魔法使いにためされる
ジョーは、首をのばして「きみのケガは、―― 」と言葉をさがした。
「 ―― きっと、魔法使いがためしたんだろう」
なにをだよ?と聞き返したのはザックだった。
「・・・こんな《むかし話》がむこうの大陸にある。《魔法使いと悪鬼のだましあい》の話なんだが、その中で嘘をみぬいた魔法使いは、最後にカラスの羽を悪鬼の手につきさす。するとそこから悪鬼の血がすべて流れ出してしまい、真っ白になった悪鬼は、そのまま魔法使いに仕える『白いカラス』になるっておはなしだ」
ザックが立ち上がる。
「そのはなし、どういう意味だよ?」
ザック座れ、とショーンが指先で命じ、「おれもききたいね」と、先をうながす。
ためらう様子もなく、元聖父は口をひらいた。
「 どうやら『白いカラス』は、そのルイ親子をずっとむかしから追いかけている。 それならばルイのまわりにいる人たちにも興味をもったはずだ。 ―― カラスはきみたちのことを、とっくに『魔法使い』に報告していると、おれは思う」
「そん中に、おれみたいな《悪鬼》に近いやつがいたんで、羽をつきさしたってわけか?」
台所にすわるケンが左手をあげてわらう。
「そうだ」
ジョーの肯定にまた立ち上がろうとしたザックの頭は、近くの椅子にいるジャンにおさえられた。
「もし、きみの魂が《悪鬼》ならば、すべての血が抜け去っていただろう。―― だが、きみは悪鬼などではなくて、・・・」
そこでケンの嫌そうな顔をみて、わらって言葉をとめた。
「・・・おれが言うべきことじゃない。 ともかく、彼はためされた。そして、きみたち《みんながためされている》ところだ。 ―― 芸術好きできまぐれで多少自己愛のつよい『魔法使い』は、自分のせいでひきおこされる『混乱』を楽しむ傾向があるらしい。 ―― しまっておいた過去がひきだされ、だまっていたこころのうちがさらされ、ゆきちがいが起こり、すれちがう。 芸術とともに恋愛をこのんだ魔法使いには、それも楽しい《芸術》らしい」
「そういうことか・・・」
疲れたように額をもんだジャンが「どうりでみんなバラバラになるわけだ」と目をとじる。




