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第10話 モルブ工房

「あー、なんかゴメン; ミルカの分は別で探すよ……」

「そうしてくれるか? 済まねぇな。

 代わりと言っちゃあ何だが、今着てる鎧がもう必要ねぇなら二人分下取りするぜ?」

「お願いしようか……ミルカももうその鎧脱ぐか?」

「ん。魔法使えないのは困るし……実はちょっと、キツかったし……」


 そう言って、ミルカは試着室へ入るとカーテンを閉め、暫くして着ていた鎧を持って出て来た。


「……? 試着室入る必要あった?」


 と言うと、不機嫌そうなミルカに無言で睨まれた。

 ―――睨まれる意味が分からないんだけど;


「じゃあ、差し引きで―――」


 おじさんとレナードが会計してるのを聞きながら、他の商品を何気なしに見学する。

 その中に、1つ。やたら特別感溢れる白銀の鎧があった。

 美しく輝くその鎧は、ガラスケースに収められていても一際存在感を放っている。


「おお、お目が高いね、坊ちゃん。

 そいつぁ、ウチで一番高い伝説レジェンド級の鎧だぜ。

 た~んまり稼いで、いつかこいつを買ってくれよな?」

「幾らするの?」

「はは、聞いて驚け! ってな。

 兜に肩当て、胴衣に腰当て、ブーツに盾のセット品だから値は張るぜ。

 しめて、8500万ゼニーだ!」

「うわ!……買える訳無いじゃん;」


 僕が余りの高値に舌を巻いていると、レナードが更に耳を疑う様な事を言い出す。


伝説レジェンド級セット物なら本来1億ゼニーは下らない筈だけど、値引きの理由は何かあるのかい?」

「ありゃ、詳しいねぇ、兄さん; ぶっちゃけると装備制限が超~絶厳しいのさ。

 ある意味、人を選ぶんだわ、こいつ。お陰でなっかなか売れてくんなくてなぁ。

 キツい分、性能もぶっ飛んでるんだがねぇ……」

「はは―――どうせ買えないから聞かないでおくよ。

 じゃあ、また来るよ。さぁ、二人とも、次は武器屋行こうか」

「「はーい」」


 教えて貰ったお店を探して歩く。かなり街の外れの方……随分壁に近い辺りだ。


「えーと……ああ、そこを左、かな?」


 角を曲がると、剣と斧が交差した絵の古びた看板が掛かったお店があった。

 鍛冶工房も一緒になっているみたいで、時折カンカンと何かを叩く音が聞こえる。


「こんにちはー……?」


 薄暗くて人気が無い店内に、声を掛けて入ってみる。


「お休みなのかな?」


 ミルカの言うとおり、どうにも”営業中”って感じじゃ無い。


「……やっとるわい。開店休業中ってヤツだがのぅ?

 で、お主ら、こんな辺鄙(へんぴ)な場所まで何の用じゃ?」


 奥から出て来た声の主は僕達と同じくらいの背だけど、太さは倍以上の樽みたいな体格に小さなメガネを掛けたヒゲもじゃの男性だった。


「飛龍の翼亭の女将さんにお勧めされてね?」

「―――レイチェルか……全く、仕方がないのう。

 ふむ、その子らは新人か?」


 男性はじろじろと僕らを眺める。


「そうなんです。明日から新人講習なので、この子達の武器を調えに来たんです。

 お願い出来ますか?」


 レナードが言うと男性はフン、と鼻を鳴らして顎に手をやった。


「あの娘は引退した後までドワーフ使いが荒いのう……。

 今有る中からで良ければ、見繕ってやるが、どうじゃ?」

「ありがとうございます。宜しくお願いします」


 レナードの手が、僕達の頭を下げさせる。


「お願いしまーす!」


 ミルカは素直にお願いしてるけど、僕は、何となく無言。


「ふむふむ、そうじゃのう……小僧のは今のと同じ小剣ショートソードの方がバランスが取れるじゃろう。で、嬢ちゃんは、ジョブはなんじゃ?」

魔術師メイジです!」

「む、魔法職か……ワシは鍛冶屋で武器屋じゃから、魔法職の杖とかは専門外でのぅ。

 代わりに魔法職専門の店を教えてやろう。

 恐らく服もそこなら見つかるじゃろうて」


 一瞬落ち込み掛けたミルカの顔が、ぱぁっと明るくなる。


「え、やったぁ! ありがとうございます!」

「へぇ、良かったな、ミルカ」

「うん! 楽しみ~♪ じゃあ、兄さん、早めに剣見つけてね!」

「……え~;」


 と言うやり取りの後、早速剣を探す事に。


「ふむふむ、小僧手を見せてみぃ。ほう、年の割には鍛えて居るのぅ?

 じゃが、まだ小さい……。そういや、副武器は考えておるのか?」

「まずは剣だけでと思ってるんですけど、ナイフくらいは持っていても良いのかなぁ」


 ……と聞いて思い浮かぶのは、レナードの両足に装着されてる2本の大型ナイフ。


「ナイフって、あんな感じの?」


 指差すと、店主はじぃっと見て、そして首を振った。


「―――アレはまだ小僧には早過ぎるわい。もっと小さい普通のナイフじゃよ」

「まぁ、解体やら何やら日常的にも使うからね。じゃあナイフも1本お願いします」

「ふむふむ、了解じゃ」


 剣の棚から小剣ショートソードを何本か選び出すと、持ってみたり振ってみたりした後、店主は一本を目の前に差し出した。


「こいつはどうじゃ? 持ってみぃ」


 何が違うんだろう? と思いつつ、受け取った。

 ―――あれ? 何だろう?

