『迷子』の大男
「おれ、・・・あの班室があんな空気になるなんて、思ってもみなかった」
「おい、班内のケンカなんていちいち気にすんな。 うちの班だっていまみたいに《成熟》するのに、そりゃ多大な犠牲をはらったんだぞ。泣くなよ、ぼうや」
「泣いてねえって」
「よし。それなら明日からうちの班にこい。 見込みのある若者二人を、おれたちがあたたかく迎えてやるさ」
「でも、それってジャンとかに」
「心配するなっ、―― 」
ガタン、
今度はわざとではなく、反射的に立ち上がったためにショーンの椅子が倒れそうになった。
その視線をおうまで、ザックはまったくその気配に気づけなかった。
「あの・・」
うつむきがちに低い声をだす男は、ニコルよりも大柄だった。
ショーンの手が、腰にさした鉄棒にふれている。
ザックはゆっくり椅子からはなれ、ショーンのほうへよる。
「ああ、すみません。 なんだか案内の人とはぐれてしまって・・・」
男は汚いチェック柄のシャツの胸に、訪問者用の許可証をつけている。
太い首をめぐらしてあたりを見回すと、手にした眼鏡のレンズをシャツのすそでぬぐってかけた。
「 『はぐれた』? ふうん。案内人はなんてやつだった?」
この食堂はこの警備会社のセキュリティをいくつも通った奥にある。
案内人からはぐれてしまって着けるような場所ではない。




