とけない『魔法』
ザックがあたりをみまわし、「それって、つまりさ、・・・いまの状態だ」とむこうに座るケンをみた。
「なんだ?おまえら、『また』なんかの『魔法』にかかってんのか?」
おかしそうにショーンがカップを飲み干し、新しいコーヒーをいれようと台所へ立ち上がる。
つづけてジョーも、飲み干したコーヒーカップを手に立ち上がり、ゆっくりとはなしをつづける。
「 ―― 魔法使いの魔法は、ここの魔女たちとはちがう性質のものだ。 直接的でなく、おおがかりで、結果まで時間がかかる類の。 ・・・だから、《かけた魔法》なのに、《自然にそうなった》とおもわせられる」
ポットを火にかけたショーンのよこを過ぎ、流しでカップをあらいだす。
てぎわよく水をきり、カップかけにもどしふりむくと、シャツの裾で手をふいた。
「 そういう魔法だから、現在の作曲家や、芸術家、それと、ワインの醸造元に、影響を及ぼし続けている」
「うっそ!?現在って?」
魔法使いがつくってるってこと?とさわぐザックを手で制したジャンが「おれたちにもその『魔法』がかけられてるってことか?どうすればとける?」と困った顔できく。
はずした眼鏡をカップとおなじように洗い始めた男はわらった。
「解くことはできない。 ただ、かけられた『魔法』の結果を待つしかない」
おいおい、とコーヒーカップをかかげたョーンが首をふる。
「それ、すっげえ嫌な『魔法』だな。結果にたどりつくまで、じわじわ待ってなきゃいけないんだろ?しかも結果は変えられないってことか? ―― へんな話、そんな『魔法』がほんとにあるなら、どこかの国が戦争に利用したら、おわりだぞ」
驚いて顔をあげたザックはほかの男たちがそろってうなずくのを目にして寒気がした。
自分はそんなこと、これっぽっちも思いつかなかった。
 




