいのね?!
―――そうね、ワタシとした事がついお出掛け着感覚で選んじゃったわ;
ちゃんと冒険者仕様も用意しなくちゃね! ミルカちゃん、少し待っててくれる?」
バタバタとマダムが指摘されたブーツとドロ……? 何とかを探しに行く。
ミルカはちょっと寂しそうな顔でレナードを見上げてる。
「……すっごく気に入ったのにな、これ」
「え? これも買うよ? 安全な街の中はこれでいいから。
だから、追加で冒険用の物も買うんだよ」
レナードの言葉にミルカは目を丸くして、それから笑顔になった。
「い、良いの?! ホントに?!」
「ああ、勿論。―――それで、杖ももう選んだの?」
「え、あ、う、うん、……これ!」
とミルカが差し出したのは、変わった感じの長い棒?
見た目は木の棒……と言うか、枝みたいな感じで、先の方に透明な石が蔓で抱え込まれている。
「―――……これはまた……えらいもん出してきたね?」
レナードがゴクリと息を飲んだ。
「えらいもん?」
「防具屋で見た白い鎧覚えてる?」
「うん、あの超高い鎧だよね? 何て言ってたっけ? 伝説級?」
「アレと同等だよ、この杖。やっぱり使用者制限が付いてるから、普通の人じゃ扱い辛いんだろうけど……」
ああ、そうか。レナードは鑑定技能を持ってるから、普通の人は分からない様な情報まで分かる時がある。
「お待たせしちゃったわね~! ミルカちゃん、これなんか……あら、どうしたの?
なんだかみんなして神妙な顔しちゃって」
山の様に箱を抱えたマダム(仮)が戻ってきた。
「あ、あのレナがね……この杖、とっても凄い物だって言ってて」
おずおずと杖を返そうとするミルカ。
「あら、良いのよ? 昔、地下迷宮で見つけたは良いけれど、今までずっと使える人が居なくて眠っていたお品ですもの。
条件を満たしている貴女に出会えたのも、何かの縁だと思うわ。
―――お兄さんも鑑定したなら、彼女が適合者だって分かっているのでしょ?」
立てた人差し指を顎に添え、口端だけ持ち上げて笑ってみせるマダム(仮)。
「……まぁね。都合良過ぎるような気も、しなくも無いけど。
つーか、伝説級だなんて、一体幾らするんだよ……;」
頭を抱えるレナードに、マダム(仮)はイタズラっぽく笑ってみせる。
「忘れちゃったかしら? 最初にサービスするって言ったでしょ?
この杖は、新たな一歩を踏み出すミルカちゃんへ、ワタシからのプレゼントよ♪
フフ、レイチェルったらここまで見越してたのかしらねぇ?」
だとしたら、レナードから聞いた表情の意味はこういう事だったのかと納得する。
「もしかして、レイチェルさん達のパーティメンバーだったりします?」
「ええ、現役の頃に苦楽をともにした無二の仲間よ。
この杖を見つけたのも、古代王国時代の地下迷宮へ潜った時だったから、きっと覚えてたのね~。
じゃあ、ミルカちゃん、ブーツとドロワーズを合わせましょう?」
「え、あ、はいっ!」
と、さっさとまた試着室へ戻ってしまう。
ここの試着室は防具屋のカーテンで仕切っただけみたいな簡易な物じゃなく、ちゃんと部屋になっている。
「はは、みんなに頭上がんないな……;
つくづく、人の縁って大事だなぁ」
ぐったりと椅子に腰掛けたレナードが独りごちている。
「ホント、良い先輩達に出会ったよ。幸先抜群だ。てか、抜群すぎて怖いくらいだ;
お前達って何か持ってるのかもな?」
そう言って、またレナードが柔らかく笑って僕の髪をぐしゃっとかき混ぜる。
「ちょ、また! それ止めろってば;」
なんだか気恥ずかしくて、いつもの言葉しか出ないけど……人の縁って言うなら、僕達にとってレナードと出会った事が一番の縁だと思ってる。
―――本人には絶対言えないけど。
「じゃじゃーーーーん!! どう?!」
……”じゃ”が増えてる。
さっきと違って、ドヤ顔でふんぞり返るミルカ。意味不明だって;
「ドロワーズにハイソックス、ブーツか。いいね。
色も合わせてあるし……って、そのトランクは?」
ミルカの足下には、子供でも持ち歩けそうなやや小ぶりのトランクが置かれている。
「着替えや靴を持ち歩くにしても、何か入れ物が無いと不便でしょ?
丁度良い感じの物があったから、揃えてみたのだけど、如何かしら?」
「あぁ、確かに。女の子は何かと物が必要だもんな。そういうトランクがあった方が纏めて持ち歩けるか。
ミルカの物はホントにココで全部揃いそうだな。
……あ、肝心の呪文の巻物は?」
「―――これよ」
マダム(仮)の手に、丸まった羊皮紙の束がある。
「こればっかりは、どういう魔法を使う魔術師になりたいのか、聞いてみないといけないでしょ?
だから、初級レベルのオススメを持ってきたのだけれど」
「どういう魔法ってどういう意味?」
「ああ、そうね。まずはそこからかしら。
魔術師が覚えられる魔法には、色々と系統があるのよ。
例えば、攻撃系、肉体操作系、物質操作系、精神操作系、生活魔法系とか、ね。
まだ他にもあるけれど、冒険に役立つ物としてはやはり、攻撃系かしら?
敵にダメージを与える呪文だから、魔術師のイメージのメインよね。
他にも、仲間の素早さを上げるのは肉体操作系、防御力を上げるのは物質操作系に分類されるの。
後は……他の職の技能や呪文と被る様な呪文も存在するわ。
盗賊技能の”鍵開け”と似ている”解錠”。
それから、えーと、アレはどの職の呪文だったかしら……忘れちゃったけれど、辺りを明かるくする魔術師呪文、”照明”なんてのもあるわ」
「明るくするだけ? 便利なの、それ?」
何の役に立つのか良く分からなくて、つい口を挟むとレナードから答えが返ってきた。
「お前達はまだ行った事が無いけど、地下迷宮に潜る時にはメチャクチャ便利だぞ? いちいち松明やランタンを持たなくて良いんだから。
それに、旅してる時でも夜に明かり付けとけば、大抵の弱い動物や魔物は寄ってこない。
まぁ、ソレするには他にも”警戒”とか”気配察知”とか掛けた方が安全だけど;」
「へぇ~、そうなんだ。確かに便利かも……それってわたしでも覚えられる?」
「ええ、勿論よ。ココに持ってきてるわ。
じゃあ、1つ1つ説明するわね―――」
今更だけどサブタイ酷いなw