 初めて持ったのに、もの凄く使い込んだ剣みたいにしっくりくる?


「……凄い。何て言うか、手に馴染んでる?」

「新しい武器は使い慣れるまでが大変だけど、それなら大丈夫そうだな」


 レナードが感心してる間に、店主がナイフも出してくる。


「ナイフはこいつなんかどうじゃ? 小僧にはこれくらいが良かろう」


 小ぶりだけど、頑丈そうな造りのナイフだ。握った感じも良い。


「ふぅん、一体成形のナイフなんだね。大きさも丁度良いみたいだし?

 コレにするかい、ディート?」

「うん。剣もナイフも良い感じだよ」

「じゃあ、おじさん……」

「―――モルブじゃ。ワシの名はモルブ。店の名もモルブ工房じゃよ。

 お主らは小僧がディート、嬢ちゃんがミルカと言うたか。

 兄さん、お主は?」

「オレはレナード・ディーパー。これでもAランク冒険者だよ」


 モルブさんは訝しそうに目を眇める。


「あれ、信用されてない? なんなら冒険者認識票(タグ)も見せようか?」

「あんなモン、頻繁に書き換えなけりゃ意味なんぞ無いじゃろうて?

 レイチェル達もAランクで(とど)めとったのは、Sランクなんぞになってしまえば国やらギルドやらにあれこれ束縛されるのが目に見えとったからじゃしな。

 兄さん、お主……いつから書き換えしておらんのじゃ?」

「痛いトコつくなぁ; 確かにもう随分書き換えしてないけど、実際は依頼クエスト受けてないからだから、上がりようもないんだけど」


 あはは、と情けなく笑うレナードにモルブさんはまたフン、と鼻を鳴らす。


「―――まぁ、ええわい。嬢ちゃんに魔法職専門の店を教える約束じゃったな。

 まぁまぁややこしい場所じゃから書くとするかのぅ」

「代金払ってくるから、その辺見てるといいよ」


 大人二人は店の奥の方へ入っていった。

 防具屋の時と同じく、手持ち無沙汰に見て回る。剣にナイフ、戦斧や槍、棍棒……隅の方の一角に変わった剣が1本飾ってある。初めて見るその剣は、少し反った刀身を持ち、刃の部分がとても綺麗だ。


「お待たせ~。あれ、ディート~?」

「兄さん、どこ~?」


「あ、ゴメン、こっち!」


 その場から離れがたくて、声を掛ける。


「何か気になる物でもあったのか? ……ああ、これは刀だな」

「カタナ?」

忍者ニンジャと同じく、東方の島国発祥のジョブサムライ”が持つ片刃の剣だよ。

 扱い方にちょっとコツがいるけど、使いこなせれば恐ろしい切れ味を誇るんだ。

 大陸こっちの方じゃなかなか作れない筈だけど……これ、モルブさんが打ったの?」


「……まぁの。旅の刀鍛冶がこの街に来た時に、頼み込んで教えを請うてな。

 あれ以来、何度も挑んではおるが……未だ満足する出来には至っておらん」


 憮然とした顔のモルブさんだったけど、一転ニヤリと笑う。


「それにしてもレナード。刀を一目で見分けるとは、やはりタダ者ではないのぅ?」

「昔、一時的に組んでた仲間にサムライが居ただけだよ。

 サムライも刀もこっちじゃかなり珍しいから、色々質問して聞きまくったんだ♪」


 と何故かドヤ顔で話すレナードに、どうにも疑わしそうな目を向ける。


「そう言えば……忍者ニンジャは憧れのジョブって感じだけど、サムライってあんまり聞かないよね? なんで?」

「確かに強い事は強いんだけど、装備制限はキツいし、要求される能力値ステータスも高いし、それでいて技能スキル忍者ニンジャほどパッとしないし……。

 一言で言うなら、あんまりオイシくないジョブだからかなぁ?」

「お、オイシくない……?」

「なんたって、装備出来る武器はメインに刀か太刀、或いは薙刀っていう槍みたいな武器の3種類だけ、サブなんて脇差しか小刀、小太刀のみ。

 鎧は完全鎧フルプレート並に重い甲冑の一揃えか、魔術師(メイジ)並の布の服かの2択。

 それだけでも避けられるのに、大陸こっちじゃ武器も鎧もかなり手に入りにくいときたら……そりゃ敬遠されるよ;」


 な、なんか恐ろしい事を聞いた気がするんだけど?!


「せ、戦士系なのに、布の服なの???」

「そう! ”キモノ”っていう、東方の島国独特の服なんだけどさ。またコレが慣れないと動き辛くて仕方ないっていう代物なんだよ。不人気な理由も分かるだろ?」

「こ、怖すぎるぅ!!!」


 ミルカが寒気でも感じたかの様に自分の体を抱きしめる。

 流石に僕も背筋が冷える気がする。


「でもね、超一流のサムライはキモノでも、傷一つ負わないんだ。

 見惚れる位に強いし、超絶格好いい。……そこまでの道のりは物凄く遠いだろうけど」

「まさかだけど……レナード、目指したい、とか思う?」

「残念ながら、オレにサムライは無理かな; そんなマゾっ気全然ないし。

 まだ忍者ニンジャの方が目があるかも、とは思うんだけど」

お侍さん……ココでは魔法は使えないんだよ。

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